アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス【お題:春遊び5題 夏遊び5題 秋遊び5題 冬遊び5題】
【春遊び/草原ダイブ】
「ど~も、蛭魔っち、お久しぶりっす!」
何百年振りに再会した吸血鬼は、明るく、しかもチャラい。
蛭魔はウンザリした気分で「蛭魔っちはやめろ」と不機嫌な声を上げた。
律と廉を結界の中に送り出して、1時間。
蛭魔たちは、桜並木の下で2人が戻るのを待った。
あの2人だって「伴侶」になり、いろいろな経験をして、そこそこ強い。
それでもやはり心配だった。
蛭魔でさえ、そうなのだ。
2人の主である高野と阿部は、イライラと落ち着かない様子だ。
だが2人はあっけなく戻ってきた。
しかもこの結界を張った吸血鬼たちと談笑しながらだ。
そして蛭魔たちの姿を見つけると「お待たせしました~!」などと手を振っている。
まったく何だ、この温度差は。
蛭魔は安堵と苛立ちをない交ぜにしながら、結界の主を見た。
「ど~も、蛭魔っち、お久しぶりっす!」
何百年振りに再会した吸血鬼は、明るく、しかもチャラい。
蛭魔はウンザリした気分で「蛭魔っちはやめろ」と不機嫌な声を上げた。
「黄瀬」
蛭魔は見覚えのあるその男の名を口にした。
それを聞いた高野と阿部は、思わず身構える。
名前だけはやたらに有名な「キセキ」と呼ばれる吸血鬼の1人。
どんなにチャラくても、警戒してしまう。
「改めまして黄瀬涼太です。で、こっちが『伴侶』の」
「笠松幸男です!」
黄瀬の隣に寄り添っていた少年が、元気よく頭を下げる。
きっと体育会系の部活に所属していたのだろう。
そんな想像をさせる立ち居振る舞いだ。
「うちの可愛い『伴侶』と律っちや廉っち、すっかり気が合ったみたいで。」
黄瀬はそう言うと、ニッコリと笑う。
その途端、高野と阿部が「律っち!?」「廉っち!?」と声を上げる。
自分たちの「伴侶」が、馬鹿げた名前で呼ばれたことに驚いたのだ。
そして次の瞬間、その馴れ馴れしさに憤慨する。
「妙な名前で呼ぶな!」
高野と阿部の怒鳴り声がハモった。
だが黄瀬はまったく動じることもなく「高野っちと阿部っちもよろしく」と笑った。
*****
「うわ~、いいところっすね!」
豪華なホテルのスィートルームに足を踏み入れた黄瀬は、まるで子供のように驚いていた。
結局、黄瀬と笠松は蛭魔たちの滞在するホテルにやって来た。
黄瀬は結界を解いたものの、やはり黄瀬の魔力が多く残っていて、蛭魔たちは息苦しい。
落ち着いて話ができる場所といったら、あのホテルしかなかった。
そして8人乗りのワゴン車に9人が乗り込み、ホテルに戻ることになったのだ。
「これ、ガソリン車!?」
ワゴン車を見るなり、黒子と同じところに食いついたのは笠松だ。
蛭魔たちは「またか」とウンザリしたが、黒子だけは「すごいですよね!」と同意する。
黒子が笠松に生まれた年を聞き、笠松が答える。
すると黒子が「僕、2歳年下です」と告げた。
思いがけずこの中でかなり年齢が近いことがわかった2人は、一気に打ち解けた。
そして定員オーバーのガソリン車は、蛭魔たちが寝泊まりするホテルに到着したのだった。
「うわ~、いいところっすね!」
豪華なホテルのスィートルームに足を踏み入れた黄瀬は、まるで子供のように驚いていた。
そして笠松も「文明社会だ」と呆然としている。
廃墟と化した街で、こんな場所が残っているとは思わなかったのだろう。
