「おお振り」×「◆A」6年後
【予想外の一大事!】
「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。
その知らせは唐突だった。
三橋の将来を揺るがすような、大ニュース。
それは三橋本人でなく、大学へと知らされた。
三橋はそれを大学の野球部のグラウンドで、監督から聞かされたのだった。
4年生は就職活動のため、ほぼ全員が3年の秋から4年の春で部を引退している。
阿部もまた然りだ。
だが祖父の学校に就職する三橋はその限りではない。
だからずっと部の練習には参加していたのだ。
この日も下級生たちのなかに、4年生1人だ。
その知らせを聞かされた時、三橋は呆然とした。
あまりにも現実味のない話だったからだ。
監督もそんな三橋の気持ちがよくわかったのだろう。
三橋の肩をポンと叩いて「大事なことだ。よく考えろ」と言ってくれた。
「あ、あ、阿部、阿部、君!」
三橋は練習が終わるなり、阿部に電話をかけた。
興奮してしまい、思い切り声が上ずってしまう。
電話の向こうの阿部が『落ち着け、バカ!』と声を張り上げたほどだ。
『で、何があったんだ?』
怒声で三橋を落ち着かせた後、阿部は心配そうな口調に変わった。
大学生になり、成人を過ぎた三橋は、昔より落ち着き、吃音も減った。
そんな三橋がここまでドモるのも珍しい。
「プロ、野球、から、お、おふぁ、が!」
『おふぁ?』
「ドラフト、指名、する、て!!」
『マジか!?』
現在、ドラフト会議で指名されたいなら、事前にプロ志望届が必要になる。
そして三橋は、それを出していた。
それは大学の野球部の監督に勧められてのことだった。
「三橋みたいなタイプの投手は、案外プロでいい線、行くんじゃないか?」
そう言われたのは、4年の夏だ。
三橋はきっぱりと「無理、です」と答えていた。
だが監督は「ダメ元で出してみろ」と言う。
監督は選手時代捕手であり、1年の時から三橋の投球スタイルを認めていたのだ。
あまりに強く勧めるから、三橋は冗談のようなつもりで、プロ志望届を提出していた。
「は、8位、指名、だって」
三橋の言葉に、阿部はまぁ妥当かと思う。
大学リーグでまぁまぁの成績を残したが、注目選手と言うわけでもない。
上位指名でないのも、道理だ。
「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。
そして少しの間の後『親は、何だって?』と聞き返す。
「親、にも、これから、電話、する。また、夜、電話、する。」
三橋はそう言って、電話を切った。
電話の向こうの阿部は、親より先に知らせてくれたことに喜ぶ余裕さえなかった。
とにかく、予想外の一大事。
三橋と阿部の未来は、大きく変わり始めていた。
*****
「ったく、お前は相変わらずだな」
御幸は、思わず苦笑した。
電話の向こうの沢村は『そうっすか~!?』と高らかに笑った。
オフに入った御幸は、実家にいた。
ここ最近は、ネットで情報を得る毎日だ。
プロ球団では、そろそろ移籍や自由契約の選手が出始める頃だ。
そういう情報は、チェックしておきたい。
また新入団の選手もまた然り。
今年は御幸の1つ下、つまり沢村たちの学年で大学に進んだ者は今、4年生だ。
かつての高校時代のチームメイト、またはライバルたちの中にも、プロに進んでくる者もいるはずだ。
この辺を細かくチェックするのは、もちろんドラフトの後だ。
だが今のうちに誰が来る可能性があるのか、見ておくのも悪くない。
チームにはちゃんとスタッフがいて、分析の担当だっている。
だが自分の手でチェックするのが、御幸のこだわりだ。
完全に趣味の域ではあるが、こういう作業は大好物なのだ。
こういうところが、捕手としての自分を作り上げてくれているという自負もある。
そのときスマートフォンのアラームが鳴った。
時間は午後10時。
御幸はアラームを止めると、電話をかけた。
するとほとんどワンコールもないうちに、相手が『もしもし!』と声を張り上げた。
「いつもながら、うるせぇよ」
御幸はウンザリした声で、そう言った。
電話の相手は沢村だ。
沢村も今は実家に帰省中で、その間はこの時間に電話をかけると事前に決めてあった。
『声がデカいのは、生まれつきっす!』
「わかった。でももう少し小さな声で頼む。」
御幸は注文をつけながら、苦笑した。
なかなか会えない恋人は、相変わらず元気だ。
「お前、今年のプロ志望届提出者、見たか?」
『ええ!?そんなもん、見れるんすかぁ!?』
「ネットに上がってる。っていうか、お前プロのくせに、そんなことも知らないのか?」
『別に見たところで、どうなるもんでもないっしょ!』
「気にならないか?」
『全然!誰でもかかってこいって感じっす!』
御幸が聞き返すと、沢村の豪快な宣言が聞こえてくる。
プロ志望届提出者の中に共通の知り合いが何人かいることを教えるつもりだった御幸は、その気をなくした。
たしかに沢村の性格なら、誰でも関係ないのだろう。
それならドラフトの時のお楽しみということにしておいてやろう。
「ったく、お前は相変わらずだな」
御幸は、思わず苦笑した。
電話の向こうの沢村は『そうっすか~!?』と高らかに笑った。
御幸は思わず受話器から耳を離して「だからうるせーって!」と叫んだ。
