アイシ×おお振り×セカコイ【お題:毒花(草)で10題】
【水仙】
「メジャーへの移籍を、考えてるか?」
そう問われて、三橋は一瞬答えに詰まった。
少し前だったら「考えている」と即答していただろう。
だが今は素直に首を縦に振れなかった。
プロ野球はクライマックスシリーズを終えた。
三橋のチームはクライマックスシリーズで敗退し、リーグ優勝を逃した。
チームはもう来シーズンに向けて動き始めている。
監督やコーチ陣はほとんど残留が決まった。
チームで1番の大きな動きは、エースである榛名のメジャー移籍だった。
三橋は来シーズンはまたチームに残留することになる。
榛名の次のエースとして、チームを支えなくてはならない。
だがいつまでもというわけではない。
ドラフトでは投手中心の補強になるし、榛名の穴を埋める新しいローテーションが組まれるだろう。
そして早ければその次のシーズン、今度は三橋自身のメジャー移籍の話になる。
球団事務所に呼ばれた三橋は、そのことを打診されていた。
三橋がずっとチームに留まるのか、メジャーに移籍するのか。
そのことは今後のチーム作りに影響するからだ。
「メジャーへの移籍を、考えてるか?」
そう問われて、三橋は一瞬答えに詰まった。
少し前だったら「考えている」と即答していただろう。
だが今は素直に首を縦に振れなかった。
いつかはメジャーのマウンドで投げる。
そして願わくばワールドシリーズ。
それはプロ野球を意識し始めた頃から描いていた夢の最終目標だ。
だがそれと同時に頭に浮かぶのは阿部のことだった。
もしメジャーに行くことになったら、今のように会えなくなるのは間違いない。
それを想像しただけで、すごく寂しい気持ちになるのだ。
「考えては、います。だけど、まだ決心、つきません。」
三橋は正直にそう答えた。
遠距離恋愛。ふとそんな言葉が頭に浮かんで、動揺する。
阿部とは恋愛しているわけではないのに、どうしてそんなことを考えるんだろう。
「急かすつもりもないが、なるべく早いうちに決めて欲しい。」
球団の首脳陣であるスタッフからそう言われて、三橋は「はい」と頷いた。
阿部を取るか、夢を取るか。
どちらか決断しなければいけない時が近づいているのだ。
*****
「今回は水仙ですよ。さすがにこれは知ってるでしょう?」
だが蛭魔はセナのデザイン画を見ながら、首を傾げる。
実は花で爪を飾る蛭魔は、花の名前をほとんど知らない男なのだ。
セナは苦笑しながら「じゃあ始めますよ」と告げた。
「年内でこのサロン、閉じるそうですよ。」
セナは蛭魔の手を取りながら、切り出した。
蛭魔は涼しい顔で「そうらしいな」と答えた。
あくまで蛭魔は知らない振りをするつもりらしい。
だがさすがにセナも今回は言いたいことがあった。
「何をとぼけてるんですか。全部蛭魔さんの仕業でしょう?」
「俺、外した方がいい?」
いつになく剣のある口調で蛭魔に詰め寄るセナに、阿部がそっと声をかけた。
ここはサロンの個室で、阿部もいままさに蛭魔の髪を切ろうとしていたタイミングだったのだ。
「いえ、いいです。っていうか阿部君も聞いてください。」
セナは冗談めかしながら、そう言った。
実を言うと少々怒っている。
蛭魔と2人きりにされたら、険悪な雰囲気になってしまうかもしれない。
髪と爪を同時進行で予約している意味がなくなってしまう。
それに蛭魔は忙しい身であるので、阿部が席を外したら時間が余計に時間がかかってしまう。
「蛭魔さん、店長と勝手に取引しましたね?」
セナはまるで母親が子供を叱るような口調で文句を言った。
蛭魔が「バレたか」と苦笑している。
バレるも何も、ネイルサロン「デビルバッツ」の閉店など、隠しようもない。
蛭魔とネイルサロン「デビルバッツ」の店長まもりは取引をしたのだ。
それは蛭魔が「毒花」シリーズのデザインを「デビルバッツ」から買い取るというものだ。
セナは具体的な金額を知らないが、かなりの金額を積んだようだ。
まもりはその金でネイルサロン「デビルバッツ」を移転させることを決めてしまった。
実は小日向杏の事件で「デビルバッツ」はまずい事態になっていた。
デザインを盗んだのが瀧鈴音-「デビルバッツ」のスタッフであることがバレたのだ。
事件の被害者として一時は同情を集めた「デビルバッツ」は、徐々に世間の反感を集めつつあった。
だからまもりは事態の収拾を図るために、移転を決めたのだ。
名前を変えて、新しい別のネイルサロンとして生まれ変わる。
スタッフはほぼ全員が新しい店舗に移るが、セナはその中に選ばれなかった。
