サディスト5題

【言い訳したら殺す】

縛られないことは、無理矢理縛られることよりもつらい。
律は高野の腕の中で、ジリジリと追い詰められていた。

律は自分の瞳と同じ色の首輪だけを身につけて、ベットに横たわっていた。
高野はベットの横に立って、じっと律を見下ろしている。
律はいつもこれをされる時、その視線に耐えかねて、目を閉じて顔を反らせてしまう。
だが高野は「ちゃんと目を開けて、俺を見ろ」と命令を下すのだ。

律は目を開けると、高野を見上げた。
高野が視線を律の全身に走らせているのがわかる。
本当に頭の先から、足の先までだ。
最初は何が楽しいのかと思った。
律が監禁されたその日から毎日、しかも日に何回も嬲りつくされたのに。
今さら裸の身体を見て、何だというのか。

だが高野は目で律を犯すのが、楽しいようだ。
昨日の情事で未だに腫れている胸元や、鬱血や歯形の残る肌、そして散々弾けさせられた性器。
高野は時間をかけて、それらを確認する。
まるで視線に撫で回されるようだ。

最近では律はもうこれをされるだけで、息が上がってしまう。
肌に残された情事の痕跡がジクジクと疼き、腰には電流のような痺れが走る。
そして身体の中心にじわじわと熱が集まってしまうのだ。
身体が浅ましく反応するのが、恥ずかしくてたまらない。
律が屈辱で涙ぐむ様子を、高野は満足げに見下ろしていた。

*****

感じてるなら、足を開いて膝を立てろ。
高野はさらに命令を下す。
嫌々と首を振る律に、高野はさらに容赦がない。
ベットに手をつき、キスするほど近い距離に顔を寄せる。
そして首筋や耳に息を吹きかけながら「どうなんだ?」と囁く。
あくまで手は使わず、空気の振動だけで攻め立てた。
律は震える膝を立てて、大きく足を開いた。

いい子だ、律。
高野は律の髪をなでながら、優しく髪を梳いた。
そして瞳から頬に零れた涙を指ですくい取る。
まるで恋人にするような優しい仕草が、不覚にも嬉しいと思ってしまう。
そんな風に心まで操られることが、悔しくてたまらない。

高野に自分の奴隷だと宣言され、律がそれを受け入れた日から高野の攻めは変わった。
縄や拘束具で縛るのではなく、ただ命令を下すだけ。
だがそれだけで律を翻弄し、乱れさせるのだ。
そして思い出したように、まるで宝物のように優しくしたりする。
高野は律の身体だけではなく、心まで奴隷にしようとしている。
しかもそれは着実に進んでいた。

高野は今度は律の足の間に顔を近づけた。
律の勃ち上がってしまった恥ずかしい場所に、高野のぬるい吐息の感触。
律は思わず「ああっ」と悩ましい吐息を漏らしていた。

こういうときはどうするんだっけ?
高野はからかうように、律の顔を見上げる。
律は両腕で自分の膝を抱えて、大きく足を開いた。
大きく開かれた身体は、小刻みに震えている。
高野はその姿をじっくりと目で楽しみながら、欲望を昂ぶらせていた。

*****

うつ伏せになって、ケツをあげて。
高野は律に次なる命令を下した。
律はノロノロと身体をうつ伏せにすると、腰を上げて膝で支える。
四つんばいではなく腰だけをあげた恥ずかしい格好だ。
従順で、淫らで、かわいい奴隷の姿に、高野の唇が歪んだ笑みを浮かべた。

自分でして。イってみせて。
高野のさらなる命令に、律の背中がビクリと震えた。
逆らっても無駄だし、逆らうつもりもない。
火がついてしまった律の身体は、もう最後まで高野に従うことでしか冷ますことはできないからだ。
律は小さく頷くと、勃ち上がってしまった欲望に右手を伸ばした。

手を抜くな。ちゃんと楽しませろ。
律は小さく「はい」と答えて、空いた左手を後ろに伸ばした。
律は前と後ろの弱い場所を自分で攻め、高野は「淫乱」とか「いやらしい」と言葉で攻める。
一気に達してしまってもダメだし、手加減してもダメ。
力加減に注意して、充分に時間をかけて達すること。
律はそんな風に教え込まれている。

なぁ、お前、何でナンパなんかしたの?
律の行為を楽しそうに見物していた高野が、不意にそう言った。
時間をかけて、あと少しで達するところまでのぼりつめた律は「え?」と小さく呟く。
なぜこのタイミングでそんなことを言い出すのか、その意図がわからない。

俺をナンパして、金を盗もうとしたのは何でだ?
俺が初めてじゃないよな。手馴れてたし。
高野はさらにそう聞きながら、律に手を伸ばす。
右手で律の右手ごと勃ち上がった欲望を強く握りこみ、左手で律の左手首を掴んで激しく揺さぶった。
後ろに指を3本差し込んだ状態の律の手が、高野の力で激しく中を擦りあげる。
強い刺激を受けながら欲望をせき止められた律が「いやぁ!」と悲鳴を上げた。

