アイシ×おお振り×セカコイ【お題:セフィロト(生命の樹)10題+α】
【ゲブラーの頂】
「それにしても連日で来るとはね。」
高野は、目の前にコーヒーを置いてくれた人物を睨んだ。
口に運んだコーヒーが美味であることが、また小憎らしい。
怪盗アイシールドは、2日連続で盗みを働いていた。
資産家の別荘で絵を盗んだアイシールドは、翌日都内の画廊に押し入っていた。
ただし盗みと言っていいのかどうか。
侵入した痕跡があり、絵の前にメッセージが残されているだけ。
2日目の犯行でも、絵はその場に残されていたのだ。
これにはデビルバッツも驚いた。
これまでの犯行は全て数日の感覚をおいて行われていた。
2日連続でアイシールドが現れたのは、初めてのことだ。
絵を盗まれそうな場所を選んで張り込んでいた彼らも、この日は何もしていなかった。
完全に裏をかかれたわけである。
カフェでは、素知らぬ顔で三姉妹が働いている。
高野はカウンターに陣取ると、コーヒーを飲んでいた。
ちょうどランチタイムのピークが過ぎて、店は空いている。
カウンターの中では瀬那と廉が、ランチタイムで使用した食器類を洗っている。
コーヒーだけの客を相手にするのは、ホール担当の律だった。
「また絵が盗まれたんですよね?変な名前の」
「ゲブラーの頂。一応芸術作品だ。」
律は白々しく高野のカップにコーヒーを注ぎ足した。
可愛い顔をして、まったくもって図太い。
高野は不機嫌に眉を寄せながら、コーヒーを口に運んだ。
「俺ら、前回アイシールドを見たけど、黒ずくめに目出し帽。正直言って見てくれはダサい。」
「へぇぇ、そうなんですか?」
「レオタードでも着とけ。そもそも予告状とか出せ。」
「それってもう完全にキャッツアイですよね。」
高野の挑発にも、律は涼しい顔だ。
笑顔で「もっと飲みます?」などと聞いてくるのだ。
こういう強気は、実は高野の好みだったりする。
律はそんなことを知る由もないだろうが、まったく性質が悪い。
*****
「レオタードでも着とけ。そもそも予告状とか出せ。」
高野の物言いに、律は思わず笑っていた。
怪盗アイシールドを名乗る時、律だっていろいろ考えた。
目的を果たすことが第一なのだが、カッコいい方がいい。
ディテールにだって、こだわりたい。
衣装だって、予告状だって、考えたのだ。
だがそんなことができるのは、漫画や小説の中だけだ。
現実にシュミレーションすると、そんなことは無理なのだと痛感する。
予告状を出せば、無駄に難易度が上がる。
派手な衣装だって、ただ目立つだけのことで、何のメリットもない。
DNA鑑定で、髪や皮膚片から個人が特定されてしまう時代なのだ。
現代の泥棒はひたすら痕跡を残さないようにするのが、その極意だというのが律の結論だ。
「本当は絵にメッセージカードを残すのも、嫌なんじゃないですか?」
律は他人事のように、そう言ってやった。
それもまた律の偽らざる気持ちだった。
絵は返すわけだから、うまくやれば誰にも気付かないようにもできる。
だがそれでは目的を果たせないのだ。
「そういうもんかね?」
高野は真面目な顔で、首を傾げている。
だがアイシールドの犯行スタイルに興味がないのは明白だ。
あるのはあの時、みすみす取り逃がしてしまった悔しさ。
それとも目の前の3人を何としても捕まえたいという執念だろうか。
「お前さんだけ、正体がわかんねーんだよな。」
高野が目を眇めながら、律をじっと見る。
そしてカップの残りのコーヒーを飲み干し、空のカップを掲げた。
律はまたそのカップにコーヒーを注ぎ足した。
その真意もわかる。
瀬那の正体はわかりやすいはずだし、廉の正体も見破られた。
だが律だけはまだ正体がバレていないのだ。
いやもしかしてもう気づいていて、カマをかけているのか。
どっちでもいい。
