「おお振り」×「◆A」2年後
【楽しい祝勝会】
「栄純、君、と、オレ、の、一軍、入りを、祝して!」
三橋の温度と共に、全員が「カンパイ!」とグラスを合わせる。
沢村は再会の嬉しさ半分、戸惑い半分のまま、乾杯の烏龍茶を飲んだ。
沢村が一軍に上がったのは、暑さが本格的になってきた初夏。
力をつけたというより、開幕投手も務めたチームのエースが故障したからという理由が大きい。
エースが登録抹消され、戦線離脱した翌日、沢村は一軍に合流した。
そしてその日に、三橋から久しぶりに電話がかかってきたのだ。
『おめ、でと!オ、オレも、一軍、入り、だ!』
三橋は開口一番、そう言った。
そう、三橋も沢村と時を同じくして、入学した大学の野球部でベンチ入りを果たしていた。
東都リーグでそこそこ強いチームで、一年生にしてローテーション入り。
これもまたなかなかの快挙だった。
「阿部、元気か?」
沢村は何の気なしにそう聞いたが、三橋は「悔しがってる」と答えた。
阿部はまだ控え捕手で、ベンチにも入れない。
だがまだまだ1年が始まったばかり、阿部は努力を続けるのだろう。
「相変わらず、ラブラブか?」
続いて沢村は、プライベートなことを聞いた。
受験の後、恋人同士になった2人はラブラブだと聞いている。
電話も向こうからは『ウヘ、ヘヘ』と、少々気味が悪い笑いが返ってきた。
沢村は「キモいぞ、三橋」と笑い返したものの、やはりちょっとうらやましい。
沢村と御幸も、一応付き合い始めたのだ。
だがチームが違うから、デートどころか、会うこともままならない。
毎日メールはするし、たまに電話がかかってくる。
だがこの会えなさは、遠距離恋愛どころの騒ぎじゃない。
「いいなぁ」
思わず沢村がため息をつくと、三橋は黙り込んだ。
案外勘が鋭い三橋は、何かを感じ取ったらしい。
だがすぐに「祝勝、会、しよう!」と言い出した。
そしてまた連絡するからと、早々に電話を終えたのだが。
後日、三橋は本当に「祝勝会」を企画してしまった。
奇しくも御幸のチームとの対戦の日の試合後、場所は球場近くの焼肉店だ。
指定された時間に店に出向くと、そこには三橋と阿部、そして御幸が待っていた。
何と三橋は阿部と相談し、球団の試合日程まで調べて、沢村と御幸が来られる日時と場所を選んだのだ。
「御幸先輩とオレ、敵チームなのに!仲良くメシなんて!」
不意打ちのような御幸との再会に、沢村は焦って、照れた。
だが阿部も「メシくらい、どこの選手でもやってるよ」と呆れた声を上げた。
事実プロ野球選手のブログやツイッターを見ると、他チームの選手と食事なんてネタはいくらでもある。
「ダブル、デート、だよ」
なおも反論しようとする沢村の耳元で、三橋がそう囁いた。
そして4人は予約していた個室で、祝勝会を始めたのだった。
*****
「ダブル、デート、だよ」
沢村の耳元で、三橋がそう囁いた。
それを聞いた御幸は何だか妙に恥ずかしくなったが、聞こえない振りをすることで平静を装った。
やられた。
御幸は沢村が現れた瞬間、そう思った。
最初は阿部から「一緒にメシ、食いませんか?」というお誘いだった。
試合球場近くの焼き肉店に出向くと、すでに三橋と阿部が待っていた。
御幸が「待たせたな、食おうか」と声をかけると、阿部が「あと1人来るんで」と言ったのだ。
そして現れたのが、沢村だった。
嬉しいけど、悔しい。
それは御幸の素直な感想だった。
何となく沢村と付き合うことにはなったけれど、2人ともプロ野球選手では会うこともままならない。
シーズン中はとにかく忙しいのだ。
御幸は昔からモテていたけれど、恋愛経験には乏しい。
野球第一の生活を送っていたせいだが、それにしても今の沢村との関係が普通の恋愛と違い過ぎていることはわかる。
だからこんな風に沢村と会えたことは嬉しい。
でもこの再会が、三橋と阿部に仕組まれたのが、何だか出し抜かれたようで悔しかった。
「三橋もベンチ入りだってな」
烏龍茶で乾杯の後、御幸はまず三橋に声をかけた。
本当は酒でも飲みたいところだが、あいにく全員未成年だ。
万が一にも酒を飲んでいるところがニュースにでもなれば、いろいろまずい。
「オレも、オレも、一軍!」
沢村がすかさず手を上げ、自分のことをアピールする。
御幸は「わかった、わかった」と宥めた。
だが沢村は「本当にわかってるんすか!?」と声を上げる。
三橋が「一軍、すごい!」と褒め称えると「ダーハッハッハ」と高笑いだ。
「沢村って、きっと酒とか弱いんじゃないすか?」
