アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】

【秋遊び/落ち葉ダイブ】

この崩壊した世界の王として、君臨する。
それが赤司の現在の目標だった。

赤司征十郎は、この地球上で一番長く生きている。
そして長い長い歴史を、ずっと見守ってきた。
一見人間のような姿形をして、でも人間を餌として生きる吸血鬼。
必然的に人間とは深いかかわりを持たざるを得ない。
それなのに、いやそれだからこそというべきか。
赤司は吸血鬼の方が、人間よりもはるかに優れた種であるという信念を持っている。
だからこそ人間社会の中にまぎれて生きてことに、屈辱を感じていた。

その気になれば、人間を滅ぼすこともできなくはない。
だがそうなればきっと、今度は魔物同士の利権争いになるだろう。
吸血鬼や人食い鬼、または「気」を食らう物の怪などが生き残った人間の争奪戦を始める。
それはそれでやっかいなことだ。
それならばこのまま、不本意でも人間社会の中で生きるのが無難だろう。

だから赤司の「人類滅亡計画」は、もっぱら想像の中での遊びだった。
人間を滅ぼしても、全員を殺しては吸血鬼は死んでしまう。
何人かは残して、餌としてきちんと管理しなければならないだろう。
それができれば、人間を食らう鬼たちは勝手に滅びる。
残った魔物は吸血鬼と、細々と植物の気などをを吸って生きる弱者だけ。
最後に吸血鬼たちの間にしっかりと秩序を浸透させれば、赤司の王国が完成する。
あくまでも遊び、妄想であり、決して実現することはない。
赤司はそう思っており、実際に自分から人類に何かを仕掛けるつもりはなかった。

でも平和な日々は唐突に終わりを告げた。
人間たちは、勝手に土地に境界線を引き、利権を求めて争った。
危険な兵器を使い、壮絶な殺し合いを演じたのだ。
赤司にしてみれば、まったく愚かしい。
だが彼らは赤司の意思とは関係ないところで、滅亡しようとしていた。

そして訪れたあの惨劇の日。
核保有国は、ついにミサイル発射のボタンを押した。
世界中の空に爆撃用の無人機が放たれ、世界はほぼくまなく壊滅状態に陥ったのだ。
こうしてあっけなく赤司の妄想は、妄想でなくなったのだ。

この時たまたま東京にいた赤司は、すぐに行動を起こした。
おそらく人類は滅亡する。その前に手に入れなければならない。
かつて青峰大輝の「伴侶」であり、放逐されたのに死ぬことなく生き残った人間。
死なずに生き残ったことで、その身体も血も変貌を遂げた存在。
だがその代償に記憶を失い、15歳の高校生として生きている。
彼の名前は黒子テツヤ。
当時人間が魔物の管理を目的に作っていた組織で、稀有な存在として監視されていた。

だから迂闊に手を出せなかったが、今ならもう誰も赤司を咎めることもない。
だが今度こそと思ったのに、あの火神という若い吸血鬼に目の前でかっさらわれたのだ。
そして今、赤司の前に現れた黒子は火神と共に逃げようとしている。

「絶対に逃がすな!」
赤司は今までに制圧し、部下にした吸血鬼たちにそう命じた。
今度こそ絶対に逃がさない。やり遂げる。
そしてこの崩壊した世界の王として、君臨する。
それが赤司の現在の目標だった。

*****

「それで赤司君に負けて、何百年も監禁されるハメになったんですか!?」
黒子は呆れたように、そう言った。
火神は憮然とした表情で「うるせーよ」と答えた。

黒子と火神が選んだのは、赤司との対決ではなく逃走だった。
赤司の力は強大な上、何人もの魔物を従えている。
火神1人ではとても勝ち目がない。
いや、火神本人は「無理でも何でもやる!」と1人で意気込んでいる。
だが黒子は「冗談じゃありませんよ」と一刀両断だ。

2人だけなら賭けに出てもいいが、瀬那もいるのだ。
もしも瀬那に万一のことがあったら、蛭魔に合わせる顔がない。
しかも火神と再会した直後、瀬那はまた幼児になってしまったのだ。
人格が入れ替わった瞬間、瀬那は大柄な火神の迫力のある人相に驚き、パニックを起こした。
クルリと背を向けて、全力で走り出したのだ。
だが足がもつれて盛大に転び、落ち葉の中にダイブしてしまった。

「大丈夫です。顔は怖いけど、いい人です。多分。」
黒子が懸命に宥めて、何とかパニックは収まった。
それでも火神が怖いのは、どうにもならないらしい。
だから黒子が手を繋いで歩いている。
とてもじゃないけど、戦う雰囲気じゃない。

