アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】

【冬遊び/かまくら】

「できた、完成~!」
瀬那がはしゃいだ声を上げると、廉と律がパチパチと拍手をする。
すっかり幼い子供に戻った3人は、雪でかまくらを作ることに没頭していた。

黒子や蛭魔たちが京都から戻って、約1ヶ月。
8人の吸血鬼とその「伴侶」総勢16人は、ホテル暮らしをしている。
結局、蛭魔たちは黒子を発見した後、赤司とは会うこともなく、東京へと引き返した。
それは瀬那と廉が、東京に残った律と思念で会話する能力が発現したからだ。
あのホテルが多数の魔物に襲われたことを知った蛭魔たちは、この状態がまずいと察した。
赤司に敵意があり、強大な力を持っていることがわかった。
二手に分かれていてはまずい、とにかく全員が一ヶ所にいるべきだ。
だから車に戻った後、一番魔力の強い青峰の能力で、瞬間移動で東京に戻った。
行きの時には消耗するから嫌だとゴネた青峰も、さすがに文句は言わなかった。

「こうしてると、のどかだな」
青峰は遊び回る伴侶たちを見ながら、欠伸をした。
全員が戻った後「伴侶」たちの日課である散歩が復活した。
だが彼らだけでは危険なので、吸血鬼たちは交代で同伴する。
今回は青峰と火神が「引率」役だ。

皮肉なことに、人間の文明がほぼ絶滅した今、地球は昔の営みを戻しつつあった。
地球温暖化なんて言っていたのは、いつのことだっただろう。
夏は適度に暑く、冬は適度に寒い。
そして冬には雪が降る。
幼児化した3人は、すっかり雪遊びに夢中。
最初は苦笑いしていた残りの「伴侶」たちも、今はすっかりノリノリだ。
そして一致団結して、壮大なかまくら製作に挑んでいた。

青峰と火神は少し離れたところに立って、それを見守っている。
2人の間に立っているのは、黒子だった。
黒子曰く「寒いのは苦手なんです」と、1人だけ雪遊びに加わらなかった。

「なぁ、聞いていいか?」
不意にポツリとそう言ったのは、青峰だ。
火神が「何だ?」と聞き返す。
すると青峰は露骨に不機嫌になり「テメーじゃねぇ!テツにだ!」と叫んだ。
黒子は怒鳴り声に顔をしかめながら「何です?」と、青峰を見上げた。

「お前、本当にこいつの『伴侶』でいいのか?」
青峰は不安でならないという声で、そう聞いた。
火神は「どういう意味だ?こら!」と突っかかる。
だがその心配の意味は、理解していた。
火神は正真正銘、あの惨劇の日には15歳だった。
そしてずっと赤司に結界の中で監禁されていた。
つまり吸血鬼としては、年齢も経験もまったく足りていない。
そんな未熟な火神にかつての「伴侶」を預けることが、不安で不満なのだ。

「いいも何も、仕方ないでしょう。」
黒子はいつものように淡々とした表情で、そう答えた。
そう、見も蓋もないことだが、仕方がないのだ。
すでに黒子の意志に関わらず「伴侶」にさせられてしまったのだから。
だがやはり青峰は不満そうだし、火神は憮然としている。

「幸いにもここにいる他の吸血鬼のみなさんは、能力がすごく高いですし」
「他のヤツ頼みかよ!?」
「いえ、一緒にいれば成長も早いという意味です。それに青峰君」
「何だよ!?」
「君は桜井君のことだけ考えていればいいんです。粗末にしたら承知しませんよ。」
「しねーよ!!」

青峰がそう叫んだところで、かまくらが完成した。
瀬那たちが「くろこ-!」と手招きをしながら、呼んでいる。
黒子は「寒いのはダメなんですが」と肩を竦めながら「伴侶」たちの輪の中へと加わった。
青峰と火神は、子供のように雪ではしゃぐ「伴侶」たちを見守る。
まったくのどかで平和な光景だった。