ちゃんと理由を話せ。そうしないとずっとこのままだ。
つまらない言い訳したら殺すぞ。
高野はますます激しく律の左手首を揺さぶる。

このとき高野は内心秘かに、できればすぐに白状しないで欲しいなどと思っていた。
直接触るのではなく律の手を操って嬲るのは、思いのほか高野を楽しませたからだ。
律は背中を仰け反らせて、顔をシーツに擦り付けるようにしながら、身体を震わせていた。
荒い息も、涙を浮かべた瞳も、振り乱された髪も、なにもかもが高野を煽る。

*****

高野が不思議に思うのは、無理もないことだった。
律の行動は矛盾だらけだったからだ。
わざわざ危険を冒して男をナンパし、金を巻き上げるのがそもそもおかしい。
大企業の社長の息子である律が、金に困っているとは考えにくい。
何か確執があり、家族とうまくいっていないのかとも思った。
だが身元を突き止めたことを告げたとき、律は「父や会社は関係ない」と叫んだ。
それは親を巻き込みたくないと思う息子としては自然な発言だ。

律の素性は調べ上げた。
表面上は裕福な家に生まれた金持ちのお坊ちゃんという報告しかない。
唯一気になるのは、律の母親には自傷行為をしたという過去があること。
自分で手首を切ったものの、大したことはなかったらしい。
それを発見して、救急車を呼んだのは律だということまで調べがついている。
だがそれ以上のことはわからなかった。

どうやら律は外からはわからない複雑な事情を抱えている。
それが律を危険へと駆り立てたのだ。
案の定、追い詰めて白状させた律の家の内情はドロドロしたものだった。

父親は同性愛者なんです。
だけど跡継ぎを作るために結婚せざるを得なかった。
典型的な政略結婚です。
だから母が俺を妊娠したら、父はもう母とは寝室を別にして。
俺は何も知らなかった。
知ったのは中学に入る頃、父は俺に興味を持ったんです。
服を脱がして、触って、毎晩毎晩。
流石に最後まですることはなかったけど、恥ずかしいことをされました。
ある日、それを知った母は手首を切って。
それでも父は母を愛せなくて。
母は未だに父に愛して欲しくて、待ってるんです。

律は攻め立てられながら、息も絶え絶えに自分の家のことを語った。
律は最低限の事実を並べただけだったが、そこに自分の感情などは一切ない。
単に達する寸前だから余裕がなかったのか、あえて余計なことは言わなかったのか。
高野もまた言葉を挟むことなく、乱れて堕ちる律を見ていた。

*****

なるほど。そういうことだったか。
高野は眠ってしまった律の裸身を抱きしめながら、考えていた。

律は半ば脅迫のような状態で、自分の家庭の事情を語った後。
高野は「ご褒美だ」と称して、律の欲望を弾けさせた。
その後ぐったりとベットに沈む律に休むことも許さない。
足を開かせ、無理矢理高野の欲望を捻じ込み、飽きることなく揺さぶる。
律が気を失えば容赦なく叩き起こし、一晩中律の身体を貪った。
律を乱暴に扱うことはあったが、ここまで酷くしたのは初めてだった。

その原因はやはり律の口から聞かされた家庭の事情だった。
自分の父親に性的虐待を受け、母親がそれを知って傷ついた。
それなら男をナンパし、金を巻き上げるという行為にも説明がつく。
律は男を好む男に復讐を果たしていたのだ。
おそらく律本人ははっきり意識していないのだろうが。
高野は律をそこまで追い詰めた律の両親に腹を立てていた。
その結果律をめちゃめちゃにしてしまったのだから、本末転倒もいいところだ。

わかっている。もう認めざるを得ない。
高野はもう律に惚れてしまっているのだ。
だから律が受けた心の傷に、こんなに腹が立つ。
かわいそうで、愛おしい。

そして同時に、高野は律を監禁した時に気付いてしまったことがある。
今まで知らなかった自分の性癖だ。
相手を嬲って、攻め立てて、追い詰めることにこの上なく興奮する。
律はその欲望を満たしてくれる最高の相手なのだ。
おそらく律はそういう風に扱われることで、性的に興奮する資質を持っている。

元々悲しい過去を持った上、監禁されている律が高野を愛するなどありえない。
つまり恋人同士になる選択肢はないのだ。
ならばこのまま奴隷として、飼い続けていればいい。

律がいくら望んでも帰さないし、反抗的な態度も許さない。
つべこべと言い訳をしたら殺す。
高野は物騒な思いとは裏腹に、優しく律を抱きしめていた。

【続く】
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