「おお振り」×「◆Ａ」
【２日目、試合中盤！】
やっぱりむずかしいな。
阿部はそれを実感しながら、防具を外した。
青道高校Ｂチームとの練習試合。
現在は５回の裏、西浦の攻撃だ。
試合は現在５対５、同点にまで追いつかれている。
やっぱりむずかしいな。
阿部はそれを実感しながら、防具を外した。
もうすぐ打順なのだ。
とりあえずリードのことは一度脇に置いて、打席に集中しなければ。
この試合は、勝つことがテーマになっている。
Ｂチームの試合だが、投手だけＡチームの選手を先発させると事前に青道から通告されていた。
それが沢村で、おそらくこの回で降板するだろう。
だからこそどうしても、沢村が投げている状態でリードしたいのだ。
６回以降の試合にも出ていない控え投手からではなく、一軍のレギュラーから点を取りたい。
阿部は振り返って、ベンチの奥に座っている三橋を見た。
三橋はと言うと、マウンド上の沢村を見ながら、右手を上げたり下ろしたりしている。
どうやら投げる腕が身体の影に隠れる沢村のフォームを真似ているらしい。
まったく。何をしているんだか。
阿部は「こら！バカ」と、三橋を制した。
沢村に感化されるのはいいが、試合中に変な真似をして調子を崩されると困る。
「ちゃんと休んどけ。」
阿部はそう言い放つと、立ち上がる。
ワンテンポ遅れて「ちゃん、と、休む！」と答えが返ってきた。
阿部は苦笑すると、ネクストバッターズサークルに歩き出した。
今日の沢村、そして明日はきっと降谷と川上。
タイプの違う投手に、三橋はいい影響を受けるだろう。
阿部の役目は、それを見守ることだ。
変な方向に行かないように、正しく進めるように。
ネクストサークルに入った阿部は、マウンド上の沢村を見た。
彼も面白いタイプの投手で、きっと組んだらやりがいがあると思う。
だがやっぱり阿部にとって、三橋が一番の投手だ。
だから今はとにかく沢村を攻略して、点を取る。
そして三橋を勝ち投手にしなくては。
阿部はアウトコースに的を絞って、初球、一気にバットを振り抜いた。
「ナイ、バッチ！」
西浦のベンチから、コールが響く。
一塁ベース上で、見事ヒットを放った阿部は小さくガッツポーズをした。
＊＊＊＊＊
「ナイ、バッチ！」
西浦のベンチから、コールが響く。
一塁ベース上で、見事ヒットを放った阿部は小さくガッツポーズをした。
三橋はゆっくりとバッターボックスに入った。
監督の百枝からのサインは「狙い球はアウトコース」だ。
強豪校との試合、青道はおそらく調整として望んでいるだろう。
だけど西浦にとっては、強豪校に勝つという貴重なチャンスだ。
阿部が一塁に出塁した。
ここで何とか点が欲しい。
沢村は多分この回で降板だというのが、監督の読みだ。
だから沢村を攻略するのは、この回が最後のチャンスなのだ。
何とかあと１点取って、５回は西浦リードで折り返したい。
だがツーアウトだから、バントはない。
ゲッツーを恐れて、三振という選択肢もない。
とにかく打つしかないのだ。
沢村は公式戦ではインコースを強気でガンガン攻める投手だそうだ。
だがこの試合は、アウトコース主体で組み立てられている。
実はイップスになっており、インコースはうまく投げられないのだが、西浦の面々は知る由もない。
だから秋以降の課題で、あえてアウトコースを軸に組み立てているのだろうと予想していた。
本当に、そうなのか。
三橋はベンチの判断に違和感を感じていた。
なぜなら沢村は今日、ほんの数球だけインコースを投げているが、何か違う。
表情というか、まとう空気がインコースのときは、何だか弱気に見えるのだ。
それは三橋自身、覚えがあることだった。
中学時代、サインを出してもらえなかったあの頃、まっすぐを投げるのは自信がなくて怖かった。
沢村からその雰囲気を感じるのだ。
勘のようなものなので、ベンチの誰にも話していなかったけれど。
そして初球。
三橋は沢村の様子から、インコースだと感じた。
どうしよう。自分の直感か、それともベンチの指示か。
いや、オレの直感より、モモカンの判断の方が正しいに決まっている。
だから三橋は、沢村が振りかぶった瞬間、バッターボックスの中で内側に半歩寄った。
来るのはアウトコースのストレート、のはずだったのだ。
だが沢村の球は、三橋めがけて飛んできた。
やっぱりインコースだ！と思った時は、もう遅い。
ボールは三橋の右肘、プロテクターのわずかに上を直撃した。
三橋は「う、お！」と叫んで、バットを落としてしまった。
「三橋、大丈夫か！？」
血相を変えていち早く飛んできたのは、何とマウンドの沢村だ。
三橋は「いたく、ないよ！」と言いながら、笑顔を作った。
それはかなり引きつっていて、逆に周囲をビビらせていたのだが、三橋にはわからなかった。
「だいじょぶ、です！」
三橋は元気にそう告げた。
次の打者の泉がスプレーをかけてくれたし、痛みもない。
それにしてもこの遠征、よく球が当たる。
だけど三橋にとっては、アウトにならなければそれでよかった。
この時、一塁にいた阿部はすごく怖い顔をしていた。
それを三橋がコーチャーズボックスにいた水谷から聞かされるのは、試合後のことだ。
