グロテスク5題
【窒息しそうな拘束】
「律、大丈夫か?」
「政宗、さん。。。」
律が目を開けると、心配そうな高野の顔が間近に見えた。
だが慌てて起き上がろうとしたものの、身体に力が入らない。
律は滞在するホテルのスィートルームのベットにいた。
魔物の男と対峙したとき、男の血から漂う妖気を吸ってしまった。
そのせいで高熱を出して、寝込んでしまったのだ。
高野は同じベットの上で、熱にうなされる律を腕に抱いていた。
「俺は死なない身体なんですから、ほっといても大丈夫なのに。」
律がボソボソと文句を言う。
怒っているのではなく、照れているのだ。
腕の中でベタベタに甘やかされるこの状況には、いつまでたっても慣れない。
「いいんだ。俺がこうしたいんだから。」
高野は律の髪や頬をなでながら、そう答えた。
瞳は熱でトロンとしているし、髪は寝グセではねており、身体も汗くさい。
だが高野にとっては、それさえもかわいく感じてしまうのだ。
「あの人、たち、どうなるんでしょう?」
「さぁな。なるようになるだろうよ。」
あの人たちとはもちろん雪名と木佐のことだ。
だが高野と律にできることはない。
せいぜい2人の幸せを祈ることくらいだ。
「政宗さんにも、また迷惑かけちゃいましたね。」
「気にしなくていい。」
自分が傷ついても、高野や他の者たちの心配ばかりしている律が愛おしい。
高野は律を抱きしめる腕に、力を込めた。
「もう少し、寝ます。」
まるで窒息しそうな拘束なのに、律はウットリと目を閉じた。
吸血鬼の強くて深い愛情は「伴侶」にとって一番の幸せなのだ。
*****
「つまり雪名皇も市村も、人を喰らう魔物だったってことだ。」
「そんなこと」
「信じるかどうかは関係ない。それが事実なんだから。」
「そうですか。。。」
ここは横澤が所属する組織の、横澤の居室だった。
横澤と向かい合って座るのは、木佐翔太だ。
桐嶋と高野が、木佐を襲った魔物の男を殺してしまった。
横澤はその後始末に追われていた。
最大の問題はこの木佐だ。
食人鬼の存在を知らず、雪名をただの人間として恋してしまった男。
なんとやっかいなことだろう。
吸血鬼の「伴侶」とは訳が違う。
食人鬼の「伴侶」は喰われるしかないのだから。
横澤はそのことも含めて、木佐に話をした。
ここから先は木佐本人が決めるしかない。
雪名とこのまま結ばれるのか、それとも別れるのか。
だが自分のことを捕食の対象としている男とこのまま付き合い続けられるとは思えない。
恐らくは別れることになるのだろう。
そのために桐嶋にはまだ帰らずに、別室に待機してもらっている。
木佐の雪名に関する記憶を消してもらうためだ。
「俺、雪名とは」
すべてを事実として受け止めた木佐が、おもむろに口を開いた。
その冷静な様子に、横澤は「おや?」と思う。
木佐はもっと取り乱し、迷うであろうと想像していたのだ。
だが最初こそポカンとしていたようだったが、その後は落ち着いている。
そして特に混乱する素振りもなく、もう決断しようとしていた。
そんなに即断していいのか?
横澤はそんな思いを隠しながら、静かに木佐の言葉を待った。
*****
「へぇぇ?あいつ、雪名の『伴侶』になったのか。」
木佐と入れ替わりに横澤の居室に入っていた桐嶋が、声を上げた。
その口調や表情から、心底意外に思っていることがわかる。
いつも憎らしいほど落ち着いている桐嶋には珍しいことだ。
だが横澤にもそれを茶化してやるほどの余裕もなかった。
「じゃあお前たちとしては、もうすることはないわけか?」
「ああ。木佐翔太は監視対象にさえならない。」
桐嶋はいつもの飄々とした様子に戻っている。
だが横澤は深々とため息をついた。
これでよかったのだろうか?
無理矢理にでも記憶を消してやるのが、木佐のためだったのではないか?
