アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】

【秋遊び/影踏み】

何なんだ、この2人。
瀬那はただただ呆れるしかなかった。
何百年の時を経て、ようやく再会を果たした2人にしては、雰囲気がおかしすぎる。

「僕が必死に主を捜している間、君はずっとここにいたんですか?」
「そうだけど」
「何やってんですか。このヘタレ。こっちがどれだけ大変だったか。」
「何度も破ろうとしたけど、赤司の結界は強力だったんだ!」
「こんな非力な主だと思うと、情けなくなります。」
「はぁぁ!?」
「そもそもあのとき、意識が朦朧としていた僕を無理矢理『伴侶』にしましたね?」
「まぁ、必死だったからな。」
「必死なら、騙してもいいんですか?」
「お前、文句しか言わねーのかよ!!」

ようやく見つけた黒子の主、火神大我。
2人が向き合った時、瀬那はロマンチックな展開を期待した。
だけどそれは見事に裏切られることになった。
何百年振りの再会は、そんなブランクを感じさせないほど、テンポが良かった。
だが期待したような甘い雰囲気はまったくない。
まるで、10代の男子学生がふざけあっているようなノリだ。

「え~と。確認しておきたいんですが、火神君は強いですか?」
「何だ、テメーの主を信じねーのか!?」
「いや、信じるとかそういう問題でもないです。」
「俺が弱いわけねーだろ!?」
「火神君の主観もどうでもいいんです。」
「失礼だな、お前。」
「黙って聞いて下さい。多分すぐに赤司君に気付かれます。1人で赤司君に勝てますか?」
「・・・それは」
「もうすぐ瀬那君の主の蛭魔さんが来ます。彼を待った方がいいのかどうか。それを聞きたいんです。」

「あはは!」
黙って2人のやり取りを聞いていた瀬那は、笑い出してしまった。
何人もの吸血鬼とその「伴侶」を見てきたが、こんなのは見たことがない。
すると火神はバツが悪そうな表情になった。
そして言い訳がましく「だって仕方ねーだろ」と呟く。

「黒子は俺よりもはるかに年上なんだからな。」
火神がそう告げると、瀬那は「え?」と聞き返した。
黒子が以前に語った身の上は、あの惨劇の日に高校1年だったということだ。
火神よりもはるかに年上なんて、あり得ない気がするが。

「以前瀬那君たちに話したのが、僕の記憶の全てです。でも本当は違うみたいですね。」
つまり黒子はあの惨劇の遥か以前に生まれているが、その記憶がないということらしい。
瀬那はにわかに混乱するが、すぐに考えるのは後にすることにした。
物々しい気配が、この部屋に近づいて来たからだ。
どうやら赤司が、瀬那と黒子の脱走に気付いたようだ。

*****

「大丈夫か?」
ベットの上で目を覚ました律は、心配そうにのぞき込んでいる高野と目が合う。
一瞬で我に返って慌てて身体を起こそうとしたが、高野に肩を押さえられ「まだ寝とけ」と言われた。

そして律は今、ベットに寝かされている。
ホテルのスィートルーム、高野と律が寝室として使っている部屋だ。
リビングはかなりメチャメチャになってしまったが、ここはまったく無傷だった。
もしかして大勢の魔物に襲撃されたのも夢かと思うくらい、いつも通りの光景だ。
他の者たちは部屋にはいないが、なにやらボソボソと話し声がする。
きっとリビングの方にいるのだろう。

大勢の魔物が襲撃してきたことは覚えている。
高野と「キセキ」の吸血鬼たちは、圧倒的な力でそれらを倒していった。
律も他の「伴侶」たちを守りながら、魔物と戦った。
吸血鬼たちは強かったが、襲ってきた魔物たちは何しろ数が多かった。
「伴侶」の中では戦い慣れているから、そのくらいはせめてそのくらいはしなければと思った。

だがその辺りから、記憶が飛んでいた。
とにかく今までにないくらい必死で魔物を倒し続けて、次第に疲れてきたのは覚えている。
そしてついに倒れてしまい、笠松に「あとはまかせろ」と言われた。
その後、すぐに意識を失ったわけではないはずだ。
誰かが律を抱き留めてくれて、何か話をしたような気がする。
だけどどうしてもそれが思い出せず、ひどく不安な気持ちだった。

