プロポーズ10題sideＡ
【見上げた空】
右手の怪我って、こんなに大変だったんだ。
律は泣き出したいような気分で、天を仰いだ。
見上げた空は、律の心などおかまいなしとばかりにウンザリするほど晴れていた。
退院した翌日から、律は仕事に戻っていた。
脳震盪を起こしたために入院させられ、やれＣＴだＭＲＩだと大げさな検査をされた。
だが特に異常は見つからず、後遺症などの心配もまずないと言われた。
やれやれとホッとしながら、仕事の遅れを取り戻そうとしたのだが。
今度は大したことはないと思っていた右腕の捻挫が、思わぬ障害となった。
右腕を動かすだけで、ズキリと痛む。
これはデスクワークを仕事とする会社員にとっては、かなり厄介な問題だった。
書類を書くにも、パソコンのキーを打つのも、コピーや電話さえきついのだ。
折りしも編集部は、そろそろ忙しくなり始めたころだ。
早く治ってくれなければ、写植やトーンを貼るのもできない。
自分の不注意なのだし、戦力外になることだけは避けなければならないのに。
退院した日、律は会社から戻った高野の部屋を訪問した。
心配をかけてしまった恋人に無事な顔を見せるため。
そして高野にどうしても言わなければならないことがあったのだ。
高野は律の顔を見て喜び、異常はなかったという結果を聞いてさらに喜んだ。
終始笑顔だった高野だったが、一度だけ真剣な表情で律に聞いてきた。
あの日階段から落ちたとき、おかしなことはなかったかと。
律にはわからなかった。
不意に足が引っ張られるような妙な感覚になったのは覚えている。
だがおそらく遅くまで仕事をしていた疲れで、立ち眩みを起こしたくらいに思っていた。
それが運悪く階段を降り始めた瞬間だったということだろうと。
さらに落ちるとき誰かを見たかと問われたが、律は「誰も」と首を振った。
すると高野はすぐに笑顔に戻って「メシ食ってけ」と言ってくれた。
普段の律ならどういう意味かと聞き返していたかもしれない。
だが律も高野に話さなければならないことがあって、やや緊張していた。
だから高野の言動を掘り下げるほどの余裕がなかったのだ。
そして今、律は使い走りの雑用を一気に引き受けていた。
他部署や作家への書類や原稿などの受け渡しが主だ。
地味だが今の律には適した仕事だ。
手にはさほど負担がなく、足を使って駆けずり回るのだから。
今までと同じようにはできないが、ノロノロ仕事するのも休むのも気が引ける。
そんな律のために、高野がそういう風に手配してくれたのだ。
エメラルド編集部の面々も、律が適度に動き回れるように受け渡しの仕事を回してくれた。
そして今は吉川千春こと吉野千秋の部屋からの帰り道だった。
吉野に依頼していた雑誌の表紙の原稿を受け取ったのだ。
それを律が編集部に持ち帰って、羽鳥と高野がチェックをする段取りになっている。
誰よりも先に吉川千春の作品を見られたので、感激した。
吉野もアシスタントたちも、律の頭と腕の包帯を見てすごく心配してくれたのが嬉しかった。
すっかりテンションが上がった律は、気がつかなかった。
吉野の家からずっと尾行しているその人影に。
そして復帰した喜びから一気につき落とされることなど知る由もなかった。
＊＊＊＊＊
今さら何を言えばいいんだろう？
高野は原稿を取りに外出している律の席を見ながら、そう思った。
律が退院した日の夜、律は高野の部屋にきた。
包帯を巻かれた頭と腕が痛々しい。
だけど検査の結果は異常がなく、後は頭部の擦過傷と腕の捻挫が治れば問題ない。
何よりも律の笑顔が穏やかであることにホッとしていた。
「俺、編集長になりたいです。」
律は高野の目を真っ直ぐに見て、そう言った。
そのことに高野は少なからず驚いていた。