蛭魔が「コーヒー」と告げると、ロボット従業員が「かしこまりました」と答える。
かつては当たり前だった世界の片鱗が、ここには残っている。
「コーヒーも久しぶりだなぁ。」
黄瀬は見るもの全てにいちいち大げさに反応する。
笠松は黄瀬のように声を上げることはないが、やはり驚いているようだ。
かくしてスィートルームのリビングで4人の吸血鬼と5人の「伴侶」のコーヒータイムとなった。
「で、黒子っちの『伴侶』が『キセキ』の誰かかもしれないって話ですけど」
黄瀬がコーヒーカップを持ち上げ、久しぶりの香りを楽しみながら、そう言った。
「お前じゃないことは確かだな。」
蛭魔の言葉に、黄瀬も「俺には笠松先輩がいるから」と頷く。
すると笠松の頬が真っ赤に染まった。
どうやら笠松はかなり純情な「伴侶」のようだ。
「最後に他の4人と会ったのは惨劇の前っす。でも誰も特定の相手はいなかった。」
「っていうか、黒子の気配でわかんねーのか?」
黄瀬に問いかけたのは、阿部だ。
魔物の「伴侶」になれば、どうしても主の魔力のにおいのようなものがある。
それなら黄瀬は「キセキ」のにおいを嗅ぎ分けられるのではないか。
だが黄瀬は「無理っす」と首を振る。
「黒子っちは気配がなさ過ぎですよ。こんな時代じゃなかったら『伴侶』とも気づかない。」
黄瀬は愚痴っぽい口調でそう言った。
こんな時代。放射能で汚染された廃墟の街で食料もない今のことだ。。
普通の人間だったら生きていられないから、人間イコール魔物の「伴侶」ということになる。
「・・・こんな時代じゃなかったら、きっと『伴侶』にはなってないです。」
黒子はぼそりとそう答えた。
そう、黒子が訳も分からず「伴侶」にさせられたのは、あの惨劇の日の混乱からだ。
あれさえなければ、普通に人間として人生を終えていただろう。
「何の情報もねーな。何しに来やがった。」
高野がバッサリと切り捨てるように、言い放つ。
だが黄瀬はあっけらかんと「俺らもここに住んでいいっすか?」と告げた。
「はぁぁ!?」
全員が驚き、声を上げる。
だが誰も異議は唱えなかった。
魔物も人間もほとんどいなくなった世界では、ふれあいやぬくもりが恋しくなる。
そのことを彼らは誰よりもよく知っていた。
*****
「かさまつ!」
瀬那が元気よく叫ぶと、笠松が「おぉ!」と答える。
そして2人は兄弟のようにじゃれ合いながら、草原へとダイブした。
黄瀬と笠松がホテルに移り住んだので『伴侶』たちの日課の散歩に笠松が加わった。
瀬那は笠松にもよく懐いた。
笠松も黒子同様、今の状態の瀬那をごく自然に受け入れたからだ。
その上、笠松は体育会系だ。
だから子供のように全力で走り回る瀬那の相手を、難なくこなすことができるのだ。
そして笠松と瀬那の間で最近はやっているのが、草原ダイブだ。
ホテル近くの公園で、元々は芝生だったスペース。
だが今は手入れもせず、しかも放射能で生態系が変化した雑草が伸び放題だ。
そこへヘッドスライディングしてじゃれ合うという、他愛のない遊びだった。
ひとしきり遊ぶと、瀬那は電池が切れたように眠ってしまう。
だがそんなときにはやはり黒子がいいらしい。
朽ち果てたベンチに並んで座り、もたれかかるようにして寝息を立てている。
「笠松君が黄瀬さんの『伴侶』になったのは、あの惨劇の前?後?」
律は寄り添う瀬那と黒子を見て、頬を緩めながら、そう聞いた。
笠松は「直後だよ。正確にはあの日」と答える。