「みんな無事ですか?」
「ああ。みんな元気だ。お前が頑張ったからな。」
律はまず最大の不安である他の「伴侶」たちの安否を確認する。
高野は笑顔で大丈夫と請け合ってくれたので、まずは一安心だ。
律はホッと胸を撫で下ろして、次に気になることを聞いた。

「俺、倒れた時、何か言いました?」
律は記憶が飛んでいるときのことを、高野に問う。
すると高野は「何も言ってないけど」と答えた。
その表情はまったく普段と変わらない。
どうやら夢だったらしい。
律は高野の表情を見て、律はそう思った。

「倒れている間、小さい子供だったころの夢を見ました。誰かと影踏みをして遊んだりして。」
律は笑顔で高野にそう告げると、微笑する。
だがそれを聞いた途端、高野の顔がかすかに引きつった。
まるで綺麗な笑顔の仮面に、ピシリとヒビが入ったように。
それを見た律は「まさか」と声を上げた。

「俺も幼児退行したんですか?瀬那みたいに?」
律が思わず声を上げると、高野が「大丈夫だ」と手を握ってくれる。
だがいくらしっかりと握られても、震えが止まる気配はなかった。

*****

「何か、物々しいな。」
阿部がポツリとそう呟いた。
かつては風流な観光地として有名だった街は、今や魔物の巣窟となっていた。

「もうそんなに遠くないぜ。赤司の気配をしっかり感じるからな。」
先に京都入りした6名の中で、唯一赤司と会ったことがある青峰がそう言った。
蛭魔も阿部も魔の「気」が溢れる中で、一際大きな「気」を感じている。
おそらくこれが青峰の言う赤司の気配だろう。
これならば、赤司のところに辿り着くのに、問題はなさそうだ。

「とりあえずここから歩こう。」
蛭魔はそう声をかけると、車をとめてエンジンを切った。
魔物が多く徘徊しているので、車は目立って仕方がないのだ。
これならば他の魔物にまぎれて進んだ方が、トラブルなく進めそうだ。

「じゃあお前ら2人は、気配を変えとくか」
青峰がそう言って、廉と桜井に向かって、手をかざす。
2人の人間の気配を消して、魔物の気配に偽装する術をかけたのだ。
何しろ人間は貴重な食料、バレてしまえば襲撃されるのは目に見えている。
だからこうして術で誤魔化すのだ。

「俺と青峰が先に歩く。廉と桜井はその後ろ。阿部はケツを持て。」
蛭魔の指示に全員が頷き、その通りに歩き出す。
時折吸血鬼らしき魔物とすれ違うが、チラリと見られるだけで、やり過ごしていく。
これならさしたるトラブルなく、赤司のところに辿り着けるだろう。

「黒子はお前の『伴侶』だったって言ったよな。だったら何で生きてるんだ?」
蛭魔は歩きながら、隣の青峰にそう聞いた。
人間が吸血鬼の「伴侶」になれば、不老不死になる。
だがその逆で「伴侶」でなくなれば、死んでしまうと思われている。
事実蛭魔は「伴侶」でなくなったために、死んでしまった人間を何人も知っている。

では何を持ってして「伴侶」でなくなったいうのか。
これはなかなか微妙で、かつ謎の多い部分だった。
基本的には、主の吸血鬼の愛情がなくなったときだと言われている。
主の「気」や「生命力」を分け与えられて生きているから、愛が冷めれば死んでしまう。
だから青峰が別の「伴侶」を持ちながら、かつての「伴侶」が生きているというのは矛盾している。

「さぁな。何で生きてるのかは知らねぇ。」
「いいかげんだな。」
「だけど現にテツは生きてる。もしかしたらあいつもまた『キセキ』なのかもな。」
「きわめて稀なケースってことか」

蛭魔と青峰がもっぱら話をしながら進み、残りの3人は黙ったまま後に続いた。
だがここまで話した青峰は急に歯切れ悪く「あのよぉ」と言う。
それは蛭魔が思わず「何だ」と強めに聞き返してしまうほど、この男らしくなかった。

