赤羽隼人5題
真っ暗な道をセナは走っていた。
画面に表示される「赤羽隼人」の名前。
電話から響く笑い袋の壊れた笑い声。
そして捕らえようとして追いかけてくる人影。
伸びてくる腕に捕らえられて、締め上げるように抱き取られた。
「糞チビ!おい。」
セナは身体を揺さぶられて目を開けた。
全身ビッショリと冷たい汗をかいている。心臓の鼓動が痛いほど早く苦しい。
「夢。。。」
セナは見知らぬ部屋でベットに横になっていた。
うなされていたようだ。
ヒル魔が横に座り、心配そうな表情でセナを見つめていた。
「ヒル魔。。。さん。。。?」
「まだ寝とけ。水飲むか?その前に汗拭け」
ヒル魔はセナの答えも聞かずにタオルを放ってよこした。
「僕、どうしたんですか?」
「テメーは部室で倒れたんだ。だから俺ん家に連れてきた。」
そうだった。
進の話を聞いて、その後メールを受けた後から記憶がない。
「進さん!進さんは無事ですか?」
「今病院だ。多分手術中だろう。命に別状はないが軽症ではないらしい。」
ヒル魔は諦めたような口調で言った。
進のことはどうやら聞かせたくなかったようだ。
「犯人は、金髪に見えたって。。。進さんが。。。」
セナはヒル魔を凝視しながら言った。身体が震える。
「テメー、まさか俺を疑ってんのか?」
信じられないという顔でヒル魔が答える。
「僕、帰ります。」
「その身体じゃ無理だ。今日は泊まってけ」
数日の間にセナはすっかり弱りきっていた。身体も心も。
「帰ります。」
「自宅は一人なんだろ。じゃ糞マネの家にするか。送ってく。」
「一人で。。。帰らせてください!」
ついにセナは悲鳴のように叫んだ。
ヒル魔は諦めたようにため息をついて「少し待て」と言った。
携帯電話を取り出し、あちこちに電話をかける。
何回目かでようやく相手が出たようだ。
そして話をする。口調からして部員の誰かのようだ。
今すぐ来られるか?と聞き、ここの場所を説明している。
「ここはマンションの10階だ。下に糞長男が迎えにくるからそのまま泊めてもらえ。」
電話を終えたヒル魔がセナに言う。
どうやら部員に片っ端から電話をして、ようやく捕まったのは十文字だったらしい。
「え?」
「もう夜遅いんだ。糞マネ来させるのは危ねぇから。」
「ヒル魔さん。。。」
「誰も信用できねー気持ちはわかる。犯人が見つかりゃ疑いも晴れんだろ。」
セナは動揺した。もしかしてヒル魔が犯人ではないのか。
金髪というキーワードだけでヒル魔を犯人扱いしてしまった。
ヒル魔がセナの頭をクシャリと撫でて笑った。
セナはヒル魔のマンションを出て、入り口付近に佇んでいた。
ヒル魔に申し訳ない気持ちだった。ため息をつく。
ヒル魔は怒ってはいなかったけど、悲しそうだった。
傷つけてしまったんだろうか。心配してくれたのに。
その時セナの背後から現れた人影がセナをその手に絡め取った。
不意に襲われて声を上げる暇すらない。
だがその瞬間。セナはまたコロンの香りを嗅ぎ取った。
黒美嵯川で襲われたときに嗅いだあの香り。
抱きつかれる感覚も、同じ人物のものだ。
そうだ。この香りは。
何で今まで気が付かなかったんだろう。
部室のロッカーにコロンの瓶を入れてたあの人に。
そう思うとセナの中で謎が1つに繋がる。
部室を荒らしたのは、ストラップを盗むためなんかじゃない。
セナの携帯電話に細工するためだ。
ようやく思考がまとまりかけたときには既にがっちりと押さえ込まれていた。
セナの口元にハンカチのようなものが当てられる。
そして急激に。セナの意識が遠くなっていった。
「おい、セナ。大丈夫か?」
セナは身体を揺すぶられて目を覚ました。
また違う部屋で、違う人間が心配そうにセナを見つめている。
「十文字。。。くん。。。?」
