アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】

【冬遊び/そり滑り】

何が何だか、わからない。
降旗は劇的に変わる展開に、立っているのさえ困難なほどの衝撃を受けていた。

一瞬の出来事だった。
赤司が出かけてしまった後、降旗はのんびりとお茶をすすっていた。
外は風情たっぷりな紅葉風景。
吸血鬼たちがその存在をかけて、戦おうとしているなんて嘘みたいだ。
だが降旗には、もうできることはない。
赤司が勝つのか、黒子たちが勝つのか。
その結果を受け入れるしかないと思っていた。

だがそんな降旗の前に、唐突に光の球が現れた。
その中から現れたのは、ずっと念で会話をしていた黒子だ。
そして彼の背後には、2人の大きな男が立っている。
1人は人間だった頃、同じ高校に通っていた火神。
もう1人は知らない男だが、放つ「気」から魔物なのだとわかる。

「降旗君、こんにちは。」
黒子は驚く降旗に、平然と挨拶をしてくる。
そしてふと思いついたような顔で「火神君はわかりますよね。こっちは青峰君です」と言う。
驚き、呆然としていた降旗は、ようやく我に返った。

「何しに来たんだ!?」
「大変申し上げにくいんですが、人質になっていただきたくて」
「・・・黒子は、俺を利用したのか!?」
降旗は心に引っかかっていた事を、ぶちまけた。
黒子は降旗を利用しているのだと、赤司は断じていたからだ。

「すみません。利用しました。っていうか、これからも利用します。」
「友だちだと思ってたのに!」
「僕も思ってます。だけどそれとこれとは別です。」
「どうして!」
「赤司君に勝てなければ、僕たちに未来はないので。」

黒子がきっぱりとそう告げた途端、降旗は腕が縛られていることに気付いた。
青峰という吸血鬼が、降旗が気が付かないうちに、念で後手に腕を拘束してしまったのだ。
ずっと無表情だった黒子が「乱暴にしないで下さい!」と青峰を怒鳴る。
だが青峰はめんどくさそうに「急ごうぜ」と言った。

「すみません。火神君はまだ長距離の瞬間移動ができないんで、仕方なく彼に頼んだんです。」
黒子が元の口調に戻って、そう告げる。
火神は不満そうに顔を歪ませ、青峰は「仕方なくかよ!」と怒鳴る。
だが黒子はそれにはスルーだ。
次の瞬間、その青峰の放つ「気」が光の球となり、4人を包んだ。
そして光が消えた時には、4人は東京の雪が残るホテルの屋上にいた。

「古典的ですが、人質を返して欲しければ、言うことを聞いて下さい。」
黒子は降旗の身体を盾にするように腕を回して、赤司と対峙する。
あの赤司に、平然と駆け引きを挑んだのだ。
赤司は悔しげな表情で、黒子を睨んでいる。
降旗は、このまま赤司が降伏して、丸く収まってくれればと願ったのだが。

「全員、攻撃開始だ。吸血鬼を倒して『伴侶』たちを奪え!」
赤司は従えてきた魔物たちに、冷徹にそう命じる。
魔物たちは「うおお!」と声を上げ、次々と黒子たちに向かってなだれ込んできた。
たちまちさまざまな色の光が、レーザーのように乱れ、飛び交う。
吸血鬼たちが「念」を衝撃波のように放ち、さながら銃撃戦のような戦いが始まった。
そう、赤司は人質である降旗のことを見捨ててしまったのだ。

何が何だか、わからない。
降旗は劇的に変わる展開に、立っているのさえ困難なほどの衝撃を受けていた。
黒子は降旗に「行きましょう」と声をかけ、腕を引きながら歩き出す。
降旗は逆らう気力もなく、ただ黒子に引きずられるように進んだ。

*****

「作戦コード『スウィープ』だ!」
蛭魔が拡声器を使いながら、高らかに宣言する。
吸血鬼たちはその言葉に頷きながら、かかってくる魔物の群れに突っ込んでいった。

雪が残るホテルの屋上で、戦いは始まった。
この日のために、蛭魔はいくつも作戦を立てて、それを全員に伝えていた。
蛭魔は「伴侶」たちが雪遊びで作った雪山の上に立ち、拡声器を使って指示を伝える。
残りの者たちは、その指示に従って動くのだ。
作戦コード「スウィープ」は、その名の通り、掃除。
襲い掛かって来る魔物たちを、魔力と腕力でねじ伏せるというものだ。
赤司が引き連れて来た魔物たちを、手っ取り早く減らすために有効な作戦だ。

