「おお振り」×「◆A」2年後
【お泊まり、ドタキャン!?】
「ったく、やってらんねーよな。」
御幸はそう言って、ビールのジョッキをあおる。
それを見ていた阿部は「やってらんねーのは、こっちです」と小さく呟いた。
プロ野球の日本シリーズが終わり、オフシーズンに突入した。
御幸のチームはCS(クライマックス・シリーズ)で敗退しているから、すでにオフモードだ。
ちなみに沢村のチームは日本シリーズに出場したので、ようやくオフというところだ。
御幸がそれを待っていたのだということは、阿部にだってわかる。
「久しぶりだったんだぜ。それなのに」
御幸はさらにそう告げると、不満そうに口を尖らせている。
沢村と久しぶりに会う約束だったが、沢村が今日になってことわってきたのだと言う。
「いきなりドタキャンするかね」
御幸は愚痴りながら、またジョッキを煽った。
阿部は律儀に「もっとペースを落とした方がいいです」と言った。
わかっている。
つい先日、20歳になったばかりの御幸はこうしてレストランで酒を飲むこともできる。
だが未成年の阿部はそうもいかない。
素面で酔っ払いの相手をさせられるのは、たまったもんじゃないだろう。
だが阿部に全く否がないわけじゃない。
なぜなら御幸が呼び出したのは、三橋なのだ。
だが三橋は用があるのだと、阿部が現れた。
仕方がないから、こうして阿部を相手にグチっている。
「なぁ、実は部屋取ってんだけど。お前、三橋と泊まる?」
御幸は少々酔いが回った口調で、そう言った。
そう、今日はいわゆる「お泊まり」のつもりで部屋を予約したのだ。
だけど思わぬドタキャン、しかも当日だとキャンセルもできない。
三橋と阿部を呼び出したのは、そんな事情もあったのだ。
「もしかして初めての『お泊まり』だったりします?」
阿部がおっとりした口調で、ズバリと切り込んできた。
御幸は一瞬言葉につまり、またビールのジョッキを煽る。
そう、シーズン中は会うこともままならず、ようやくのデートのはずだったのだ。
御幸が大きくため息をついたのが、答えだった。
阿部が何か言おうとした途端、軽やかな電子音が鳴り響いた。
阿部は「すみません」とことわり、ポケットからスマホを取り出す。
画面を見た瞬間、頬を緩めたところを見ると、相手は三橋だろう。
何やってんだ、オレ。
結局沢村にことわられた上に、三橋と阿部の邪魔をしている。
御幸は酔いが回った頭でそんなことを考え、自嘲気味に笑った。
*****
「ほら。早、く!」
三橋は沢村の腕を引きながら、人混みの中を歩く。
周りの注目をかなり集めていたけど、知ったことではなかった。
三橋と阿部は、のんびりと「おうちデート」を楽しんでいた。
同じマンションの隣室に暮らす2人は、デートには事欠かない。
だが今日は違った。
御幸から三橋に「今日、会えないか?」とメールが来たのだった。
その時点で三橋は、おかしいと思った。
沢村とは頻繁にメールのやり取りをしている。
だから今日、御幸と沢村が初めての「お泊まり」をすることは聞いていた。
なのに、なぜ御幸から誘いが来るのか。
三橋にはその理由が、なんとなくわかる気がした。
だから阿部に御幸のところに行ってもらうことにして、自分は沢村の球団の寮に向かったのだ。
「な、何で!?三橋!」
三橋の急襲に、沢村は目を白黒させている。
沢村は寮の部屋で、ゴロゴロと過ごしていたのだ。
この時点で、具合が悪いとか、用事があったなんて言い訳は通用しない。
「何で、じゃ、ない。『お泊まり』は!?」
三橋の言葉に、沢村はグッと詰まる。
だがのんびりしている時間はない。
三橋は「早く、着替、えて」と言った。
今は阿部が御幸に相手をしており、急げばまだ「お泊まり」に間に合う。
「でも。。。」
「でも、じゃない!早く!!」
いつにない三橋の強い口調に、沢村は脊髄反射で「はいぃ!」と答える。
かくして身支度を整えて、2人はデート場所に向かった。
「わか、る、よ。オレ、も」
都心に向かう電車の中で、三橋はポツリと呟いた。
沢村は首を傾げて「マジで?」と聞く。
わからないわけがない。
恋人同士の「お泊まり」とは、キスより先に進むこと。
そして男が女のように抱かれることは、本当に怖いのだ。
自分が男でなくなるような恐怖を感じる。
沢村がそれに怖気づいてドタキャンしたのだと、三橋にはピンと来たのだ。
「でも、好き、なら」
三橋は沢村の手を握ると、勇気づけるようにそう言った。
沢村は俯いていた顔を上げると「好きだ」と答えた。
その表情から怯えは消えていないが、目はしっかりと前を向いている。
あと少しで到着。
三橋はスマホを取り出すと、阿部に短いメールを打った。
阿部からはすぐに「早くしてくれ。間が持たない」と返信が帰ってきた。