バレてしまうことは想定の範囲内なのだし、目的を果たせればいい。
「正体なんて、人聞きが悪い。」
律は苦笑しながら、高野の横顔を盗み見た。
端整な顔立ちのこの男が、デビルバッツの中では一番美しいと思っている。
瀬那や廉にさえ、決して言うつもりはないが。
*****
「何ともいえねぇな。」
蛭魔はカフェの4階の居室で、2通の書類を見ていた。
どちらも身上調査書。
1つは小早川瀬那、もう1つは三橋廉のものだ。
三姉妹が名乗っていた姓である小早川。
それで調べたところ、小早川瀬那という人物は実在していた。
顔写真を入手して、瀬那と同一人物であることが確認できた。
小早川瀬那の経歴は、本当に普通、というか地味だった。
商社に勤める父親と、専業主婦の母親。兄弟はない。
ごく普通に地元の小学校、中学、高校を出て、その後大学に進んだ。
本当にどこにでもある普通の青年の経歴だ。
調査に当たった蛭魔と桐嶋は、拍子抜けしたくらいだ。
唯一変わったことがあるとすれば、瀬那の両親の消息がわからないことだ。
瀬那が大学を卒業する直前、瀬那の両親は海外勤務で日本を離れていた。
そこで消息を絶ち、現在に至るまで行方不明だ。
瀬那は内定していた就職先を断り、今に至っている。
そして前回、避暑地で対峙したときに、阿部が廉の経歴を見抜いた。
見事なピッチングから、そこそこの選手だったと推理し、割り出した元高校野球選手。
これもまた写真を入手し、本人と確認できた。
三橋廉の方は、数奇な人生を送っていた。
廉もまた兄弟はなく、両親と3人暮らしだった。
高校時代は野球に没頭し、県内ではベスト8くらいまで進んでいる。
だが高校3年の大会直前、父親が逮捕されていた。
逮捕容疑は薬物の不法所持。
廉はその直後に野球部を辞めた。
おそらく辞めざるを得なかったのだろう。
父親は現代彫刻の作家だったらしい。
それまでは美術館や公共施設などに作品を飾られていたが、この事件の後全て撤去されている。
まさに転落といえる人生だ。
調べに当たった阿部と羽鳥はやるせない表情をしていた。
追体験した廉のこれまでの人生は、本当につらいものだったようだ。
*****
ではあの3人はどこで繋がるのだろう?
少なくても今のところ、瀬那と廉に関してはまるで接点が見えない。
年齢こそ近いが、住んでいた場所も学校も何もかも違う。
もしかして2人の父親の事件が、何か関係があるのか。
だが瀬那の両親の失踪は、廉の父親の逮捕の2年前だ。
鍵を握るのは律だ。
だが律だけはわかっていない。
瀬那や廉同様、律もおそらく本名だろう。
だけど名字がわからないと調べるのは難しい。
高野と横澤が担当しているが、こちらは遅々として進んでいなかった。
その時、蛭魔のスマートフォンが鳴った。
高野からの着信だ。
蛭魔は「なんだよ」と思わず悪態をつく。
高野は3階の「らーぜ」の事務所にいるはずだ。
用があるなら、上がってくればいいのに。
『お前に客だ。』
電話に出るなり、高野の不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「客?誰だ?」
『警察だとよ。1階に降りてきてくれ』
高野がそれだけ言うと、電話がブツリと切れた。
最初の絵が盗まれた後、蛭魔のところに1度警察は来ている。
父親の所在を聞かれたが、わからないと答えた。
まだ何か聞きたいのだろうか。
怪訝に思いながらも、蛭魔は1階に下りた。
応対しているのは高野だ。
その高野の目の前にいたのは、やたらと老け顔の男だった。
この男が刑事だろう。
「蛭魔妖一って、あんたか?」
蛭魔は黙って頷いた。
男はごく自然に話している様子だが、威圧感がある。
おそらくは凄腕の刑事だ。
*****
「警視庁の武蔵だ。アイシールド事件を担当している。」