セナだってまもりと生じてしまった確執のせいで、店を辞めなければいけないと覚悟はしていた。
だが自分が知らないところで決まってしまったことが納得できない。
せめてまもりと取引をする前に知らせておいてくれてもいいのではないか。
「次の就職先を捜さないと。」
セナはあてつけがましくため息をついた。
蛭魔はこれを機にセナを自分の専属にする気なのだ。
決してそれが嫌なわけではないのだが、こんな風に話を進められると抵抗したくなってしまう。
「だったら提案があるんだけど。」
口を挟んだのは、意外にも阿部だった。
悪戯っぽい表情なのは、阿部も確信犯なのだ。
蛭魔の策略を見抜いた上で、あえて話をひっくり返そうとしている。
「え?何?阿部君」
セナは阿部の話に、少々大げざに相槌を打った。
そして今阿部と律の間に進むコーディネイト会社の誘いを受けることになった。
*****
「気に入らない!」
セナが個室を出て行った瞬間、蛭魔は悪態をついた。
まだ個室に残って蛭魔の髪にカラーリングを施す阿部はニヤニヤと笑っていた。
「そんなに俺がセナくんを誘ったのが気に入らないですか?」
「当たり前だ」
セナは阿部より先に、爪に水仙を描き終えた。
今日は残念ながら、次に予約の客が入っている。
セナは「お帰りにレジでお会計をお願いします」と言い残して、個室を出て行った。
ずっとポーカーフェイスを作っていた蛭魔だったが、阿部と2人になるなり不機嫌な顔になった。
「でも蛭魔様にとっても、いいお話だと思いますが。」
「その話し方、やめろ」
カフェ「エメラルド」ではタメ口で話す阿部も、客の蛭魔には丁寧な口調だ。
それが今は余計に蛭魔の勘に触った。
「セナ君をウチの会社に所属させて、蛭魔がウチと契約すれば同じでしょ」
「結局テメーの会社が儲かるだけだろ」
「でも俺が蛭魔の髪を整えるやり方をセナくんがマスターしたら、どう?」
「何だと?」
「セナくんなら指先も器用だしセンスもあるから、美容師免許は簡単に取れるだろうし」
意外な提案に蛭魔は目を丸くする。
だが阿部が蛭魔がめったにしない表情をしているのを面白がっているのを見て、眉根を寄せた。
蛭魔は自分が会話の主導権を取られるのが大嫌いなのだ。
「俺は逆に、セナくんから三橋さんの爪の施術を習うし。」
「結局、テメーのためじゃねーか!」
「蛭魔みたいに強引すぎるのはダメだよ。水面下でやるなら上手にやらないと。」
阿部はそこでニタ~と黒い笑みを見せた。
何だか面白くない。
だが話を聞いている限り、誰も損をしないいい作戦だと思う。
蛭魔だって、セナに髪も任せることを想像すると楽しい気分になってくるのだ。
「まぁ結局、セナが決めることだ。」
蛭魔は何とかもう1度ポーカーフェイスを作りながら、そう言った。
セナを取り込む理由に、どうにも阿部の私情が入りすぎている気はする。
だが話を聞いたセナが乗り気な様子だったのを見れば、反対することもできない。
「そう言えば、例の事件の方は?」
「ああ、それは高野と羽鳥が仕切ってる。早いトコ決着つけねーとな。」
阿部が不意に話題を変えたので、蛭魔もそれに応じた。
阿部の会社設立の話よりも、今は通り魔事件の方が重要だ。
大事な想い人が危機にさらされるような事態を早く解決させたいのは、共通の願いだった。
*****
「本当に大丈夫ですか?」
千秋はセナに声をかける。
セナは小さく頷くと「大丈夫ですよ」と微笑した。
カフェ「エメラルド」では、通り魔の捕獲作戦が展開されていた。
店の前に隠しカメラをいくつも設置する。
怪しい人物が見つかったら、待機していたセナが店を出る。
いわば囮だ。
襲い掛かってきたら、それを取り押さえるというごくごくシンプルな作戦だ。
取り押さえる要員として、蛭魔と阿部、高野と羽鳥が待機している。
誰が囮になるかということでは少々揉めた。
だがセナが自分がやるのだと言い張ったのだ。
何せ蛭魔と高野の推理が正しければ、犯人の狙いはセナである可能性が高いのだから。
蛭魔は最後まで渋っていたが、セナが意志が固いのを見て諦めた。
本来なら、警察に何とかして欲しいところだ。
一応被害者である千秋は羽鳥に付き添われて警察署に出向き、高野たちの推理を話した。
だが担当の警察官があまり真剣でないのはわかった。
実際に被害にあった阿部も千秋も大した怪我ではないし、三橋の事件は届けてさえいない。
そのせいか警察は、そもそも連続した事件と認識さえしていないようだ。
警察の捜査を待っていたら、いつまで経っても解決しないだろう。
だけど千秋は後悔していた。
