雷8題
【雷鳴(らいめい)】
あと1ヶ月で、地球が滅亡します。
そのニュースを、小野寺律は旅先で聞いていた。
きっかけは人気漫画家、吉川千春こと吉野千秋の新連載の企画だった。
ちょっと内気でピュアな女の子の恋愛物語。
考えた末に、その舞台を北海道の札幌に設定した。
彼女は雪祭りの日に、勇気を振り絞って片思いの彼に告白するのだ。
吉野は連載開始前に、取材旅行に行くことにした。
だがここで問題が発生した。
本来なら担当編集であり、恋人の羽鳥が同行するはずだ。
だが羽鳥の他の担当の漫画家が最近スランプ気味。
どうしても今、何日も遠出をすることは躊躇われた。
そこで急遽同行することになったのが、律だった。
何とか仕事をやりくりして、札幌市内のホテルにチェックインしたのが昨日。
今日と明日は吉野と共に、札幌市内をあちこち見て回りながら構想を練る。
そして明後日、東京に戻る予定だった。
だが朝食を済ませた後、ホテルの部屋で吉野と今日の予定を確認していた最中。
付けっぱなしのテレビから、とんでもないニュースが放送されていたのだった。
「地球が、滅亡?」
あまりにも現実味がないニュースに、吉野が呆然と呟いた。
そして救いを求めるように、律の方を見る。
だが律だって、その問いの答えは持ち合わせていない。
同じように困った表情で、吉野と顔を見合わせるしかなかった。
*****
やっぱり何度かけてもつながらない。
雪名皇は、諦めて受話器を置いた。
雪名はたまたま帰省していた。
北海道、札幌市内の実家に滞在している。
今日は久しぶりに地元の友人と楽しい時間を過ごすはずだった。
だが外はあいにくの天気だった。
朝だと言うのに、まるで夕方のように暗い。
ゴロゴロと雷鳴が鳴り響き、今にも雨が降り出しそうだ。
約束はどうしようか。
でも次の帰省はいつになるかわからないのだし、友達には会っておきたい。
遅く起きた雪名はそう思いながら、誰もいない居間に向かう。
両親は仕事に出ているし、兄は一緒に暮らしていない。
今は雪名以外誰もいないが、勝手知ったる実家だ。
まずは何か食べようかなと思いながら、テレビをつけて。。。呆然とした。
あと1ヶ月で、地球が滅亡します。
巨大な流星群が地球の周りを周回しており、それが1ヵ月後に衝突します。
回避できる可能性は、ほぼゼロです。
テレビ画面に映されている女性アナウンサーは、努めて冷静に話している。
だが声が震えており、時々涙ぐんでしまっていた。
それはそうだ。
彼女も、彼女の大事な人も、そして雪名だって、みんな死んでしまうのだから。
雪名は携帯電話を取り出すと、ある番号を呼び出した。
発信先はもちろん木佐翔太、大事な恋人だ。
だが大量の送受信が発生しているのか、もうサービスを終了してしまったのか。
携帯電話はダイヤル音の後、何の音もしなかった。
東京に戻らなければ。
雪名は慌てて、自分の部屋に駆け戻った。
よくわからないけど、地球が終わってしまうなら。
最期の瞬間を一緒に過ごしたい人は、1人しかいない。
*****
「今までどうもありがとうございました。」
高野政宗は、そう言って受話器を置いた。
エメラルド編集部は、もうすぐ最後の仕事を終える。
地球があと1ヶ月で、地球が滅亡する。
小野寺律を除いたエメラルド編集部のメンバーは、そのニュースを会社で聞いた。
締め切りまではまだ日数もあり、まだ余裕もある時期。
だがもう関係ない。
もう次の号の雑誌は出せないのだから。
高野ら編集部員たちは手分けして、作家と連絡を取っていた。
着手中の原稿は、もう作業しなくていい旨を告げる。
そして今までの仕事の礼と最後の挨拶をする。
携帯電話はもう使えなくなっていた。
だが固定電話は非常につながりにくくなっているものの、根気よくかけると何とか通じる。
そして作家のほぼ全員に連絡を終えると、高野は大きくため息をついた。
どうしても連絡がつかない作家はあと1人だけ。
エメラルドの稼ぎ頭である吉川千春こと吉野千秋だけだ。
彼が今どこにいるのかはわかっている。
取材旅行で、遠く離れた北海道の地にいるのだ。
滞在しているホテルに何度も電話しているのだが、どうしてもかからない。
何回かに1回呼び出し音は鳴るものの、応答がないのだ。
もうホテルも営業していないのかもしれない。
そして同時に、律とも連絡が付けられない。
吉野と一緒にいることは間違いないだろう。
だがこの異常事態に、勝手のわからない場所にいる。
無事でいるのか、不安で仕方がない。
とにかく携帯電話が通じないのだから、連絡を待つしかない。
空は暗く、雷鳴が轟いている。
どうやら地球に衝突するという隕石だか流星群だかの影響らしい。
テレビでその理由を説明していたような気がするが、どうでもよかった。
結論としては地球が滅亡するその日まで、断続的に雷が続くらしい。
無事でいろ。電話して来い。
高野は祈るような思いで、律からの連絡を待っていた。
【続く】
あと1ヶ月で、地球が滅亡します。
