ヒルセナ10題
【追いかけろ!】
「じゃあ先に練習行くぞ。」
十文字一輝は教室の外から黒木や戸叶に声をかけた。
先日学校で行われた実力テスト。
点数の足りない生徒は補習を受けた上で、追試となる。
今日はその補習の日だった。
1つの教室に集められた対象の生徒の中には、瀧やモン太、小結も入っている。
それに助っ人の山岡や佐竹、重佐武まで。
アメフト部員の比率、高ぇな。十文字は苦笑した。
十文字はアメフト部のメンバーの中では成績はかなりいい方だ。
雪光、ヒル魔、まもりらが飛びぬけて成績がいいので、目立たないのがありがたい。
やはり不良が優等生というのは、何となく恥ずかしかったりする。
そのヒル魔たちはもう最後のクリスマスボウルも終わり、練習は自由参加状態だ。
もしかして今日の練習は1人だけだろうか、と十文字は少し憂鬱になった。
部室のドアを開けると、すでに誰かが来ている気配。
セナがロッカールームで着替えをしていた。
やれやれ1人で練習は免れたか。
十文字は安堵のため息をつきながら、部室に入る。
「セナは追試、大丈夫だったのか?」
十文字は横で着替えながら、聞いた。
「うん、何とかね。ラッキーだった。」
セナはいつもの控えめな笑いを見せた。
「最近、セナ勉強してねぇか?」
十文字はここ最近思っていることを聞いてみた。
クリスマスボウルが終わってから、セナは学校の勉強に力を入れている。
ちょっとした時間にも教科書やノートを開いたり、雪光に何か聞いたりしていた。
どうやらヒル魔やまもりに見てもらったりもしているようだ。
「うん、ちょっとね。クリスマスボウルも終わったし、頑張ろうと思って。」
十文字は答えるセナの表情を見て「あれ?」と思う。
その瞳はフィールドで勝利を追いかけているときの瞳と同じように見えたからだ。
「一緒にランニングしない?」
セナに誘われて十文字は同意した。
前衛と後衛。ポジション練習だと分かれることになる。
2人だけなのだから一緒に出来る内容にしようと何となく意見がまとまった。
「本当はなんで勉強なんて始めたんだ?」
十文字とセナは黒美嵯川沿いのコースを並んで走っていた。
走りながら、十文字はまたセナに聞いてみた。
「追いかけたいんだ。」
セナは少し照れたように笑った。
「追いかける?誰を?」
「ヒル魔さん」
十文字は思わず横を走るセナの顔を見た。
「この先どうなるかわからないけど、成績のせいでついて行けなくなるのは悲しいから」
セナはまっすぐ前を見据えながら答えた。
ああ、そういうことか。セナの横顔を見ながら十文字は納得した。
多分ヒル魔とセナの間には同じ道を進んでいこうという約束がなされたのだ。
ヒル魔という人間は変に筋を通す部分がある。
クリスマスボウル前の時間が惜しい時期ですら、補習や追試にかかった部員を助けることはしなかった。
何よりも。元々神龍寺に進むはずだったのに、栗田のためにランクを落としてまで泥門に来た。
あの黒い手帳の力で成績を改ざんすることなど容易いだろうに、それをしようとしないのだ。
だからセナと同じ道を進もうとする場合も同様だろう。
ヒル魔はきっとセナがついて来られる道を選んで進むはずだ。
今は大学も、推薦入学だろうと簡単なテストを受けさせる学校も少なくない。
大学にしろプロにしろ、自分の学力のせいでヒル魔に枷を嵌めさせないために。
セナは必死になって、勉強に力を入れ始めたのだ。
「俺も、追いかけたい」
十文字は小さな声で呟いた。
ヒル魔とセナ。この間に割り込むことが難しいのはわかっている。
この小さな身体で光速のエース、アイシールド21であるセナ。
この短期間に部員の数も揃わない無名校を全国優勝に導いたヒル魔。
割り込むどころか、この2人についていくことすら至難の業だろう。
それでもまだ諦めたくないし、まだ見ていたいのだ。
セナの笑顔を。そしてセナとヒル魔が登っていく高みの先を。
「え?何か言った?」
セナが聞き返してきた。
小首を傾げて真っ直ぐにこちらを見上げるセナを可愛い、と思う。
「なんでもねぇよ。少しペース落とそうぜ」
セナが最近何となく眠そうにしているのにも気付いている。
睡眠時間を削っているのだろう。
「勉強もいいけど、あまり無理するなよ。」
「ありがとう、十文字くん」
微笑しながら答えるセナの顔に夕陽が射している。
今はまだ横に並んで走れる。気遣ってやれる。
十文字はセナの綺麗な横顔を見ながら、走り続けた。