文芸からも前の会社からも声がかかっている律が、全部ことわってエメラルドに残る可能性は高いと思った。
だが編集長に名乗りを上げた一番手が、まさか一番年下でキャリアも浅い律だとは。
「わかってます。他の誰が希望すれば、俺なんかすぐに落とされるのは」
律はどこか悟りきったような表情で、そう言った。
もっともな言葉に、高野は否定も肯定もできない。
「でも手を上げるのは自由ですよね。俺、やっぱり漫画編集を極めたいんで。」
律はさらにそう続けて、不敵な笑顔を見せた。
決意を秘めた強い瞳は美しく、今さらのように高野を魅了した。
「それと、ですね。話は全然変わるんですが」
不意に律は笑いを引っ込めると、真剣な表情になった。
何を話すつもりなのか、見当もつかない。
高野は、ただ黙って律の言葉を待った。
「病院で俺を担当して下さった外科医の方は、嵯峨先生ってお名前なんです。」
嵯峨先生。外科医。
律の言葉は高野にとって、思いも寄らない不意打ちだった。
律は自分の担当医が、高野の父親ではないかと思ったのだろう。
律には知らせていないが、確かに高野の血のつながらない父親は外科医だ。
だが現在どこの病院に勤めているのかなど知らなかった。
嵯峨という名前はそんなにありふれた名字ではないし、高野も親戚以外でその姓の人間を知らない。
外科医で嵯峨なら、可能性はかなり高いのではないかと思う。
「来週、もう１回通院するんです。何かお伝えすることとかありますか？」
律は静かにそう聞いてきた。
ただ事実だけを淡々と話し、あえて会うように言うわけでもない。
少ない言葉から伝わるのは、気遣いと信頼だ。
律は完全に高野に判断を預けて、それに従うつもりなのだ。
そんな律の大人な態度に気をよくした高野は「来週までに考えておく」と答えた。
そんなことを思い出しながら、高野はパソコンの時計で時間を確認した。
律は今、吉川千春が担当する表紙の原稿を取りに行っている。
だが帰りが遅い。
出かけた時間や吉野邸への時間を考えれば、とっくに戻っていなければいけない時間だ。
高野は右手を使うのがしんどい今の律に、書類や原稿の受け渡しの仕事をさせるのも正直躊躇った。
階段から律が突き落とされたという疑念がある以上、危険なのではないかと。
だが当の律の記憶が曖昧なこともあり、時間が経つにつれて自信がなくなった。
たかが靴の傷だけで突き落とされたなんて、突飛な思い込みではないかと。
何よりも人手が足りないのだし、律も仕事をしたいと望んでいる。
だから受け取りに行かせたのだが、もしかして間違いだったのだろうか。
高野が不吉な予感に囚われ始めた頃、高野の携帯電話が鳴った。
発信者の名前は「小野寺律」だ。
電話を取り律の声を聞いてとりあえず無事なのかと安堵した高野は、告げられた内容に絶句した。
＊＊＊＊＊
「今までありがとうございました。」
律は頭を下げると、高野の机の上に１枚の封筒を追いた。
表には律の見慣れた字で「辞表」と書かれていた。
吉川千春の表紙原稿を受け取りに行ったあの日。
律は帰り道でひったくりにあった。
背後から体当たりされて倒され、鞄を盗まれたのだ。
吉野の原稿が入った鞄だけは守ろうと、倒れたまま必死に鞄にしがみついた。
だが犯人は怪我をしている律の右腕を踏みつけたのだ。
激痛に我慢ができず力を緩めた隙に、鞄を持ち去られてしまった。
そこから先は思い出したくもない。
警察に被害届を出したものの、結局鞄は戻らなかった。
吉野にもう１度描いてほしいと頭を下げた。
デジタルで作画している作家なら、もう１度原稿を渡すのは容易だ。
だが吉野はそうではなかった。
また井坂にも呼び出しを喰らったし、関係各所に頭を下げて歩いた。
悔しいし、悲しかった。