結局逃走というよりは、散歩という感じで歩くことになった。
赤司が無駄にこの辺りを風情たっぷりにしており、美しい紅葉風景になっているのだ。
手持ち無沙汰な黒子と火神は、あの惨劇の日から今までのことを語ることになった。
もっとも黒子の方は、気が付くと「伴侶」にされて、主を捜して歩いていたということしかない。
だが火神の話で、いろいろと謎が解けることになった。

「あの爆撃で、学校が破壊されただろ?お前もケガしてたし。」
「それで意識が朦朧としていた僕を勝手に『伴侶』にしたんですね?」
「ああ。その直後に赤司の野郎が来た。『キセキ』の『伴侶』に手を出すなんて千年早いって言われた」
なるほどと黒子は納得した。
あのとき確かに「キセキ」と聞いた気がしたのは、そういうことだったのだ。

「それで赤司君は代わりに降旗君を『伴侶』にしたってわけですね。」
「ああ、人間が全部死に絶える前に、食料を確保しないと」
「火神君もそうだったんですか?」
「は?」
「僕は都合のいい餌でした?」
「・・・それは否定できねぇ。だけど誰でもよかったわけでもねぇよ。」

ぶっきらぼうにそう告げた火神は、耳まで赤くなっている。
それを見た黒子は鷹揚に「それなら許します」と答えた。
2人の間の空気が、一気に熱を帯びる。
何百年振りに再会した主と「伴侶」の甘い雰囲気。
だがそれは一瞬のうちに破られてしまった。
ガサガサと落ち葉を踏み鳴らす足音が、一気に近寄ってきたからだ。

「蛭魔さんたちならいいんですけど。」
「赤司だったら、最悪だな。」
黒子と火神は瀬那をかばうような形で間に挟んで立ち、静かに身構えた。
2人の会えなかった時間を埋めるのは、後回しだ。

*****

「かなり近いな。瀬那の気配を感じる。」
「だな。わずかだけどテツの気配も感じるぜ。あともう1人、中途半端な吸血鬼の『気』もな。」
蛭魔と青峰が短く言葉を交わすと、一気に走り出した。
だが青峰は一瞬だけ立ち止まると、阿部に目配せをする。
阿部はため息をつくと、廉と桜井に「俺から離れるな」と言った。

車を降りて、歩くこと約30分。
何だかひどく風情のある場所に出た。
色とりどりの落ち葉が、まるで絨毯のように地面に敷き詰められている。
これがあの惨劇の前なら、風情ある京都の光景だと思うだろう。
だけど今は、赤司のテリトリーに飛び込んだという警戒感しかない。
荒廃した街の中で異彩を放っており、季節感もおかしい。
どう考えても、赤司が魔力で作り上げた空間だとしか思えなかったからだ。

「青峰はお前のことを、ちゃんと『伴侶』だと思ってるぞ。」
阿部はずっと元気のない桜井に、そう声をかけた。
主である青峰は、ずっと黒子のことを気にかけている。
それが心配なのだろう。

だけど阿部は、それは杞憂だと思う。
青峰の心はちゃんと桜井の方を向いている。
あのホテルで他の「伴侶」たちと話している桜井を見る時は、目の奥が笑っていた。
それに蛭魔と一緒に走り出す前も、ちゃんと阿部に「桜井を頼む」と目で合図を送ってきたのだし。

「そうでしょうか?僕には青峰さんの気持ちは黒子君に向かってるように見えるけど」
「かつての『伴侶』が現れて、そりゃ気にはなる。でもそれだけだ。」
「どうしてそんなこと、言えるんです?」
「あいつは黒子に気持ちが戻ったなら、はっきりそう言うタイプだろ?」

阿部の言葉に、桜井が驚いた顔になった。
だがすぐに「確かに、そうかも」と呟く。
そう、良くも悪くも青峰は、素直な性格なのだ。
黒子を選んで、桜井を捨てる気ならば、きっぱりとそう宣言するだろう。

「もしも青峰がお前の方がいいっていうなら、お前の方から捨ててやれ。」
「僕が、ですか!?」
「そう。今は人間の数が少ない。だから吸血鬼にはモテまくるぞ。」
「・・・まさか」
「ああ。まぁそもそも青峰がお前より黒子を取るのはありえないけど。」

阿部がそう言ってやると、桜井はようやく笑顔になった。
そして「ありがとうございます。元気出ました」と頭を下げる。
すると前方から蛭魔が「いたぞ、こっちだ!」と叫ぶ声がした。
どうやら黒子と瀬那が見つかったらしい。

