ヒルセナ10題
【銃】
ヒル魔は呼び出された店のドアを開けた。ダーツバー。
最後にここに来たのは白秋戦の前。
セナが入手してきた峨王のプレーを、キッドに見せた時以来だ。
「よぉ」
待ち合わせの相手、キッドはすでに来ていて、ダーツで遊んでいた。
ヒル魔に向かって片手を上げながら、無造作に投げた矢が的の真ん中に刺さる。
ヒル魔はキッドの横にある背もたれのないスツールに座った。
特に前置きもなく「で?」と聞く。
「セナくんのことなんだけどさ」
キッドがヒル魔の方は見ずに、再び矢を構えながら言う。
「銃を買える店を教えてくれって言われたんだけど」
「あ?」
「銃が買いたいって。切羽詰った口調だった。」
そして矢を投げる。先程刺さった矢の真下に命中した。
真ん中ではなくて、あえて下を狙ったのだろう。
「日本で買えるところなんて知らないって言ったら」
キッドはさらに矢を構えながら言う。
「うちの監督なら知ってるかなって言ってた。」
今度は投げた矢が最初の矢の真上に命中する。
ヒル魔は顔を顰めた。思い当たる節がある。
つい2、3日前、ヒル魔自身もセナに同じ事を聞かれたのだ。
ヒル魔さんって、銃をどこで買ってるんですか?と。
そして高いですよね。僕の貯金で買えるかな?とも言った。
ヒル魔は答えなかった。セナに銃を持たせるなど問題外だ。
銃を常に所持するヒル魔がそう思うのは理不尽ではあるが。
ケケケといつもの笑いで誤魔化すヒル魔にセナは不服そうだった。
でも逆に何に使うのだと聞いても、セナは頑として答えなかった。
キッドは迂闊に銃の入手方法などを教えたりはしないだろうが。
西部のあの監督なら、変なことを吹き込んだりはしないだろうか。
そんなヒル魔の考えを読んだのか、キッドがまた言う。
「監督には一応、口止めしてあるけどね。」
「ダーツやってかないの?」
黙って出て行こうとするヒル魔にキッドが声をかけた。
「ああ。またにしておく」
ヒル魔は何事もなかったようにさっさと店から出て行った。
セナくんが気になるんだ。
キッドはそう思ったが、口には出さずに再び矢を的に投げ込んだ。
「あーあ」
セナはがっかりしながら、携帯電話を閉じた。
セナは陸に西部の監督の携帯番号を教えてもらい、電話して聞いた。
銃ってどこで買えるんですか?と。でも何だか歯切れが悪い。
その話はキッドが、とか何とか言って、電話を切られてしまったのだ。
「あとは誰に聞けばいいのかな」
セナはため息をついて、机に突っ伏した。
「何でそんなに銃を欲しがるんだよ?」
だって、と言いかけて、顔を上げたセナは慌てて振り返った。
ここはセナの部屋。確かに電話をするまでは誰もいなかったのに。
いつのまにかベットの上にヒル魔が長い足を組んで腰掛けている。
「ぬ、盗み聞きですか?」
その前に不法侵入を突っ込むべきだろうが、動揺したセナはそれどころではない。
だがヒル魔はまったく臆することなく、じっとセナを見つめたままだ。
「なぁ何で欲しいんだ?」
セナは答えなかった。頑なな表情にヒル魔は内心途方にくれていた。
付き合っている恋人同士なのだ。
銃など持たせたくないが、頭ごなしに反対したくはなかった。
何よりも理由が知りたい。セナの身辺にはそれとなく注意している。
でも万一にもその監視の外で、危ないことに巻き込まれているのかと心配でもある。
「ちゃんと納得できる理由なら、俺のを1つやるよ。」
「。。。。。。」
「撃ち方もちゃんと教えてやるし。」
「。。。。。。」
「それじゃ意味ないんですよ。。。」
ようやく口を開いたセナが困ったように呟いた。その埒が明かない言葉に。
ありえないほどの譲歩を見せていたヒル魔の表情がついに変わった。
「テメーいい加減にしやがれ!」
ヒィィ、とセナが悲鳴を上げたが、ヒル魔はそのまま畳み掛ける。
だがセナが怯えた表情で後ずさりをしたのを見て、ため息をついた。
「そんなに俺に言いたくねぇのか?」
「。。。。。。」
「わかった。もういい。」
ヒル魔が窓を開けて、そのまま出て行こうとした。
「言います!だから行かないでください!」
1回背を向けたヒル魔が振り返った。
そこには目をうるうるさせたセナがヒル魔に縋るような目を向けている。
「。。。まであと1ヶ月じゃないですか。」
渋々といった感じで口を開いたセナの言葉はボソボソと聞き取りにくい。
「あ?何が1ヶ月だって?」
「バレンタインデーですよ。」
そう言われてヒル魔はポカンとした顔になった。
ついこの間まで正月だった気がするのに。なぜ今バレンタインなのか。
「ヒル魔さんと付き合って初めてのバレンタインデーなんですよ!」
「?」
「ヒル魔さんは甘いもの嫌いだからチョコなんか欲しくないでしょう?