「ヒル魔のマンションの前で誰かがオマエを連れ去ろうとしてた。だから必死に追いかけてきたんだ。」
確かに十文字は額に汗を浮かべて、息も上がっている。
「ここはどこ?」
「わかんねぇ。何か空き倉庫みたいだけど。犯人は逃げたみたいだ。」
セナは辺りを見回した。確かにがらんとした倉庫のような場所だった。
「無事でよかった。セナ」
十文字が心底安心した、という表情でセナを抱き起こした。
セナは身を捩って、抱きしめようとする十文字の腕から逃れた。
「十文字くん。。。だったんだね。」
セナは悲しげな表情で、十文字を見た。
「あ?何のことだ。」
「十文字くんだったんでしょ!」
セナの大きな瞳から涙が零れて落ちた。
それがセナの辿り着いた答えだった。
コロンの香り。この珍しい香りのコロン。
誰かが銘柄を聞いたとき、十文字は自分のロッカーの中からコロンの瓶を出して見せていた。
皆が練習に出てから発見までの短い時間に徹底的に荒らされた部室。
あの時遅れてきて荒らされた部室を発見したのは十文字だ。
犯人が十文字なら納得できるのだ。
そしてあの時セナの携帯に細工をした。登録してある赤羽の番号を別の番号に。
携帯の表示を信じて、赤羽からだと思い込んだ電話とメール。
実は十文字から発信されていたのだ。
着信拒否の設定も、同じクラスで同じ部の十文字なら不可能ではない。
そして進が見たという犯人の金髪。十文字だって金髪だ。
カチャリと足元で音がした。
立ち上がった拍子にセナの携帯が落ちたのだ。
そして光る画面からメールが着信されていることを知る。
着信した時間はかなり前。多分ヒル魔の部屋で寝ていた頃だ。
メールの発信者は、赤羽隼人だ。
「君のための旋律を、そう…愛という名の曲を捧げるよ」
自分の推測が正しいかどうか、確認しよう。
セナはそのメールをそのまま返信した。
すると目の前にいる十文字のポケットからメールの着信音が響き渡った。
【続く】
画面に表示される「赤羽隼人」の名前。
電話から響く笑い袋の壊れた笑い声。
そして捕らえようとして追いかけてくる人影。
伸びてくる腕に捕らえられて、締め上げるように抱き取られた。
「糞チビ!おい。」
セナは身体を揺さぶられて目を開けた。
全身ビッショリと冷たい汗をかいている。心臓の鼓動が痛いほど早く苦しい。
「夢。。。」
セナは見知らぬ部屋でベットに横になっていた。
うなされていたようだ。
ヒル魔が横に座り、心配そうな表情でセナを見つめていた。
「ヒル魔。。。さん。。。?」
「まだ寝とけ。水飲むか?その前に汗拭け」
ヒル魔はセナの答えも聞かずにタオルを放ってよこした。
「僕、どうしたんですか?」
「テメーは部室で倒れたんだ。だから俺ん家に連れてきた。」
そうだった。
進の話を聞いて、その後メールを受けた後から記憶がない。
「進さん!進さんは無事ですか?」
「今病院だ。多分手術中だろう。命に別状はないが軽症ではないらしい。」
ヒル魔は諦めたような口調で言った。
進のことはどうやら聞かせたくなかったようだ。
「犯人は、金髪に見えたって。。。進さんが。。。」
セナはヒル魔を凝視しながら言った。身体が震える。
「テメー、まさか俺を疑ってんのか?」
信じられないという顔でヒル魔が答える。
「僕、帰ります。」
「その身体じゃ無理だ。今日は泊まってけ」
数日の間にセナはすっかり弱りきっていた。身体も心も。
「帰ります。」
「自宅は一人なんだろ。じゃ糞マネの家にするか。送ってく。」
「一人で。。。帰らせてください!」
ついにセナは悲鳴のように叫んだ。
ヒル魔は諦めたようにため息をついて「少し待て」と言った。
携帯電話を取り出し、あちこちに電話をかける。
何回目かでようやく相手が出たようだ。
そして話をする。口調からして部員の誰かのようだ。