あのときは少々浮かれていた。
もっと注意深くしていれば、引ったくりになどあわずにすんだかもしれない。
そのせいで吉野の大事な原稿は、永久に消えてなくなってしまった。
「律っちゃんは悪くないよ！悪いのはひったくりの犯人でしょ？」
悲鳴のように叫んだのは木佐で、羽鳥と美濃も同意を示して頷いた。
この件に関しては、エメラルドの編集部員たちは誰も律を責めない。
それどころか気遣ってくれて、さりげなく律をフォローしてくれる。
吉野もそういうことなら仕方ないと、もう１度表紙を描いてくれた。
ただでさえ締め切り間近のギリギリの時期なのに、無理をさせてしまった。
「俺の不注意ですよ。ただでさえ怪我して休んで迷惑かけたんですから。」
律はやんわりと木佐の言葉を否定した。
いくら編集部員たちが優しくても、それが全てではないことはわかっている。
印刷会社など関係する部門からのクレーム、そして他部署からの中傷。
それらの対応の一切を、高野が引き受けたことも。
それにいくらみんなが許してくれても、律自身が自分を許すことができなかった。
作家からの原稿を失くす人間に、編集者の資格はない。
「吉川先生には改めてお詫びにうかがいますから。」
律は羽鳥にそう言うと、頭を下げた。
吉野の原稿を失くしたことで、羽鳥にも随分迷惑をかけたことも理解している。
「あの話はなかったことにしてください。」
今度は高野に向かって、頭を下げる。
あの話とはもちろん編集長になりたいという話だ。
高野にそれを話したときは、未来は希望に溢れていると思った。
だが今となってはとんだ笑い話だと思う。
まさかほんの数日で、自分の運命がこんなにも変わるとは思わなかった。
窓越しに見上げた空は、暗い未来を暗示するようにどんよりと曇っている。
このままじゃ高野さんの恋人でいる資格もない。
律は拳を握り締めると、きつく唇を噛みしめた。
【続く】
右手の怪我って、こんなに大変だったんだ。
律は泣き出したいような気分で、天を仰いだ。
見上げた空は、律の心などおかまいなしとばかりにウンザリするほど晴れていた。
退院した翌日から、律は仕事に戻っていた。
脳震盪を起こしたために入院させられ、やれＣＴだＭＲＩだと大げさな検査をされた。
だが特に異常は見つからず、後遺症などの心配もまずないと言われた。
やれやれとホッとしながら、仕事の遅れを取り戻そうとしたのだが。
今度は大したことはないと思っていた右腕の捻挫が、思わぬ障害となった。
右腕を動かすだけで、ズキリと痛む。
これはデスクワークを仕事とする会社員にとっては、かなり厄介な問題だった。
書類を書くにも、パソコンのキーを打つのも、コピーや電話さえきついのだ。
折りしも編集部は、そろそろ忙しくなり始めたころだ。
早く治ってくれなければ、写植やトーンを貼るのもできない。
自分の不注意なのだし、戦力外になることだけは避けなければならないのに。
退院した日、律は会社から戻った高野の部屋を訪問した。
心配をかけてしまった恋人に無事な顔を見せるため。
そして高野にどうしても言わなければならないことがあったのだ。
高野は律の顔を見て喜び、異常はなかったという結果を聞いてさらに喜んだ。
終始笑顔だった高野だったが、一度だけ真剣な表情で律に聞いてきた。
あの日階段から落ちたとき、おかしなことはなかったかと。
律にはわからなかった。
不意に足が引っ張られるような妙な感覚になったのは覚えている。
だがおそらく遅くまで仕事をしていた疲れで、立ち眩みを起こしたくらいに思っていた。
それが運悪く階段を降り始めた瞬間だったということだろうと。
さらに落ちるとき誰かを見たかと問われたが、律は「誰も」と首を振った。
すると高野はすぐに笑顔に戻って「メシ食ってけ」と言ってくれた。
