ヒルセナ10題
【敗退を知る】
1試合平均のパスの回数とランの回数を比較するの。
どちらが主体のチームかわかる。それで獲得ヤード数が。。。
まもりは全員の顔を見回して、言葉を切った。
かろうじて話について来られているのは十文字だけだ。
それ以外のメンバーは。
キョトンとしていた顔のモン太。
最初から理解する意思がなさそうな黒木と戸叶。
普段同様、感情が読めない瀧と小結。
そしてセナは何処か悔しげな表情で深くため息をついていた。
クリスマスボウルが終わった泥門デビルバッツ。
なのに全国制覇を成し遂げたチームにはおよそ考えられない事態に見舞われていた。
ヒル魔たち2年生は、新チームにおいてはサポートに回ると宣言した。
泥門の部活は来年の夏まで。つまり春大会の出場は可能なのだが。
やはり目標はクリスマスボウルだから、今からそのためのチーム作りをした方がいい。
その心遣いに感謝しながら、セナたちは彼らの抜ける穴の大きさを改めて痛感する。
部員は新入生を待たずに、募集しなくては。
1年生だけでは助っ人部員の重佐武まで含めても試合が出来る人数ではないのだ。
ラインマンたちは栗田の穴を埋めるために、筋トレなどのパワー系のトレーニングを増やした。
3兄弟の中でも「パワー&ハード」と形容詞がつけられた戸叶がキックの練習を買って出た。
モン太は雪光から彼独自のオプションルート走法の手ほどきを受けていた。
セナはパスを投げる練習を増やし、ヒル魔やキッドらのビデオを見たりしてQBの練習を始めた。
すべては抜けた穴を新メンバーから補強できなかった場合を考慮してのことだ。
しかし今のメンバーでは絶対に補強できないのが主務・姉崎まもりのポジションだ。
状況を分析・整理して作戦に貢献し、時には試合中にハンドサインで指示を出す。
セナたちの依頼に、まもりは快くデータ分析の手ほどきをしてくれた。
でも。まるで苦手な科目の授業のようだ、とセナは途方にくれていた。
途中からだんだんとわからなくなり、最後には理解不能になるのだった。
じゃあ今日はここまでにしましょう。とまもりが言ったときにはホッとした。
最初は主務になりたかったんだよなぁ。
誰もいなくなった部室で、セナは今日何度目になるかわからないため息をついた。
そして主務として活躍したまもりの様子を思い浮かべる。
試合のビデオなどを見ながら、真剣な表情で書類に数字などを記入していく姿。
時にはヒル魔と何か短い言葉を交わして、また同じ作業を繰り返す。
また試合中に細かいハンドサインで合図を送る姿も。
皆のために懸命に頑張るまもりの姿は美しいと思う。
別に今さらRBのポジションに不満があるわけではない。
でもフィールドでのヒル魔を誰よりも理解し、支えることができるまもりが羨ましく、妬ましい。
主務では絶対にまもりには勝てない。
でも明らかな負けでも、やらなくてはいけない。
行き当たりばったりでは勝ち進めない。データ分析は必要不可欠な作業なのだ。
セナは表情を引き締めて、まもりがまとめた過去の試合のデータのファイルを手に取った。
まもりはセナを部室に残して、学校を出た。
今では当たり前のこと。だが以前だったら考えられない。セナを置いて帰るなど。
まもりは1人でゆっくりと歩きながら、過保護で盲目になっていた過去の自分を振り返る。
セナは主務業でまもりには勝てないと思っている。
だがセナなりのやり方でなんとかまもりの穴を埋めようとしている。
今なら冷静にセナが見られる。そして理解して力にもなれる。
でも本当に負けたのは、私の方だよ。セナ。
まもりは寂しげに少し笑う。
セナはまもりとは違うやり方で、主務の仕事をどうにかこなしていくだろう。
時間はかかるだろうし、今はまもりには及ばなくても。
