ヒルセナ10題
【金色のヒカリ】
セナくん、帝黒アレキサンダースに来る気はない?
何を言われたかわからなかったセナは大和の言葉にキョトンとした表情になった。
世界大会の日本代表の一員であるセナは現在渡米中だった。
滞在中のホテルのロビー。
セナは大和と向かい合わせにソファに座り、寛いでいた。
その時に唐突に切り出したのだった。
帝黒はもう闇雲に選手を集めたりはしないと思っていたのに。
セナのそんな気持ちが顔に出たのだろう。
いや、これは帝黒からではなくて個人的なお誘いだよ。
今度はセナくんとチームメイトとしてクリスマスボウルに出たいと思ったんだ。
大和は相変わらずの押しの強さでにこやかに笑う。
光栄なことだ。
長い間、本物のアイシールド21としてその影を追っていた大和猛。
その本人に誘われるなんて。
でもそれは、今まで一緒に戦っていたチームメイトを裏切る行為なのだ。
泥門は3年の夏で部活は終わりなんだよね。
無言のセナに、大和はさらに続けた。
そして大和が前方のとある一点に視線を向けた。
セナもつられてそちらを振り返ると、少し離れたところにヒル魔が立っていた。
キッドと何か話し込んでいるヒル魔はこちらに背を向けている。
逆立てた金髪がホテルの照明に照らされて、輝いていた。
彼はもうクリスマスボウルには出られない。泥門にいる限りはね。
大和はそう言ってセナに視線を戻した。
でも2人で帝黒に来れば、また彼と同じ夢が見られるよ。
セナはきっぱりと断わるつもりだった言葉を飲み込んだ。
終わってしまったクリスマスボウル。
この先、ヒル魔と同じサイドで戦う機会はあるだろう。
でも一緒に目指すクリスマスボウルはない。
その事実がセナの言葉を途切れさせたのだった。
だけどやっぱり違う。クリスマスボウルを目指す場所は1つしかない。
そう思ったセナは大和の背後の柱の向こう。
一瞬キラリと光る金色のヒカリを見つけて、微笑した。
大和くんに誘われるなんて、ものすごく嬉しい。
でもやっぱり僕は泥門で頑張るよ。
セナは丁寧に言葉を選びながら話し出した。
大和は黙ってセナの言葉を聞いている。
帝黒に不満があるわけじゃない。泥門よりレベルは高いだろうし。
行けばきっと実力も上がるし、楽しいとは思うけど。
ヒル魔さんとまたクリスマスボウルを目指せるのも、嬉しいと思うけど。
でも僕はやっぱり泥門のメンバーが大好きなんだ。
僕の初めての居場所で、皆大事な仲間だから。
セナは大和に笑いかけた。
それは控えめだが、確かな自信に裏打ちされた笑顔だった。
そうか、残念だね。でも何となくセナくんはそういうんじゃないかと思ってたよ。
大して残念そうでもない顔で大和もまた笑う。
その時、キッドと何か話していたヒル魔が「糞チビ、ちょっと来い!」と叫んだ。
恋人ではなく完全にアメフトモードだ。何か試合か作戦の話だろう。
ごめんね、また後で。とセナは苦笑しながら席を立った。
よかったね。
セナがヒル魔の元へ走っていく後姿を見ながら、大和が背後の柱に声をかける。
大和の後ろにチラリと見えた金色の人影。
彼は柱の向こう側で勧誘話が始まって、動くに動けなくなってしまっていた。
気づいてたか。悪趣味だな。
柱の後ろから十文字が姿を現した。
見えてたんだよ、金色のヒカリが。
大和が指差したのは、ロビーの中央に置かれたガラス製の花瓶だった。
セナの背中越しに十文字の金髪がそこに映りこんでいたのだ。
多分セナくんも気づいてたと思うよ。まぁあの答えはそれとは関係ないだろうけど。
大和の得意げなセリフに十文字が忌々しげに舌打ちをした。
一方セナは。ヒル魔の方へ小走りに向かいながら思う。
ヒル魔ともう一度クリスマスボウルの夢を追う。
それは素敵な誘惑だった。
でももう1人の金色の髪を持つチームメイトも、セナにとっては大切な存在だ。
だから泥門デビルバッツで。もう1回クリスマスボウルに行く。
でも。花梨さんとは1回プレーしてみたかった。ちょっと惜しかったかな。
そんなことを考え、足を止めたセナに。
さっさと来い!とまるでセナの心を読んだようなヒル魔の怒声が飛んだ。
【終】
セナくん、帝黒アレキサンダースに来る気はない?
