ヒルセナ5題

【赤と黒】

泡の中でゴシゴシと擦ると、筋肉痛の身体が悲鳴をあげた。
それでも腕を動かし続ける。
赤い布地と黒い背番号が手の中で擦られて。
泡の中から浮かび上がっては、また泡の中に消えていく。

関東大会準決勝の王城戦の翌日。
セナたちはユニフォームの洗濯をしていた。
私が洗っとくからいいのに、とまもりが笑う。
自分でやりたいんだ、とセナが答えた。
そして汚れたユニフォームの泥が落とされて綺麗な赤と黒が現れる。

洗濯を終えてすべてのユニフォームが並んだ。
セナはプレー開始の時、一番後ろにいることがほとんどだ。
だから身長が低いセナの視界は概ねユニフォームの赤と背番号の黒。
いつも皆の背中を飾る赤と黒を頼もしく思っている。
この赤と黒の盾に守られて、セナは走っていくことができるのだ。
セナは干されたユニフォームの列を見ながら、ふと思いを馳せる。

そのときには僕ももっとずっと強くなっているようにします。
進に再戦の決意を伝えられたとき、セナは思わずそう答えてしまった。
再戦。また王城と戦えるときがくるだろうか。
そしてまた勝つことができるのだろうか。

昨日の試合を思い出し、ふと小さな不安が芽生えた瞬間。風が吹いた。
1枚のユニフォームがフワリと揺れて、濡れた布地がセナの顔に触れる。
セナは一瞬その感触に驚き、そしてふっと笑った。

セナはゆっくりと首を振った。今はクリスマスボウルだ。
それに進さんと戦っても、また絶対に勝つ。何回だって勝つんだ。

セナは自分の顔を揺らして捩れてしまったユニフォームの皺をパンパンと伸ばす。
それは悪魔のチームカラーの赤色に浮かぶ黒の背番号1。
ユニフォームまで、僕に容赦ないな。セナは微かに苦笑した。

【終】
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