【続く】
やっぱりむずかしいな。
阿部はそれを実感しながら、防具を外した。
青道高校Ｂチームとの練習試合。
現在は５回の裏、西浦の攻撃だ。
試合は現在５対５、同点にまで追いつかれている。
やっぱりむずかしいな。
阿部はそれを実感しながら、防具を外した。
もうすぐ打順なのだ。
とりあえずリードのことは一度脇に置いて、打席に集中しなければ。
この試合は、勝つことがテーマになっている。
Ｂチームの試合だが、投手だけＡチームの選手を先発させると事前に青道から通告されていた。
それが沢村で、おそらくこの回で降板するだろう。
だからこそどうしても、沢村が投げている状態でリードしたいのだ。
６回以降の試合にも出ていない控え投手からではなく、一軍のレギュラーから点を取りたい。
阿部は振り返って、ベンチの奥に座っている三橋を見た。
三橋はと言うと、マウンド上の沢村を見ながら、右手を上げたり下ろしたりしている。
どうやら投げる腕が身体の影に隠れる沢村のフォームを真似ているらしい。
まったく。何をしているんだか。
阿部は「こら！バカ」と、三橋を制した。
沢村に感化されるのはいいが、試合中に変な真似をして調子を崩されると困る。
「ちゃんと休んどけ。」
阿部はそう言い放つと、立ち上がる。
ワンテンポ遅れて「ちゃん、と、休む！」と答えが返ってきた。
阿部は苦笑すると、ネクストバッターズサークルに歩き出した。
今日の沢村、そして明日はきっと降谷と川上。
タイプの違う投手に、三橋はいい影響を受けるだろう。
阿部の役目は、それを見守ることだ。
変な方向に行かないように、正しく進めるように。
ネクストサークルに入った阿部は、マウンド上の沢村を見た。
彼も面白いタイプの投手で、きっと組んだらやりがいがあると思う。
だがやっぱり阿部にとって、三橋が一番の投手だ。
だから今はとにかく沢村を攻略して、点を取る。
そして三橋を勝ち投手にしなくては。
阿部はアウトコースに的を絞って、初球、一気にバットを振り抜いた。
「ナイ、バッチ！」
西浦のベンチから、コールが響く。
一塁ベース上で、見事ヒットを放った阿部は小さくガッツポーズをした。
＊＊＊＊＊
「ナイ、バッチ！」
西浦のベンチから、コールが響く。
一塁ベース上で、見事ヒットを放った阿部は小さくガッツポーズをした。
三橋はゆっくりとバッターボックスに入った。
監督の百枝からのサインは「狙い球はアウトコース」だ。
強豪校との試合、青道はおそらく調整として望んでいるだろう。
だけど西浦にとっては、強豪校に勝つという貴重なチャンスだ。
阿部が一塁に出塁した。
ここで何とか点が欲しい。
沢村は多分この回で降板だというのが、監督の読みだ。
だから沢村を攻略するのは、この回が最後のチャンスなのだ。
何とかあと１点取って、５回は西浦リードで折り返したい。
だがツーアウトだから、バントはない。
ゲッツーを恐れて、三振という選択肢もない。
とにかく打つしかないのだ。
沢村は公式戦ではインコースを強気でガンガン攻める投手だそうだ。
だがこの試合は、アウトコース主体で組み立てられている。
実はイップスになっており、インコースはうまく投げられないのだが、西浦の面々は知る由もない。
だから秋以降の課題で、あえてアウトコースを軸に組み立てているのだろうと予想していた。
本当に、そうなのか。
三橋はベンチの判断に違和感を感じていた。
なぜなら沢村は今日、ほんの数球だけインコースを投げているが、何か違う。
表情というか、まとう空気がインコースのときは、何だか弱気に見えるのだ。
それは三橋自身、覚えがあることだった。
中学時代、サインを出してもらえなかったあの頃、まっすぐを投げるのは自信がなくて怖かった。
沢村からその雰囲気を感じるのだ。
勘のようなものなので、ベンチの誰にも話していなかったけれど。
そして初球。
三橋は沢村の様子から、インコースだと感じた。
どうしよう。自分の直感か、それともベンチの指示か。
いや、オレの直感より、モモカンの判断の方が正しいに決まっている。
だから三橋は、沢村が振りかぶった瞬間、バッターボックスの中で内側に半歩寄った。
来るのはアウトコースのストレート、のはずだったのだ。
だが沢村の球は、三橋めがけて飛んできた。
やっぱりインコースだ！と思った時は、もう遅い。
ボールは三橋の右肘、プロテクターのわずかに上を直撃した。
三橋は「う、お！」と叫んで、バットを落としてしまった。
「三橋、大丈夫か！？」
血相を変えていち早く飛んできたのは、何とマウンドの沢村だ。
三橋は「いたく、ないよ！」と言いながら、笑顔を作った。
それはかなり引きつっていて、逆に周囲をビビらせていたのだが、三橋にはわからなかった。
「だいじょぶ、です！」
三橋は元気にそう告げた。
次の打者の泉がスプレーをかけてくれたし、痛みもない。
それにしてもこの遠征、よく球が当たる。
だけど三橋にとっては、アウトにならなければそれでよかった。
この時、一塁にいた阿部はすごく怖い顔をしていた。
それを三橋がコーチャーズボックスにいた水谷から聞かされるのは、試合後のことだ。
【続く】