木佐は雪名の「伴侶」になることに同意した。
それはつまり雪名に食われてしまうことに同意したことになる。
吸血鬼の「伴侶」などと違い、不老不死になるわけではない。
普通の人間として歳を取り、そのどの時点で喰われてもそれまで。
つまり木佐が死ぬタイミングは、雪名が自由にできるということだ。
「なぁ、それでお前はいつ俺の『伴侶』になるの?」
「はぁぁ?何でそうなるんだ?」
ニヤリと笑う桐嶋に、横澤は抗議の声を上げた。
いつなどと聞かれるのが気に入らない。
まるで「伴侶」になることに横澤が同意するのは、当たり前のようではないか。
「なぁ決心しろよ。」
「しねーよ!」
「俺、お前の血が飲みたい。」
「誰がやるか!」
まるで子供のような掛け合い。
憎たらしいのに心が休まる気がするから不思議だ。
あの魔物と対峙した時だって、実は嬉しかったのだ。
守るように間に割って入った背中が、心強かった。
高野は間違いなく律をかばったのだろうが、桐嶋は横澤をかばってくれた。
いつも誰かを守ってばかりの横澤は、心が和んでいくのを感じたのだ。
「死なねぇ身体になれば、お前も仕事がやりやすいだろ?」
「んな理由で『伴侶』になれるか!」
とどめとばかりに抱きしめようと伸ばしてくる桐嶋の腕を、横澤はスルリとかわした。
そう簡単に桐嶋におちてやるつもりはなかった。
*****
「どうぞ。狭い部屋ですが。」
「お、お邪魔します。」
木佐がオドオドとあがりこんだのは、雪名の部屋。
食人鬼が暮らしているのは、ごくありふれたワンルームマンションの一室だった。
大きな家具はシングルサイズのベットだけ。
ソファなどはなく、座るためにあるのは小さな座卓とクッションだけだ。
「お茶とコーヒー、どっちが。。。」
「いや、どっちもいらない。」
木佐はそう言って、座卓の前に腰を下ろした。
性急なその様子に、きちんと話をしたいという木佐の意気込みが見える。
雪名は「わかりました」と答えて、木佐の正面に座った。
「俺が子供の頃、近所の公園で時々会ったよな。」
「ええ。小さな木佐さんがかわいくて。俺は恋におちたんですよ。」
「俺もそうだ。だからお前と再会した時、同じ姿のお前に驚いた。」
「覚えててくれたとは思いませんでした。嬉しいです。」
25年の歳月が流れても、雪名の美しい容姿は変わらない。
この顔と身体、そして強くて優しい雪名が好きだと思う。
「木佐さん、本当にいいんですか?俺の『伴侶』になっても。」
「うん。たとえ喰われても、雪名と別れるよりもその方がいい。」
「今、食べるかもしれませんよ?」
「いいんだ。それでも。」
木佐は曇りのない笑顔でそう答えた。
見目形の美しい男としか恋愛できなくなったのは、明らかに幼少期の雪名との出逢いによるものだ。
そしてその雪名が目の前にいるのに、今さら離れるなどできない。
「あのさ、頼みがあるんだけど。」
「何ですか?」
「俺がむさ苦しいオッサンになる前に喰ってよ。雪名が俺をかわいいって思ってくれてるうちにさ」
木佐がそう言うと、雪名が驚き目を見開いた。
だがすぐに悪戯っぽい笑顔を見せる。
「木佐さんは多分おじいちゃんになってもかわいいですよ。」
雪名はそう言いながら立ち上がると、木佐の隣に腰を下ろす。
そして木佐の方に向き直ると、思い切り抱きしめた。
窒息しそうな拘束に幸せを感じながら、木佐は雪名に身体を預けた。
*****
「俺はやっぱり吉川千春がいいです。乙女度高いし。」
「でもちょっと古いよ。何かいかにもって感じでさ。」
「そうですか?」
「俺、この作者は男じゃないかって疑ってるんだ。」
「あ~わかります。このヒロイン、男がイメージするかわいい女の子って感じですものね。」
「そうそう。律っちゃん!わかってくれる!?」
ここはオープンカフェのテラスの木佐のお気に入りの席。
そして木佐の向かいに座っているのは、律だった。