何も考えずに「狙われた者の共通点は身長だ」などと言ったせいで、こうなっている。
万が一にもセナに何かあったらと思うと、気が気ではない。
「怖くないですか?」
千秋はカフェ「エメラルド」で待機するセナにまた声をかけた。
セナにそんなことを言っても仕方がないことはわかっている。
だがセナ以上に緊張してしまっている千秋は、とにかく何か喋っていないと落ち着かないのだ。
「千秋、静かにしてろ。大変なのはセナさんなんだから。」
羽鳥が呆れたように、千秋をたしなめた。
だがセナは「かまいませんよ」と笑顔を見せた。
「律さんって昔、誘拐されたって聞いたけど。怖さってこの非じゃないよね、きっと。」
セナが千秋にとも独り言もつかない口調で、ポツリと呟いた。
千秋は羽鳥と顔を見合わせると、小さく頷く。
今回の作戦に、三橋と律は呼んでいなかった。
三橋は単に仕事のスケジュールの都合だが、律については違う。
彼の過去を考え、もう余計な心の傷を増やしたくないと言う全員の配慮だった。
事件をきっかけにカフェ「エメラルド」の絆は少しずつ深まっているような気がする。
千秋はそう思うことで、少しだけ安心することができた。
*****
「意外と疲れるだろ」
高野がそう言いながら、ミネラルウォーターのボトルを渡してくれる。
阿部は「サンキュ」とそれを受け取ると、封を切る前にまず左右の瞼にそれを当てた。
阿部はカフェ「エメラルド」のスタッフルームにいた。
もう何時間もいくつも並べられたパソコン画面を見ている。
店の外を撮影する隠しカメラの映像だ。
犯人を一番間近で見たのは、阿部と律、それに千秋と三橋だ。
だが三橋と律は来ていないし、血を見て気絶した千秋の記憶力は当てにならない。
だからこうして阿部がずっと画面を監視することになったのだ。
「それにしてもよく思いついたな。犯人の狙い」
阿部は画面から目を離さないまま、器用にミネラルウォーターのボトルを開ける。
そして水をガブリと一気に飲む干すと、隣で待機する蛭魔と高野にそう言った。
蛭魔と高野の推理では、犯人の狙いはセナだ。
もっと言うなら、あの写真週刊誌に載ったネイルアーティストを狙っている。
つまり小日向杏のファンなのではないかと疑っていた。
セナが載った写真週刊誌は、画質が粗い上にセナの目は黒い線で隠されている。
小日向杏と並んでいるから身長は正確に推測できるだろうが、顔立ちはわからない。
つまり細身で小柄で、このビルで働いているということだけが目印だった。
もし写真がカラーだったら、律や三橋が襲われることはなかったかもしれない。
だが件のモノクロであったために、髪の色の違いさえもわからない。
まさに背格好だけで狙っているという千秋の何気ない一言がヒントだった。
「阿部、少し休んだ方がいい。目、つらいだろう?」
蛭魔が阿部に声をかけた。
阿部の目は少し充血しており、何度も瞼を押さえたり目を擦ったりしている。
だが阿部は「大丈夫だ」と答えて、パソコンから目を離さなかった。
「こんなことで怪我人が出るのはもうたくさんだ。とっとと終わらせてやる。」
阿部は吐き捨てるようにそう言うと、画面を睨みつける。
三橋が襲われたとき、阿部は心臓が止まるほどショックだったのだ。
本人が訳がわからないまま撃退したために笑い話になったが、いつもそうなるとは限らない。
とにかくこんなふざけた犯人を取り押さえてやろうと、阿部は怒りに燃えていた。
「あ、コイツ」
阿部はふと1つの画面に釘付けになった。
黒いジャケットにブラックジーンズに黒のキャップ。
夜の闇にまぎれそうなほどの黒ずくめの青年が、店の入口付近の電柱の影に佇んでいる。
正直言って画面越しの顔立ちだけではわかりにくい。
だが彼がまとう雰囲気は、いつかの夜の襲撃犯だと確信できた。
「コイツだ。間違いない。」
阿部が画面を指差すと、高野と蛭魔が立ち上がった。
いよいよ決着をつける時が来た。
阿部もさっさと席を立つと、2人の後に続いた。
*****
「うぉぉ!」
男が唸り声を上げながら、セナに向かって来る。
セナは避けることもなく、仁王立ちで男を待ち受ける。
そして距離が縮まったところで、男はナイフを振り上げた。
その瞬間、全員が打ち合わせ通りに動いた。
蛭魔はセナに駆け寄ると、すっと犯人の前に立ちはだかり、セナを背中にかばう。
羽鳥が男の横につくと、足を伸ばして男の足を引っかけた。
そして高野が転倒した男の背中を膝で押さえながら、腕をねじ上げてナイフを奪う。
阿部は男が抵抗した時に加勢するはずだったが、あっさりと男を捕らえたことで出番がなかった。
