アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】
【秋遊び/木の実工作】
「この子は何をしてるんだ?」
降旗は不思議そうに、瀬那の手元を見ている。
黒子は「多分、木の実工作でしょう」と答えた。
赤司と対面した後、黒子と瀬那はそのまま赤司の家に滞在している。
出て行こうとしたら、どうなっているのかはわからない。
どうやらこの界隈には赤司の軍門に下った吸血鬼たちが、何人もいるらしい。
脱走すれば、そいつらに捕えられるのかもしれない。
もしくはそのまま野放しにされるのかもしれない。
なぜなら赤司は他の吸血鬼たちを少しも恐れていないからだ。
仮に蛭魔や他の「キセキ」の吸血鬼たちに襲撃されても、一蹴できると思っているようだ。
だからこそ黒子たちを人質にするようなことはしそうもない。
それどころか逃げてもまた簡単に捕えられると考えているのだろう。
そして黒子はまだここでやりたいことがあった。
赤司の戦力、つまり赤司が従えている吸血鬼たちがどれくらいいるのか知ること。
そしておそらくはここにいるであろう自分の主と再会すること。
その他にもとにかく戦うための情報を、1つでも多く欲しい。
それならばしばらくここにいるのが、正解なのだろう。
「瀬那君、楽しいですか?」
黒子は相変わらず幼児のまま、1人で遊んでいる瀬那に声をかけた。
瀬那は「はい!」と答えながらも、黒子の方は見ない。
ここにくる途中で拾ったどんぐりに、細く削った木の枝を突き刺している。
時々「犬!」とか「猫!」などと叫んでいるから、どうやら動物を作っているらしい。
純日本家屋の畳の部屋で、どんぐりや木の枝で遊ぶ様子は何とも風情のある雰囲気だ。
黒子の頭にふと「レトロ」という言葉が浮かんだ。
「この子は何をしてるんだ?」
降旗は不思議そうに、瀬那の手元を見ている。
黒子は「多分、木の実工作でしょう」と答えた。
ここに滞在する間、黒子と瀬那の相手をしてくれるのは、赤司の「伴侶」の降旗だ。
黒子と並んで畳の上に腰を下ろし、黙々と木の実工作に励む瀬那を見ている。
「それにしても本当に久しぶりですね。それにすごい偶然です。」
黒子は降旗の方に向き直ると、そう告げた。
だが降旗は「偶然じゃないよ」と皮肉っぽい笑みを浮かべた。
黒子は「え?」と思わず聞き返しながら、降旗から感じる違和感に戸惑った。
黒子と降旗がかつてクラスメイトであり、何百年の時を経て、こうして再会したこと。
降旗はこれが偶然ではないという。
だがおそらく黒子が感じる違和感はそのことではなく、降旗の表情だ。
そんなに親しくはしていなかったし、随分昔のことではある。
だが降旗は明るい性格で、クラスでもいつも楽しそうに笑っていたような気がする。
だからこそ暗い表情や皮肉っぽい笑みに違和感を感じるのだ。
「赤司はあの日、君を『伴侶』にするつもりだった。だけど先を越されたんだ。」
「僕の主に、ですか?」
「そう。だから仕方なく俺を『伴侶』にしたんだよ。」
「・・・信じられません。僕が赤司君と会ったのは初めてで」
「黒子が覚えていないだけだ。黒子は特別なんだよ。それに瀬那君も、ね。」
特別。その言葉に棘を感じる。
降旗は黒子に嫉妬し、敵意を持っているのだ。
赤司の手前、それをはっきりと示すことはないが、どうしても言葉の端々に出てしまう。
だが黒子はあくまでも無表情のまま「もっと教えてください」と言った。
*****
「ったく、もっと飛ばせねーのかよ!」
背後から盛大に文句を言うのは、青峰だ。
蛭魔は「これで精一杯だ!」と叫びながら、アクセルを踏み込んでいた。
蛭魔たちはようやく最初の車の準備を終えた。
何しろ7人の吸血鬼と6人の「伴侶」総勢13名の移動なのだ。
一番大きな車でも、全員が乗りきれない。
最初に準備ができたのは、水素電池車だ。
ごく普通の乗用車で、乗れるのはギリギリ5人。
残りの8人はガソリン車のワゴンでの移動になる。
では最初の5人は誰にするのか。
一刻も早く「伴侶」の瀬那を迎えに行きたい蛭魔は、まず確定だ。
