アイシ×おお振り【お題:敵同士10題】
【微かに震える指先】
「~~~っ!!」
ウトウトと浅い眠りの中にいたレンは、ガバッと布団を跳ね除ける勢いでベットから身を起こした。
レンはここ何日か、食事以外の時間は寝てばかりいた。
セナが襲われるのを予知して、そのセナを蛭魔が助けた。
それ以来、見える未来がグルグルと変わるのだ。
そのたびに身体を襲う激しい動悸とめまい。
そしてその後は発熱して、しばらくは起き上がれない。
昔レンの祖父は、レンの力が強すぎるからその反動だと言った。
レンの予知能力は何代にも渡る三橋家の能力者の中でも、かなり大きいものらしい。
その代わり、身体にくる反動も強く、レンは予知のたびに倒れて動けなくなるのだ。
株価の予想などのデータや、ニュースなど世間一般的な話なら、こんなにはならない。
人間に関わること、特に自分や知人に関わる予知だと、身体への影響は大きくなる。
セナがここへやって来た日に、自分を殺しに来る阿部が見えた。
だがそれ以降の予知には、悲劇はなかった。
翌日には、恋人同士のように抱き合う蛭魔とセナが見えた。
セナが阿部に会いに行って帰ったときには、阿部とシュンが並んで歩く姿が見えた。
自分のせいで運命が変わってしまった阿部もシュンも蛭魔もセナも、今のところは幸せな姿しか見えない。
多分セナの力なのだろうと、レンは思っている。
セナには強い「気」のようなものがあって、それが明るい方向へと皆を導いている。
*****
ベットに上半身を起こしたレンは、カタカタと身体を震わせた。
また予知だ。上半身を起こすだけでもひどくつらい、そんな身体の苦痛を伴うほどの。
これほどに大きな予知は、滅多にない。
悪寒がするのは、寝汗のせいだけではない。
悪夢という形で現れた最悪の未来のせいだ。
もうすぐ阿部が来る。
阿部とセナを接触させたら、最悪の予知が的中する。
レンはふらつく身体に叱咤して、懸命にベットを降りる。
ひどい頭痛と眩暈、バクバクと内側から叩きつけるような心臓の鼓動。
レンはベットから抜け出たものの、身体を支えきれずにその場に転倒した。
だが倒れている場合ではない。
懸命に立ち上がると、壁伝いにフラフラと歩き出した。
レンはまるで赤子の伝い歩きのように、ゆっくりと部屋を出て、玄関に向かう。
蛭魔に庇護されてからの日々が、走馬灯のように次々と頭に浮かんでは消える。
ここへ来て、蛭魔からはいろいろなことを習った。
炊事や掃除、洗濯などの家事はもちろん、隔離された状態で育ったレンは一般常識をほとんど知らなかった。
最初は買い物をすることさえできなかったのだ。
お金って何ですか?と聞いたら、蛭魔は目を剥いて驚いていた。
まるで兄弟がじゃれ合うような無邪気な時間。
セナがきてから、蛭魔の表情は少し柔らかくなったと思う。
ほんの一時の穏やかな時間は、本当に楽しかった。
*****
バタンと大きな音がして、蛭魔とセナは顔を見合わせた。
大きな物が倒れたような振動を伴うその音の正体は、すぐにわかった。
このところ体調が悪くて、ずっと寝込んでいたレンだ。
立ち上がろうとして、ふらついて転倒したのだろう。
蛭魔がパソコンを叩く手を止めた。
どちらからともなく立ち上がり、部屋を出る。
「蛭魔さん!」
居室を出て、レンの部屋へ向かおうとした蛭魔に、セナが背後から声をかけた。
振り返った蛭魔に、セナが玄関を指差した。
玄関の扉が微かに開いている。
「外か!」
蛭魔は方向を変えて、玄関へと急ぐ。
セナは無言で蛭魔の後に続いた。
蛭魔とセナが玄関を通り過ぎて、マンションの廊下へ出る。
そしてエレベーターで1階に下りると、エントランスを抜けて、外へ出た。