普段の律ならどういう意味かと聞き返していたかもしれない。
だが律も高野に話さなければならないことがあって、やや緊張していた。
だから高野の言動を掘り下げるほどの余裕がなかったのだ。
そして今、律は使い走りの雑用を一気に引き受けていた。
他部署や作家への書類や原稿などの受け渡しが主だ。
地味だが今の律には適した仕事だ。
手にはさほど負担がなく、足を使って駆けずり回るのだから。
今までと同じようにはできないが、ノロノロ仕事するのも休むのも気が引ける。
そんな律のために、高野がそういう風に手配してくれたのだ。
エメラルド編集部の面々も、律が適度に動き回れるように受け渡しの仕事を回してくれた。
そして今は吉川千春こと吉野千秋の部屋からの帰り道だった。
吉野に依頼していた雑誌の表紙の原稿を受け取ったのだ。
それを律が編集部に持ち帰って、羽鳥と高野がチェックをする段取りになっている。
誰よりも先に吉川千春の作品を見られたので、感激した。
吉野もアシスタントたちも、律の頭と腕の包帯を見てすごく心配してくれたのが嬉しかった。
すっかりテンションが上がった律は、気がつかなかった。
吉野の家からずっと尾行しているその人影に。
そして復帰した喜びから一気につき落とされることなど知る由もなかった。
＊＊＊＊＊
今さら何を言えばいいんだろう？
高野は原稿を取りに外出している律の席を見ながら、そう思った。
律が退院した日の夜、律は高野の部屋にきた。
包帯を巻かれた頭と腕が痛々しい。
だけど検査の結果は異常がなく、後は頭部の擦過傷と腕の捻挫が治れば問題ない。
何よりも律の笑顔が穏やかであることにホッとしていた。
「俺、編集長になりたいです。」
律は高野の目を真っ直ぐに見て、そう言った。
そのことに高野は少なからず驚いていた。
文芸からも前の会社からも声がかかっている律が、全部ことわってエメラルドに残る可能性は高いと思った。
だが編集長に名乗りを上げた一番手が、まさか一番年下でキャリアも浅い律だとは。
「わかってます。他の誰が希望すれば、俺なんかすぐに落とされるのは」
律はどこか悟りきったような表情で、そう言った。
もっともな言葉に、高野は否定も肯定もできない。
「でも手を上げるのは自由ですよね。俺、やっぱり漫画編集を極めたいんで。」
律はさらにそう続けて、不敵な笑顔を見せた。
決意を秘めた強い瞳は美しく、今さらのように高野を魅了した。
「それと、ですね。話は全然変わるんですが」
不意に律は笑いを引っ込めると、真剣な表情になった。
何を話すつもりなのか、見当もつかない。
高野は、ただ黙って律の言葉を待った。
「病院で俺を担当して下さった外科医の方は、嵯峨先生ってお名前なんです。」
嵯峨先生。外科医。
律の言葉は高野にとって、思いも寄らない不意打ちだった。
律は自分の担当医が、高野の父親ではないかと思ったのだろう。
律には知らせていないが、確かに高野の血のつながらない父親は外科医だ。
だが現在どこの病院に勤めているのかなど知らなかった。
嵯峨という名前はそんなにありふれた名字ではないし、高野も親戚以外でその姓の人間を知らない。
外科医で嵯峨なら、可能性はかなり高いのではないかと思う。
「来週、もう１回通院するんです。何かお伝えすることとかありますか？」
律は静かにそう聞いてきた。
ただ事実だけを淡々と話し、あえて会うように言うわけでもない。
少ない言葉から伝わるのは、気遣いと信頼だ。
律は完全に高野に判断を預けて、それに従うつもりなのだ。
そんな律の大人な態度に気をよくした高野は「来週までに考えておく」と答えた。
そんなことを思い出しながら、高野はパソコンの時計で時間を確認した。
