アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】

【夏遊び/花火】

「どうやら、間違いなさそうだな。」
高野は目の前の豪邸を眺めながら、そう言った。

高野と阿部、そして律と廉と黒子は、とある洋館の前にいた。
昔だったら、東京郊外と呼んでいた地域。
あの惨劇の日の前まで、豪邸が建ち並ぶ場所として有名だった。
今もその名残は見えるものの、すっかり廃墟と化している。
だがその中の1軒、ひときわ大きな洋館が無傷で残っていた。
門扉の横の表札には「緑間」と書かれている。

この場所へ来たのは、蛭魔たちが滞在するホテルで暮らし始めた黄瀬の情報だった。
「緑間っちと青峰っちの昔住んでいた家なら、わかるっす。」
そう言って、住所を教えてくれたのだ。
昔とはあの惨劇の日の前のこと、そして今もそこにいる可能性は低い。
それでも念のためと確かめに来て、緑間がここにいることを確信した。
周りの家がほとんど朽ち果てているのに、この家だけ綺麗な状態なのは不自然なのだ。

一応ドアチャイムを押してみるが、反応はなかった。
そもそも音が鳴ってさえ、いないようだ。
阿部が高野に「どうする?」と聞いた。
いつもこういうとき判断を下すのは蛭魔なのだが、今回は来ていない。
だから高野と阿部で、決めるしかないのだ。

「入ってみよう」
高野はそう決断した。
少なくても結界の気配はないので、中には入れそうだからだ。
阿部も「そうだな」と答え、門扉に手をかける。
頑丈そうな門扉は、思いのほか滑らかに開いた。

だがその瞬間、殺気を感じた。
高野が咄嗟に「危ねぇ!」と叫び、律と黒子を突き飛ばす勢いで、脇に押しやった。
阿部も廉の身体を抱き込み、その場にうずくまる。
次の瞬間、緑色の光の球がレーザービームのような勢いで飛んできた。
驚く間もなく、それは彼らの足元に落下し、小さな爆発が起こる。
急いで確認すると、阿部と高野が立っているちょうど中間あたりの地面が大きく抉れていた。

「友好的じゃないな。」
阿部が苦笑すると、高野が「まったくだ」と頷く。
律は「いきなり無礼だな」と顔をしかめ、廉は「びっくり、した!」と口をひし形にしている。
誰も慌ててはいないが、あまり愉快な状況ではない。
問答無用の奇襲は、相手の敵意を示している。
しかもさっきの攻撃を見る限り、相手の力は強大だ。

「でも逆境(ピンチ)ってちょっと。。。燃えません?」
黒子は相変わらずの冷静さで、ポツリとそう言った。
その言葉に全員が驚き、次の瞬間には笑い出した。
無表情で影が薄い少年は、実は一番度胸が据わっているようだ。

「そうだな。その通り。」
「じゃあ、このまま直進だな。」
高野と阿部はそう告げると、先に立って歩き出す。
3人の「伴侶」たちは、後方を警戒しながら、その後に続いた。

*****

「緑間って、どんなヤツなんだ?」
蛭魔は黄瀬にそう聞いた。
すると黄瀬は「占い好きっす」とふざけた答えを返してきた。

高野たちが緑間のものと思しき洋館に潜入を開始した頃、蛭魔はホテルに残っていた。
そしてスィートルームのリビングで、黄瀬と差し向かいでコーヒーを飲んでいる。
緑間邸の訪問について、黄瀬は「俺は行かないっす」と言ったからだ。
そして「瀬那君は、俺が見ていましょうか?」なんてほざいたのだ。
瀬那を連れていくのは不安だが、黄瀬に預けるのはもっと不安だ。
だから今回は、蛭魔も留守番を選んだのだ。

「占い好きだと?」
「はい。昔は陰陽師と凝ってました。神社とかのおみくじ。星座とか『おは朝占い』とか」
「おはあさ?何だ?」
「テレビでやってた占いコーナーですよ。とにかく昔っから形を変えても好きみたいで」
「・・・マジか」

蛭魔はウンザリとため息をついた。
人間が作った占いのアイテムに凝っている吸血鬼。
それはなんとも滑稽で、そもそもどうでもいいような話だ。
黄瀬はわざとそんな話をして、緑間の性質がわからないようにしているのだろう。
なぜならその方が「面白い」からだ。