「学校が砲撃されて大混乱の中で、黄瀬が『先輩を死なせたくない』とか言って、無理矢理」
「うわ。強引。っていうか前から聞こうと思ってたんだけど、先輩?笠松君が?」
「あ、黄瀬、高校生やってたんだ。俺が3年であいつ1年。」
「うっそぉ!?」
「だよな。吸血鬼って聞かされて爆笑した。何千年も生きてて高校生もないよな。」
律と廉は「確かに」と笑った。
だがあの惨劇の前まで、蛭魔たちだって表向きは社会人として生きていた。
高校生してたって、別に悪いことではない。
「黒子、君、と、同じ。」
律と笠松のやりとりを聞いていた廉が、ポツリとそう呟いた。
笠松の「伴侶」になった経緯のことだ。
確かにあの惨劇の直後に、有無を言わさず「伴侶」にしたあたりはそっくり同じだ。
偶然なのか。
律と廉は、顔を見合わせて考える。
そして黒子の主は誰で、今どこにいるのだろう。
*****
「元々、俺らは神奈川にいたんですけど、居づらくなっちゃいまして。」
すっかりホテルに馴染んだ黄瀬がそう言いながら、コーヒーを口に運ぶ。
だが飲まずに香りを楽しみながら「何か幸せっす」と笑った。
5人の「伴侶」たちは日課の散歩に出かけている。
その間4人の吸血鬼は、こうしてスィートルームのリビングに集まるのが日課になった。
どうしても「伴侶」たちには聞かせたくないような話もある。
だからこの時間は、意思疎通のために重要だった。
「居づらいとは?」
阿部がすかさず、黄瀬の言葉の意味を問う。
すると「金剛兄弟っすよ」と答える。
蛭魔も高野も阿部もその名に覚えがあるので、思い切り顔をしかめた。
金剛雲水、阿含。人間を糧にする魔物で双生児の兄弟だ。
「人間が少なくなったから、俺の可愛い『伴侶』に目を付けたんすよ。」
「お前なら、あいつらくらい倒せただろう?」
「かもしれないけど、相手は2人でしょ。油断して先輩にもしものことがあったら困ります。」
「なるほど。安全策か。」
黄瀬は知り合った頃のくせで、笠松を先輩と呼び、敬語を使う。
そして笠松は完全に黄瀬を後輩扱いだ。
2人の立場や年齢を考えると違和感はたっぷりだが、彼らの間では普通のようだ。
「で、蛭魔っち。黒子っちの主のことですが。」
「思い当たることがあるのか?っていうか蛭魔っちはやめろ!」
「いいじゃないっすか。で、黒子っちはあの惨劇の日、東京で『伴侶』になったんですよね?」
「そう聞いている。」
「あの日東京にいた『キセキ』は2人です。青峰っちと緑間っち。」
「そうか。」
「赤司っちは確か京都です。で紫原っちは秋田。」
蛭魔も阿部も高野も、黄瀬の「××っち」にはかなり疲れている。
どうやら彼なりの親愛の情らしいのだが、どうにも力が抜けてしまうのだ。
しかも「律っちと廉っちは呼びにくいっす」なんて文句を言ったりする。
それならば呼び方を変えればいいだけの話だと思うのだが。
「青峰と緑間、ね。とりあえず捜してみるか。」
「どうやるんすか?俺みたいに結界を張ってる可能性、高いっすよ?」
「俺の『伴侶』は結界の向こうが見えるんだよ。」
「瀬那っちですか」
蛭魔たちはこのまま黒子の主を捜し続けることを決めた。
知り合って間もないが、黒子はすっかり「伴侶」たちに馴染んでいる。
このまま1人で放り出すようなことはしたくない。
それに他の吸血鬼たちの動向を知っておくのも重要だ。
この先何が起こるかわからないのだし、情報も味方も多い方がいい。
「俺も及ばずながら、力になるっすよ。」