律は今、吉川千春が担当する表紙の原稿を取りに行っている。
だが帰りが遅い。
出かけた時間や吉野邸への時間を考えれば、とっくに戻っていなければいけない時間だ。
高野は右手を使うのがしんどい今の律に、書類や原稿の受け渡しの仕事をさせるのも正直躊躇った。
階段から律が突き落とされたという疑念がある以上、危険なのではないかと。
だが当の律の記憶が曖昧なこともあり、時間が経つにつれて自信がなくなった。
たかが靴の傷だけで突き落とされたなんて、突飛な思い込みではないかと。
何よりも人手が足りないのだし、律も仕事をしたいと望んでいる。
だから受け取りに行かせたのだが、もしかして間違いだったのだろうか。
高野が不吉な予感に囚われ始めた頃、高野の携帯電話が鳴った。
発信者の名前は「小野寺律」だ。
電話を取り律の声を聞いてとりあえず無事なのかと安堵した高野は、告げられた内容に絶句した。
＊＊＊＊＊
「今までありがとうございました。」
律は頭を下げると、高野の机の上に１枚の封筒を追いた。
表には律の見慣れた字で「辞表」と書かれていた。
吉川千春の表紙原稿を受け取りに行ったあの日。
律は帰り道でひったくりにあった。
背後から体当たりされて倒され、鞄を盗まれたのだ。
吉野の原稿が入った鞄だけは守ろうと、倒れたまま必死に鞄にしがみついた。
だが犯人は怪我をしている律の右腕を踏みつけたのだ。
激痛に我慢ができず力を緩めた隙に、鞄を持ち去られてしまった。
そこから先は思い出したくもない。
警察に被害届を出したものの、結局鞄は戻らなかった。
吉野にもう１度描いてほしいと頭を下げた。
デジタルで作画している作家なら、もう１度原稿を渡すのは容易だ。
だが吉野はそうではなかった。
また井坂にも呼び出しを喰らったし、関係各所に頭を下げて歩いた。
悔しいし、悲しかった。
あのときは少々浮かれていた。
もっと注意深くしていれば、引ったくりになどあわずにすんだかもしれない。
そのせいで吉野の大事な原稿は、永久に消えてなくなってしまった。
「律っちゃんは悪くないよ！悪いのはひったくりの犯人でしょ？」
悲鳴のように叫んだのは木佐で、羽鳥と美濃も同意を示して頷いた。
この件に関しては、エメラルドの編集部員たちは誰も律を責めない。
それどころか気遣ってくれて、さりげなく律をフォローしてくれる。
吉野もそういうことなら仕方ないと、もう１度表紙を描いてくれた。
ただでさえ締め切り間近のギリギリの時期なのに、無理をさせてしまった。
「俺の不注意ですよ。ただでさえ怪我して休んで迷惑かけたんですから。」
律はやんわりと木佐の言葉を否定した。
いくら編集部員たちが優しくても、それが全てではないことはわかっている。
印刷会社など関係する部門からのクレーム、そして他部署からの中傷。
それらの対応の一切を、高野が引き受けたことも。
それにいくらみんなが許してくれても、律自身が自分を許すことができなかった。
作家からの原稿を失くす人間に、編集者の資格はない。
「吉川先生には改めてお詫びにうかがいますから。」
律は羽鳥にそう言うと、頭を下げた。
吉野の原稿を失くしたことで、羽鳥にも随分迷惑をかけたことも理解している。
「あの話はなかったことにしてください。」
今度は高野に向かって、頭を下げる。
あの話とはもちろん編集長になりたいという話だ。
高野にそれを話したときは、未来は希望に溢れていると思った。
だが今となってはとんだ笑い話だと思う。
まさかほんの数日で、自分の運命がこんなにも変わるとは思わなかった。
窓越しに見上げた空は、暗い未来を暗示するようにどんよりと曇っている。
このままじゃ高野さんの恋人でいる資格もない。
律は拳を握り締めると、きつく唇を噛みしめた。
【続く】