あの事件の後、めでたく雪名の「伴侶」になった木佐と律は、偶然の再会を果たした。
2人の行きつけの本屋が同じ店だったのだ。
よく考えてみれば、あの日に出会ったのだって行動する場所が同じだから。
もう1度会うことがあっても、少しも不思議はない。
30歳の男にして少女漫画好きの木佐は、律に自分の愛読書をすすめた。
内心少々馬鹿にしていた律も、読んでみてすっかりはまったのだ。
人間でありながら、魔物とあまりにも近い位置に生きる2人はすっかり意気投合した。
そして2人はメールアドレスを交換し、時々会うようになった。
「そういえば木佐さん、聞きました?横澤さんが桐嶋さんの『伴侶』になったんですよ。」
「え?マジ?組織の仕事はどうすんの?」
「横澤さんは続けるつもりだけど、組織の上の方が嫌がってるようです。」
「なんで?」
「魔物と近すぎると、正しい判断ができなくなるかもしれないって思われてるみたいで」
「雪名は今までの担当の中では、横澤さんが一番いいって言ってたけど。」
2人の楽しげな会話は尽きない。
まるで昔からの知り合いのように、楽しいおしゃべりの時間が過ぎていく。
律の帰りが遅いので、オープンカフェの前までやって来た高野は足を止めた。
テラス席で楽しそうに話す2人を、カフェの前の道路で見守っているのは雪名だった。
高野の姿を見つけた雪名は「こんにちは」と挨拶した後、苦笑する。
「何か楽しそうで、邪魔しちゃ悪いかなとおもって。」
「えらく仲良くなったもんだな。」
高野も談笑する律と木佐の姿を見て、苦笑した。
自分ではない相手と楽しそうにされるのは少々悔しいが、仕方がない。
愛する「伴侶」が幸せそうに笑っていてくれれば、主である魔物も幸せなのだから。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
「律、大丈夫か?」
「政宗、さん。。。」
律が目を開けると、心配そうな高野の顔が間近に見えた。
だが慌てて起き上がろうとしたものの、身体に力が入らない。
律は滞在するホテルのスィートルームのベットにいた。
魔物の男と対峙したとき、男の血から漂う妖気を吸ってしまった。
そのせいで高熱を出して、寝込んでしまったのだ。
高野は同じベットの上で、熱にうなされる律を腕に抱いていた。
「俺は死なない身体なんですから、ほっといても大丈夫なのに。」
律がボソボソと文句を言う。
怒っているのではなく、照れているのだ。
腕の中でベタベタに甘やかされるこの状況には、いつまでたっても慣れない。
「いいんだ。俺がこうしたいんだから。」
高野は律の髪や頬をなでながら、そう答えた。
瞳は熱でトロンとしているし、髪は寝グセではねており、身体も汗くさい。
だが高野にとっては、それさえもかわいく感じてしまうのだ。
「あの人、たち、どうなるんでしょう?」
「さぁな。なるようになるだろうよ。」
あの人たちとはもちろん雪名と木佐のことだ。
だが高野と律にできることはない。
せいぜい2人の幸せを祈ることくらいだ。
「政宗さんにも、また迷惑かけちゃいましたね。」
「気にしなくていい。」
自分が傷ついても、高野や他の者たちの心配ばかりしている律が愛おしい。
高野は律を抱きしめる腕に、力を込めた。
「もう少し、寝ます。」
まるで窒息しそうな拘束なのに、律はウットリと目を閉じた。
吸血鬼の強くて深い愛情は「伴侶」にとって一番の幸せなのだ。
*****
「つまり雪名皇も市村も、人を喰らう魔物だったってことだ。」
「そんなこと」
「信じるかどうかは関係ない。それが事実なんだから。」
「そうですか。。。」
ここは横澤が所属する組織の、横澤の居室だった。
横澤と向かい合って座るのは、木佐翔太だ。
桐嶋と高野が、木佐を襲った魔物の男を殺してしまった。
横澤はその後始末に追われていた。
最大の問題はこの木佐だ。