「もう1回!」
蛭魔と黄瀬が微妙な探り合いをしている横で、瀬那がはしゃいだ声を上げた。
律たちが出かけてしまった今、瀬那の相手をしているのは笠松だ。
ホテルのショップの土産物店で、笠松はけん玉を見つけて来た。
そしてそれを瀬那の前で披露しているのだ。
それを見た瀬那は、小さい子供のようにはしゃいでいる。

「悪いな、相手をさせて」
「いいえ。こんなに喜んでもらえると、やった甲斐があります。」
蛭魔が笠松をねぎらうと、笠松も気さくに応じる。
そして「何百年振りかな、けん玉」と楽しそうだ。

「ちなみに緑間っちの得意技は、長距離攻撃っす。」
「は?」
「遠いところから思念波を放つんです。だから迂闊に近寄ると危ないかも。」
「・・・今、言うか。」

唐突に黄瀬の口から告げられた、緑間の得意技。
高野たちが出かけてしまって2時間以上経過した今では、もう伝える術もない。
気さくに近よってきたくせに、敵対するようなこともする。
長く生きて「キセキ」とまで言われた吸血鬼は、何とも気まぐれだ。

「あいつらなら何とかするだろう。」
蛭魔は冷静に返した。
まぁ事前に知っていた方が有利ではあっただろうが、知らなきゃ知らないでどうにかなる。
高野も阿部もその「伴侶」たちも、決して弱くない。

「お手並み、拝見っすね。」
黄瀬はおどけてそう答える。
蛭魔はまったく食えない相手に苦笑しながら、コーヒーを味わった。

*****

「本当に好戦的ですね。」
黒子は無表情のまま、淡々と感想を述べる。
律と廉は「まったくだ」「ホン、トに」と答えながら、敷地内を進んだ。

門扉から洋館の表玄関まではほんの20メートル程度。
高野たちは、何度か飛んできた緑の光の球を避けながら、進んできた。
そして高野が玄関に手をかけると、ドアはあっけなく開いた。
全員は警戒しながら、洋館の中に入る。
だが阿部が土足のまま上がり込もうとしているのを見て、廉が腕を掴んで止めた。

「よその、お宅!土足、で、勝手に、上が、るの、ダメ、だ!」
阿部と高野が顔を見合わせ、呆然とする。
だが律は「廉が正しい!」と同意し、黒子までが「僕もそう思います」と言う。
高野が「じゃあ、どうする?」と肩を竦める。
すると律が「正攻法でご挨拶しましょう」と答えて、すぅっと息を吸い込んだ。

「ごめんください。緑間さん、いらっしゃいますか?」
律は思いっきり声を張り上げる。
そして律が「こ、こん、にちは!」と叫んだ。
すると長い廊下の向こうから、長身の男が姿を現した。

「これだけ来るなと警告しているのに、どうして帰らないのだよ!」
男は不機嫌を隠そうともせず、そう叫んだ。
緑がかった髪、そして同じ色の目には眼鏡をかけている。
おそらくこの男が「キセキ」の吸血鬼の1人、緑間だろう。
廉は「吸血鬼、で、メガネ?」と驚いている。
すると男は「何か問題があるのか!」と怒鳴り、廉は首を竦めた。

「緑間、だよな?」
阿部が念のために確認する。
すると男は頷き「お前たちは阿部と高野だな。残りは『伴侶』か」と聞き返された。
さすが伝説の吸血鬼、こちらのことは知っているようだ。

「この人、違いますよ。きっと。」
黒子が誰にともなく、そう告げた。
そう、元々は黒子の主であるかどうかを確認するための訪問だ。
だがどうやらその黒子には、何も感じるところがないらしい。
そして緑間も同じらしいところを見ると、今回も空振りのようだ。

「騒がせてすまなかった。もう帰る。」
高野がおもむろにそう告げた瞬間、廊下の奥から「ちょっと待て!」と声が響いた。
その瞬間、緑間がウンザリした表情で舌打ちする。
だがそんなことはお構いなしに、奥から1人の青年が、走り出て来た。

「お客さんでしょ?お茶くらい出さないと!」
青年は緑間の肩をトントンと叩くと、高野たちの方に向き直り「どうも」と手を上げる。
高野と阿部も困惑しながら目だけで頷き、律と廉は「こんにちは」と礼儀正しく頭を下げた。
黒子だけが大胆にも「どなたですか?」と首を傾げる。