セナが主務をこなすことは不可能ではない。
だが逆に。まもりがセナの代わりになることは絶対に不可能だ。
まもりがいくら頑張っても光速のRBにはなれない。
ヒル魔からボールを手渡しされることはないし、彼のアイシールドにはなれない。
セナとヒル魔との絆にはまもりが入り込む余地などまったくないのだ。
それでもセナは大事な弟とも言える存在なのだから。
フィールドで走るセナも、ヒル魔との強い絆で結ばれているセナも、ずっと見守る。
そして出来る限りのサポートをしよう。
まもりは決意を新たにしながら、帰途につく。
校門を出て、歩いていくまもりの姿をヒル魔は目で追っていた。
そしてそんなまもりに背をむけ、ゆっくりと部室に向かう。
セナもまもりも気がついているだろうか。
まもりしか知らないアメフト部に入る前のセナ。
あの黄金の足と引き換えに、セナはたくさん傷ついたはずだ。
それを見続けて、傍から見れば滑稽なほど過保護にセナを庇い続けたまもり。
その年月にヒル魔がどれほど嫉妬し、敗北感を味わっているか。
そして新チームの為にと言いながら、セナが離れていくような焦燥感。
いつまでも自分だけのアイシールド21でいて欲しい。
ヒル魔以外の人間からボールを受け取って走る姿など見たくない。
そんな凶暴な独占欲を、セナもまもりも理解していないだろう。
あ、ヒル魔さん。
部室のドアを開けると、案の上セナが1人残って、データ分析をしていた。
僕どうしてもこういう仕事はヒル魔さんやまもり姉ちゃんに勝てません。
悔しげに呟くセナの横顔も可愛いと思えてしまうのは惚れた弱みだ。
ちょっと教えてもらっていいですか?とセナがいつもの控えめな笑みを見せた。
テメーのその笑顔に俺も姉崎も勝てないのだと、ヒル魔は内心苦笑する。
どこがわかんねぇんだ?
ヒル魔は心の内を巧妙に押し隠して、いつもの不敵な態度で応じた。
【終】
1試合平均のパスの回数とランの回数を比較するの。
どちらが主体のチームかわかる。それで獲得ヤード数が。。。
まもりは全員の顔を見回して、言葉を切った。
かろうじて話について来られているのは十文字だけだ。
それ以外のメンバーは。
キョトンとしていた顔のモン太。
最初から理解する意思がなさそうな黒木と戸叶。
普段同様、感情が読めない瀧と小結。
そしてセナは何処か悔しげな表情で深くため息をついていた。
クリスマスボウルが終わった泥門デビルバッツ。
なのに全国制覇を成し遂げたチームにはおよそ考えられない事態に見舞われていた。
ヒル魔たち2年生は、新チームにおいてはサポートに回ると宣言した。
泥門の部活は来年の夏まで。つまり春大会の出場は可能なのだが。
やはり目標はクリスマスボウルだから、今からそのためのチーム作りをした方がいい。
その心遣いに感謝しながら、セナたちは彼らの抜ける穴の大きさを改めて痛感する。
部員は新入生を待たずに、募集しなくては。
1年生だけでは助っ人部員の重佐武まで含めても試合が出来る人数ではないのだ。
ラインマンたちは栗田の穴を埋めるために、筋トレなどのパワー系のトレーニングを増やした。
3兄弟の中でも「パワー&ハード」と形容詞がつけられた戸叶がキックの練習を買って出た。
モン太は雪光から彼独自のオプションルート走法の手ほどきを受けていた。
セナはパスを投げる練習を増やし、ヒル魔やキッドらのビデオを見たりしてQBの練習を始めた。
すべては抜けた穴を新メンバーから補強できなかった場合を考慮してのことだ。
しかし今のメンバーでは絶対に補強できないのが主務・姉崎まもりのポジションだ。
状況を分析・整理して作戦に貢献し、時には試合中にハンドサインで指示を出す。
セナたちの依頼に、まもりは快くデータ分析の手ほどきをしてくれた。