すぐに目に入ったのは、コンクリートの壁に寄りかかっているレンだ。
ふらつく身体を懸命に支えながら、レンは前に立つ相手を見据えている。
その相手を見て、蛭魔とセナは息を呑んだ。
レンの前に立つ阿部は、ナイフを握っている。
その刃先をまっすぐにレンに向けていた。
「ずっと、待ってた。阿部くんを。」
レンが阿部を見て、微笑する。
ナイフを持つ阿部の手は、指先が微かに震えている。
*****
「阿部くん、どうして!」
セナが叫んだその声で、レンと阿部が蛭魔とセナに気がついた。
阿部の瞳からは、涙がポロポロと転がり落ちる。
「弟のためには、やっぱりレンを殺すしかないんだ!」
阿部が搾り出すように、叫んだ。
「阿部くん、早く!俺を、殺して!」
レンもまたそう叫ぶと、阿部が持つナイフの方へヨロヨロと歩み寄る。
「そんな。だってこの前、レンも弟さんも助けるって。。。」
「糞!どういうことだ!」
呆然としたようなセナの言葉に、蛭魔の罵声が重なる。
「駄目だ、セナ!」
阿部のナイフの切っ先まであと数センチのところにいるレンが、セナに向かって叫んだ。
つられてセナの方を見た蛭魔と阿部は、言葉を失った。
焦げ茶色がかったセナの黒い瞳が、変化している。
レンのような薄い色、煮詰めたハチミツのような茶色がかった金色に。
セナは他の何も目に入らない様子で、阿部に向かって両手をかざすように伸ばした。
そしてその手のひらから、まるで稲妻のように小さな光が迸る。
次の瞬間、阿部の持つナイフの刃が折れた。
そしてセナの手のひらに、再び白い光が浮かび上がった。
4人の中で、誰よりも早く動いたのはレンだ。
最後の力を振り絞るように阿部に走り寄り、渾身の力を込めて阿部を突き飛ばした。
その瞬間、セナの手から走った光はレンを直撃した。
レンがその場に崩れるように蹲り、その途端に大きく咳き込んだ。
そして自分の手のひらを見て、大きく息をつく。
レンは吐血しており、咳き込んだ拍子に手のひらに血が流れ落ちたのだ。
阿部は柄だけになったナイフを放り捨てて、レンに駆け寄り、抱き起こした。
セナはその場にヘナヘナとへたり込んだ。
*****
「何が、起きた?」
蛭魔は一瞬の間に目の前で起こった出来事が理解できずに、呆然と呟いた。
「念動力、です。セナの。」
阿部の腕の中で、レンが苦しげにか細い声で、蛭魔の問いに答えた。
「セナも、俺と、同じ。能力者、だ。その、特殊な、力が、覚醒、して。」
「それがナイフを折ったのか?」
もう話すのも苦しいのか、阿部に抱きかかえられたレンが微かに頷いた。
「僕、阿部くんを止めようとして、そうしたら、手からへんな光が出て。」
セナがガタガタと震えながら、切れ切れに言う。
レンによれば覚醒して、念動力を発動したというセナ。
口元に当てられた微かに震える指先は、その動揺を隠せない。
蛭魔はその場に座り込んでしまったセナの肩を抱き、ゆっくりと立たせた。
レンはセナの念動力の覚醒を予知したのだ。
懸命に止めようとしたが、間に合わなかった。
だからセナから阿部を守ろうとして、とっさに身を挺してかばったのだ。
*****
蛭魔は阿部を見た。
阿部は結局レンを殺しに来たようだが、あまりの出来事に呆然としている。
「テメーは、どうしてレンを殺そうとしたんだ?セナの話は聞いただろう?」
「俺がレンを殺すのをやめたことを、三橋の祖父さんに予知された。弟が病院から連れ出されたんだ。」
阿部はうわ言のようにそう呟くと、レンを抱く腕に力を込めた。
レンの不安が的中した。
三橋家は蛭魔たちの先手を取って、シュンの身柄を隠した。
そして阿部に迫ったのだ。