何を言われたかわからなかったセナは大和の言葉にキョトンとした表情になった。
世界大会の日本代表の一員であるセナは現在渡米中だった。
滞在中のホテルのロビー。
セナは大和と向かい合わせにソファに座り、寛いでいた。
その時に唐突に切り出したのだった。
帝黒はもう闇雲に選手を集めたりはしないと思っていたのに。
セナのそんな気持ちが顔に出たのだろう。
いや、これは帝黒からではなくて個人的なお誘いだよ。
今度はセナくんとチームメイトとしてクリスマスボウルに出たいと思ったんだ。
大和は相変わらずの押しの強さでにこやかに笑う。
光栄なことだ。
長い間、本物のアイシールド21としてその影を追っていた大和猛。
その本人に誘われるなんて。
でもそれは、今まで一緒に戦っていたチームメイトを裏切る行為なのだ。
泥門は3年の夏で部活は終わりなんだよね。
無言のセナに、大和はさらに続けた。
そして大和が前方のとある一点に視線を向けた。
セナもつられてそちらを振り返ると、少し離れたところにヒル魔が立っていた。
キッドと何か話し込んでいるヒル魔はこちらに背を向けている。
逆立てた金髪がホテルの照明に照らされて、輝いていた。
彼はもうクリスマスボウルには出られない。泥門にいる限りはね。
大和はそう言ってセナに視線を戻した。
でも2人で帝黒に来れば、また彼と同じ夢が見られるよ。
セナはきっぱりと断わるつもりだった言葉を飲み込んだ。
終わってしまったクリスマスボウル。
この先、ヒル魔と同じサイドで戦う機会はあるだろう。
でも一緒に目指すクリスマスボウルはない。
その事実がセナの言葉を途切れさせたのだった。
だけどやっぱり違う。クリスマスボウルを目指す場所は1つしかない。
そう思ったセナは大和の背後の柱の向こう。
一瞬キラリと光る金色のヒカリを見つけて、微笑した。
大和くんに誘われるなんて、ものすごく嬉しい。
でもやっぱり僕は泥門で頑張るよ。
セナは丁寧に言葉を選びながら話し出した。
大和は黙ってセナの言葉を聞いている。
帝黒に不満があるわけじゃない。泥門よりレベルは高いだろうし。
行けばきっと実力も上がるし、楽しいとは思うけど。
ヒル魔さんとまたクリスマスボウルを目指せるのも、嬉しいと思うけど。
でも僕はやっぱり泥門のメンバーが大好きなんだ。
僕の初めての居場所で、皆大事な仲間だから。
セナは大和に笑いかけた。
それは控えめだが、確かな自信に裏打ちされた笑顔だった。
そうか、残念だね。でも何となくセナくんはそういうんじゃないかと思ってたよ。
大して残念そうでもない顔で大和もまた笑う。
その時、キッドと何か話していたヒル魔が「糞チビ、ちょっと来い!」と叫んだ。
恋人ではなく完全にアメフトモードだ。何か試合か作戦の話だろう。
ごめんね、また後で。とセナは苦笑しながら席を立った。
よかったね。
セナがヒル魔の元へ走っていく後姿を見ながら、大和が背後の柱に声をかける。
大和の後ろにチラリと見えた金色の人影。
彼は柱の向こう側で勧誘話が始まって、動くに動けなくなってしまっていた。
気づいてたか。悪趣味だな。
柱の後ろから十文字が姿を現した。
見えてたんだよ、金色のヒカリが。
大和が指差したのは、ロビーの中央に置かれたガラス製の花瓶だった。
セナの背中越しに十文字の金髪がそこに映りこんでいたのだ。
多分セナくんも気づいてたと思うよ。まぁあの答えはそれとは関係ないだろうけど。
大和の得意げなセリフに十文字が忌々しげに舌打ちをした。
一方セナは。ヒル魔の方へ小走りに向かいながら思う。
ヒル魔ともう一度クリスマスボウルの夢を追う。
それは素敵な誘惑だった。
でももう1人の金色の髪を持つチームメイトも、セナにとっては大切な存在だ。
だから泥門デビルバッツで。もう1回クリスマスボウルに行く。
でも。花梨さんとは1回プレーしてみたかった。ちょっと惜しかったかな。
そんなことを考え、足を止めたセナに。
さっさと来い!とまるでセナの心を読んだようなヒル魔の怒声が飛んだ。
【終】