「お前が狙ってたのは、小日向杏と写真週刊誌に載った男か?」
高野は男をうつ伏せに倒した状態のまま、そう聞いた。
男はぐいっと首を捻ると、高野を睨み上げる。
だが目つきとは逆にあまり腕力はないようで、1人で押さえ込んでおくのもさほど苦ではない。
高野よりも身長も低いし、痩せているせいだろう。
「アンアンのことを呼び捨てにするな!」
男は押さえつけられているというのに、口だけは達者なようだ。
阿部が「アンアンだぁ?」と呆れたような声を上げる。
蛭魔や羽鳥がため息をつく声も聞こえてきた。
小日向杏の熱狂的なファンであるのは、間違いなさそうだ。
「前に3人襲われたけど、全部お前か?」
「そうだよ!あの雑誌じゃ顔がわかんねーから、似てるヤツ全員襲ってやったんだ!」
男はヤケになったのか、無駄に大声を張り上げている。
高野は「うるせぇ!」と叫ぶと、腕を捻りあげる手にさらに力をこめた。
男が「痛ぇよ!」と叫んだが、知ったことではない。
「まぁとにかくこれで一安心だろ。」
阿部がグッタリと肩を落としながら、そう言った。
蛭魔もセナも羽鳥も、スッキリしたというよりはウンザリした表情をしている。
みな思うことは高野と同じなのだろう。
こんな頭が悪そうなヤツに振り回されたのかと思うと、怒りよりも情けない気分なのだ。
やがてパトカーのサイレンが近づいてきた。
後味は悪いがとにかく事件は解決だ。
これで一安心、律を口説き落とすことに集中できる。
高野はそんな不埒なことを考えながら、苦笑した。
疲れていても、律のことを考えると明るい気分になれる自分がおかしかったからだ。
*****
「通り魔、捕まったんですか。。。」
律がそのニュースを知ったのは、男が逮捕された翌日のことだった。
芸能事務所でデスクワークをしているときに、高野から携帯に電話があったのだ。
『犯人は小日向杏の熱狂的なファンだとさ』
「そりゃまた、何て言っていいか。。。」
杏のファンだと聞かされれば、律の気分は複雑だ。
一応杏は律の担当するタレントであるのだし、そういう意味では責任を感じないでもない。
だが律だって阿部に助けられなければ、怪我をしていたのだ。
被害者としても加害者としても、律の立場は実に中途半端だった。
『じゃあな。とりあえず危険はなくなったから、今晩は店に来い』
高野は用件だけ告げると、さっさと電話を切った。
仕事中であることを察して、手短に済ませてくれたのだろう。
今回犯人が杏のファンだったということを上手く利用できないだろうか?
杏はネイルサロンの1件で好感度を下げ、メディアの露出が減っているのだ。
この事件を利用して、マスコミに向けてメッセージを出すとか。
いや、ブログに何か気の利いたコメントを出させるのがいいだろうか?
そこまで考えて、律は苦笑した。
もう阿部と始める新しい会社に興味はかなり移っているのに、何を真剣になっているのだろう。
律はもう事務所を辞める決意をしており、辞表も出している。
だが事務所には何だかんだと先延ばしされていた。
事務所はまだ律をタレントに転向させることを諦めていないようだ。
だがそれ以前に人手が足りない。
もう全員がいっぱいいっぱいで、律の分の仕事を引き受けられる余力を持つ者がいない。
「小野寺君、電話!外線1番ね。」
外線電話を受けた事務の女性スタッフが、律に声をかけてきた。
律は「ありがとうございます」と取り次いでくれた礼を言いながら、首をひねった。
仕事関係の人間だって、最近はほとんど携帯電話を鳴らすのだ。
事務所の外線電話にかけてきて、わざわざ呼び出す人間などほとんどいない。
相手は誰なのか聞こうかとも思ったが、電話に出た方が早い。
「代わりました。小野寺です。」
律は受話器を取ると、名前を名乗って相手の返事を待った。
だが電話の向こうからは何も応答がない。
「もしもーし!小野寺ですが」
『律?』
もう1度声を大きくして名乗ると、ようやく相手の声が聞こえた。
まるで地の底から聞こえるようなくぐもった声だ。
「あの、どちらさまですか?」
気味が悪くなって、律は声を落としてそう聞いた。
だが次に受話器から聞こえてきたのは『ククク』と不気味な笑い声だ。
律は思わず受話器を取り落とした。
怪訝に思った事務員が受話器を拾って「もしもし?」と言ったが、通話は切れたようだ。
まさか。あの男が。
身体が震えて、冷たい汗が噴き出してくる。
またあの男の影に怯えて過ごすことになるという暗い予感に、律は絶望を感じていた。
【続く】
「メジャーへの移籍を、考えてるか?」
そう問われて、三橋は一瞬答えに詰まった。
