赤羽隼人5題

セナは慣れない手付きで焼香をしていた。
彼が死んでしまったなんて、未だに信じられない。
学校が違うから、会う機会はそれほど多くはなかった。
でも先輩として、アメフトのプレーヤーとして尊敬していた人物だ。
残念です。また試合で戦いたかった。
セナは手を合わせて、目を閉じ、彼の冥福を祈った。
その大きな瞳からは涙が溢れて止まらない。

彼の名前は赤羽隼人。
かつてセナとアイシールドの名を賭けて戦った盤戸高校のエースだ。
交通事故だったという。
飲酒運転の暴走車にはねられてしまった彼は実にあっけなくこの世を去った。
このニュースは東京のみならず全国のアメフト関係者の間を駆け抜けた。
そして今日の彼の葬儀には、大会さながらにアメフト関係者が集まった。

皆が彼の突然すぎる死を、まだ受け入れられなかった。
当然のことながら盤戸スパイダーズの選手たちの怒りや悲しみは特に大きい。
佐々木コータローは怒りで絶叫し、沢井ジュリは取り乱して泣き崩れていた。
二人とも、他の選手たちに葬儀の途中で連れ出されてしまった。
その様子はますますセナの涙を誘った。


「おい、ちょっと来てくれ!大変なことになってるぞ!」
発見したのはその日たまたま遅れて部活に現れた十文字だった。
一瞬唖然とした十文字はすでに練習に出ていた部員たちに大声で異変を知らせた。

練習中の部員たちは何事かと部室に集まってきて、口々に声をあげた。
「何、これ?」
「誰がこんなこと」
「ひどい!」
呆然とした後、次第に怒りが込み上げてくる。

アメフト部の部室は、足の踏み場もないほど物が散乱していた。
全員の荷物がロッカーから出され、床にぶちまけられている。
赤羽の死のショックでしばらくは悲しみに沈んでいた泥門デビルバッツ。
日が経つにつれてようやく落ち着きを見せ始めた矢先のことだ。

「全員なくなっているものがないかどうか確認しろ。糞マネは備品もチェックしろよ。」
主将であるヒル魔は冷静だった。テキパキと事態の収拾にかかる。


「俺は何も盗られてねぇ」
「僕のも大丈夫」
「備品も何もなくなってないわ」
皆が自分の荷物が無事であることを告げる。

「あれ?」
唯一怪訝な声を上げたのはセナだった。
「何か盗られたのか?」
モン太に問われて、セナは考え込むような表情で答えた。
「携帯のストラップ」
「ストラップ?」
「うん、でもどこかで落としたのかもしれない。わからないよ。」
「確かにこんなに荒らしてそれだけ盗って行ったとは思えねぇな。」
モン太もまたセナ同様、考え込むような表情になった。

派手に荒らされていたもののなくなった物はたった1つ。
セナが気に入っていた携帯のストラップだった。
それは休みの日に近所のゲームセンターのクレーンゲームで取った景品。
自宅の飼い猫のピットに似た小さな黒猫のマスコットをセナは気に入っていたのだ。
元がタダ同然だから被害はほぼないと言えるのだが、気分がいい筈はない。


「まったく誰の仕業なんだろう」
まったく気分の悪い一日だった。部室が荒らされるなんて。
セナは半分怒り、半分悲しく思いながら、帰宅した。

父親の仕事の関係で両親は先週から海外へ行ってしまった。
だから今はセナだけが自宅に残っている。
セナでは世話が出来ないと猫のピットまで一緒に連れて行ってしまった。
だから余計にピットに似たマスコットがなくなったのは悲しい。

帰宅途中の路上でふとセナは足を止めた。
背後で自分と同じ歩調の足音が聞こえた気がしたからだ。
耳を澄ましてみると、その足音は消えた。
気のせいかな?とまた歩き出すと、足音がついてきた。

セナは歩みを早くした。
背後の足音も同じペースで付いて来る。
歩みを止めると足音も止まった。
まさか。後を尾けられている?
足音を尾行と確信した途端、心臓がバクバクと不安を訴え始めた。

尾行だとしたら、誰が。
動揺しながらセナは懸命に考えを巡らせた。
女の子と間違えた痴漢?いやそれはない。
身長はともかく制服を着ているのだ。
通り魔?でもそれならやはり女の子を狙う気がする。
まさか部室を荒らしたのと同じ犯人だとしたら。
犯人はセナに狙いを定めていることになる。
一気にセナの思考が混乱した。


怖い!セナは思い切り走り出した。
犯人が誰なのかは気になるが、振り返る勇気などない。
足音は最初は追いかけてきていたが、段々遠くなっていく。
セナの光速と言われる足について来られなかったようだ。
セナはそのままの勢いで自宅まで走り、家に駆け込んだ。

はぁはぁと息を切らしながら、セナは混乱していた。
これは気のせいだろうか。それとも尾行されたのだろうか。
その時、セナの携帯電話が鳴り出した。メールの着信音だ。
セナは震える手で画面の表示を見て、驚愕に眼を見開いた。
メールの発信者は、赤羽隼人だ。
寒気を感じながら震える手でメールを開いた。

「君の笑顔は太陽にも勝る輝きだよ」

何、これ?死んだはずの赤羽隼人からのメール。
セナはメールの差出人と不可解な文面を見ながら呆然と立ちすくんだ。

【続く】
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