提示された警察手帳には、武蔵厳と書かれている。
階級は警部補だ。
確か最初に来たのは、所轄署の刑事だった。
世間を騒がしていることと、何件も事件が起きたことで、警視庁の扱いとなったのだろう。
「警視庁まで、同行してもらいたい。」
「何の容疑で?」
「あんたが絵を盗んだ犯人だという匿名のタレコミがあった。」
「はぁぁ?」
思わず声を上げたのは、蛭魔ではなく高野だった。
蛭魔もこの展開は予想外だ。
まさか怪盗アイシールドが蛭魔だとは。
笑うに笑えない冗談だ。
「アイシールド事件で蛭魔幽也の絵の値段は高騰している。筋が通らない話じゃない。」
「親父の絵の値段なんて、知らねーよ。」
「嘘を言うな。絵の売買は息子のあんたがすべて取り仕切っているじゃないか。」
確かに蛭魔幽也の絵は、蛭魔の管理下にある。
画廊に委託している絵の代金は、蛭魔の口座に振り込まれることになっているのだ。
アイシールド事件で、蛭魔幽也の絵の値段は跳ね上がっている。
それにアイシールドに狙われたところで、絵は返ってくるのだから問題もない。
つまり現時点で、アイシールドの登場で一番得をしたのは蛭魔なのだ。
もし蛭魔の自作自演なら、絵を返却することも筋が通る。
武蔵刑事はそれらをすべて調べた上で、ここに来ているのだ。
やられた。
蛭魔と高野は、三姉妹を見た。
涼しい顔をしてカウンターの中に立っている瀬那と廉。
そしてホールに立っている律は、微かに口元を緩めた。
間違いない。
そのタレコミとやらは、この3人の仕業なのだ。
「じゃあ、行くか。」
蛭魔は何気ない口調で、武蔵刑事を促した。
正直言って忌々しいが、それを表に出すのはプライドが許さなかった。
【続く】
「それにしても連日で来るとはね。」
高野は、目の前にコーヒーを置いてくれた人物を睨んだ。
口に運んだコーヒーが美味であることが、また小憎らしい。
怪盗アイシールドは、2日連続で盗みを働いていた。
資産家の別荘で絵を盗んだアイシールドは、翌日都内の画廊に押し入っていた。
ただし盗みと言っていいのかどうか。
侵入した痕跡があり、絵の前にメッセージが残されているだけ。
2日目の犯行でも、絵はその場に残されていたのだ。
これにはデビルバッツも驚いた。
これまでの犯行は全て数日の感覚をおいて行われていた。
2日連続でアイシールドが現れたのは、初めてのことだ。
絵を盗まれそうな場所を選んで張り込んでいた彼らも、この日は何もしていなかった。
完全に裏をかかれたわけである。
カフェでは、素知らぬ顔で三姉妹が働いている。
高野はカウンターに陣取ると、コーヒーを飲んでいた。
ちょうどランチタイムのピークが過ぎて、店は空いている。
カウンターの中では瀬那と廉が、ランチタイムで使用した食器類を洗っている。
コーヒーだけの客を相手にするのは、ホール担当の律だった。
「また絵が盗まれたんですよね?変な名前の」
「ゲブラーの頂。一応芸術作品だ。」
律は白々しく高野のカップにコーヒーを注ぎ足した。
可愛い顔をして、まったくもって図太い。
高野は不機嫌に眉を寄せながら、コーヒーを口に運んだ。
「俺ら、前回アイシールドを見たけど、黒ずくめに目出し帽。正直言って見てくれはダサい。」
「へぇぇ、そうなんですか?」
「レオタードでも着とけ。そもそも予告状とか出せ。」
「それってもう完全にキャッツアイですよね。」
高野の挑発にも、律は涼しい顔だ。
笑顔で「もっと飲みます?」などと聞いてくるのだ。
こういう強気は、実は高野の好みだったりする。
律はそんなことを知る由もないだろうが、まったく性質が悪い。
*****
「レオタードでも着とけ。そもそも予告状とか出せ。」
高野の物言いに、律は思わず笑っていた。
怪盗アイシールドを名乗る時、律だっていろいろ考えた。
目的を果たすことが第一なのだが、カッコいい方がいい。