黄瀬が力強くもチャラい笑顔で、そう言った。
そうして彼らは荒廃した混乱の世界を、力強く生き抜いていく。
【続く】
「ど~も、蛭魔っち、お久しぶりっす!」
何百年振りに再会した吸血鬼は、明るく、しかもチャラい。
蛭魔はウンザリした気分で「蛭魔っちはやめろ」と不機嫌な声を上げた。
律と廉を結界の中に送り出して、1時間。
蛭魔たちは、桜並木の下で2人が戻るのを待った。
あの2人だって「伴侶」になり、いろいろな経験をして、そこそこ強い。
それでもやはり心配だった。
蛭魔でさえ、そうなのだ。
2人の主である高野と阿部は、イライラと落ち着かない様子だ。
だが2人はあっけなく戻ってきた。
しかもこの結界を張った吸血鬼たちと談笑しながらだ。
そして蛭魔たちの姿を見つけると「お待たせしました~!」などと手を振っている。
まったく何だ、この温度差は。
蛭魔は安堵と苛立ちをない交ぜにしながら、結界の主を見た。
「ど~も、蛭魔っち、お久しぶりっす!」
何百年振りに再会した吸血鬼は、明るく、しかもチャラい。
蛭魔はウンザリした気分で「蛭魔っちはやめろ」と不機嫌な声を上げた。
「黄瀬」
蛭魔は見覚えのあるその男の名を口にした。
それを聞いた高野と阿部は、思わず身構える。
名前だけはやたらに有名な「キセキ」と呼ばれる吸血鬼の1人。
どんなにチャラくても、警戒してしまう。
「改めまして黄瀬涼太です。で、こっちが『伴侶』の」
「笠松幸男です!」
黄瀬の隣に寄り添っていた少年が、元気よく頭を下げる。
きっと体育会系の部活に所属していたのだろう。
そんな想像をさせる立ち居振る舞いだ。
「うちの可愛い『伴侶』と律っちや廉っち、すっかり気が合ったみたいで。」
黄瀬はそう言うと、ニッコリと笑う。
その途端、高野と阿部が「律っち!?」「廉っち!?」と声を上げる。
自分たちの「伴侶」が、馬鹿げた名前で呼ばれたことに驚いたのだ。
そして次の瞬間、その馴れ馴れしさに憤慨する。
「妙な名前で呼ぶな!」
高野と阿部の怒鳴り声がハモった。
だが黄瀬はまったく動じることもなく「高野っちと阿部っちもよろしく」と笑った。
*****
「うわ~、いいところっすね!」
豪華なホテルのスィートルームに足を踏み入れた黄瀬は、まるで子供のように驚いていた。
結局、黄瀬と笠松は蛭魔たちの滞在するホテルにやって来た。
黄瀬は結界を解いたものの、やはり黄瀬の魔力が多く残っていて、蛭魔たちは息苦しい。
落ち着いて話ができる場所といったら、あのホテルしかなかった。
そして8人乗りのワゴン車に9人が乗り込み、ホテルに戻ることになったのだ。
「これ、ガソリン車!?」
ワゴン車を見るなり、黒子と同じところに食いついたのは笠松だ。
蛭魔たちは「またか」とウンザリしたが、黒子だけは「すごいですよね!」と同意する。
黒子が笠松に生まれた年を聞き、笠松が答える。
すると黒子が「僕、2歳年下です」と告げた。
思いがけずこの中でかなり年齢が近いことがわかった2人は、一気に打ち解けた。
そして定員オーバーのガソリン車は、蛭魔たちが寝泊まりするホテルに到着したのだった。
「うわ~、いいところっすね!」
豪華なホテルのスィートルームに足を踏み入れた黄瀬は、まるで子供のように驚いていた。
そして笠松も「文明社会だ」と呆然としている。
廃墟と化した街で、こんな場所が残っているとは思わなかったのだろう。
蛭魔が「コーヒー」と告げると、ロボット従業員が「かしこまりました」と答える。