食人鬼の存在を知らず、雪名をただの人間として恋してしまった男。
なんとやっかいなことだろう。
吸血鬼の「伴侶」とは訳が違う。
食人鬼の「伴侶」は喰われるしかないのだから。
横澤はそのことも含めて、木佐に話をした。
ここから先は木佐本人が決めるしかない。
雪名とこのまま結ばれるのか、それとも別れるのか。
だが自分のことを捕食の対象としている男とこのまま付き合い続けられるとは思えない。
恐らくは別れることになるのだろう。
そのために桐嶋にはまだ帰らずに、別室に待機してもらっている。
木佐の雪名に関する記憶を消してもらうためだ。
「俺、雪名とは」
すべてを事実として受け止めた木佐が、おもむろに口を開いた。
その冷静な様子に、横澤は「おや?」と思う。
木佐はもっと取り乱し、迷うであろうと想像していたのだ。
だが最初こそポカンとしていたようだったが、その後は落ち着いている。
そして特に混乱する素振りもなく、もう決断しようとしていた。
そんなに即断していいのか?
横澤はそんな思いを隠しながら、静かに木佐の言葉を待った。
*****
「へぇぇ?あいつ、雪名の『伴侶』になったのか。」
木佐と入れ替わりに横澤の居室に入っていた桐嶋が、声を上げた。
その口調や表情から、心底意外に思っていることがわかる。
いつも憎らしいほど落ち着いている桐嶋には珍しいことだ。
だが横澤にもそれを茶化してやるほどの余裕もなかった。
「じゃあお前たちとしては、もうすることはないわけか?」
「ああ。木佐翔太は監視対象にさえならない。」
桐嶋はいつもの飄々とした様子に戻っている。
だが横澤は深々とため息をついた。
これでよかったのだろうか?
無理矢理にでも記憶を消してやるのが、木佐のためだったのではないか?
木佐は雪名の「伴侶」になることに同意した。
それはつまり雪名に食われてしまうことに同意したことになる。
吸血鬼の「伴侶」などと違い、不老不死になるわけではない。
普通の人間として歳を取り、そのどの時点で喰われてもそれまで。
つまり木佐が死ぬタイミングは、雪名が自由にできるということだ。
「なぁ、それでお前はいつ俺の『伴侶』になるの?」
「はぁぁ?何でそうなるんだ?」
ニヤリと笑う桐嶋に、横澤は抗議の声を上げた。
いつなどと聞かれるのが気に入らない。
まるで「伴侶」になることに横澤が同意するのは、当たり前のようではないか。
「なぁ決心しろよ。」
「しねーよ!」
「俺、お前の血が飲みたい。」
「誰がやるか!」
まるで子供のような掛け合い。
憎たらしいのに心が休まる気がするから不思議だ。
あの魔物と対峙した時だって、実は嬉しかったのだ。
守るように間に割って入った背中が、心強かった。
高野は間違いなく律をかばったのだろうが、桐嶋は横澤をかばってくれた。
いつも誰かを守ってばかりの横澤は、心が和んでいくのを感じたのだ。
「死なねぇ身体になれば、お前も仕事がやりやすいだろ?」
「んな理由で『伴侶』になれるか!」
とどめとばかりに抱きしめようと伸ばしてくる桐嶋の腕を、横澤はスルリとかわした。
そう簡単に桐嶋におちてやるつもりはなかった。
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「どうぞ。狭い部屋ですが。」
「お、お邪魔します。」
木佐がオドオドとあがりこんだのは、雪名の部屋。
食人鬼が暮らしているのは、ごくありふれたワンルームマンションの一室だった。
大きな家具はシングルサイズのベットだけ。
ソファなどはなく、座るためにあるのは小さな座卓とクッションだけだ。
「お茶とコーヒー、どっちが。。。」
「いや、どっちもいらない。」
木佐はそう言って、座卓の前に腰を下ろした。
性急なその様子に、きちんと話をしたいという木佐の意気込みが見える。
雪名は「わかりました」と答えて、木佐の正面に座った。