弟を助けたければ、レンを殺せと。
裏の世界の仕事を生業とする蛭魔は知っている。
超能力者が、どういう扱いをされるのか。
たとえばレンのような予知能力者。セナのような念動力者。
不可能を可能にする彼らは「武器」としての価値が極めて高い。
三橋家のように、有力者がバックについている場合はいい。
強大な権力がその存在を守り、隠してくれる。
だがそうではない人間は、その存在を認知された途端に追われる存在になる。
見つかれば、人知れず捕獲されて、売買される。
そうなればもう人ではなくて「モノ」として、一生酷使されてしまう。
実際に蛭魔が見た能力者はレンが初めてだった。
だが裏社会のそんな話を知っていたからこそ。
予知能力者で命を狙われているというレンの話をすんなりと信じたのだ。
*****
「俺だって!レンを殺したくなんかないっ!」
阿部の叫びが、路上に響く。
阿部を庇って、セナの念動力を受けて、血を吐いて倒れこんだレン。
そのレンを抱きしめて、ただ叫ぶしかない阿部。
そして自分のしでかした出来事に、ただ呆然と立ち尽くすセナ。
とにかく全てが蛭魔の予想外の方向に進んでしまったのだ。
セナが好きだから、手放そうと思った。
こんな普通からはみ出した世界に、置いておきたくなかった。
だがもう遅い。セナは念動力者として、覚醒してしまった。
たとえここにいる4人がその事実を隠したとしても。
予知能力を持つ三橋家がその存在に気づいてしまう可能性が高い。
つまりセナはもう裏の世界では、人ではない。
誰もが欲しがる高値の商品。モノだ。
大事に思っていた青年は、蛭魔と同じになってしまった。
世間からはみ出した存在に堕ちたのだ。
このままでは終わらせない。
阿部を唆して、レンを傷つけて、セナを普通の外側に押し出した敵をこの手で倒す。
蛭魔は拳を強く握り締めて、唇を噛みしめた。
【続く】
「~~~っ!!」
ウトウトと浅い眠りの中にいたレンは、ガバッと布団を跳ね除ける勢いでベットから身を起こした。
レンはここ何日か、食事以外の時間は寝てばかりいた。
セナが襲われるのを予知して、そのセナを蛭魔が助けた。
それ以来、見える未来がグルグルと変わるのだ。
そのたびに身体を襲う激しい動悸とめまい。
そしてその後は発熱して、しばらくは起き上がれない。
昔レンの祖父は、レンの力が強すぎるからその反動だと言った。
レンの予知能力は何代にも渡る三橋家の能力者の中でも、かなり大きいものらしい。
その代わり、身体にくる反動も強く、レンは予知のたびに倒れて動けなくなるのだ。
株価の予想などのデータや、ニュースなど世間一般的な話なら、こんなにはならない。
人間に関わること、特に自分や知人に関わる予知だと、身体への影響は大きくなる。
セナがここへやって来た日に、自分を殺しに来る阿部が見えた。
だがそれ以降の予知には、悲劇はなかった。
翌日には、恋人同士のように抱き合う蛭魔とセナが見えた。
セナが阿部に会いに行って帰ったときには、阿部とシュンが並んで歩く姿が見えた。
自分のせいで運命が変わってしまった阿部もシュンも蛭魔もセナも、今のところは幸せな姿しか見えない。
多分セナの力なのだろうと、レンは思っている。
セナには強い「気」のようなものがあって、それが明るい方向へと皆を導いている。
*****
ベットに上半身を起こしたレンは、カタカタと身体を震わせた。
また予知だ。上半身を起こすだけでもひどくつらい、そんな身体の苦痛を伴うほどの。
これほどに大きな予知は、滅多にない。
悪寒がするのは、寝汗のせいだけではない。
悪夢という形で現れた最悪の未来のせいだ。
もうすぐ阿部が来る。