その蛭魔としては、かつて何度も共に戦った阿部と高野を連れていきたいところだ。
気心が知れている分、不測の事態に対応しやすい。
阿部と高野、そして彼らの「伴侶」の廉と律を乗せれば、ちょうど5人になる。
だがどうしても先行の車に乗りたいと言い出したのが、青峰だった。
青峰は過去に黒子と関わりがあるようで、その分黒子に執着していたからだ。
そこで蛭魔と青峰と阿部、そして「伴侶」桜井と廉が先行。
残りの8名は、遅れて出発することになった。
かくして蛭魔が運転する車は、京都に向かって疾走している。
途中の道路は荒れているが、障害物を魔力で排除しながらの強行だ。
「なぁ、お前らは別に車を使わなくても、行けるんだろう?」
蛭魔は巧みにハンドルを操作しながら、そう叫んだ。
そう、蛭魔や阿部や高野の魔力では、遠い距離を一気に飛ぶことはできない。
だからこうして車での移動を選んだのだ。
でも青峰たち「キセキ」と呼ばれる吸血鬼の魔力は強大だ。
自分たちを一瞬で京都まで飛ばせるのではないか。
「できなかねーけど、ダリィだろ」
青峰は平然とそう言い放った。
そう、できないことはないけれど、それなりに魔力は使うのだ。
到着した時に消耗していたくないということなのだろう。
だがそれにしても態度がデカい。
運転は面倒、後部座席は狭くて嫌だと助手席を陣取り、蛭魔にもっと急げと喚いている。
「なぁ、青峰。お前、どこで黒子と知り合ったのか、まだ思い出せないのか?」
阿部が後部座席から、青峰に声をかけた。
すると青峰は「う~ん」と不満そうに呻く。
「本当にあいつ、あの惨劇の日に高校生だったのか?」
「本人はそう言っているが」
「だけど絶対あいつには会ってるし、会っているとしたらその前なんだよなぁ」
「つまり黒子が嘘を言ってるってことか?」
「き、き、記憶、が、狂ってる、かも。」
青峰と阿部のやり取りに、廉が口を挟んだ。
その言葉に阿部も青峰も桜井も、運転している蛭魔まで廉を凝視する。
だが廉には根拠があった。
「瀬那、も、最近、記憶、曖昧に、なってる。黒子、君、も、もしかして」
「黒子もすごく長く生きていて、昔の記憶がなくなっているってことか?」
廉の足りない言葉を、主の阿部が補ってくれる。
言いたいことをうまく変換してもらった廉は「うんうん」と何度も首を縦に振った。
「確かにない可能性じゃねーな」
蛭魔が再び、視線を前に向けると、力いっぱいアクセルを踏み込む。
車はスピードを上げて、京都を目指していた。
*****
「ったく、まだっすかぁ?」
「遅いのだよ」
「早くしてよ~」
黄瀬と緑間と紫原が、文句を言う。
高野は「うるせーよ!」と叫ぶと、ウンザリとため息をついた。
蛭魔たちが先に出発して、2時間。
高野は残りの者たちを運ぶワゴン車の準備をしていた。
と言っても、実際には待つだけだ。
往復分の燃料を精製し、それを積み込んだら出発だ。
「昔はガソリンスタンドなんてありましたよね。」
ホテルの部屋で待ちながら、ふとそんなことを言い出したのは律だ。
すると笠松が「何だ、それ?」と聞き返す。
笠松が生まれた頃には、もう地球上の原油はすべて枯渇していた。
その代わりに、植物などから同じ成分のものが抽出する技術が確立されている。
そして主要なビルでは精製プラントを持っている。
このホテルでも精製プラントが生きているので、ガソリン車も動かせるのだ。
「それにしてもガソリン車、俺は初めて見るよ。」
紫原の「伴侶」氷室が嬉しそうにそう言った。
どうしても「キセキ」の「伴侶」たちは、ガソリン車にテンションが上がるらしい。
律はこの話になるたびに、年齢を感じて、軽く落ち込む。
何せ律が人間だった頃には、ガソリンで走る車が主流だったのだから。
だが一刻も早く出発したい今は、敢えてスルーだ。
「蛭魔さんたちがいないと、ちょっと心細いですね。」
律は高野の耳元で、ポツリとそう呟いた。
未だ燃料の準備中なので、後発組は全員、スィートルームでいつものティータイムだ。
「キセキ」と呼ばれる吸血鬼たちは、マイペースで文句を言う。