【続く】
「ったく、やってらんねーよな。」
御幸はそう言って、ビールのジョッキをあおる。
それを見ていた阿部は「やってらんねーのは、こっちです」と小さく呟いた。
プロ野球の日本シリーズが終わり、オフシーズンに突入した。
御幸のチームはCS(クライマックス・シリーズ)で敗退しているから、すでにオフモードだ。
ちなみに沢村のチームは日本シリーズに出場したので、ようやくオフというところだ。
御幸がそれを待っていたのだということは、阿部にだってわかる。
「久しぶりだったんだぜ。それなのに」
御幸はさらにそう告げると、不満そうに口を尖らせている。
沢村と久しぶりに会う約束だったが、沢村が今日になってことわってきたのだと言う。
「いきなりドタキャンするかね」
御幸は愚痴りながら、またジョッキを煽った。
阿部は律儀に「もっとペースを落とした方がいいです」と言った。
わかっている。
つい先日、20歳になったばかりの御幸はこうしてレストランで酒を飲むこともできる。
だが未成年の阿部はそうもいかない。
素面で酔っ払いの相手をさせられるのは、たまったもんじゃないだろう。
だが阿部に全く否がないわけじゃない。
なぜなら御幸が呼び出したのは、三橋なのだ。
だが三橋は用があるのだと、阿部が現れた。
仕方がないから、こうして阿部を相手にグチっている。
「なぁ、実は部屋取ってんだけど。お前、三橋と泊まる?」
御幸は少々酔いが回った口調で、そう言った。
そう、今日はいわゆる「お泊まり」のつもりで部屋を予約したのだ。
だけど思わぬドタキャン、しかも当日だとキャンセルもできない。
三橋と阿部を呼び出したのは、そんな事情もあったのだ。
「もしかして初めての『お泊まり』だったりします?」
阿部がおっとりした口調で、ズバリと切り込んできた。
御幸は一瞬言葉につまり、またビールのジョッキを煽る。
そう、シーズン中は会うこともままならず、ようやくのデートのはずだったのだ。
御幸が大きくため息をついたのが、答えだった。
阿部が何か言おうとした途端、軽やかな電子音が鳴り響いた。
阿部は「すみません」とことわり、ポケットからスマホを取り出す。
画面を見た瞬間、頬を緩めたところを見ると、相手は三橋だろう。
何やってんだ、オレ。
結局沢村にことわられた上に、三橋と阿部の邪魔をしている。
御幸は酔いが回った頭でそんなことを考え、自嘲気味に笑った。
*****
「ほら。早、く!」
三橋は沢村の腕を引きながら、人混みの中を歩く。
周りの注目をかなり集めていたけど、知ったことではなかった。
三橋と阿部は、のんびりと「おうちデート」を楽しんでいた。
同じマンションの隣室に暮らす2人は、デートには事欠かない。
だが今日は違った。
御幸から三橋に「今日、会えないか?」とメールが来たのだった。
その時点で三橋は、おかしいと思った。
沢村とは頻繁にメールのやり取りをしている。
だから今日、御幸と沢村が初めての「お泊まり」をすることは聞いていた。
なのに、なぜ御幸から誘いが来るのか。
三橋にはその理由が、なんとなくわかる気がした。
だから阿部に御幸のところに行ってもらうことにして、自分は沢村の球団の寮に向かったのだ。
「な、何で!?三橋!」
三橋の急襲に、沢村は目を白黒させている。
沢村は寮の部屋で、ゴロゴロと過ごしていたのだ。
この時点で、具合が悪いとか、用事があったなんて言い訳は通用しない。
「何で、じゃ、ない。『お泊まり』は!?」
三橋の言葉に、沢村はグッと詰まる。
だがのんびりしている時間はない。
三橋は「早く、着替、えて」と言った。
今は阿部が御幸に相手をしており、急げばまだ「お泊まり」に間に合う。
「でも。。。」
「でも、じゃない!早く!!」
いつにない三橋の強い口調に、沢村は脊髄反射で「はいぃ!」と答える。
かくして身支度を整えて、2人はデート場所に向かった。
「わか、る、よ。オレ、も」
都心に向かう電車の中で、三橋はポツリと呟いた。
沢村は首を傾げて「マジで?」と聞く。
わからないわけがない。
恋人同士の「お泊まり」とは、キスより先に進むこと。
そして男が女のように抱かれることは、本当に怖いのだ。
自分が男でなくなるような恐怖を感じる。
沢村がそれに怖気づいてドタキャンしたのだと、三橋にはピンと来たのだ。
「でも、好き、なら」
三橋は沢村の手を握ると、勇気づけるようにそう言った。
沢村は俯いていた顔を上げると「好きだ」と答えた。
その表情から怯えは消えていないが、目はしっかりと前を向いている。
あと少しで到着。
三橋はスマホを取り出すと、阿部に短いメールを打った。
阿部からはすぐに「早くしてくれ。間が持たない」と返信が帰ってきた。
【続く】