ヒルセナ10題
【煌めくピアス】
クリスマスボウルも終り、年が明けた。
セナ、モン太、まもりと鈴音は初詣を済ませ、そのままセナの家へやって来た。
「今日は誰もいないから、遠慮しないで」
セナが先頭に立って自分の部屋へと皆を誘う。
その後ろから鈴音、モン太、まもりの順で階段を上っていった。
すると部屋のドアを開けようとしたセナがふと何かを思い出したような表情になった。
「ごめん、ちょっと待ってて」
セナが先に部屋に入った。何だかその様子が気になって鈴音は開いたままのドアから部屋の中を覗いた。
セナは机の上にあった何かを手に取り、それを引き出しに入れた。
鈴音は何も気がつかない振りをして、視線を逸らせた。
何か飲み物とお菓子でも持ってくる、と言うセナ。
手伝うというまもりと、まもりさんが行くならと身を乗り出すモン太。
結局4人のうち3人が部屋から出て行った。
階下でセナたちの笑い声が聞こえる。
セナの部屋に1人残された鈴音は、先程のセナの行動を思い出す。
何か見られたくないものが出しっ放しになっていたらしい。
セナはそれを思い出して、慌てて机の中に隠したのだ。気になる。
しばらく考えた末、鈴音は机の引き出しに手をかけた。
ちょっとだけ。ちょっと見るだけ。
どうせきっと大したものじゃない。
自分にそう言い聞かせると鈴音は引き出しを引いた。
そこに現れたのは金色の輪。リングの形をしたピアスだった。
鈴音がピアスから連想する人物は1人だけだ。
関東大会から彼の二連のピアスは変わった。黒いピアスに。
東京都大会まではこんな金色のピアスをしていた。
これは彼のピアスなんだろうか?
なぜセナが持っているのだろうか?
階段を上がる足音が聞こえてくる。
鈴音は慌てて引き出しを元に戻した。
「鈴音、どうしたの?」
セナは何となく様子がおかしい鈴音に声をかけた。
鈴音は狼狽し、ふと机の上においてあったコーラの缶を手に取った。
「コーラの缶、捨てなくていいのかな、と思って」
その場しのぎの適当な嘘だったが、セナはそれを聞いて納得した顔になった。
そして笑う。
「これは思い出の缶なんだ。」
え、何?とまもりとモン太も聞いてくる。
それはまだアメフト部がヒル魔と栗田とセナの3人だった頃。
春大会の直前、助っ人捜しに走り回ったセナにヒル魔がおごってくれたコーラの缶だった。
ヒル魔にとっては何のこともなく、多分記憶にすらないだろう。
だがセナにとっては初めてまもり以外の先輩におごってもらったもの。
買い物などにパシらされてばかりにセナにとって、それは鮮烈な記憶だった。
へぇぇと感心したようにその缶を手に取るモン太。
ちゃんと洗ってある?と現実的な心配をするまもり。
セナは懐かしいような表情でその缶を見つめている。
鈴音は無邪気に缶に視線を送るフリで、密かにため息をついた。
セナとヒル魔の絆の深さを改めて見せられた気がする。
少なくてもセナにとって、煌めくピアスもコーラの空き缶も。
ヒル魔にまつわるものはすべて大事な宝物なのだ。
脳裏に浮かぶ金髪の悪魔のフザけたような笑い顔。
もうダメなのだろうか。セナはもう彼のものなのだろうか。
「どうしたの?鈴音」
ふと気がつくと、目の前には訝しげな表情のセナ。
鈴音の目の前には湯気を立てている紅茶のカップが差し出されている。
「ありがとう。何でもないよ。今年も一緒に頑張ろうね。」
鈴音がいつもの元気でカップを受け取ると、セナが安堵した表情になった。
まだまだ負けたくない。世界大会の前のつかの間の静かな時間。
鈴音もまた新年に新たな挑戦を誓う。
【終】
クリスマスボウルも終り、年が明けた。
セナ、モン太、まもりと鈴音は初詣を済ませ、そのままセナの家へやって来た。
「今日は誰もいないから、遠慮しないで」
セナが先頭に立って自分の部屋へと皆を誘う。
その後ろから鈴音、モン太、まもりの順で階段を上っていった。
すると部屋のドアを開けようとしたセナがふと何かを思い出したような表情になった。
「ごめん、ちょっと待ってて」
セナが先に部屋に入った。何だかその様子が気になって鈴音は開いたままのドアから部屋の中を覗いた。
セナは机の上にあった何かを手に取り、それを引き出しに入れた。
鈴音は何も気がつかない振りをして、視線を逸らせた。
何か飲み物とお菓子でも持ってくる、と言うセナ。
手伝うというまもりと、まもりさんが行くならと身を乗り出すモン太。
結局4人のうち3人が部屋から出て行った。
階下でセナたちの笑い声が聞こえる。
セナの部屋に1人残された鈴音は、先程のセナの行動を思い出す。
何か見られたくないものが出しっ放しになっていたらしい。
セナはそれを思い出して、慌てて机の中に隠したのだ。気になる。
しばらく考えた末、鈴音は机の引き出しに手をかけた。
ちょっとだけ。ちょっと見るだけ。
どうせきっと大したものじゃない。
自分にそう言い聞かせると鈴音は引き出しを引いた。
そこに現れたのは金色の輪。リングの形をしたピアスだった。
鈴音がピアスから連想する人物は1人だけだ。
関東大会から彼の二連のピアスは変わった。黒いピアスに。
東京都大会まではこんな金色のピアスをしていた。
これは彼のピアスなんだろうか?
なぜセナが持っているのだろうか?
階段を上がる足音が聞こえてくる。
鈴音は慌てて引き出しを元に戻した。
「鈴音、どうしたの?」
セナは何となく様子がおかしい鈴音に声をかけた。
鈴音は狼狽し、ふと机の上においてあったコーラの缶を手に取った。
「コーラの缶、捨てなくていいのかな、と思って」
その場しのぎの適当な嘘だったが、セナはそれを聞いて納得した顔になった。
そして笑う。
「これは思い出の缶なんだ。」
え、何?とまもりとモン太も聞いてくる。
それはまだアメフト部がヒル魔と栗田とセナの3人だった頃。
春大会の直前、助っ人捜しに走り回ったセナにヒル魔がおごってくれたコーラの缶だった。
ヒル魔にとっては何のこともなく、多分記憶にすらないだろう。
だがセナにとっては初めてまもり以外の先輩におごってもらったもの。
買い物などにパシらされてばかりにセナにとって、それは鮮烈な記憶だった。
へぇぇと感心したようにその缶を手に取るモン太。
ちゃんと洗ってある?と現実的な心配をするまもり。
セナは懐かしいような表情でその缶を見つめている。
鈴音は無邪気に缶に視線を送るフリで、密かにため息をついた。
セナとヒル魔の絆の深さを改めて見せられた気がする。
少なくてもセナにとって、煌めくピアスもコーラの空き缶も。
ヒル魔にまつわるものはすべて大事な宝物なのだ。
脳裏に浮かぶ金髪の悪魔のフザけたような笑い顔。
もうダメなのだろうか。セナはもう彼のものなのだろうか。
「どうしたの?鈴音」
ふと気がつくと、目の前には訝しげな表情のセナ。
鈴音の目の前には湯気を立てている紅茶のカップが差し出されている。
「ありがとう。何でもないよ。今年も一緒に頑張ろうね。」
鈴音がいつもの元気でカップを受け取ると、セナが安堵した表情になった。
まだまだ負けたくない。世界大会の前のつかの間の静かな時間。
鈴音もまた新年に新たな挑戦を誓う。
【終】