阿部とセナを接触させたら、最悪の予知が的中する。
レンはふらつく身体に叱咤して、懸命にベットを降りる。
ひどい頭痛と眩暈、バクバクと内側から叩きつけるような心臓の鼓動。
レンはベットから抜け出たものの、身体を支えきれずにその場に転倒した。
だが倒れている場合ではない。
懸命に立ち上がると、壁伝いにフラフラと歩き出した。
レンはまるで赤子の伝い歩きのように、ゆっくりと部屋を出て、玄関に向かう。
蛭魔に庇護されてからの日々が、走馬灯のように次々と頭に浮かんでは消える。
ここへ来て、蛭魔からはいろいろなことを習った。
炊事や掃除、洗濯などの家事はもちろん、隔離された状態で育ったレンは一般常識をほとんど知らなかった。
最初は買い物をすることさえできなかったのだ。
お金って何ですか?と聞いたら、蛭魔は目を剥いて驚いていた。
まるで兄弟がじゃれ合うような無邪気な時間。
セナがきてから、蛭魔の表情は少し柔らかくなったと思う。
ほんの一時の穏やかな時間は、本当に楽しかった。
*****
バタンと大きな音がして、蛭魔とセナは顔を見合わせた。
大きな物が倒れたような振動を伴うその音の正体は、すぐにわかった。
このところ体調が悪くて、ずっと寝込んでいたレンだ。
立ち上がろうとして、ふらついて転倒したのだろう。
蛭魔がパソコンを叩く手を止めた。
どちらからともなく立ち上がり、部屋を出る。
「蛭魔さん!」
居室を出て、レンの部屋へ向かおうとした蛭魔に、セナが背後から声をかけた。
振り返った蛭魔に、セナが玄関を指差した。
玄関の扉が微かに開いている。
「外か!」
蛭魔は方向を変えて、玄関へと急ぐ。
セナは無言で蛭魔の後に続いた。
蛭魔とセナが玄関を通り過ぎて、マンションの廊下へ出る。
そしてエレベーターで1階に下りると、エントランスを抜けて、外へ出た。
すぐに目に入ったのは、コンクリートの壁に寄りかかっているレンだ。
ふらつく身体を懸命に支えながら、レンは前に立つ相手を見据えている。
その相手を見て、蛭魔とセナは息を呑んだ。
レンの前に立つ阿部は、ナイフを握っている。
その刃先をまっすぐにレンに向けていた。
「ずっと、待ってた。阿部くんを。」
レンが阿部を見て、微笑する。
ナイフを持つ阿部の手は、指先が微かに震えている。
*****
「阿部くん、どうして!」
セナが叫んだその声で、レンと阿部が蛭魔とセナに気がついた。
阿部の瞳からは、涙がポロポロと転がり落ちる。
「弟のためには、やっぱりレンを殺すしかないんだ!」
阿部が搾り出すように、叫んだ。
「阿部くん、早く!俺を、殺して!」
レンもまたそう叫ぶと、阿部が持つナイフの方へヨロヨロと歩み寄る。
「そんな。だってこの前、レンも弟さんも助けるって。。。」
「糞!どういうことだ!」
呆然としたようなセナの言葉に、蛭魔の罵声が重なる。
「駄目だ、セナ!」
阿部のナイフの切っ先まであと数センチのところにいるレンが、セナに向かって叫んだ。
つられてセナの方を見た蛭魔と阿部は、言葉を失った。
焦げ茶色がかったセナの黒い瞳が、変化している。
レンのような薄い色、煮詰めたハチミツのような茶色がかった金色に。
セナは他の何も目に入らない様子で、阿部に向かって両手をかざすように伸ばした。
そしてその手のひらから、まるで稲妻のように小さな光が迸る。
次の瞬間、阿部の持つナイフの刃が折れた。
そしてセナの手のひらに、再び白い光が浮かび上がった。
4人の中で、誰よりも早く動いたのはレンだ。
最後の力を振り絞るように阿部に走り寄り、渾身の力を込めて阿部を突き飛ばした。
その瞬間、セナの手から走った光はレンを直撃した。
レンがその場に崩れるように蹲り、その途端に大きく咳き込んだ。