少し前だったら「考えている」と即答していただろう。
だが今は素直に首を縦に振れなかった。
プロ野球はクライマックスシリーズを終えた。
三橋のチームはクライマックスシリーズで敗退し、リーグ優勝を逃した。
チームはもう来シーズンに向けて動き始めている。
監督やコーチ陣はほとんど残留が決まった。
チームで1番の大きな動きは、エースである榛名のメジャー移籍だった。
三橋は来シーズンはまたチームに残留することになる。
榛名の次のエースとして、チームを支えなくてはならない。
だがいつまでもというわけではない。
ドラフトでは投手中心の補強になるし、榛名の穴を埋める新しいローテーションが組まれるだろう。
そして早ければその次のシーズン、今度は三橋自身のメジャー移籍の話になる。
球団事務所に呼ばれた三橋は、そのことを打診されていた。
三橋がずっとチームに留まるのか、メジャーに移籍するのか。
そのことは今後のチーム作りに影響するからだ。
「メジャーへの移籍を、考えてるか?」
そう問われて、三橋は一瞬答えに詰まった。
少し前だったら「考えている」と即答していただろう。
だが今は素直に首を縦に振れなかった。
いつかはメジャーのマウンドで投げる。
そして願わくばワールドシリーズ。
それはプロ野球を意識し始めた頃から描いていた夢の最終目標だ。
だがそれと同時に頭に浮かぶのは阿部のことだった。
もしメジャーに行くことになったら、今のように会えなくなるのは間違いない。
それを想像しただけで、すごく寂しい気持ちになるのだ。
「考えては、います。だけど、まだ決心、つきません。」
三橋は正直にそう答えた。
遠距離恋愛。ふとそんな言葉が頭に浮かんで、動揺する。
阿部とは恋愛しているわけではないのに、どうしてそんなことを考えるんだろう。
「急かすつもりもないが、なるべく早いうちに決めて欲しい。」
球団の首脳陣であるスタッフからそう言われて、三橋は「はい」と頷いた。
阿部を取るか、夢を取るか。
どちらか決断しなければいけない時が近づいているのだ。
*****
「今回は水仙ですよ。さすがにこれは知ってるでしょう?」
だが蛭魔はセナのデザイン画を見ながら、首を傾げる。
実は花で爪を飾る蛭魔は、花の名前をほとんど知らない男なのだ。
セナは苦笑しながら「じゃあ始めますよ」と告げた。
「年内でこのサロン、閉じるそうですよ。」
セナは蛭魔の手を取りながら、切り出した。
蛭魔は涼しい顔で「そうらしいな」と答えた。
あくまで蛭魔は知らない振りをするつもりらしい。
だがさすがにセナも今回は言いたいことがあった。
「何をとぼけてるんですか。全部蛭魔さんの仕業でしょう?」
「俺、外した方がいい?」
いつになく剣のある口調で蛭魔に詰め寄るセナに、阿部がそっと声をかけた。
ここはサロンの個室で、阿部もいままさに蛭魔の髪を切ろうとしていたタイミングだったのだ。
「いえ、いいです。っていうか阿部君も聞いてください。」
セナは冗談めかしながら、そう言った。
実を言うと少々怒っている。
蛭魔と2人きりにされたら、険悪な雰囲気になってしまうかもしれない。
髪と爪を同時進行で予約している意味がなくなってしまう。
それに蛭魔は忙しい身であるので、阿部が席を外したら時間が余計に時間がかかってしまう。
「蛭魔さん、店長と勝手に取引しましたね?」
セナはまるで母親が子供を叱るような口調で文句を言った。
蛭魔が「バレたか」と苦笑している。
バレるも何も、ネイルサロン「デビルバッツ」の閉店など、隠しようもない。
蛭魔とネイルサロン「デビルバッツ」の店長まもりは取引をしたのだ。
それは蛭魔が「毒花」シリーズのデザインを「デビルバッツ」から買い取るというものだ。
セナは具体的な金額を知らないが、かなりの金額を積んだようだ。
まもりはその金でネイルサロン「デビルバッツ」を移転させることを決めてしまった。
実は小日向杏の事件で「デビルバッツ」はまずい事態になっていた。
デザインを盗んだのが瀧鈴音-「デビルバッツ」のスタッフであることがバレたのだ。
事件の被害者として一時は同情を集めた「デビルバッツ」は、徐々に世間の反感を集めつつあった。
だからまもりは事態の収拾を図るために、移転を決めたのだ。
名前を変えて、新しい別のネイルサロンとして生まれ変わる。
スタッフはほぼ全員が新しい店舗に移るが、セナはその中に選ばれなかった。
セナだってまもりと生じてしまった確執のせいで、店を辞めなければいけないと覚悟はしていた。
だが自分が知らないところで決まってしまったことが納得できない。