「俺がテツを捨てたあの頃、テツはお前の『伴侶』みたいだったぜ。」
「瀬那のことか?」
「そうそう、瀬那だったな。テツも別れ際はあんな感じだった。子供に返っちまったみたいな。」
「まさか。幼児退行か?」
「ああ。いきなりガキみたいになって、訳わかんなかったぜ。」

青峰の言葉に、後ろの廉が思わず「それ、って」と声を上げてしまう。
だがその後は何も言えずに、黙り込んでしまう。
黒子もまた幼児退行の経験者で、今は昔の記憶をすっかり失っている。
もしもそれが主の愛情がなくなったことによるものなら。
蛭魔の瀬那への愛情も、冷めかけているということになってしまう。

5人はそれきり無言だった。
ただ黙ったまま、赤司の気配を追って、歩き続けた。

*****

「あの律って子も、そろそろ終わりってことかな。」
紫原が床に座り込んで、甘いカフェオレをすすっている。
他の者たちもコーヒーや紅茶などのカップを持って、床で輪になっていた。
ソファが壊されてしまって座れないので、直接床に座るしかないのだ。

蛭魔たちを追って京都に向かうはずだった後続組は、予定外のコーヒータイムを過ごしていた。
ようやく車の準備が出来て、出かけようとしたところへあの襲撃だ。
とりあえず襲ってきた魔物を蹴散らしたものの、さすがに疲れた。
それに他の「伴侶」たちを守って戦った律は、倒れてしまった。
だからとりあえず律の回復を待って、仕切り直すことになったのだが。

気になるのは、倒れる直前の律の挙動だった。
まるで小さな子供のような顔つきに変わり、主である高野に「だぁれ?」と舌っ足らずに声をかけた。
そして全員を見回すと「影踏み遊びをしよう」などと言い出した。
もしもそのまま意識を失わなければ、本当に影踏みをやり出しかねない雰囲気だった。

結局眠ってしまった律はベットルームに運ばれ、高野はそれに付き添っている。
リビングでコーヒータイムを過ごしているのは、残りのメンバー。
黄瀬、緑間、紫原とその「伴侶」の笠松、高尾、氷室だ。

「そろそろ終わりってどういうことなんだい?」
紫原に聞き返したのは、その「伴侶」の氷室だった。
すると紫原は「命」と素っ気なく答える。
そしてロボットのメイドに「カフェオレ、もう1杯」と叫んだ。

「吸血鬼の『伴侶』は不老不死。だけどそれは身体だけだ。脳だけは年を取り続けるのだよ。」
「それが進むと瀬那っちみたいに幼児退行しちゃうんすよ。」
「または主の愛情が冷めると、急激にそれが進むという説もあるのだよ。」
「瀬那っちはどっちなんすかね。それに律っちもその兆候が出始めたようだし。」

紫原の端的な言葉を受けて、緑間と黄瀬が補足のように説明してくれる。
まるで世間話のような軽い口調だが、内容は衝撃的だ。
瀬那と律に起きたことなら、いずれ他の「伴侶」たちにも起きないとは限らないのだ。

「なぁ、もしもその症状が出たら、死が近いってこと?」
何となく沈んだ空気の中で、果敢にそう聞いたのは高尾だった。
氷室と笠松もすがるような目で、主たちを見た。
瀬那や律がもうすぐ死ぬなんて、考えたくない。

「死んでしまう者も多い。だが例外はいるのだよ。」
「例えば黒子っちっすよ。多分幼児退行した後、記憶を失って、それでも生きてる。」
「間違いないだろうね~」
緑間と黄瀬の言葉に、会話から抜けたはずの紫原が入ってきた。
「キセキ」と呼ばれる吸血鬼たちは、黒子という存在をそんな風に考えているのだ。

「だからきっと赤司は黒子を欲しがっているのだよ。」
「主がなくても死なない『伴侶』なんて、エサとしては便利っすからね。」
「俺、もう1杯、甘いカフェオレ~」
吸血鬼たちは明るい口調で、殺伐とした話題と共にコーヒーを飲む。
それは襲撃で荒れ果てた部屋と相まって、何ともシュールな光景だった。

「とりあえず瀬那君と律君には死んで欲しくないな。」
氷室がそう言いながら、カップに残ったコーヒーを飲み干した。
笠松も高尾もそれに同意しながら、高野たちの寝室のドアに何度も視線を送った。

【続く】
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