今すぐ来られるか?と聞き、ここの場所を説明している。
「ここはマンションの10階だ。下に糞長男が迎えにくるからそのまま泊めてもらえ。」
電話を終えたヒル魔がセナに言う。
どうやら部員に片っ端から電話をして、ようやく捕まったのは十文字だったらしい。
「え?」
「もう夜遅いんだ。糞マネ来させるのは危ねぇから。」
「ヒル魔さん。。。」
「誰も信用できねー気持ちはわかる。犯人が見つかりゃ疑いも晴れんだろ。」
セナは動揺した。もしかしてヒル魔が犯人ではないのか。
金髪というキーワードだけでヒル魔を犯人扱いしてしまった。
ヒル魔がセナの頭をクシャリと撫でて笑った。
セナはヒル魔のマンションを出て、入り口付近に佇んでいた。
ヒル魔に申し訳ない気持ちだった。ため息をつく。
ヒル魔は怒ってはいなかったけど、悲しそうだった。
傷つけてしまったんだろうか。心配してくれたのに。
その時セナの背後から現れた人影がセナをその手に絡め取った。
不意に襲われて声を上げる暇すらない。
だがその瞬間。セナはまたコロンの香りを嗅ぎ取った。
黒美嵯川で襲われたときに嗅いだあの香り。
抱きつかれる感覚も、同じ人物のものだ。
そうだ。この香りは。
何で今まで気が付かなかったんだろう。
部室のロッカーにコロンの瓶を入れてたあの人に。
そう思うとセナの中で謎が1つに繋がる。
部室を荒らしたのは、ストラップを盗むためなんかじゃない。
セナの携帯電話に細工するためだ。
ようやく思考がまとまりかけたときには既にがっちりと押さえ込まれていた。
セナの口元にハンカチのようなものが当てられる。
そして急激に。セナの意識が遠くなっていった。
「おい、セナ。大丈夫か?」
セナは身体を揺すぶられて目を覚ました。
また違う部屋で、違う人間が心配そうにセナを見つめている。
「十文字。。。くん。。。?」
「ヒル魔のマンションの前で誰かがオマエを連れ去ろうとしてた。だから必死に追いかけてきたんだ。」
確かに十文字は額に汗を浮かべて、息も上がっている。
「ここはどこ?」
「わかんねぇ。何か空き倉庫みたいだけど。犯人は逃げたみたいだ。」
セナは辺りを見回した。確かにがらんとした倉庫のような場所だった。
「無事でよかった。セナ」
十文字が心底安心した、という表情でセナを抱き起こした。
セナは身を捩って、抱きしめようとする十文字の腕から逃れた。
「十文字くん。。。だったんだね。」
セナは悲しげな表情で、十文字を見た。
「あ?何のことだ。」
「十文字くんだったんでしょ!」
セナの大きな瞳から涙が零れて落ちた。
それがセナの辿り着いた答えだった。
コロンの香り。この珍しい香りのコロン。
誰かが銘柄を聞いたとき、十文字は自分のロッカーの中からコロンの瓶を出して見せていた。
皆が練習に出てから発見までの短い時間に徹底的に荒らされた部室。
あの時遅れてきて荒らされた部室を発見したのは十文字だ。
犯人が十文字なら納得できるのだ。
そしてあの時セナの携帯に細工をした。登録してある赤羽の番号を別の番号に。
携帯の表示を信じて、赤羽からだと思い込んだ電話とメール。
実は十文字から発信されていたのだ。
着信拒否の設定も、同じクラスで同じ部の十文字なら不可能ではない。
そして進が見たという犯人の金髪。十文字だって金髪だ。
カチャリと足元で音がした。
立ち上がった拍子にセナの携帯が落ちたのだ。
そして光る画面からメールが着信されていることを知る。
着信した時間はかなり前。多分ヒル魔の部屋で寝ていた頃だ。
メールの発信者は、赤羽隼人だ。
「君のための旋律を、そう…愛という名の曲を捧げるよ」
自分の推測が正しいかどうか、確認しよう。
セナはそのメールをそのまま返信した。
すると目の前にいる十文字のポケットからメールの着信音が響き渡った。
【続く】