せめてまもりと取引をする前に知らせておいてくれてもいいのではないか。
「次の就職先を捜さないと。」
セナはあてつけがましくため息をついた。
蛭魔はこれを機にセナを自分の専属にする気なのだ。
決してそれが嫌なわけではないのだが、こんな風に話を進められると抵抗したくなってしまう。
「だったら提案があるんだけど。」
口を挟んだのは、意外にも阿部だった。
悪戯っぽい表情なのは、阿部も確信犯なのだ。
蛭魔の策略を見抜いた上で、あえて話をひっくり返そうとしている。
「え?何?阿部君」
セナは阿部の話に、少々大げざに相槌を打った。
そして今阿部と律の間に進むコーディネイト会社の誘いを受けることになった。
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「気に入らない!」
セナが個室を出て行った瞬間、蛭魔は悪態をついた。
まだ個室に残って蛭魔の髪にカラーリングを施す阿部はニヤニヤと笑っていた。
「そんなに俺がセナくんを誘ったのが気に入らないですか?」
「当たり前だ」
セナは阿部より先に、爪に水仙を描き終えた。
今日は残念ながら、次に予約の客が入っている。
セナは「お帰りにレジでお会計をお願いします」と言い残して、個室を出て行った。
ずっとポーカーフェイスを作っていた蛭魔だったが、阿部と2人になるなり不機嫌な顔になった。
「でも蛭魔様にとっても、いいお話だと思いますが。」
「その話し方、やめろ」
カフェ「エメラルド」ではタメ口で話す阿部も、客の蛭魔には丁寧な口調だ。
それが今は余計に蛭魔の勘に触った。
「セナ君をウチの会社に所属させて、蛭魔がウチと契約すれば同じでしょ」
「結局テメーの会社が儲かるだけだろ」
「でも俺が蛭魔の髪を整えるやり方をセナくんがマスターしたら、どう?」
「何だと?」
「セナくんなら指先も器用だしセンスもあるから、美容師免許は簡単に取れるだろうし」
意外な提案に蛭魔は目を丸くする。
だが阿部が蛭魔がめったにしない表情をしているのを面白がっているのを見て、眉根を寄せた。
蛭魔は自分が会話の主導権を取られるのが大嫌いなのだ。
「俺は逆に、セナくんから三橋さんの爪の施術を習うし。」
「結局、テメーのためじゃねーか!」
「蛭魔みたいに強引すぎるのはダメだよ。水面下でやるなら上手にやらないと。」
阿部はそこでニタ~と黒い笑みを見せた。
何だか面白くない。
だが話を聞いている限り、誰も損をしないいい作戦だと思う。
蛭魔だって、セナに髪も任せることを想像すると楽しい気分になってくるのだ。
「まぁ結局、セナが決めることだ。」
蛭魔は何とかもう1度ポーカーフェイスを作りながら、そう言った。
セナを取り込む理由に、どうにも阿部の私情が入りすぎている気はする。
だが話を聞いたセナが乗り気な様子だったのを見れば、反対することもできない。
「そう言えば、例の事件の方は?」
「ああ、それは高野と羽鳥が仕切ってる。早いトコ決着つけねーとな。」
阿部が不意に話題を変えたので、蛭魔もそれに応じた。
阿部の会社設立の話よりも、今は通り魔事件の方が重要だ。
大事な想い人が危機にさらされるような事態を早く解決させたいのは、共通の願いだった。
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「本当に大丈夫ですか?」
千秋はセナに声をかける。
セナは小さく頷くと「大丈夫ですよ」と微笑した。
カフェ「エメラルド」では、通り魔の捕獲作戦が展開されていた。
店の前に隠しカメラをいくつも設置する。
怪しい人物が見つかったら、待機していたセナが店を出る。
いわば囮だ。
襲い掛かってきたら、それを取り押さえるというごくごくシンプルな作戦だ。
取り押さえる要員として、蛭魔と阿部、高野と羽鳥が待機している。
誰が囮になるかということでは少々揉めた。
だがセナが自分がやるのだと言い張ったのだ。
何せ蛭魔と高野の推理が正しければ、犯人の狙いはセナである可能性が高いのだから。
蛭魔は最後まで渋っていたが、セナが意志が固いのを見て諦めた。
本来なら、警察に何とかして欲しいところだ。
一応被害者である千秋は羽鳥に付き添われて警察署に出向き、高野たちの推理を話した。
だが担当の警察官があまり真剣でないのはわかった。
実際に被害にあった阿部も千秋も大した怪我ではないし、三橋の事件は届けてさえいない。
そのせいか警察は、そもそも連続した事件と認識さえしていないようだ。
警察の捜査を待っていたら、いつまで経っても解決しないだろう。