喜んでもらえるものって何だろうって。一生懸命考えたんですよ。」
「それで銃か!」
ヒル魔は身体からヘナヘナと力が抜けていくような気がした。
さすがのヒル魔も予想だにできなかったまさかの理由。
確かにそれならヒル魔が1つやったところで意味はない。
「当日驚かせたかったから言いたくなかったんですよ。。。」
不満そうに頬を膨らませるセナをヒル魔はそっと抱き寄せた。
胸に顔を埋めさせて、気持ちだけで充分だと優しく言う。
こうしていないと、ニヤけて緩んだ顔をセナに見られてしまう。
「内緒にしててごめんなさい。。。」
ヒル魔の胸の中に顔を埋めたセナのくぐもった声がする。
まったくセナのことになると、らしくなく冷静でいられなくなる。
危なっかしくて、いつもハラハラさせられて。
それでもそんなセナが可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだ。
これではまるでバカップルではないか。ヒル魔の中の悪魔の部分が苦笑する。
それでもヒル魔は「もういい」と言いながら、セナの髪をくしゃくしゃとかき回した。
【終】
ヒル魔は呼び出された店のドアを開けた。ダーツバー。
最後にここに来たのは白秋戦の前。
セナが入手してきた峨王のプレーを、キッドに見せた時以来だ。
「よぉ」
待ち合わせの相手、キッドはすでに来ていて、ダーツで遊んでいた。
ヒル魔に向かって片手を上げながら、無造作に投げた矢が的の真ん中に刺さる。
ヒル魔はキッドの横にある背もたれのないスツールに座った。
特に前置きもなく「で?」と聞く。
「セナくんのことなんだけどさ」
キッドがヒル魔の方は見ずに、再び矢を構えながら言う。
「銃を買える店を教えてくれって言われたんだけど」
「あ?」
「銃が買いたいって。切羽詰った口調だった。」
そして矢を投げる。先程刺さった矢の真下に命中した。
真ん中ではなくて、あえて下を狙ったのだろう。
「日本で買えるところなんて知らないって言ったら」
キッドはさらに矢を構えながら言う。
「うちの監督なら知ってるかなって言ってた。」
今度は投げた矢が最初の矢の真上に命中する。
ヒル魔は顔を顰めた。思い当たる節がある。
つい2、3日前、ヒル魔自身もセナに同じ事を聞かれたのだ。
ヒル魔さんって、銃をどこで買ってるんですか?と。
そして高いですよね。僕の貯金で買えるかな?とも言った。
ヒル魔は答えなかった。セナに銃を持たせるなど問題外だ。
銃を常に所持するヒル魔がそう思うのは理不尽ではあるが。
ケケケといつもの笑いで誤魔化すヒル魔にセナは不服そうだった。
でも逆に何に使うのだと聞いても、セナは頑として答えなかった。
キッドは迂闊に銃の入手方法などを教えたりはしないだろうが。
西部のあの監督なら、変なことを吹き込んだりはしないだろうか。
そんなヒル魔の考えを読んだのか、キッドがまた言う。
「監督には一応、口止めしてあるけどね。」
「ダーツやってかないの?」
黙って出て行こうとするヒル魔にキッドが声をかけた。
「ああ。またにしておく」
ヒル魔は何事もなかったようにさっさと店から出て行った。
セナくんが気になるんだ。
キッドはそう思ったが、口には出さずに再び矢を的に投げ込んだ。
「あーあ」
セナはがっかりしながら、携帯電話を閉じた。
セナは陸に西部の監督の携帯番号を教えてもらい、電話して聞いた。
銃ってどこで買えるんですか?と。でも何だか歯切れが悪い。