そしてその「伴侶」たちは、ガソリン車で盛り上がっていた。
だが律はどうにも落ち着かない。
蛭魔に阿部、瀬那と廉、昔から知った仲間がいないせいだ。
「今だけだ。我慢してくれ。」
高野の言葉に、律が「はい」と小さく頷いた。
わかっている。高野の方が不安なはずだ。
いざ戦うことになったとき、味方は手の内がわからない者ばかりなのだから。
律が「すみません」とあやまり、コーヒーのカップを口に運んだ途端。
スィートルームのドアがバタンと乱暴に開かれ、魔物たちの群れがなだれ込んできた。
「律!他の『伴侶』たちを守れ!」
高野がそう叫んで、魔物たちに向かって駆け出していく。
黄瀬、緑間、紫原もこれに続いた。
律は護身用のナイフを抜くと、他の「伴侶」たちに「こっちに来て!」と叫んだ。
他の「伴侶」たちも、律や廉に倣って、今では護身用の武器を持っている。
だが実際に戦い慣れているのは、律だけだ。
律は笠松、高尾、氷室を壁際に押しやり、自分は彼らをかばうように立った。
そして高野と「キセキ」そして乱入してきた魔物たちの様子を見る。
個々の力では圧倒的にこちらが有利だが、乱入してきた魔物は数が多い。
おそらく数十、吸血鬼1人で10名を倒さなければならない計算だ。
まさかこちらが2組に別れるタイミングを見計らってた?
律はナイフを握る手に力を入れながら、絶望的な状況を認識していた。
*****
黒子は未だに赤司の家にいた。
木の実工作に夢中になっていた瀬那は、畳の上にゴロリと横になって、眠ってしまった。
途中で拾ってきたどんぐりは、すべて木の実工作に使われた。
どんぐりで作られた動物や、コマ、首飾りなどが辺りに散乱している。
「ところで降旗君、あっちの建物は物置ですか?」
黒子は窓から見える小さな小屋を指差して、そう聞いた。
すると降旗は「そうだけど」と答えるが、さり気なさを装ったその声は震えていた。
「ちょっと見せてもらっても、いいですか?」
「・・・どうして」
「あそこに僕の主がいるんじゃないかと思ったんです。」
黒子の申し出に、降旗は蒼白な顔を引きつらせている。
どうやら賭けが当たったらしい。
「さっき赤司君に『僕の主は誰なんですか?』と聞いた時、赤司君は教えてくれなかった。」
「・・・で?」
「だけど君はその時、窓の外のあの小屋を見ました。それでもしかしてと思ったんです。」
黒子がさらにそう告げると、降旗はブンブンと首を横に振った。
だが黒子はかまうことなく、立ち上がった。
「勝手に歩き回らないでくれ!」
「思わせぶりなことばかり言って、質問には答えない。それならこっちも勝手にします。」
降旗の抗議を無視して、黒子はスタスタと歩き出した。
1度玄関から外へ出て、裏に回れば、問題の小屋に行ける。
降旗だけなら、力づくで突破することもできるだろう。
「頼むよ。俺の態度でバレたって、赤司が知ったら。。。」
「後で降旗君が怒られるんですか?」
強引に小屋を覗こうと思っていた黒子だが、降旗に懇願されて、戸惑った。
赤司と降旗の関係はよくわからないが、黒子のせいで降旗が叱られるのも悪い気がする。
だが次の瞬間、事態は逆転した。
眠っていたはずの瀬那が急に起き上がると、後ろから降旗に抱き付いたのだ。
降旗は何が起きたのかわからず「何!?」と困惑している。
だが黒子にはわかった。
瀬那がまた正気に戻り、黒子に加勢したのだ。
「黒子君、今だ!小屋を見に行って!」
瀬那は渾身の力を込めて、降旗を押さえ込みながら、叫ぶ。
黒子は「ありがとうございます、瀬那君!」と叫び返して、部屋を飛び出したのだが。
部屋の外には、いつの間にいたのか、赤司が立っていた。
今までの冷静な顔からは思いもよらない、険しい顔だ。
黒子を、次に瀬那を睨みつける。
その途端に黒子も瀬那も畳の上に転がり、そのまま手も足も動かせなくなった。
何かの術を掛けられて、身体の自由を奪われたのだ。
「手荒なことはしたくなかったんだけど、僕の『伴侶』に乱暴を働くなら見過ごせない。」
赤司は冷やかに黒子と瀬那を見下ろしている。