*****

「まったく信じられないし~」
遠慮会釈もなく、本音を漏らすのは紫原だ。
他の者たちはあからさまに告げることはなかったが、激しく紫原に同意していた。

かわいい「伴侶」たちが、かまくら作りに夢中になっている頃。
主の吸血鬼たちは、暖かいホテルの部屋で、例によってのコーヒータイムだ。
襲撃の後、多少家具が変わってしまったが、特に不都合はない。
全員がどっかりと腰を下ろし、好きな飲み物を味わっている。

「こんな日くらい、散歩は休めばいいのに。」
紫原がまた文句を言う。
そう、わざわざこんな雪が積もった日に外に出ていくのが信じられないのだ。
しかも近所の散歩だから、彼らは自分の「伴侶」とは念で会話ができる。
もちろん普段、何でもないときにわざわざ念で会話などする必要がない。
だが今は雪でテンションが上がっており「雪だるま」「かまくら」などという声が頭に飛び込んでくるのだ。

「まぁまぁ、平和ってことなんすよ、紫原っち」
「だけどわざわざかまくらはないっしょ。」
「俺も今回は紫原に同意なのだよ。まったくいつまでも子供みたいに」
黄瀬と紫原、緑間が、そんな会話を交わす。
聞きようによっては、まるで幼稚園か何かの保護者会だが、阿吽の呼吸はできている。
蛭魔、阿部、高野に長年積み上げた絆があるように、彼ら「キセキ」にもそういうものがあるのだろう。

「廉っちと律っちは、どうなんすか?」
不意に黄瀬は、阿部と高野に会話を振ってきた。
今回の赤司との戦いの中で、劇的に変化したのはこの2人だ。
瀬那のように、時折幼児退行を繰り返しており、その周期は短くなっている。
そして瀬那を含めた3人は、離れていても念で会話ができるようになっていた。

「ああ、今のところは落ち着いている。」
高野がそう答えると、阿部は同意するように頷いた。
幼児退行に関して、彼らは先に瀬那がそうなったのを見ており、覚悟もしていた。
だから思いのほか落ち着いて、受け入れることができるのだ。

「幼児退行は予想してた。だけど念であいつらが会話できるようになるとは思わなかったよ。」
阿部がそう告げると「キセキ」の面々は、ホッとしたような表情になった。
彼らなりに廉や律、そして阿部と高野を気遣っていたのだ。
だからその当人たちの冷静さは、周りの者たちを安堵させていた。

「でもどうして瀬那も、同じタイミングで念で会話ができるようになったんだ?」
「今じゃないのかもしれない」
阿部の言葉に答えたのは、蛭魔だった。
全員がどういうことかと、蛭魔に視線を向ける。
すると蛭魔は肩をすくめて「ただの推測だが」と前置きして、言葉を続けた。

「瀬那は念で会話ができていたが、その相手は同じように幼児退行する者に限定されてた。」
「つまり会話する相手がいなかっただけ?」
高野が補足するように聞き返すと、蛭魔が頷く。
他に幼児退行した者がいなかったからできなかった。
その言葉には大いに説得力があった。

「黒子っちはどうだったんすかね?」
ふと思いついたように、黄瀬がそう言った。
青峰が思い出したこと、そして黒子から聞いた赤司の話。
そこから黒子は実はかなり長い間生きていて、幼児退行を経て今に至っているとわかった。
その経験は、今後の「伴侶」たちの参考になるはずなのだが。

「ダメだ。黒子本人に昔の記憶はないそうだ。」
「まったくないのか?」
「青峰のことを何となく知ってる気がする。赤司に関しても同じだ。その程度の記憶しかない。」
その言葉に全員ががっかりはするが、絶望はしない。
とにかく「伴侶」がどうなろうと、ずっと連れ添うことに揺るぎはないのだから。
根気強く幼児退行や記憶の欠落と付き合っていくしかないのだ。

「とりあえず今の問題は赤司の方だ。そう遠からずここに攻めてくる。」
蛭魔が決然とそう告げると、全員が頷いた。
黒子から聞かされた赤司の野望には、少なからず驚いた。
その是非を論じるつもりはないが、自分たちの「伴侶」を渡すことは絶対に認められない。