【続く】
「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。
その知らせは唐突だった。
三橋の将来を揺るがすような、大ニュース。
それは三橋本人でなく、大学へと知らされた。
三橋はそれを大学の野球部のグラウンドで、監督から聞かされたのだった。
4年生は就職活動のため、ほぼ全員が3年の秋から4年の春で部を引退している。
阿部もまた然りだ。
だが祖父の学校に就職する三橋はその限りではない。
だからずっと部の練習には参加していたのだ。
この日も下級生たちのなかに、4年生1人だ。
その知らせを聞かされた時、三橋は呆然とした。
あまりにも現実味のない話だったからだ。
監督もそんな三橋の気持ちがよくわかったのだろう。
三橋の肩をポンと叩いて「大事なことだ。よく考えろ」と言ってくれた。
「あ、あ、阿部、阿部、君!」
三橋は練習が終わるなり、阿部に電話をかけた。
興奮してしまい、思い切り声が上ずってしまう。
電話の向こうの阿部が『落ち着け、バカ!』と声を張り上げたほどだ。
『で、何があったんだ?』
怒声で三橋を落ち着かせた後、阿部は心配そうな口調に変わった。
大学生になり、成人を過ぎた三橋は、昔より落ち着き、吃音も減った。
そんな三橋がここまでドモるのも珍しい。
「プロ、野球、から、お、おふぁ、が!」
『おふぁ?』
「ドラフト、指名、する、て!!」
『マジか!?』
現在、ドラフト会議で指名されたいなら、事前にプロ志望届が必要になる。
そして三橋は、それを出していた。
それは大学の野球部の監督に勧められてのことだった。
「三橋みたいなタイプの投手は、案外プロでいい線、行くんじゃないか?」
そう言われたのは、4年の夏だ。
三橋はきっぱりと「無理、です」と答えていた。
だが監督は「ダメ元で出してみろ」と言う。
監督は選手時代捕手であり、1年の時から三橋の投球スタイルを認めていたのだ。
あまりに強く勧めるから、三橋は冗談のようなつもりで、プロ志望届を提出していた。
「は、8位、指名、だって」
三橋の言葉に、阿部はまぁ妥当かと思う。
大学リーグでまぁまぁの成績を残したが、注目選手と言うわけでもない。
上位指名でないのも、道理だ。
「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。
そして少しの間の後『親は、何だって?』と聞き返す。
「親、にも、これから、電話、する。また、夜、電話、する。」
三橋はそう言って、電話を切った。
電話の向こうの阿部は、親より先に知らせてくれたことに喜ぶ余裕さえなかった。
とにかく、予想外の一大事。
三橋と阿部の未来は、大きく変わり始めていた。
*****
「ったく、お前は相変わらずだな」
御幸は、思わず苦笑した。
電話の向こうの沢村は『そうっすか~!?』と高らかに笑った。
オフに入った御幸は、実家にいた。
ここ最近は、ネットで情報を得る毎日だ。
プロ球団では、そろそろ移籍や自由契約の選手が出始める頃だ。
そういう情報は、チェックしておきたい。
また新入団の選手もまた然り。
今年は御幸の1つ下、つまり沢村たちの学年で大学に進んだ者は今、4年生だ。
かつての高校時代のチームメイト、またはライバルたちの中にも、プロに進んでくる者もいるはずだ。
この辺を細かくチェックするのは、もちろんドラフトの後だ。
だが今のうちに誰が来る可能性があるのか、見ておくのも悪くない。
チームにはちゃんとスタッフがいて、分析の担当だっている。
だが自分の手でチェックするのが、御幸のこだわりだ。
完全に趣味の域ではあるが、こういう作業は大好物なのだ。
こういうところが、捕手としての自分を作り上げてくれているという自負もある。
そのときスマートフォンのアラームが鳴った。
時間は午後10時。
御幸はアラームを止めると、電話をかけた。
するとほとんどワンコールもないうちに、相手が『もしもし!』と声を張り上げた。
「いつもながら、うるせぇよ」
御幸はウンザリした声で、そう言った。
電話の相手は沢村だ。
沢村も今は実家に帰省中で、その間はこの時間に電話をかけると事前に決めてあった。
『声がデカいのは、生まれつきっす!』
「わかった。でももう少し小さな声で頼む。」
御幸は注文をつけながら、苦笑した。
なかなか会えない恋人は、相変わらず元気だ。
「お前、今年のプロ志望届提出者、見たか?」
『ええ!?そんなもん、見れるんすかぁ!?』
「ネットに上がってる。っていうか、お前プロのくせに、そんなことも知らないのか?」
『別に見たところで、どうなるもんでもないっしょ!』
「気にならないか?」
『全然!誰でもかかってこいって感じっす!』
御幸が聞き返すと、沢村の豪快な宣言が聞こえてくる。
プロ志望届提出者の中に共通の知り合いが何人かいることを教えるつもりだった御幸は、その気をなくした。
たしかに沢村の性格なら、誰でも関係ないのだろう。
それならドラフトの時のお楽しみということにしておいてやろう。
「ったく、お前は相変わらずだな」
御幸は、思わず苦笑した。
電話の向こうの沢村は『そうっすか~!?』と高らかに笑った。
御幸は思わず受話器から耳を離して「だからうるせーって!」と叫んだ。
【続く】