黒子と瀬那はなすすべもなく、黙って赤司を睨み上げていた。
【続く】
「この子は何をしてるんだ?」
降旗は不思議そうに、瀬那の手元を見ている。
黒子は「多分、木の実工作でしょう」と答えた。
赤司と対面した後、黒子と瀬那はそのまま赤司の家に滞在している。
出て行こうとしたら、どうなっているのかはわからない。
どうやらこの界隈には赤司の軍門に下った吸血鬼たちが、何人もいるらしい。
脱走すれば、そいつらに捕えられるのかもしれない。
もしくはそのまま野放しにされるのかもしれない。
なぜなら赤司は他の吸血鬼たちを少しも恐れていないからだ。
仮に蛭魔や他の「キセキ」の吸血鬼たちに襲撃されても、一蹴できると思っているようだ。
だからこそ黒子たちを人質にするようなことはしそうもない。
それどころか逃げてもまた簡単に捕えられると考えているのだろう。
そして黒子はまだここでやりたいことがあった。
赤司の戦力、つまり赤司が従えている吸血鬼たちがどれくらいいるのか知ること。
そしておそらくはここにいるであろう自分の主と再会すること。
その他にもとにかく戦うための情報を、1つでも多く欲しい。
それならばしばらくここにいるのが、正解なのだろう。
「瀬那君、楽しいですか?」
黒子は相変わらず幼児のまま、1人で遊んでいる瀬那に声をかけた。
瀬那は「はい!」と答えながらも、黒子の方は見ない。
ここにくる途中で拾ったどんぐりに、細く削った木の枝を突き刺している。
時々「犬!」とか「猫!」などと叫んでいるから、どうやら動物を作っているらしい。
純日本家屋の畳の部屋で、どんぐりや木の枝で遊ぶ様子は何とも風情のある雰囲気だ。
黒子の頭にふと「レトロ」という言葉が浮かんだ。
「この子は何をしてるんだ?」
降旗は不思議そうに、瀬那の手元を見ている。
黒子は「多分、木の実工作でしょう」と答えた。
ここに滞在する間、黒子と瀬那の相手をしてくれるのは、赤司の「伴侶」の降旗だ。
黒子と並んで畳の上に腰を下ろし、黙々と木の実工作に励む瀬那を見ている。
「それにしても本当に久しぶりですね。それにすごい偶然です。」
黒子は降旗の方に向き直ると、そう告げた。
だが降旗は「偶然じゃないよ」と皮肉っぽい笑みを浮かべた。
黒子は「え?」と思わず聞き返しながら、降旗から感じる違和感に戸惑った。
黒子と降旗がかつてクラスメイトであり、何百年の時を経て、こうして再会したこと。
降旗はこれが偶然ではないという。
だがおそらく黒子が感じる違和感はそのことではなく、降旗の表情だ。
そんなに親しくはしていなかったし、随分昔のことではある。
だが降旗は明るい性格で、クラスでもいつも楽しそうに笑っていたような気がする。
だからこそ暗い表情や皮肉っぽい笑みに違和感を感じるのだ。
「赤司はあの日、君を『伴侶』にするつもりだった。だけど先を越されたんだ。」
「僕の主に、ですか?」
「そう。だから仕方なく俺を『伴侶』にしたんだよ。」
「・・・信じられません。僕が赤司君と会ったのは初めてで」
「黒子が覚えていないだけだ。黒子は特別なんだよ。それに瀬那君も、ね。」
特別。その言葉に棘を感じる。
降旗は黒子に嫉妬し、敵意を持っているのだ。
赤司の手前、それをはっきりと示すことはないが、どうしても言葉の端々に出てしまう。
だが黒子はあくまでも無表情のまま「もっと教えてください」と言った。
*****
「ったく、もっと飛ばせねーのかよ!」
背後から盛大に文句を言うのは、青峰だ。
蛭魔は「これで精一杯だ!」と叫びながら、アクセルを踏み込んでいた。
蛭魔たちはようやく最初の車の準備を終えた。
何しろ7人の吸血鬼と6人の「伴侶」総勢13名の移動なのだ。
一番大きな車でも、全員が乗りきれない。
最初に準備ができたのは、水素電池車だ。
ごく普通の乗用車で、乗れるのはギリギリ5人。
残りの8人はガソリン車のワゴンでの移動になる。
では最初の5人は誰にするのか。
一刻も早く「伴侶」の瀬那を迎えに行きたい蛭魔は、まず確定だ。
その蛭魔としては、かつて何度も共に戦った阿部と高野を連れていきたいところだ。