「かまくらができたようだな。」
「伴侶」の歓喜の声を感じ取った緑間が、ふとそう呟いた。
この幸せを守るためなら、赤司と戦うことも辞さない覚悟だった。

*****

「どうしても戦わなくてはならないのか?」
降旗は主の赤司にそう聞いた。
赤司はチラリと降旗を一瞥すると「当然だ」と答えた。

「キセキ」と呼ばれる吸血鬼の中で最年長、そして最強の力を持つ赤司。
降旗があの惨劇の日に赤司の「伴侶」になったのは、ほんの偶然だ。
赤司の話によると、黒子は「伴侶」の中でも特別な存在。
以前の「伴侶」に捨てられたのに死ぬこともなく、長く生き続けた。
そのせいかその血の味は普通の人間より美味で、吸血鬼に強い力を与えるのだという。

あの惨劇の日、赤司はこの先のことを考え、黒子を攫いに来た。
だけど黒子は別の吸血鬼の「伴侶」にされてしまう。
しかもその吸血鬼と赤司が言い争っているうちに、黒子は姿を消してしまったのだ。
そこにたまたま居合わせたのが、降旗だった。

「この先も生きたいか?」
赤司は呆然とその場に立ち尽くす降旗に、そう聞いた。
降旗はもちろんコクコクと何度も首を縦に振る。
その時の惨状は今思い出しても、薄ら寒い気分になる。
学校だけでなく、辺りにある建物が全て破壊され、血まみれの死体がたくさん転がっている。
それを目の当たりにした降旗は、首を縦に振るしかなかった。
だがその代償として、降旗はもはや死にたくても自分の意志では死ねない身体になった。

自分がここにいるのは、あくまで黒子の代わり。
「伴侶」なんて聞こえのいい言葉だけれど、実質は赤司の食料に過ぎない。
気を許せる友人もなく、主にだって愛されているわけではない。
これならばあのとき死んでいた方がよかったのかも。
毎日、そんな風に生き続けていたある日、黒子と再会することになったのだ。

黒子と瀬那が火神を連れて脱走を果たしたとき、降旗は赤司より先に黒子たちに追いついた。
すぐそばには、別の吸血鬼の気配が迫っている。
東京から黒子たちを追いかけて来た黒子の仲間たちが、そこまで来ていたのだ。
降旗が念を送れば、すぐに赤司は来るだろう。
だけど降旗はそうしなかった。
赤司が黒子を捕まえたら、今度こそ自分はいらない者になる。
その事実がつらかったからだ。

「降旗君も一緒に来ますか?」
黒子は別れ際、降旗にそう聞いた。
降旗の孤独や苦しみは、黒子には看破されていたようだ。
だが降旗は「行けるわけ、ないだろう」と答えた。
黒子は「伴侶」に捨てられても生き続けたけれど、それは稀有なこと。
降旗は他の「伴侶」のように、主の赤司から離れて生きてはいけないからだ。

「もしもどうしてもつらくなったら、心の中で僕を呼んでみてください。」
黒子はそう言った。
降旗は「それ、どういう意味?」と聞き返す。
だが黒子が答える前に、瀬那が「蛭魔さん!」と叫ぶ。
瀬那の主の吸血鬼が、彼らを迎えに来たのだ。
そして「瀬那か!?」と声が聞こえ、瀬那はそちらに向かって走り出す。
黒子は「また会いましょう。必ず」と言い残して、瀬那を追いかけて行ってしまった。

結局、赤司は黒子たちに逃げられ、今は東京で彼らと戦う準備を進めている。
降旗は何度も「なんとかやめられないのか」と聞いたが、取り合ってもらえない。
それどころか時折血を飲まれる以外は、ほぼ放置状態だ。
赤司は強大な力を持っているが、相手はそれなりに強い者が何人もいる。
どちらが勝つのか、またその後どうなるのかは見当もつかない。

黒子、もうすぐ戦いになる。
不安に駆られた降旗は、声に出さずにそう念じた。
黒子の言う通り、不安でつらかったから、呼んでみたのだ。
それで何が起こるかなんて、まったく考えていなかった。
だがまるで目の前で話されているように、頭の中で声が聞こえたのだ。

降旗君、大丈夫です。きっとうまくいきますから。
確かに黒子の声が、きっぱりとそう答えたのだ。
それは遥か東京から黒子が答えてくれたのか、それとも都合のいい幻聴なのか。
たった1人で孤独に耐える降旗には、まったく見当がつかなかった。

