ヒルセナ10題

【存在理由】

ヒル魔は隣に横たわり、眠っているセナの頬にそっと触れた。
セナは一瞬、むずがるような仕草をしたが、起きることはなかった。
一糸纏わぬ身体にはたっぷりと情事の刻印。
初めてだから思い切り優しく甘やかしてやろうと思ったのに、意識がなくなるまで止まらなくなってしまった。
ヒル魔はらしくもなく後悔の念に駆られていた。

ヒル魔はセナが好きであり、セナもまたヒル魔を好きなのだとわかっていた。
でも。長い間の夢であり、仲間との約束でもあるクリスマスボウルまでは。
それがヒル魔なりのけじめだった。何も言わなくてもセナには伝わっていたと思う。
だから先輩後輩以上、恋人未満の状態がずっと続いていた。
そしてクリスマスボウルが終わり、ヒル魔はセナを抱いた。


男同士のセックスの受け側はかなりつらい。そんな話は聞いたことがあった。
現実に指1本動かせなくなるまでセナを抱きつくして、挙句に失神させてしまったヒル魔はその重さを痛感する。
セナにはまだ次のクリスマスボウルもあるのに。
度々こんなことをさせたら、セナを壊してしまうのではないか?

ヒル魔さん、後悔してますか?
その言葉にヒル魔がセナを見た。眠っていたと思っていたセナはうっすらと目を開けていた。
ヒル魔がもの想いに耽っている間に覚醒したらしい。未だ苦しげではあるが。

ヒル魔さん、すごくつらそうな顔してます。
セナは囁くような声でヒル魔に語りかけてくる。
痛々しい声。行為の最中、さんざん声を上げたせいですっかり喉が枯れてしまった。

テメーはどうなんだ?
ヒル魔は逆に聞き返した。そして自問する。
本来受け入れる機能を持たない身体で、ヒル魔を受け入れる理由は何だ?
セナにとってのヒル魔の存在理由とは何なのだろう?


僕は後悔してません。ヒル魔さんが好きですから。
セナがうっすらと笑った。大きな瞳がまっすぐな視線がヒル魔を射抜く。
そして未だに行為の余韻で軋む身体に顔を顰めながら、ヒル魔に向かって腕を伸ばした。

俺も後悔なんかしてねぇ。
ヒル魔は伸ばしてくる腕ごとセナを抱きしめながら答えた。
存在理由。確かにそんなものはいらない。強いていうならただ好きなだけ。

俺も好きだ。セナ。
道ならぬ同性への恋。この先悩むことも傷つくこともあるだろう。
それを全て飲み込んで、守ってやらなくてはならない。
それらの想いをすべてこめて、ヒル魔はセナの唇にキスを落とした。

よかった、と小さな声。ヒル魔の腕の中でセナが笑った。

【終】
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