ヒルセナ5題

【身長差】

じゃあフォーメーション、説明すんぞ。
ヒル魔がリバーシブルのカジノテーブルをひっくり返した。
そこにはミニチュアのフィールドが出現する。
主務Tシャツ姿のセナは、棚の上にある箱を取ろうと背伸びして手を伸ばした。
それは模型部員を瀕死の状態に追いつめたという選手のフィギュアが入った箱だ。

届かねぇのかよ、糞チビ。ヒル魔がからかうように言った。
ちっちぇーと世界が狭くて大変だな。
セナは脚立を持ってきて登り、ヒル魔を見下ろして笑った。
これならヒル魔さんより高い世界が見られますよ。
そしてフィギュアの箱を悠々と取り出す。
ケケケ、俺がその脚立に乗りゃあもっと高いぜ。ヒル魔が応戦した。
ヒル魔さんがこの脚立に乗ったら、頭が天井についちゃって立てませんよ。
確かに。脚立の最上段に立てば、セナでも天井に手が届くほどの高さなのだ。
ヒル魔が一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにケケケと笑った。

そこへ過保護な幼馴染が割り込んできた。
セナ危ないわと言いながら、脚立の上のセナから箱を受け取った。
そしてミニチュアフィールドにフィギュアの箱を置こうとして。
なんと箱を盛大にひっくり返してしまった。

バラバラと派手な音に驚いた部員たちが散らばったフィギュアを集め始めた。
だが。。。数えてみると1体足りない。
まもりがごめんなさいと平謝りし、ヒル魔が盛大に舌打ちする。
そこへ脚立を片付けたセナがつかつかと歩いてきて、ヒル魔の足元に屈んだ。
ヒル魔があ?と怪訝な表情になる。すると立ち上がったセナがニッコリと笑った。
背が低いから見える世界だってあるんですよ。
ヒル魔の目の前に1体のフィギュアを差し出す。逆立てた金髪の背番号1。

セナは澄ました顔で、フォーメーションの説明でしたよね、と言った。
ヒル魔はセナの手からフィギュアを取り上げて、なかなか言うじゃねぇかと笑う。
テメーら、さっさと集まりやがれ!
その声に弾かれたように部員たちが、ミニチュアフィールドの前に集まった。

【終】
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