ヒルセナ10題

【情報収集】

ちょうど1ヶ月かぁ。。。
クリスマスボウルが終わったらもう少しのんびりできると思っていたのに。
帰宅したセナは、自分の部屋で疲れた身体をベットにゴロリと転がしながら、考える。
いきなり持ち上がった世界戦。メンバー集め、そして準備。
何だかんだと忙しい。それに迷うことも多い。
アメフトにおいては頼もしい先輩であり、最愛の恋人であるヒル魔にいろいろ相談したいところだ。

だがヒル魔はヒル魔で、世界戦に向けて何やら水面下でいろいろ暗躍しているようだ。
メールを送っても返信は遅い。電話もなかなか繋がらない。
たまに繋がっても「情報収拾中だ」と言われて、すぐ切られてしまう。

ヒル魔に告白されたのはセナの誕生日だった。
そして今日はちょうど一ヶ月後。奇しくも数字の並びはヒル魔とセナの背番号だ。
別に記念日、記念日と騒ぐつもりなど全然ないのだが。
もっと二人きりの恋人らしい時間を持ちたいと思うのはワガママだろうか。

セナはヒル魔の個人情報をほとんど知らない。
ヒル魔と何度か身体を重ねたが、そこはいつも同じマンションだった。
ここがヒル魔さんの家ですか?と聞いたら、仮住まいだけど、と言われた。
あのスポーツバックにぎっしり詰まっている携帯電話。
セナが知っているのは部活用のものだけで、その他の電話の番号も用途も知らない。
その他にも誕生日、血液型、家族構成。何もかも謎なのだ。

そんな恋人同士ってあるんだろうか。
セナは不安で、何となく落ち着かない気持ちになる。


不意に携帯がメールの着信を告げた。
物思いにふけっていたセナは慌てて携帯の画面を見る。
メールの送り主はたった今考えていたヒル魔その人だ。

件名:ちょうど1ヶ月
本文:今日は記念日だな

それだけ?ぶっきらぼうなメールを見て、セナは少し笑った。
あの人はいったいどんな顔して、このメールを送ったんだろう。
いつものように何事もないといった無表情?
セナがフィールドでいつも頼もしいと思うあの不敵な笑い?
それとも案外照れて、ニヤけていたりして。

ヒル魔の個人情報。気にならないといえば嘘になる。
だからこれからゆっくりと時間をかけて情報収集すればいい。
今だってこのメールで。
1ヶ月記念なんて、意外と乙女なヒル魔の一面を知ることができたのだ。

覚悟しておいてくださいね、ヒル魔さん。
セナは返信のボタンを押しながら、携帯の画面に笑いかけた。

【終】
3/10ページ