ディテールにだって、こだわりたい。
衣装だって、予告状だって、考えたのだ。
だがそんなことができるのは、漫画や小説の中だけだ。
現実にシュミレーションすると、そんなことは無理なのだと痛感する。
予告状を出せば、無駄に難易度が上がる。
派手な衣装だって、ただ目立つだけのことで、何のメリットもない。
DNA鑑定で、髪や皮膚片から個人が特定されてしまう時代なのだ。
現代の泥棒はひたすら痕跡を残さないようにするのが、その極意だというのが律の結論だ。
「本当は絵にメッセージカードを残すのも、嫌なんじゃないですか?」
律は他人事のように、そう言ってやった。
それもまた律の偽らざる気持ちだった。
絵は返すわけだから、うまくやれば誰にも気付かないようにもできる。
だがそれでは目的を果たせないのだ。
「そういうもんかね?」
高野は真面目な顔で、首を傾げている。
だがアイシールドの犯行スタイルに興味がないのは明白だ。
あるのはあの時、みすみす取り逃がしてしまった悔しさ。
それとも目の前の3人を何としても捕まえたいという執念だろうか。
「お前さんだけ、正体がわかんねーんだよな。」
高野が目を眇めながら、律をじっと見る。
そしてカップの残りのコーヒーを飲み干し、空のカップを掲げた。
律はまたそのカップにコーヒーを注ぎ足した。
その真意もわかる。
瀬那の正体はわかりやすいはずだし、廉の正体も見破られた。
だが律だけはまだ正体がバレていないのだ。
いやもしかしてもう気づいていて、カマをかけているのか。
どっちでもいい。
バレてしまうことは想定の範囲内なのだし、目的を果たせればいい。
「正体なんて、人聞きが悪い。」
律は苦笑しながら、高野の横顔を盗み見た。
端整な顔立ちのこの男が、デビルバッツの中では一番美しいと思っている。
瀬那や廉にさえ、決して言うつもりはないが。
*****
「何ともいえねぇな。」
蛭魔はカフェの4階の居室で、2通の書類を見ていた。
どちらも身上調査書。
1つは小早川瀬那、もう1つは三橋廉のものだ。
三姉妹が名乗っていた姓である小早川。
それで調べたところ、小早川瀬那という人物は実在していた。
顔写真を入手して、瀬那と同一人物であることが確認できた。
小早川瀬那の経歴は、本当に普通、というか地味だった。
商社に勤める父親と、専業主婦の母親。兄弟はない。
ごく普通に地元の小学校、中学、高校を出て、その後大学に進んだ。
本当にどこにでもある普通の青年の経歴だ。
調査に当たった蛭魔と桐嶋は、拍子抜けしたくらいだ。
唯一変わったことがあるとすれば、瀬那の両親の消息がわからないことだ。
瀬那が大学を卒業する直前、瀬那の両親は海外勤務で日本を離れていた。
そこで消息を絶ち、現在に至るまで行方不明だ。
瀬那は内定していた就職先を断り、今に至っている。
そして前回、避暑地で対峙したときに、阿部が廉の経歴を見抜いた。
見事なピッチングから、そこそこの選手だったと推理し、割り出した元高校野球選手。
これもまた写真を入手し、本人と確認できた。
三橋廉の方は、数奇な人生を送っていた。
廉もまた兄弟はなく、両親と3人暮らしだった。
高校時代は野球に没頭し、県内ではベスト8くらいまで進んでいる。
だが高校3年の大会直前、父親が逮捕されていた。
逮捕容疑は薬物の不法所持。
廉はその直後に野球部を辞めた。
おそらく辞めざるを得なかったのだろう。
父親は現代彫刻の作家だったらしい。
それまでは美術館や公共施設などに作品を飾られていたが、この事件の後全て撤去されている。
まさに転落といえる人生だ。
調べに当たった阿部と羽鳥はやるせない表情をしていた。
追体験した廉のこれまでの人生は、本当につらいものだったようだ。
*****
ではあの3人はどこで繋がるのだろう?