でも。まるで苦手な科目の授業のようだ、とセナは途方にくれていた。
途中からだんだんとわからなくなり、最後には理解不能になるのだった。
じゃあ今日はここまでにしましょう。とまもりが言ったときにはホッとした。
最初は主務になりたかったんだよなぁ。
誰もいなくなった部室で、セナは今日何度目になるかわからないため息をついた。
そして主務として活躍したまもりの様子を思い浮かべる。
試合のビデオなどを見ながら、真剣な表情で書類に数字などを記入していく姿。
時にはヒル魔と何か短い言葉を交わして、また同じ作業を繰り返す。
また試合中に細かいハンドサインで合図を送る姿も。
皆のために懸命に頑張るまもりの姿は美しいと思う。
別に今さらRBのポジションに不満があるわけではない。
でもフィールドでのヒル魔を誰よりも理解し、支えることができるまもりが羨ましく、妬ましい。
主務では絶対にまもりには勝てない。
でも明らかな負けでも、やらなくてはいけない。
行き当たりばったりでは勝ち進めない。データ分析は必要不可欠な作業なのだ。
セナは表情を引き締めて、まもりがまとめた過去の試合のデータのファイルを手に取った。
まもりはセナを部室に残して、学校を出た。
今では当たり前のこと。だが以前だったら考えられない。セナを置いて帰るなど。
まもりは1人でゆっくりと歩きながら、過保護で盲目になっていた過去の自分を振り返る。
セナは主務業でまもりには勝てないと思っている。
だがセナなりのやり方でなんとかまもりの穴を埋めようとしている。
今なら冷静にセナが見られる。そして理解して力にもなれる。
でも本当に負けたのは、私の方だよ。セナ。
まもりは寂しげに少し笑う。
セナはまもりとは違うやり方で、主務の仕事をどうにかこなしていくだろう。
時間はかかるだろうし、今はまもりには及ばなくても。
セナが主務をこなすことは不可能ではない。
だが逆に。まもりがセナの代わりになることは絶対に不可能だ。
まもりがいくら頑張っても光速のRBにはなれない。
ヒル魔からボールを手渡しされることはないし、彼のアイシールドにはなれない。
セナとヒル魔との絆にはまもりが入り込む余地などまったくないのだ。
それでもセナは大事な弟とも言える存在なのだから。
フィールドで走るセナも、ヒル魔との強い絆で結ばれているセナも、ずっと見守る。
そして出来る限りのサポートをしよう。
まもりは決意を新たにしながら、帰途につく。
校門を出て、歩いていくまもりの姿をヒル魔は目で追っていた。
そしてそんなまもりに背をむけ、ゆっくりと部室に向かう。
セナもまもりも気がついているだろうか。
まもりしか知らないアメフト部に入る前のセナ。
あの黄金の足と引き換えに、セナはたくさん傷ついたはずだ。
それを見続けて、傍から見れば滑稽なほど過保護にセナを庇い続けたまもり。
その年月にヒル魔がどれほど嫉妬し、敗北感を味わっているか。
そして新チームの為にと言いながら、セナが離れていくような焦燥感。
いつまでも自分だけのアイシールド21でいて欲しい。
ヒル魔以外の人間からボールを受け取って走る姿など見たくない。
そんな凶暴な独占欲を、セナもまもりも理解していないだろう。
あ、ヒル魔さん。
部室のドアを開けると、案の上セナが1人残って、データ分析をしていた。
僕どうしてもこういう仕事はヒル魔さんやまもり姉ちゃんに勝てません。
悔しげに呟くセナの横顔も可愛いと思えてしまうのは惚れた弱みだ。
ちょっと教えてもらっていいですか?とセナがいつもの控えめな笑みを見せた。
テメーのその笑顔に俺も姉崎も勝てないのだと、ヒル魔は内心苦笑する。
どこがわかんねぇんだ?
ヒル魔は心の内を巧妙に押し隠して、いつもの不敵な態度で応じた。
【終】