だけど千秋は後悔していた。
何も考えずに「狙われた者の共通点は身長だ」などと言ったせいで、こうなっている。
万が一にもセナに何かあったらと思うと、気が気ではない。
「怖くないですか?」
千秋はカフェ「エメラルド」で待機するセナにまた声をかけた。
セナにそんなことを言っても仕方がないことはわかっている。
だがセナ以上に緊張してしまっている千秋は、とにかく何か喋っていないと落ち着かないのだ。
「千秋、静かにしてろ。大変なのはセナさんなんだから。」
羽鳥が呆れたように、千秋をたしなめた。
だがセナは「かまいませんよ」と笑顔を見せた。
「律さんって昔、誘拐されたって聞いたけど。怖さってこの非じゃないよね、きっと。」
セナが千秋にとも独り言もつかない口調で、ポツリと呟いた。
千秋は羽鳥と顔を見合わせると、小さく頷く。
今回の作戦に、三橋と律は呼んでいなかった。
三橋は単に仕事のスケジュールの都合だが、律については違う。
彼の過去を考え、もう余計な心の傷を増やしたくないと言う全員の配慮だった。
事件をきっかけにカフェ「エメラルド」の絆は少しずつ深まっているような気がする。
千秋はそう思うことで、少しだけ安心することができた。
*****
「意外と疲れるだろ」
高野がそう言いながら、ミネラルウォーターのボトルを渡してくれる。
阿部は「サンキュ」とそれを受け取ると、封を切る前にまず左右の瞼にそれを当てた。
阿部はカフェ「エメラルド」のスタッフルームにいた。
もう何時間もいくつも並べられたパソコン画面を見ている。
店の外を撮影する隠しカメラの映像だ。
犯人を一番間近で見たのは、阿部と律、それに千秋と三橋だ。
だが三橋と律は来ていないし、血を見て気絶した千秋の記憶力は当てにならない。
だからこうして阿部がずっと画面を監視することになったのだ。
「それにしてもよく思いついたな。犯人の狙い」
阿部は画面から目を離さないまま、器用にミネラルウォーターのボトルを開ける。
そして水をガブリと一気に飲む干すと、隣で待機する蛭魔と高野にそう言った。
蛭魔と高野の推理では、犯人の狙いはセナだ。
もっと言うなら、あの写真週刊誌に載ったネイルアーティストを狙っている。
つまり小日向杏のファンなのではないかと疑っていた。
セナが載った写真週刊誌は、画質が粗い上にセナの目は黒い線で隠されている。
小日向杏と並んでいるから身長は正確に推測できるだろうが、顔立ちはわからない。
つまり細身で小柄で、このビルで働いているということだけが目印だった。
もし写真がカラーだったら、律や三橋が襲われることはなかったかもしれない。
だが件のモノクロであったために、髪の色の違いさえもわからない。
まさに背格好だけで狙っているという千秋の何気ない一言がヒントだった。
「阿部、少し休んだ方がいい。目、つらいだろう?」
蛭魔が阿部に声をかけた。
阿部の目は少し充血しており、何度も瞼を押さえたり目を擦ったりしている。
だが阿部は「大丈夫だ」と答えて、パソコンから目を離さなかった。
「こんなことで怪我人が出るのはもうたくさんだ。とっとと終わらせてやる。」
阿部は吐き捨てるようにそう言うと、画面を睨みつける。
三橋が襲われたとき、阿部は心臓が止まるほどショックだったのだ。
本人が訳がわからないまま撃退したために笑い話になったが、いつもそうなるとは限らない。
とにかくこんなふざけた犯人を取り押さえてやろうと、阿部は怒りに燃えていた。
「あ、コイツ」
阿部はふと1つの画面に釘付けになった。
黒いジャケットにブラックジーンズに黒のキャップ。
夜の闇にまぎれそうなほどの黒ずくめの青年が、店の入口付近の電柱の影に佇んでいる。
正直言って画面越しの顔立ちだけではわかりにくい。
だが彼がまとう雰囲気は、いつかの夜の襲撃犯だと確信できた。
「コイツだ。間違いない。」
阿部が画面を指差すと、高野と蛭魔が立ち上がった。
いよいよ決着をつける時が来た。
阿部もさっさと席を立つと、2人の後に続いた。
*****
「うぉぉ!」
男が唸り声を上げながら、セナに向かって来る。
セナは避けることもなく、仁王立ちで男を待ち受ける。
そして距離が縮まったところで、男はナイフを振り上げた。
その瞬間、全員が打ち合わせ通りに動いた。
蛭魔はセナに駆け寄ると、すっと犯人の前に立ちはだかり、セナを背中にかばう。
羽鳥が男の横につくと、足を伸ばして男の足を引っかけた。
そして高野が転倒した男の背中を膝で押さえながら、腕をねじ上げてナイフを奪う。
