ヒルセナ10題

【21番の重さ】

絶対に抜くんだ!と勢い込んで思いっきり突っ込んだつもりだったのに。
僕の全力はごついLBにあっさりと阻まれ、フィールドの外に吹っ飛ばされた。
そして僕のチームは1ポゼッション差で破れた。

僕は小学生の頃、たまたまクリスマスボウルの試合を見た。
帝黒アレキサンダース対泥門デビルバッツ。両方ともエースは21番。
特に泥門のアイシールド21を見ていて胸が熱くなった。
小さい身体で負けていても最後まで諦めない闘志。
僕は彼に導かれるようにしてアメフトを始めた。
そして念願の泥門高校に入学し、デビルバッツのメンバーに加わった。
希望のポジションはもちろんRBだ。

でも現実は甘くない。現在アメフト部の部員は120名。
まず試合に出ることが大変なのだ。
今日は秋大会のメンバー選抜を兼ねたテストマッチ。
でも負けた。身体が小さい僕はどうしても当たり負けしてしまうのだ。


「お疲れ様」
ドリンクを配っていたのは大学生くらいの見慣れない小柄な青年だった。
周りのチームメイトに誰?と聞くと卒業生。今日はマネージャーが休みなのだ。
それを知ったたまたま来ていたOBが「元主務なんで」と言いながら
そんな仕事を買って出てくれたのだという。

「最後残念だったね。でもいいプレーだった。」
彼は僕にドリンクを手渡すときに、そう言って笑った。
「でも負けちゃったし」
僕は少し八つ当たり気味に言った。まだ悔しさで胸がいっぱいだったから。
「次、勝てばいい。」
その人は事も無げにそう言った。
「いつになったら試合に出られるかなぁ」
僕の問いかけにその人はまた答えてくれる。
「ちゃんと実力がついてから試合に出るって大事なことだと思うよ。」
僕はその答えに「え?」と首を傾げた。
「僕なんかルールもよくわからないうちに出されちゃって大変だったよ。」
「そうなんですか?」
「うん。運動靴で出ちゃって派手に滑るし、しかも敵ゴールに向かって逆走するし。」
その人が優しく笑う。落ち着いて見えて案外ドジなんだ、この人。でも。

「あれ?主務だったんじゃ。。。」
「最初はね。主務になれなくて、選手にさせられちゃったんだよ。」
その人の笑顔が照れくさそうなものに変わった。
「僕が入部した頃、デビルバッツは人数が足りなくて、試合に無理矢理出されたんだ。」
「へぇぇ」
「メンバー集めがそもそも大変でね。他の運動部を回って。頭下げて、助っ人頼んでたんだ。」
意外な事実。創部2年目でクリスマスボウル出場と聞いていた。
さぞかしメンバーに恵まれていたのだと思っていた。そんな苦労があったなんて。


「ああ!セナ先輩!」
そこへキャプテンが飛んできた。
「ドリンク配りなんて誰がさせたんですか!」
「いや、僕が勝手にしたことだから。せっかく来たんだから少しは役に立たないと。」
いつもはおっかないキャプテンがその人-セナ先輩にペコペコと頭を下げている。
「今度時間があるときにまた来るから、一緒に練習しようね。」
セナ先輩が手を振りながら、残りのドリンクを配り始めた。

「あの人、誰なんですか?」
僕はキャプテンに聞いてみた。
「初代RBの小早川セナ先輩。アイシールド21だよ。」
「えええ~~~~!」
僕は驚き、思わず大声を出してしまう。
ニコニコ笑いながら120人分のドリンクを配りつづけるあの人が、アイシールド21?

小さな身体を補って余りある、光速の足を持つ天才。
きっと僕なんかとは全然違う才能の持ち主だろうと思ってた。でも。
運動靴で逆走するドジな人で、他の運動部を回って助っ人を頼むひたむきな人。
主務になれない不器用な人で、ドリンクを配る地味な仕事を笑って引き受ける優しい人。
何よりも僕にアメフトに導いてくれた。僕の大事な目標となる人だ。

時間があるときにまた来てくれるって言ってたっけ。
そのときまでにはできればレギュラー入りしていたい。
もっともっと実力をつけて、いつか21番をつけるんだ。
僕は1人1人に声をかけながらドリンクを配り続けるその人の後姿を目で追いかけ続けた。

【終】
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