「俺が子供の頃、近所の公園で時々会ったよな。」
「ええ。小さな木佐さんがかわいくて。俺は恋におちたんですよ。」
「俺もそうだ。だからお前と再会した時、同じ姿のお前に驚いた。」
「覚えててくれたとは思いませんでした。嬉しいです。」
25年の歳月が流れても、雪名の美しい容姿は変わらない。
この顔と身体、そして強くて優しい雪名が好きだと思う。
「木佐さん、本当にいいんですか?俺の『伴侶』になっても。」
「うん。たとえ喰われても、雪名と別れるよりもその方がいい。」
「今、食べるかもしれませんよ?」
「いいんだ。それでも。」
木佐は曇りのない笑顔でそう答えた。
見目形の美しい男としか恋愛できなくなったのは、明らかに幼少期の雪名との出逢いによるものだ。
そしてその雪名が目の前にいるのに、今さら離れるなどできない。
「あのさ、頼みがあるんだけど。」
「何ですか?」
「俺がむさ苦しいオッサンになる前に喰ってよ。雪名が俺をかわいいって思ってくれてるうちにさ」
木佐がそう言うと、雪名が驚き目を見開いた。
だがすぐに悪戯っぽい笑顔を見せる。
「木佐さんは多分おじいちゃんになってもかわいいですよ。」
雪名はそう言いながら立ち上がると、木佐の隣に腰を下ろす。
そして木佐の方に向き直ると、思い切り抱きしめた。
窒息しそうな拘束に幸せを感じながら、木佐は雪名に身体を預けた。
*****
「俺はやっぱり吉川千春がいいです。乙女度高いし。」
「でもちょっと古いよ。何かいかにもって感じでさ。」
「そうですか?」
「俺、この作者は男じゃないかって疑ってるんだ。」
「あ~わかります。このヒロイン、男がイメージするかわいい女の子って感じですものね。」
「そうそう。律っちゃん!わかってくれる!?」
ここはオープンカフェのテラスの木佐のお気に入りの席。
そして木佐の向かいに座っているのは、律だった。
あの事件の後、めでたく雪名の「伴侶」になった木佐と律は、偶然の再会を果たした。
2人の行きつけの本屋が同じ店だったのだ。
よく考えてみれば、あの日に出会ったのだって行動する場所が同じだから。
もう1度会うことがあっても、少しも不思議はない。
30歳の男にして少女漫画好きの木佐は、律に自分の愛読書をすすめた。
内心少々馬鹿にしていた律も、読んでみてすっかりはまったのだ。
人間でありながら、魔物とあまりにも近い位置に生きる2人はすっかり意気投合した。
そして2人はメールアドレスを交換し、時々会うようになった。
「そういえば木佐さん、聞きました?横澤さんが桐嶋さんの『伴侶』になったんですよ。」
「え?マジ?組織の仕事はどうすんの?」
「横澤さんは続けるつもりだけど、組織の上の方が嫌がってるようです。」
「なんで?」
「魔物と近すぎると、正しい判断ができなくなるかもしれないって思われてるみたいで」
「雪名は今までの担当の中では、横澤さんが一番いいって言ってたけど。」
2人の楽しげな会話は尽きない。
まるで昔からの知り合いのように、楽しいおしゃべりの時間が過ぎていく。
律の帰りが遅いので、オープンカフェの前までやって来た高野は足を止めた。
テラス席で楽しそうに話す2人を、カフェの前の道路で見守っているのは雪名だった。
高野の姿を見つけた雪名は「こんにちは」と挨拶した後、苦笑する。
「何か楽しそうで、邪魔しちゃ悪いかなとおもって。」
「えらく仲良くなったもんだな。」
高野も談笑する律と木佐の姿を見て、苦笑した。
自分ではない相手と楽しそうにされるのは少々悔しいが、仕方がない。
愛する「伴侶」が幸せそうに笑っていてくれれば、主である魔物も幸せなのだから。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
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