気心が知れている分、不測の事態に対応しやすい。
阿部と高野、そして彼らの「伴侶」の廉と律を乗せれば、ちょうど5人になる。
だがどうしても先行の車に乗りたいと言い出したのが、青峰だった。
青峰は過去に黒子と関わりがあるようで、その分黒子に執着していたからだ。
そこで蛭魔と青峰と阿部、そして「伴侶」桜井と廉が先行。
残りの8名は、遅れて出発することになった。
かくして蛭魔が運転する車は、京都に向かって疾走している。
途中の道路は荒れているが、障害物を魔力で排除しながらの強行だ。
「なぁ、お前らは別に車を使わなくても、行けるんだろう?」
蛭魔は巧みにハンドルを操作しながら、そう叫んだ。
そう、蛭魔や阿部や高野の魔力では、遠い距離を一気に飛ぶことはできない。
だからこうして車での移動を選んだのだ。
でも青峰たち「キセキ」と呼ばれる吸血鬼の魔力は強大だ。
自分たちを一瞬で京都まで飛ばせるのではないか。
「できなかねーけど、ダリィだろ」
青峰は平然とそう言い放った。
そう、できないことはないけれど、それなりに魔力は使うのだ。
到着した時に消耗していたくないということなのだろう。
だがそれにしても態度がデカい。
運転は面倒、後部座席は狭くて嫌だと助手席を陣取り、蛭魔にもっと急げと喚いている。
「なぁ、青峰。お前、どこで黒子と知り合ったのか、まだ思い出せないのか?」
阿部が後部座席から、青峰に声をかけた。
すると青峰は「う~ん」と不満そうに呻く。
「本当にあいつ、あの惨劇の日に高校生だったのか?」
「本人はそう言っているが」
「だけど絶対あいつには会ってるし、会っているとしたらその前なんだよなぁ」
「つまり黒子が嘘を言ってるってことか?」
「き、き、記憶、が、狂ってる、かも。」
青峰と阿部のやり取りに、廉が口を挟んだ。
その言葉に阿部も青峰も桜井も、運転している蛭魔まで廉を凝視する。
だが廉には根拠があった。
「瀬那、も、最近、記憶、曖昧に、なってる。黒子、君、も、もしかして」
「黒子もすごく長く生きていて、昔の記憶がなくなっているってことか?」
廉の足りない言葉を、主の阿部が補ってくれる。
言いたいことをうまく変換してもらった廉は「うんうん」と何度も首を縦に振った。
「確かにない可能性じゃねーな」
蛭魔が再び、視線を前に向けると、力いっぱいアクセルを踏み込む。
車はスピードを上げて、京都を目指していた。
*****
「ったく、まだっすかぁ?」
「遅いのだよ」
「早くしてよ~」
黄瀬と緑間と紫原が、文句を言う。
高野は「うるせーよ!」と叫ぶと、ウンザリとため息をついた。
蛭魔たちが先に出発して、2時間。
高野は残りの者たちを運ぶワゴン車の準備をしていた。
と言っても、実際には待つだけだ。
往復分の燃料を精製し、それを積み込んだら出発だ。
「昔はガソリンスタンドなんてありましたよね。」
ホテルの部屋で待ちながら、ふとそんなことを言い出したのは律だ。
すると笠松が「何だ、それ?」と聞き返す。
笠松が生まれた頃には、もう地球上の原油はすべて枯渇していた。
その代わりに、植物などから同じ成分のものが抽出する技術が確立されている。
そして主要なビルでは精製プラントを持っている。
このホテルでも精製プラントが生きているので、ガソリン車も動かせるのだ。
「それにしてもガソリン車、俺は初めて見るよ。」
紫原の「伴侶」氷室が嬉しそうにそう言った。
どうしても「キセキ」の「伴侶」たちは、ガソリン車にテンションが上がるらしい。
律はこの話になるたびに、年齢を感じて、軽く落ち込む。
何せ律が人間だった頃には、ガソリンで走る車が主流だったのだから。
だが一刻も早く出発したい今は、敢えてスルーだ。
「蛭魔さんたちがいないと、ちょっと心細いですね。」
律は高野の耳元で、ポツリとそう呟いた。
未だ燃料の準備中なので、後発組は全員、スィートルームでいつものティータイムだ。
「キセキ」と呼ばれる吸血鬼たちは、マイペースで文句を言う。
そしてその「伴侶」たちは、ガソリン車で盛り上がっていた。