*****

「すごい。ちゃんとかまくらですね。」
瀬那に手招きされた黒子は、出来上がったかまくらの中に入ってみた。
7人がかりで作られたかまくらは、かなり頑丈な作りになっている。
しゃがんで身を寄せ合えば「伴侶」8人、全員入ることができた。

懐かしい。
黒子はふとそんなことを思う。
何千年も昔、黒子がただの人間だった頃、貧しくて家もなくて、雪でかまくらを作って過ごしたことがある。
寒いのが苦手なんて嘘だ。
その頃のことを思い出すのが嫌だから、かまくら製作には参加しなかった。

そう、黒子は昔のことを少しずつ思い出していた。
青峰とのこと、そして遥か昔に赤司に会っていたことも。
だが全部を思い出したわけではなく、まるでまだら模様のようにあちこちが抜けている。
だから黒子は、何も思い出していない振りをしている。
別に隠すつもりも、勿体をつけるつもりもない。
ただ思い出したのは、つらい過去ばかりで、この状況を有利にするような情報はない。
なにかみんなのためになるような情報を思い出したら、話すつもりだった。

黒子、もうすぐ戦いになる。
不意に黒子の頭の中に、降旗の念が発する声が聞こえた。
瀬那たちが幼児化してから、彼ら3人は念で会話ができるようになった。
実は黒子にもそれができる。
さらに黒子は、他の「伴侶」たちの声も聞こえた。
心を読めるというものではなく、あくまで黒子に向けられた声が聞こえるというだけだが。
これは別に隠すつもりはなく、聞かれなかったので言わないだけだ。
だから降旗にだけ「つらかったら呼んで」と告げた。
最強の吸血鬼、赤司の「伴侶」である降旗は、何だかひどく寂しそうに見えたのだ。

降旗君、大丈夫です。きっとうまくいきますから。
黒子は目を閉じて、きつくそう念じた。
すると降旗が「本当に黒子?」と驚く声が聞こえてきた。
呼んでおいて驚くとは、さては信用されてなかったらしい。
きっとダメ元的な感じで、試みたのだろう。

はい。黒子です。
こちらはすごい雪ですよ。京都はどうですか?
黒子はかまくらの中で目を閉じながら、そう念じてみた。
すると「マジで?こっちは相変わらず。赤司の術で紅葉が綺麗だ」と答えが返ってきた。
その声は、先日京都で会った時とは違う。
それは遥か昔、何も知らない高校生だった頃を思い出す。
当時はクラスメイトで、一緒に図書委員をしていた。
そのときにどうでもいいような話をしていたときと同じ口調だと思う。

赤司が呼んでるから行くね。また話しかけてもいい?
降旗がそう言ったので、黒子は「もちろん。待ってますよ」と答えて、会話を終えた。
こんな風に仲良くなれば、赤司の状況も聞き出せるかもしれない。
黒子はふとそんなことを思ったが、すぐに違うと思い直した。
そんなスパイみたいなことをして、数少ない友人を騙したくなかった。

蛭魔たちと赤司が戦って、もしも吸血鬼の誰かが殺されるようなことがあれば。
その「伴侶」もおそらく死ぬことになるだろう。
蛭魔たちが勝って赤司を殺せば、おそらく降旗も死ぬ。
そんな風にならないように、誰も死んだりしないように。
そのために自分ができることは何なのか、黒子はずっと考えている。

「黒子君、どうしたの?」
ずっと目を閉じて、降旗と会話していた黒子は、声をかけられて我に返る。
慌てて目を開けると、氷室が心配そうに黒子の顔を覗き込んでいた。
そして他の伴侶たちも全員が、黒子を凝視している。
どうやら彼らの会話に加わらず、目を閉じて固まった黒子に驚いたらしい。

「すみません。ちょっと考え事をしていました。」
黒子はかまくらの中の「伴侶」たちを見回すと、微かに口元を緩ませた。
一見不愛想だが、黒子にしては最上級の笑みだ。
それを知っている「伴侶」たちは、全員満面の笑みを浮かべ、かまくら遊びを楽しんだ。

【続く】
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