かつては当たり前だった世界の片鱗が、ここには残っている。
「コーヒーも久しぶりだなぁ。」
黄瀬は見るもの全てにいちいち大げさに反応する。
笠松は黄瀬のように声を上げることはないが、やはり驚いているようだ。
かくしてスィートルームのリビングで4人の吸血鬼と5人の「伴侶」のコーヒータイムとなった。
「で、黒子っちの『伴侶』が『キセキ』の誰かかもしれないって話ですけど」
黄瀬がコーヒーカップを持ち上げ、久しぶりの香りを楽しみながら、そう言った。
「お前じゃないことは確かだな。」
蛭魔の言葉に、黄瀬も「俺には笠松先輩がいるから」と頷く。
すると笠松の頬が真っ赤に染まった。
どうやら笠松はかなり純情な「伴侶」のようだ。
「最後に他の4人と会ったのは惨劇の前っす。でも誰も特定の相手はいなかった。」
「っていうか、黒子の気配でわかんねーのか?」
黄瀬に問いかけたのは、阿部だ。
魔物の「伴侶」になれば、どうしても主の魔力のにおいのようなものがある。
それなら黄瀬は「キセキ」のにおいを嗅ぎ分けられるのではないか。
だが黄瀬は「無理っす」と首を振る。
「黒子っちは気配がなさ過ぎですよ。こんな時代じゃなかったら『伴侶』とも気づかない。」
黄瀬は愚痴っぽい口調でそう言った。
こんな時代。放射能で汚染された廃墟の街で食料もない今のことだ。。
普通の人間だったら生きていられないから、人間イコール魔物の「伴侶」ということになる。
「・・・こんな時代じゃなかったら、きっと『伴侶』にはなってないです。」
黒子はぼそりとそう答えた。
そう、黒子が訳も分からず「伴侶」にさせられたのは、あの惨劇の日の混乱からだ。
あれさえなければ、普通に人間として人生を終えていただろう。
「何の情報もねーな。何しに来やがった。」
高野がバッサリと切り捨てるように、言い放つ。
だが黄瀬はあっけらかんと「俺らもここに住んでいいっすか?」と告げた。
「はぁぁ!?」
全員が驚き、声を上げる。
だが誰も異議は唱えなかった。
魔物も人間もほとんどいなくなった世界では、ふれあいやぬくもりが恋しくなる。
そのことを彼らは誰よりもよく知っていた。
*****
「かさまつ!」
瀬那が元気よく叫ぶと、笠松が「おぉ!」と答える。
そして2人は兄弟のようにじゃれ合いながら、草原へとダイブした。
黄瀬と笠松がホテルに移り住んだので『伴侶』たちの日課の散歩に笠松が加わった。
瀬那は笠松にもよく懐いた。
笠松も黒子同様、今の状態の瀬那をごく自然に受け入れたからだ。
その上、笠松は体育会系だ。
だから子供のように全力で走り回る瀬那の相手を、難なくこなすことができるのだ。
そして笠松と瀬那の間で最近はやっているのが、草原ダイブだ。
ホテル近くの公園で、元々は芝生だったスペース。
だが今は手入れもせず、しかも放射能で生態系が変化した雑草が伸び放題だ。
そこへヘッドスライディングしてじゃれ合うという、他愛のない遊びだった。
ひとしきり遊ぶと、瀬那は電池が切れたように眠ってしまう。
だがそんなときにはやはり黒子がいいらしい。
朽ち果てたベンチに並んで座り、もたれかかるようにして寝息を立てている。
「笠松君が黄瀬さんの『伴侶』になったのは、あの惨劇の前?後?」
律は寄り添う瀬那と黒子を見て、頬を緩めながら、そう聞いた。
笠松は「直後だよ。正確にはあの日」と答える。
「学校が砲撃されて大混乱の中で、黄瀬が『先輩を死なせたくない』とか言って、無理矢理」