「まったく何で、あんなヤツが作戦担当なのだよ!」
緑間は文句を言いながらも、襲ってくる魔物たちを次々と薙ぎ払った。
その後ろで「伴侶」の高尾が「まぁまぁ、真ちゃん」と宥めながら、銃を撃つ。
これはホテル内の人気のないショップで発見した、おもちゃだ。
だが緑間が念を込めたので、ちゃんと銃として機能している。

「本当に気に入らないのだよ!」
緑間はそう叫びながら「気」を次々と飛ばしていく。
長距離攻撃が、緑間の得意技なのだ。
だが「キセキ」の中では赤司に次ぐ頭脳派だったので、指示に従って動くのは気に入らないのだ。
しかも相手が、蛭魔などというなどという青二才になら、なおのことだ。

「別にいいんじゃない~?」
緑間の近くで、この状況に似つかわしくないゆるい声をあげたのは紫原だった。
作戦コード「スウィープ」のとき、緑間と紫原はコンビを組むように言われている。
緑間の長距離攻撃に対して、紫原の得意技は近接戦だからだ。

「そうだね。2人の適性をよく理解した、いい作戦だよ。」
紫原の「伴侶」氷室が、主の意見に同意した。
とにかく少ない人数で、何とかする。
蛭魔はそのために知恵を絞って、作戦を組んだのだから。
氷室の武器は、やはりホテル内で見つけた木刀だ。
これも主の念が込めてあるので、ただ振るだけでもかなりの威力になる。

「俺らは俺らで、訓練になるよな」
「確かにそうだね」
高尾と氷室は、それぞれの武器を振るいながら、そう言い合った。
今回「伴侶」たちには、何があっても主のそばを離れないようにと指示されている。
赤司の狙いが「伴侶」たちだから、彼らが1つの場所に一緒に固まっていない方がいい。
そして主たちの保護のもとで、実戦経験が積めるというとにかく無駄がない作戦だ。

「とっとと片づけるのだよ!」
「オッケ~」
緑間と紫原も声を掛け合いながら、敵を倒し続けた。
昔からあまり気が合う方ではなかったが、同じ目的のためなら、いくらでも協力できる。
とにかくここを生き延びて「伴侶」たちと、穏やかな生活を手にするためだ。

*****

「作戦コード『ブリッツ』に変更!」
蛭魔が拡声器で、指示を伝える。
青峰と黄瀬は顔を見合わせると、ニンマリと笑った。

戦いはまだまだ続いている。
だが敵の人数はかなり減ってきた。
はっきり言って、同胞の吸血鬼たちを屠ることに、気が咎めないわけではない。
それでもこうしなければ、自分たちが生き残れないのだ。

「ったく、数が多けりゃいいってもんじゃねーだろ!」
青峰は文句を言いながら、拳を振るっていた。
傍から見れば、ただの乱闘だ。
何の技も使わず、ただ殴り倒しているだけなのだから。
それでも青峰の全身から発する魔力で、弱い吸血鬼は倒れてしまう。
だがそれでは効かない相手もいて、そういう者たちは殴られて痛がるものの、また向かってくる。

「青峰さん、ちょっと手を抜き過ぎでは。。。」
青峰の「伴侶」の桜井が、恐る恐るそう告げる。
だが青峰は「いいんだよ。京都まで往復して疲れてるし」と涼しい顔だ。
結局青峰に殴られても復活する魔物は、隣の黄瀬が倒すというルーティーンになっていた。

「青峰っち、桜井っちの言う通りですよ!」
実際にフォローする黄瀬は、文句を言う。
そして「伴侶」の笠松に「そうですよね?」と同意を求める。
だが笠松は「青峰っちはともかく、桜井っちって言いにくいだろ」などと言う。
同意すると黄瀬が調子に乗るとわかっているので、はぐらかしているのだ。

ここで蛭魔から作戦コードの変更が告げられた。
「スウィープ」から「ブリッツ」。
これは今までの力技で薙ぎ払うだけでなく、ピンポイント攻撃に切り替えた合図だ。
戦ううちに、弱い者たちはもう倒されていなくなった。
より高い魔力を発揮する必要があり、青峰や黄瀬には向いている戦い方だ。