その話はキッドが、とか何とか言って、電話を切られてしまったのだ。
「あとは誰に聞けばいいのかな」
セナはため息をついて、机に突っ伏した。
「何でそんなに銃を欲しがるんだよ?」
だって、と言いかけて、顔を上げたセナは慌てて振り返った。
ここはセナの部屋。確かに電話をするまでは誰もいなかったのに。
いつのまにかベットの上にヒル魔が長い足を組んで腰掛けている。
「ぬ、盗み聞きですか?」
その前に不法侵入を突っ込むべきだろうが、動揺したセナはそれどころではない。
だがヒル魔はまったく臆することなく、じっとセナを見つめたままだ。
「なぁ何で欲しいんだ?」
セナは答えなかった。頑なな表情にヒル魔は内心途方にくれていた。
付き合っている恋人同士なのだ。
銃など持たせたくないが、頭ごなしに反対したくはなかった。
何よりも理由が知りたい。セナの身辺にはそれとなく注意している。
でも万一にもその監視の外で、危ないことに巻き込まれているのかと心配でもある。
「ちゃんと納得できる理由なら、俺のを1つやるよ。」
「。。。。。。」
「撃ち方もちゃんと教えてやるし。」
「。。。。。。」
「それじゃ意味ないんですよ。。。」
ようやく口を開いたセナが困ったように呟いた。その埒が明かない言葉に。
ありえないほどの譲歩を見せていたヒル魔の表情がついに変わった。
「テメーいい加減にしやがれ!」
ヒィィ、とセナが悲鳴を上げたが、ヒル魔はそのまま畳み掛ける。
だがセナが怯えた表情で後ずさりをしたのを見て、ため息をついた。
「そんなに俺に言いたくねぇのか?」
「。。。。。。」
「わかった。もういい。」
ヒル魔が窓を開けて、そのまま出て行こうとした。
「言います!だから行かないでください!」
1回背を向けたヒル魔が振り返った。
そこには目をうるうるさせたセナがヒル魔に縋るような目を向けている。
「。。。まであと1ヶ月じゃないですか。」
渋々といった感じで口を開いたセナの言葉はボソボソと聞き取りにくい。
「あ?何が1ヶ月だって?」
「バレンタインデーですよ。」
そう言われてヒル魔はポカンとした顔になった。
ついこの間まで正月だった気がするのに。なぜ今バレンタインなのか。
「ヒル魔さんと付き合って初めてのバレンタインデーなんですよ!」
「?」
「ヒル魔さんは甘いもの嫌いだからチョコなんか欲しくないでしょう?
喜んでもらえるものって何だろうって。一生懸命考えたんですよ。」
「それで銃か!」
ヒル魔は身体からヘナヘナと力が抜けていくような気がした。
さすがのヒル魔も予想だにできなかったまさかの理由。
確かにそれならヒル魔が1つやったところで意味はない。
「当日驚かせたかったから言いたくなかったんですよ。。。」
不満そうに頬を膨らませるセナをヒル魔はそっと抱き寄せた。
胸に顔を埋めさせて、気持ちだけで充分だと優しく言う。
こうしていないと、ニヤけて緩んだ顔をセナに見られてしまう。
「内緒にしててごめんなさい。。。」
ヒル魔の胸の中に顔を埋めたセナのくぐもった声がする。
まったくセナのことになると、らしくなく冷静でいられなくなる。
危なっかしくて、いつもハラハラさせられて。
それでもそんなセナが可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだ。
これではまるでバカップルではないか。ヒル魔の中の悪魔の部分が苦笑する。
それでもヒル魔は「もういい」と言いながら、セナの髪をくしゃくしゃとかき回した。
【終】