そして自分の手のひらを見て、大きく息をつく。
レンは吐血しており、咳き込んだ拍子に手のひらに血が流れ落ちたのだ。
阿部は柄だけになったナイフを放り捨てて、レンに駆け寄り、抱き起こした。
セナはその場にヘナヘナとへたり込んだ。
*****
「何が、起きた?」
蛭魔は一瞬の間に目の前で起こった出来事が理解できずに、呆然と呟いた。
「念動力、です。セナの。」
阿部の腕の中で、レンが苦しげにか細い声で、蛭魔の問いに答えた。
「セナも、俺と、同じ。能力者、だ。その、特殊な、力が、覚醒、して。」
「それがナイフを折ったのか?」
もう話すのも苦しいのか、阿部に抱きかかえられたレンが微かに頷いた。
「僕、阿部くんを止めようとして、そうしたら、手からへんな光が出て。」
セナがガタガタと震えながら、切れ切れに言う。
レンによれば覚醒して、念動力を発動したというセナ。
口元に当てられた微かに震える指先は、その動揺を隠せない。
蛭魔はその場に座り込んでしまったセナの肩を抱き、ゆっくりと立たせた。
レンはセナの念動力の覚醒を予知したのだ。
懸命に止めようとしたが、間に合わなかった。
だからセナから阿部を守ろうとして、とっさに身を挺してかばったのだ。
*****
蛭魔は阿部を見た。
阿部は結局レンを殺しに来たようだが、あまりの出来事に呆然としている。
「テメーは、どうしてレンを殺そうとしたんだ?セナの話は聞いただろう?」
「俺がレンを殺すのをやめたことを、三橋の祖父さんに予知された。弟が病院から連れ出されたんだ。」
阿部はうわ言のようにそう呟くと、レンを抱く腕に力を込めた。
レンの不安が的中した。
三橋家は蛭魔たちの先手を取って、シュンの身柄を隠した。
そして阿部に迫ったのだ。
弟を助けたければ、レンを殺せと。
裏の世界の仕事を生業とする蛭魔は知っている。
超能力者が、どういう扱いをされるのか。
たとえばレンのような予知能力者。セナのような念動力者。
不可能を可能にする彼らは「武器」としての価値が極めて高い。
三橋家のように、有力者がバックについている場合はいい。
強大な権力がその存在を守り、隠してくれる。
だがそうではない人間は、その存在を認知された途端に追われる存在になる。
見つかれば、人知れず捕獲されて、売買される。
そうなればもう人ではなくて「モノ」として、一生酷使されてしまう。
実際に蛭魔が見た能力者はレンが初めてだった。
だが裏社会のそんな話を知っていたからこそ。
予知能力者で命を狙われているというレンの話をすんなりと信じたのだ。
*****
「俺だって!レンを殺したくなんかないっ!」
阿部の叫びが、路上に響く。
阿部を庇って、セナの念動力を受けて、血を吐いて倒れこんだレン。
そのレンを抱きしめて、ただ叫ぶしかない阿部。
そして自分のしでかした出来事に、ただ呆然と立ち尽くすセナ。
とにかく全てが蛭魔の予想外の方向に進んでしまったのだ。
セナが好きだから、手放そうと思った。
こんな普通からはみ出した世界に、置いておきたくなかった。
だがもう遅い。セナは念動力者として、覚醒してしまった。
たとえここにいる4人がその事実を隠したとしても。
予知能力を持つ三橋家がその存在に気づいてしまう可能性が高い。
つまりセナはもう裏の世界では、人ではない。
誰もが欲しがる高値の商品。モノだ。
大事に思っていた青年は、蛭魔と同じになってしまった。
世間からはみ出した存在に堕ちたのだ。
このままでは終わらせない。
阿部を唆して、レンを傷つけて、セナを普通の外側に押し出した敵をこの手で倒す。
蛭魔は拳を強く握り締めて、唇を噛みしめた。
【続く】