「それじゃ、俺らもやるか!」
「そうですね。」
笠松と桜井は顔を見合わせると、雪の小山の上に登った。
ここ数日「伴侶」たちは、幼児化した瀬那たちと一緒に存分に雪遊びをした。
この雪の小山は、かまくらの残骸だ。
そしてあらかじめ用意していたプラスチックの板を使い、そり滑りの要領で斜面を下りる。
そうしながら、襲ってくる敵に攻撃を仕掛けた。
桜井の武器は弓矢、笠松はヌンチャク、いずれもホテルで見つけたものだ。
どちらもおもちゃだが、主の込めた念とそり滑りのスピードで、充分戦える。

「よくやった、良!」
「すごいっす!笠松先輩!」
青峰がグシャグシャと桜井の頭をなで、黄瀬が笠松に抱き付いた。
だがゆっくりと喜んでいる時間はない。

「火神っちは、大丈夫っすかね?」
「・・・大丈夫じゃねーと、困るぜ。」
黄瀬と青峰はそんな言葉を交わしながら、全力で魔力を振るった。
赤司は最悪、黒子だけでも手に入れようとするだろう。
だから黒子の主である火神には、頑張ってもらわなくてはならない。

「まぁ、火神がやられたら、赤司は俺が倒すかな」
「え、それ、俺もやりたいっす!」
2人は軽口を叩きながらも、魔物を倒していく。
とにかく1人でも多くの敵を減らすことが、今は大事だ。

*****

「絶対に行かせねーよ!」
阿部が力強くそう宣言し、高野も頷く。
どこまでできるかわからないが、やるしかない。

「そこをどけ」
傲慢な口調で、命令を下すのは赤司だ。
阿部と高野は、屋上からホテル内に入る扉の前に立ちはだかっていた。
人質である降旗と共に、黒子と火神は部屋にいる。
絶対に「伴侶」は誰も渡さない。
だがその中でも黒子は特別だ。
黒子の血は、飲むだけで魔物の能力を上げてしまうものだからだ。
だから赤司と黒子を接触させずに終わらせてしまいたい。

降旗を人質にとっても、赤司は応じなかった。
そうなった場合、阿部と高野が赤司と相対することは決めていた。
「キセキ」の4人は、やはり攻撃力が格段に高いのだ。
彼らが襲ってくる魔物たちを排除し、その間に阿部と高野が赤司を足止めする。
ここで倒せればいいが、ダメだった場合、他の魔物を倒した「キセキ」も加わればいい。

「絶対にここは通さない」
高野は挑発的な口調で、そう言った。
赤司なら瞬間移動の力で、ホテル内への侵入も可能だろう。
だが赤司は、高野と阿部を倒そうとするだろう。
プライドが高いと聞いているし、挑発されてスルーはできないはずだ。

高野と阿部は、チラリと蛭魔の方を見た。
先日「伴侶」たちがかまくらを作った残骸の、小さな雪の山。
蛭魔はその上に拡声器を持って、立っている。
そしてその足元には、幼児化してしまったいる瀬那と律、廉がいた。
彼らはそり滑りよろしく、雪を滑って遊んでいる。
桜井と笠松はそれを参考にして、戦いに応用しているようだ。

「おおお!」
阿部が雄叫びを上げながら、赤司につっこむ。
だがそれを読んでいたのか、赤司はスルリと躱してしまった。
そしていきなり高野の前に出ると、思い切り至近距離から念を飛ばしてくる。
不意打ちに受け身も取れなかった高野は、思い切り吹っ飛んだ。

「高野、大丈夫か!?」
阿部が、高野に気を取られる。
その一瞬を、赤司は見逃さなかった。
すぐに阿部の方に向き直り、念を込めた拳を鳩尾に叩き込まれた。
阿部は一瞬呼吸が止まり、その場に膝をついた。

「悪いが、君たちの相手をしている暇はない」
赤司は冷徹にそう言い放つと、スッと姿を消した。
瞬間移動でホテルの中に飛んだのだ。
きっと降旗の気配を追って、一瞬で黒子の元に辿り着いてしまうだろう。

「おい、無事か?」
阿部は何とか立ち上がると、高野に声をかける。
高野は必死に身体を起こしながら「大丈夫だ」と答える。
さすが「キセキ」の頂点の男、他の魔物とは段違いの強さだ。

「火神、頼むぞ」
阿部は呻くように、そう言った。
最後の勝負は火神と黒子に託されたのだった。

【続く】
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