阿部は男が抵抗した時に加勢するはずだったが、あっさりと男を捕らえたことで出番がなかった。
「お前が狙ってたのは、小日向杏と写真週刊誌に載った男か?」
高野は男をうつ伏せに倒した状態のまま、そう聞いた。
男はぐいっと首を捻ると、高野を睨み上げる。
だが目つきとは逆にあまり腕力はないようで、1人で押さえ込んでおくのもさほど苦ではない。
高野よりも身長も低いし、痩せているせいだろう。
「アンアンのことを呼び捨てにするな!」
男は押さえつけられているというのに、口だけは達者なようだ。
阿部が「アンアンだぁ?」と呆れたような声を上げる。
蛭魔や羽鳥がため息をつく声も聞こえてきた。
小日向杏の熱狂的なファンであるのは、間違いなさそうだ。
「前に3人襲われたけど、全部お前か?」
「そうだよ!あの雑誌じゃ顔がわかんねーから、似てるヤツ全員襲ってやったんだ!」
男はヤケになったのか、無駄に大声を張り上げている。
高野は「うるせぇ!」と叫ぶと、腕を捻りあげる手にさらに力をこめた。
男が「痛ぇよ!」と叫んだが、知ったことではない。
「まぁとにかくこれで一安心だろ。」
阿部がグッタリと肩を落としながら、そう言った。
蛭魔もセナも羽鳥も、スッキリしたというよりはウンザリした表情をしている。
みな思うことは高野と同じなのだろう。
こんな頭が悪そうなヤツに振り回されたのかと思うと、怒りよりも情けない気分なのだ。
やがてパトカーのサイレンが近づいてきた。
後味は悪いがとにかく事件は解決だ。
これで一安心、律を口説き落とすことに集中できる。
高野はそんな不埒なことを考えながら、苦笑した。
疲れていても、律のことを考えると明るい気分になれる自分がおかしかったからだ。
*****
「通り魔、捕まったんですか。。。」
律がそのニュースを知ったのは、男が逮捕された翌日のことだった。
芸能事務所でデスクワークをしているときに、高野から携帯に電話があったのだ。
『犯人は小日向杏の熱狂的なファンだとさ』
「そりゃまた、何て言っていいか。。。」
杏のファンだと聞かされれば、律の気分は複雑だ。
一応杏は律の担当するタレントであるのだし、そういう意味では責任を感じないでもない。
だが律だって阿部に助けられなければ、怪我をしていたのだ。
被害者としても加害者としても、律の立場は実に中途半端だった。
『じゃあな。とりあえず危険はなくなったから、今晩は店に来い』
高野は用件だけ告げると、さっさと電話を切った。
仕事中であることを察して、手短に済ませてくれたのだろう。
今回犯人が杏のファンだったということを上手く利用できないだろうか?
杏はネイルサロンの1件で好感度を下げ、メディアの露出が減っているのだ。
この事件を利用して、マスコミに向けてメッセージを出すとか。
いや、ブログに何か気の利いたコメントを出させるのがいいだろうか?
そこまで考えて、律は苦笑した。
もう阿部と始める新しい会社に興味はかなり移っているのに、何を真剣になっているのだろう。
律はもう事務所を辞める決意をしており、辞表も出している。
だが事務所には何だかんだと先延ばしされていた。
事務所はまだ律をタレントに転向させることを諦めていないようだ。
だがそれ以前に人手が足りない。
もう全員がいっぱいいっぱいで、律の分の仕事を引き受けられる余力を持つ者がいない。
「小野寺君、電話!外線1番ね。」
外線電話を受けた事務の女性スタッフが、律に声をかけてきた。
律は「ありがとうございます」と取り次いでくれた礼を言いながら、首をひねった。
仕事関係の人間だって、最近はほとんど携帯電話を鳴らすのだ。
事務所の外線電話にかけてきて、わざわざ呼び出す人間などほとんどいない。
相手は誰なのか聞こうかとも思ったが、電話に出た方が早い。
「代わりました。小野寺です。」
律は受話器を取ると、名前を名乗って相手の返事を待った。
だが電話の向こうからは何も応答がない。
「もしもーし!小野寺ですが」
『律?』
もう1度声を大きくして名乗ると、ようやく相手の声が聞こえた。
まるで地の底から聞こえるようなくぐもった声だ。
「あの、どちらさまですか?」
気味が悪くなって、律は声を落としてそう聞いた。
だが次に受話器から聞こえてきたのは『ククク』と不気味な笑い声だ。
律は思わず受話器を取り落とした。
怪訝に思った事務員が受話器を拾って「もしもし?」と言ったが、通話は切れたようだ。
まさか。あの男が。
身体が震えて、冷たい汗が噴き出してくる。
またあの男の影に怯えて過ごすことになるという暗い予感に、律は絶望を感じていた。
【続く】