「俺?真ちゃんの『伴侶』で高尾和成っす!」
青年が明るい口調で、そう言った。
黒子はそれを受けて「黒子テツヤです」と返した。

*****

「何でこうなったのだよ!?」
緑間は不機嫌極まりない声で、呻く。
だが黄瀬が「まぁまぁ、緑間っち」と宥めた。

蛭魔たちが滞在しているホテルに、またしても住人が増えた。
それは「キセキ」と呼ばれた吸血鬼の1人、緑間と、その「伴侶」の高尾だ。
元々最上階のスィートに、蛭魔、高野、阿部たちは滞在していた。
これはホテルで一番いい部屋であり、ベットルームが3つある。
そしてその1つ下のフロアには、ジュニアスィートと呼ばれる部屋がいくつかある。
そのジュニアスィートの1つを黄瀬と笠松、もう1つを緑間と高尾が使うことになった。

緑間と高野、阿部のファーストコンタクトは、当初は一触即発な展開だった。
だがそんな空気を和らげたのは「伴侶」たちに他ならない。
完全な戦闘モードの最中、生真面目に挨拶を交わす彼らに、主たちは毒気を抜かれた。
そして高尾の「大勢の方が楽しいじゃん!」の一言で、住居を移したのだ。

そして今、彼らはホテルの屋上のヘリポートにいた。
瀬那を喜ばそうと、ホテルのショップをくまなく歩いた笠松が、花火セットを見つけたのだ。
もちろん打ち上げるようなものではなく、棒タイプの手持ち花火だ。
そこで「伴侶」たちは、花火大会をやろうと盛り上がったのだ。

「何百年前のもんだろ?ちゃんと火がつくのか?」
胡散臭そうに、遠回しに反対の意を唱えたのは蛭魔だ。
だが笠松が「瀬那がやりたがってるんですよ!」と詰め寄る。
そして律がしれっと「火がつかなかったら、力を貸してください」などと言う。
もしうまく着火しなかったら、魔力を使えと遠回しに要求しているのだ。

かくしてノリノリの「伴侶」たちと、渋々の吸血鬼たちは屋上にいた。
本来ならば宿泊客が立ち入るのは禁止だが、この状況下では関係ない。
ショップにあっただけの花火とろうそく、消火用の水を張ったバケツもしっかり準備した。
そして律が高野に「火をお願いします」とろうそくを差し出す。
高野が「俺かよ」と文句を言いながら、ろうそくの先に指を触れさせ、念を込める。
ほんの一瞬で、ろうそくに火がともった。

「よし、やろう!」
笠松が手持ち花火を1本手に取り、ろうそくの火をつける。
するとシューと勢いよく綺麗な色の火花が飛び出す。
笠松が咄嗟に黄瀬の方を振り返ると、ニッコリと笑っている。
どうやら湿気た花火は、彼の魔力で着火できたらしい。

「ほら、瀬那。持って。危ないから下を向けるんだぞ。」
面倒見のいい笠松が、瀬那に一番最初の花火を持たせてやった。
瀬那は笑顔でそれを受け取ると「きれい!」とはしゃいでいる。
そんな瀬那の様子に頬を緩めながら「伴侶」たちは、花火に火をつけ始める。
世界は惨劇と共に崩壊し、生き残っている生物はほとんどいない世界。
だが昔ながらの遊びに興じていれば、楽しい気分になれる。

「どうした?黒子」
蛭魔は花火を楽しむ「伴侶」たちから、少し離れた場所に立つ黒子に声をかけた。
吸血鬼は自分の「伴侶」の花火に念を送り、綺麗な花火を作り上げる。
最初はめんどくさいなんて言っていたが、何だかんだで楽しんでいるようだ。
だが黒子と蛭魔だけは手持ち無沙汰だった。
黒子には花火をともしてくれる主もない。
そして瀬那は他の「伴侶」が火をつけた花火を渡されるので、蛭魔の出番がないのだ。

「花火がしたいなら、俺がつけてやるぞ。」
「・・・いいです。それより何か感じませんか?」
「何か?」
「ええ。どこかから見られてるような、嫌な感じ。」
黒子に言われて、蛭魔は周辺の「気」を探った。
だが何も感じない。

「何も感じないが。」
「・・・それならいいです。」
黒子はそう告げると、暗い夜空を見上げている。
蛭魔も真似をしてみるが、黒子が何を見ているのかはわからなかった。

【続く】
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