【終】
「じゃあ先に練習行くぞ。」
十文字一輝は教室の外から黒木や戸叶に声をかけた。
先日学校で行われた実力テスト。
点数の足りない生徒は補習を受けた上で、追試となる。
今日はその補習の日だった。
1つの教室に集められた対象の生徒の中には、瀧やモン太、小結も入っている。
それに助っ人の山岡や佐竹、重佐武まで。
アメフト部員の比率、高ぇな。十文字は苦笑した。
十文字はアメフト部のメンバーの中では成績はかなりいい方だ。
雪光、ヒル魔、まもりらが飛びぬけて成績がいいので、目立たないのがありがたい。
やはり不良が優等生というのは、何となく恥ずかしかったりする。
そのヒル魔たちはもう最後のクリスマスボウルも終わり、練習は自由参加状態だ。
もしかして今日の練習は1人だけだろうか、と十文字は少し憂鬱になった。
部室のドアを開けると、すでに誰かが来ている気配。
セナがロッカールームで着替えをしていた。
やれやれ1人で練習は免れたか。
十文字は安堵のため息をつきながら、部室に入る。
「セナは追試、大丈夫だったのか?」
十文字は横で着替えながら、聞いた。
「うん、何とかね。ラッキーだった。」
セナはいつもの控えめな笑いを見せた。
「最近、セナ勉強してねぇか?」
十文字はここ最近思っていることを聞いてみた。
クリスマスボウルが終わってから、セナは学校の勉強に力を入れている。
ちょっとした時間にも教科書やノートを開いたり、雪光に何か聞いたりしていた。
どうやらヒル魔やまもりに見てもらったりもしているようだ。
「うん、ちょっとね。クリスマスボウルも終わったし、頑張ろうと思って。」
十文字は答えるセナの表情を見て「あれ?」と思う。
その瞳はフィールドで勝利を追いかけているときの瞳と同じように見えたからだ。
「一緒にランニングしない?」
セナに誘われて十文字は同意した。
前衛と後衛。ポジション練習だと分かれることになる。
2人だけなのだから一緒に出来る内容にしようと何となく意見がまとまった。
「本当はなんで勉強なんて始めたんだ?」
十文字とセナは黒美嵯川沿いのコースを並んで走っていた。
走りながら、十文字はまたセナに聞いてみた。
「追いかけたいんだ。」
セナは少し照れたように笑った。
「追いかける?誰を?」
「ヒル魔さん」
十文字は思わず横を走るセナの顔を見た。
「この先どうなるかわからないけど、成績のせいでついて行けなくなるのは悲しいから」
セナはまっすぐ前を見据えながら答えた。
ああ、そういうことか。セナの横顔を見ながら十文字は納得した。
多分ヒル魔とセナの間には同じ道を進んでいこうという約束がなされたのだ。
ヒル魔という人間は変に筋を通す部分がある。
クリスマスボウル前の時間が惜しい時期ですら、補習や追試にかかった部員を助けることはしなかった。
何よりも。元々神龍寺に進むはずだったのに、栗田のためにランクを落としてまで泥門に来た。
あの黒い手帳の力で成績を改ざんすることなど容易いだろうに、それをしようとしないのだ。
だからセナと同じ道を進もうとする場合も同様だろう。
ヒル魔はきっとセナがついて来られる道を選んで進むはずだ。
今は大学も、推薦入学だろうと簡単なテストを受けさせる学校も少なくない。
大学にしろプロにしろ、自分の学力のせいでヒル魔に枷を嵌めさせないために。
セナは必死になって、勉強に力を入れ始めたのだ。
「俺も、追いかけたい」
十文字は小さな声で呟いた。
ヒル魔とセナ。この間に割り込むことが難しいのはわかっている。
この小さな身体で光速のエース、アイシールド21であるセナ。
この短期間に部員の数も揃わない無名校を全国優勝に導いたヒル魔。
割り込むどころか、この2人についていくことすら至難の業だろう。
それでもまだ諦めたくないし、まだ見ていたいのだ。
セナの笑顔を。そしてセナとヒル魔が登っていく高みの先を。
「え?何か言った?」
セナが聞き返してきた。
小首を傾げて真っ直ぐにこちらを見上げるセナを可愛い、と思う。
「なんでもねぇよ。少しペース落とそうぜ」
セナが最近何となく眠そうにしているのにも気付いている。
睡眠時間を削っているのだろう。
「勉強もいいけど、あまり無理するなよ。」
「ありがとう、十文字くん」
微笑しながら答えるセナの顔に夕陽が射している。
今はまだ横に並んで走れる。気遣ってやれる。
十文字はセナの綺麗な横顔を見ながら、走り続けた。
【終】