少なくても今のところ、瀬那と廉に関してはまるで接点が見えない。
年齢こそ近いが、住んでいた場所も学校も何もかも違う。
もしかして2人の父親の事件が、何か関係があるのか。
だが瀬那の両親の失踪は、廉の父親の逮捕の2年前だ。
鍵を握るのは律だ。
だが律だけはわかっていない。
瀬那や廉同様、律もおそらく本名だろう。
だけど名字がわからないと調べるのは難しい。
高野と横澤が担当しているが、こちらは遅々として進んでいなかった。
その時、蛭魔のスマートフォンが鳴った。
高野からの着信だ。
蛭魔は「なんだよ」と思わず悪態をつく。
高野は3階の「らーぜ」の事務所にいるはずだ。
用があるなら、上がってくればいいのに。
『お前に客だ。』
電話に出るなり、高野の不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「客?誰だ?」
『警察だとよ。1階に降りてきてくれ』
高野がそれだけ言うと、電話がブツリと切れた。
最初の絵が盗まれた後、蛭魔のところに1度警察は来ている。
父親の所在を聞かれたが、わからないと答えた。
まだ何か聞きたいのだろうか。
怪訝に思いながらも、蛭魔は1階に下りた。
応対しているのは高野だ。
その高野の目の前にいたのは、やたらと老け顔の男だった。
この男が刑事だろう。
「蛭魔妖一って、あんたか?」
蛭魔は黙って頷いた。
男はごく自然に話している様子だが、威圧感がある。
おそらくは凄腕の刑事だ。
*****
「警視庁の武蔵だ。アイシールド事件を担当している。」
提示された警察手帳には、武蔵厳と書かれている。
階級は警部補だ。
確か最初に来たのは、所轄署の刑事だった。
世間を騒がしていることと、何件も事件が起きたことで、警視庁の扱いとなったのだろう。
「警視庁まで、同行してもらいたい。」
「何の容疑で?」
「あんたが絵を盗んだ犯人だという匿名のタレコミがあった。」
「はぁぁ?」
思わず声を上げたのは、蛭魔ではなく高野だった。
蛭魔もこの展開は予想外だ。
まさか怪盗アイシールドが蛭魔だとは。
笑うに笑えない冗談だ。
「アイシールド事件で蛭魔幽也の絵の値段は高騰している。筋が通らない話じゃない。」
「親父の絵の値段なんて、知らねーよ。」
「嘘を言うな。絵の売買は息子のあんたがすべて取り仕切っているじゃないか。」
確かに蛭魔幽也の絵は、蛭魔の管理下にある。
画廊に委託している絵の代金は、蛭魔の口座に振り込まれることになっているのだ。
アイシールド事件で、蛭魔幽也の絵の値段は跳ね上がっている。
それにアイシールドに狙われたところで、絵は返ってくるのだから問題もない。
つまり現時点で、アイシールドの登場で一番得をしたのは蛭魔なのだ。
もし蛭魔の自作自演なら、絵を返却することも筋が通る。
武蔵刑事はそれらをすべて調べた上で、ここに来ているのだ。
やられた。
蛭魔と高野は、三姉妹を見た。
涼しい顔をしてカウンターの中に立っている瀬那と廉。
そしてホールに立っている律は、微かに口元を緩めた。
間違いない。
そのタレコミとやらは、この3人の仕業なのだ。
「じゃあ、行くか。」
蛭魔は何気ない口調で、武蔵刑事を促した。
正直言って忌々しいが、それを表に出すのはプライドが許さなかった。
【続く】