だが律はどうにも落ち着かない。
蛭魔に阿部、瀬那と廉、昔から知った仲間がいないせいだ。
「今だけだ。我慢してくれ。」
高野の言葉に、律が「はい」と小さく頷いた。
わかっている。高野の方が不安なはずだ。
いざ戦うことになったとき、味方は手の内がわからない者ばかりなのだから。
律が「すみません」とあやまり、コーヒーのカップを口に運んだ途端。
スィートルームのドアがバタンと乱暴に開かれ、魔物たちの群れがなだれ込んできた。
「律!他の『伴侶』たちを守れ!」
高野がそう叫んで、魔物たちに向かって駆け出していく。
黄瀬、緑間、紫原もこれに続いた。
律は護身用のナイフを抜くと、他の「伴侶」たちに「こっちに来て!」と叫んだ。
他の「伴侶」たちも、律や廉に倣って、今では護身用の武器を持っている。
だが実際に戦い慣れているのは、律だけだ。
律は笠松、高尾、氷室を壁際に押しやり、自分は彼らをかばうように立った。
そして高野と「キセキ」そして乱入してきた魔物たちの様子を見る。
個々の力では圧倒的にこちらが有利だが、乱入してきた魔物は数が多い。
おそらく数十、吸血鬼1人で10名を倒さなければならない計算だ。
まさかこちらが2組に別れるタイミングを見計らってた?
律はナイフを握る手に力を入れながら、絶望的な状況を認識していた。
*****
黒子は未だに赤司の家にいた。
木の実工作に夢中になっていた瀬那は、畳の上にゴロリと横になって、眠ってしまった。
途中で拾ってきたどんぐりは、すべて木の実工作に使われた。
どんぐりで作られた動物や、コマ、首飾りなどが辺りに散乱している。
「ところで降旗君、あっちの建物は物置ですか?」
黒子は窓から見える小さな小屋を指差して、そう聞いた。
すると降旗は「そうだけど」と答えるが、さり気なさを装ったその声は震えていた。
「ちょっと見せてもらっても、いいですか?」
「・・・どうして」
「あそこに僕の主がいるんじゃないかと思ったんです。」
黒子の申し出に、降旗は蒼白な顔を引きつらせている。
どうやら賭けが当たったらしい。
「さっき赤司君に『僕の主は誰なんですか?』と聞いた時、赤司君は教えてくれなかった。」
「・・・で?」
「だけど君はその時、窓の外のあの小屋を見ました。それでもしかしてと思ったんです。」
黒子がさらにそう告げると、降旗はブンブンと首を横に振った。
だが黒子はかまうことなく、立ち上がった。
「勝手に歩き回らないでくれ!」
「思わせぶりなことばかり言って、質問には答えない。それならこっちも勝手にします。」
降旗の抗議を無視して、黒子はスタスタと歩き出した。
1度玄関から外へ出て、裏に回れば、問題の小屋に行ける。
降旗だけなら、力づくで突破することもできるだろう。
「頼むよ。俺の態度でバレたって、赤司が知ったら。。。」
「後で降旗君が怒られるんですか?」
強引に小屋を覗こうと思っていた黒子だが、降旗に懇願されて、戸惑った。
赤司と降旗の関係はよくわからないが、黒子のせいで降旗が叱られるのも悪い気がする。
だが次の瞬間、事態は逆転した。
眠っていたはずの瀬那が急に起き上がると、後ろから降旗に抱き付いたのだ。
降旗は何が起きたのかわからず「何!?」と困惑している。
だが黒子にはわかった。
瀬那がまた正気に戻り、黒子に加勢したのだ。
「黒子君、今だ!小屋を見に行って!」
瀬那は渾身の力を込めて、降旗を押さえ込みながら、叫ぶ。
黒子は「ありがとうございます、瀬那君!」と叫び返して、部屋を飛び出したのだが。
部屋の外には、いつの間にいたのか、赤司が立っていた。
今までの冷静な顔からは思いもよらない、険しい顔だ。
黒子を、次に瀬那を睨みつける。
その途端に黒子も瀬那も畳の上に転がり、そのまま手も足も動かせなくなった。
何かの術を掛けられて、身体の自由を奪われたのだ。
「手荒なことはしたくなかったんだけど、僕の『伴侶』に乱暴を働くなら見過ごせない。」
赤司は冷やかに黒子と瀬那を見下ろしている。
黒子と瀬那はなすすべもなく、黙って赤司を睨み上げていた。
【続く】