「うわ。強引。っていうか前から聞こうと思ってたんだけど、先輩?笠松君が?」
「あ、黄瀬、高校生やってたんだ。俺が3年であいつ1年。」
「うっそぉ!?」
「だよな。吸血鬼って聞かされて爆笑した。何千年も生きてて高校生もないよな。」
律と廉は「確かに」と笑った。
だがあの惨劇の前まで、蛭魔たちだって表向きは社会人として生きていた。
高校生してたって、別に悪いことではない。
「黒子、君、と、同じ。」
律と笠松のやりとりを聞いていた廉が、ポツリとそう呟いた。
笠松の「伴侶」になった経緯のことだ。
確かにあの惨劇の直後に、有無を言わさず「伴侶」にしたあたりはそっくり同じだ。
偶然なのか。
律と廉は、顔を見合わせて考える。
そして黒子の主は誰で、今どこにいるのだろう。
*****
「元々、俺らは神奈川にいたんですけど、居づらくなっちゃいまして。」
すっかりホテルに馴染んだ黄瀬がそう言いながら、コーヒーを口に運ぶ。
だが飲まずに香りを楽しみながら「何か幸せっす」と笑った。
5人の「伴侶」たちは日課の散歩に出かけている。
その間4人の吸血鬼は、こうしてスィートルームのリビングに集まるのが日課になった。
どうしても「伴侶」たちには聞かせたくないような話もある。
だからこの時間は、意思疎通のために重要だった。
「居づらいとは?」
阿部がすかさず、黄瀬の言葉の意味を問う。
すると「金剛兄弟っすよ」と答える。
蛭魔も高野も阿部もその名に覚えがあるので、思い切り顔をしかめた。
金剛雲水、阿含。人間を糧にする魔物で双生児の兄弟だ。
「人間が少なくなったから、俺の可愛い『伴侶』に目を付けたんすよ。」
「お前なら、あいつらくらい倒せただろう?」
「かもしれないけど、相手は2人でしょ。油断して先輩にもしものことがあったら困ります。」
「なるほど。安全策か。」
黄瀬は知り合った頃のくせで、笠松を先輩と呼び、敬語を使う。
そして笠松は完全に黄瀬を後輩扱いだ。
2人の立場や年齢を考えると違和感はたっぷりだが、彼らの間では普通のようだ。
「で、蛭魔っち。黒子っちの主のことですが。」
「思い当たることがあるのか?っていうか蛭魔っちはやめろ!」
「いいじゃないっすか。で、黒子っちはあの惨劇の日、東京で『伴侶』になったんですよね?」
「そう聞いている。」
「あの日東京にいた『キセキ』は2人です。青峰っちと緑間っち。」
「そうか。」
「赤司っちは確か京都です。で紫原っちは秋田。」
蛭魔も阿部も高野も、黄瀬の「××っち」にはかなり疲れている。
どうやら彼なりの親愛の情らしいのだが、どうにも力が抜けてしまうのだ。
しかも「律っちと廉っちは呼びにくいっす」なんて文句を言ったりする。
それならば呼び方を変えればいいだけの話だと思うのだが。
「青峰と緑間、ね。とりあえず捜してみるか。」
「どうやるんすか?俺みたいに結界を張ってる可能性、高いっすよ?」
「俺の『伴侶』は結界の向こうが見えるんだよ。」
「瀬那っちですか」
蛭魔たちはこのまま黒子の主を捜し続けることを決めた。
知り合って間もないが、黒子はすっかり「伴侶」たちに馴染んでいる。
このまま1人で放り出すようなことはしたくない。
それに他の吸血鬼たちの動向を知っておくのも重要だ。
この先何が起こるかわからないのだし、情報も味方も多い方がいい。
「俺も及ばずながら、力になるっすよ。」
黄瀬が力強くもチャラい笑顔で、そう言った。
そうして彼らは荒廃した混乱の世界を、力強く生き抜いていく。
【続く】