「俺たちも行こう。」
阿部が小走りになり、桜井が追おうとすると、後方でガサっと大きな音がした。
驚き、振り返ると、廉がつまづいて転び、盛大に落ち葉にダイブしたところだった。
阿部が足を止めると、苦笑しながら「廉、平気か?」と手を差し伸べる。
廉は前のめりに転んだまま、その手と阿部を比べるように交互に見る。
そして「だぁれ?」と幼い子供のような表情と声で、問いかけてきた。

「まさか、廉君も?」
桜井が思わず声を上げてしまう。だが間違いない。
瀬那や律を襲った幼児退行が、廉にも牙を剥いたのだ。

*****

「大丈夫かい、律君。休んでてもいいんだよ?」
動き回る律に声をかけたのは、紫原の「伴侶」氷室だ。
だが律は「動いていた方が気がまぎれるんだよ」と笑った。

ホテルに残った4人の吸血鬼、そしてその「伴侶」たちは、実に地味な仕事をしていた。
それは襲撃によって、荒らされてしまったホテルの後片付けだ。
壊されたソファやテーブル、カーテンなどを他の開いている客室のものと交換するのだ。
最初はロボット従業員に頼んでみたのだが、どうやらそういう機能はないらしい。
だから自分たちで空室を回り、家具を揃えることになったのだ。

「何か、すこしチャチいよ~」
紫原が文句を言う。
だがそれは仕方のないことだ。
この部屋はこのホテルで一番高価な部屋で、家具だって最高級品が揃っていた。
他の部屋のものと差し替えれば、当然少しは安っぽくなる。
それでも破れたカーテンやら割られた花瓶やら、全員がホテル内に散り、家具類をかき集めた。

「大丈夫かい、律君。休んでてもいいんだよ?」
動き回る律に声をかけたのは、紫原の「伴侶」氷室だ。
だが律は「動いていた方が気がまぎれるんだよ」と笑った。
短い時間だったが、幼児退行してしまった律を、みんなが案じてくれている。
だが律は、あえて気にしないことに決めていた。
気にしたって、何もいいことはない。
落ち込んでしまうし、周りに心配をかけるだけ。
そもそもこの状況下で、気にしている場合ではない。

一行は京都に向かわないことに決めていた。
赤司がどれだけの魔物を従えているかわからないが、分かれて戦うのは得策ではない。
そして決戦の場に、京都はまずい。
何とか撃退したとはいえ、あれだけの数の魔物を送り込んできたのだ。
迂闊に赤司のテリトリーに踏み込むのは、危険だ。

先行した蛭魔たちも、赤司の力の強大さには気づいているはずだ。
全員が合流できなければ、きっとここへ戻って来る。
そこで全員揃ってから、体勢を立て直すのが正解だろう。

そうと決まれば、部屋を綺麗にするのが、最優先事項だ。
京都遠征組はきっと疲れて帰って来るに違いない。
それならばせめて過ごしやすいように、部屋を整えておく。
だから律は率先して、家具や調度品を運んでいた。

「ちょっと雰囲気は変わったけど、これはこれでいいよね?」
律は氷室にそう問いかけると、氷室も「いいと思うよ」と笑った。
高尾が「むしろ前よりよくねぇ?」と言い、笠松が「問題ない!」と断言する。
どうやら片づけは終わった。
だがその瞬間、律は不意にガサガサと落ち葉を踏み鳴らすような音を聞き取った。

「何、この音?」
驚き、辺りをキョロキョロ見回すが、どこにも落ち葉などない。
そもそも片づけが終わった部屋は静かで、物音がほとんどしていなのだ。
だが次の瞬間、目の前に見事な紅葉風景が見えた。
その中をまるで走っているように、景色が流れて飛んでいく。
そして勢いよく転倒し、視界がグルリと反転し、落ち葉の中へダイブする。
律はつられるように、律は床にもんどりうって倒れた。
だが次の瞬間、見慣れた顔の者たちが、顔を合わせているのがわかった。

「律、大丈夫か!?」
異変に気付いた高野が駆け寄ってきて、律を抱き起してくれる。
律は困ったように高野を見上げて、目をパチパチと瞬かせる。
だがすぐに何が起きたのかを理解した。

「黒子君と蛭魔さん、合流できたみたいです。」
律は静かにそう告げた。
おそらく今見たのは、瀬那か廉の視点だ。
幼児退行と関係あるかどうかわからないが、律には新たな能力が備わったらしい。

高野が信じられないという表情で、律を凝視している。
だが律は淡く微笑んで「心配いりません」と告げた。

【続く】
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