そのニュースを、小野寺律は旅先で聞いていた。
きっかけは人気漫画家、吉川千春こと吉野千秋の新連載の企画だった。
ちょっと内気でピュアな女の子の恋愛物語。
考えた末に、その舞台を北海道の札幌に設定した。
彼女は雪祭りの日に、勇気を振り絞って片思いの彼に告白するのだ。
吉野は連載開始前に、取材旅行に行くことにした。
だがここで問題が発生した。
本来なら担当編集であり、恋人の羽鳥が同行するはずだ。
だが羽鳥の他の担当の漫画家が最近スランプ気味。
どうしても今、何日も遠出をすることは躊躇われた。
そこで急遽同行することになったのが、律だった。
何とか仕事をやりくりして、札幌市内のホテルにチェックインしたのが昨日。
今日と明日は吉野と共に、札幌市内をあちこち見て回りながら構想を練る。
そして明後日、東京に戻る予定だった。
だが朝食を済ませた後、ホテルの部屋で吉野と今日の予定を確認していた最中。
付けっぱなしのテレビから、とんでもないニュースが放送されていたのだった。
「地球が、滅亡?」
あまりにも現実味がないニュースに、吉野が呆然と呟いた。
そして救いを求めるように、律の方を見る。
だが律だって、その問いの答えは持ち合わせていない。
同じように困った表情で、吉野と顔を見合わせるしかなかった。
*****
やっぱり何度かけてもつながらない。
雪名皇は、諦めて受話器を置いた。
雪名はたまたま帰省していた。
北海道、札幌市内の実家に滞在している。
今日は久しぶりに地元の友人と楽しい時間を過ごすはずだった。
だが外はあいにくの天気だった。
朝だと言うのに、まるで夕方のように暗い。
ゴロゴロと雷鳴が鳴り響き、今にも雨が降り出しそうだ。
約束はどうしようか。
でも次の帰省はいつになるかわからないのだし、友達には会っておきたい。
遅く起きた雪名はそう思いながら、誰もいない居間に向かう。
両親は仕事に出ているし、兄は一緒に暮らしていない。
今は雪名以外誰もいないが、勝手知ったる実家だ。
まずは何か食べようかなと思いながら、テレビをつけて。。。呆然とした。
あと1ヶ月で、地球が滅亡します。
巨大な流星群が地球の周りを周回しており、それが1ヵ月後に衝突します。
回避できる可能性は、ほぼゼロです。
テレビ画面に映されている女性アナウンサーは、努めて冷静に話している。
だが声が震えており、時々涙ぐんでしまっていた。
それはそうだ。
彼女も、彼女の大事な人も、そして雪名だって、みんな死んでしまうのだから。
雪名は携帯電話を取り出すと、ある番号を呼び出した。
発信先はもちろん木佐翔太、大事な恋人だ。
だが大量の送受信が発生しているのか、もうサービスを終了してしまったのか。
携帯電話はダイヤル音の後、何の音もしなかった。
東京に戻らなければ。
雪名は慌てて、自分の部屋に駆け戻った。
よくわからないけど、地球が終わってしまうなら。
最期の瞬間を一緒に過ごしたい人は、1人しかいない。
*****
「今までどうもありがとうございました。」
高野政宗は、そう言って受話器を置いた。
エメラルド編集部は、もうすぐ最後の仕事を終える。
地球があと1ヶ月で、地球が滅亡する。
小野寺律を除いたエメラルド編集部のメンバーは、そのニュースを会社で聞いた。
締め切りまではまだ日数もあり、まだ余裕もある時期。
だがもう関係ない。
もう次の号の雑誌は出せないのだから。
高野ら編集部員たちは手分けして、作家と連絡を取っていた。
着手中の原稿は、もう作業しなくていい旨を告げる。
そして今までの仕事の礼と最後の挨拶をする。
携帯電話はもう使えなくなっていた。
だが固定電話は非常につながりにくくなっているものの、根気よくかけると何とか通じる。
そして作家のほぼ全員に連絡を終えると、高野は大きくため息をついた。
どうしても連絡がつかない作家はあと1人だけ。
エメラルドの稼ぎ頭である吉川千春こと吉野千秋だけだ。
彼が今どこにいるのかはわかっている。
取材旅行で、遠く離れた北海道の地にいるのだ。
滞在しているホテルに何度も電話しているのだが、どうしてもかからない。
何回かに1回呼び出し音は鳴るものの、応答がないのだ。
もうホテルも営業していないのかもしれない。
そして同時に、律とも連絡が付けられない。
吉野と一緒にいることは間違いないだろう。
だがこの異常事態に、勝手のわからない場所にいる。
無事でいるのか、不安で仕方がない。
とにかく携帯電話が通じないのだから、連絡を待つしかない。
空は暗く、雷鳴が轟いている。
どうやら地球に衝突するという隕石だか流星群だかの影響らしい。
テレビでその理由を説明していたような気がするが、どうでもよかった。
結論としては地球が滅亡するその日まで、断続的に雷が続くらしい。
無事でいろ。電話して来い。
高野は祈るような思いで、律からの連絡を待っていた。
【続く】
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