阿部の言葉に、御幸も「確かにな」と頷いた。
烏龍茶でここまではしゃげるなら、酒を飲んだら大変なことになりそうだ。
「もしかして余計なおせっかいでした?」
鉄板で肉を焼きながら、阿部がそう言った。
だまし討ちのようにして、沢村と御幸を呼んだことだろう。
御幸は「いや」と首を振った。
そして「ありがとな」と付け加える。
御幸と沢村の停滞気味だった関係に、これはきっといいスパイスになる。
「沢村、いっぱい食えよ」
御幸は上機嫌で、声をかける。
こうして楽しい祝勝会は、盛り上がっていった。
【続く】
「栄純、君、と、オレ、の、一軍、入りを、祝して!」
三橋の温度と共に、全員が「カンパイ!」とグラスを合わせる。
沢村は再会の嬉しさ半分、戸惑い半分のまま、乾杯の烏龍茶を飲んだ。
沢村が一軍に上がったのは、暑さが本格的になってきた初夏。
力をつけたというより、開幕投手も務めたチームのエースが故障したからという理由が大きい。
エースが登録抹消され、戦線離脱した翌日、沢村は一軍に合流した。
そしてその日に、三橋から久しぶりに電話がかかってきたのだ。
『おめ、でと!オ、オレも、一軍、入り、だ!』
三橋は開口一番、そう言った。
そう、三橋も沢村と時を同じくして、入学した大学の野球部でベンチ入りを果たしていた。
東都リーグでそこそこ強いチームで、一年生にしてローテーション入り。
これもまたなかなかの快挙だった。
「阿部、元気か?」
沢村は何の気なしにそう聞いたが、三橋は「悔しがってる」と答えた。
阿部はまだ控え捕手で、ベンチにも入れない。
だがまだまだ1年が始まったばかり、阿部は努力を続けるのだろう。
「相変わらず、ラブラブか?」
続いて沢村は、プライベートなことを聞いた。
受験の後、恋人同士になった2人はラブラブだと聞いている。
電話も向こうからは『ウヘ、ヘヘ』と、少々気味が悪い笑いが返ってきた。
沢村は「キモいぞ、三橋」と笑い返したものの、やはりちょっとうらやましい。
沢村と御幸も、一応付き合い始めたのだ。
だがチームが違うから、デートどころか、会うこともままならない。
毎日メールはするし、たまに電話がかかってくる。
だがこの会えなさは、遠距離恋愛どころの騒ぎじゃない。
「いいなぁ」
思わず沢村がため息をつくと、三橋は黙り込んだ。
案外勘が鋭い三橋は、何かを感じ取ったらしい。
だがすぐに「祝勝、会、しよう!」と言い出した。
そしてまた連絡するからと、早々に電話を終えたのだが。
後日、三橋は本当に「祝勝会」を企画してしまった。
奇しくも御幸のチームとの対戦の日の試合後、場所は球場近くの焼肉店だ。
指定された時間に店に出向くと、そこには三橋と阿部、そして御幸が待っていた。
何と三橋は阿部と相談し、球団の試合日程まで調べて、沢村と御幸が来られる日時と場所を選んだのだ。
「御幸先輩とオレ、敵チームなのに!仲良くメシなんて!」
不意打ちのような御幸との再会に、沢村は焦って、照れた。
だが阿部も「メシくらい、どこの選手でもやってるよ」と呆れた声を上げた。
事実プロ野球選手のブログやツイッターを見ると、他チームの選手と食事なんてネタはいくらでもある。
「ダブル、デート、だよ」
なおも反論しようとする沢村の耳元で、三橋がそう囁いた。
そして4人は予約していた個室で、祝勝会を始めたのだった。
*****
「ダブル、デート、だよ」
沢村の耳元で、三橋がそう囁いた。
それを聞いた御幸は何だか妙に恥ずかしくなったが、聞こえない振りをすることで平静を装った。
やられた。
御幸は沢村が現れた瞬間、そう思った。
最初は阿部から「一緒にメシ、食いませんか?」というお誘いだった。
試合球場近くの焼き肉店に出向くと、すでに三橋と阿部が待っていた。
御幸が「待たせたな、食おうか」と声をかけると、阿部が「あと1人来るんで」と言ったのだ。
そして現れたのが、沢村だった。
嬉しいけど、悔しい。
それは御幸の素直な感想だった。
何となく沢村と付き合うことにはなったけれど、2人ともプロ野球選手では会うこともままならない。
シーズン中はとにかく忙しいのだ。
御幸は昔からモテていたけれど、恋愛経験には乏しい。
野球第一の生活を送っていたせいだが、それにしても今の沢村との関係が普通の恋愛と違い過ぎていることはわかる。
だからこんな風に沢村と会えたことは嬉しい。
でもこの再会が、三橋と阿部に仕組まれたのが、何だか出し抜かれたようで悔しかった。
「三橋もベンチ入りだってな」
烏龍茶で乾杯の後、御幸はまず三橋に声をかけた。
本当は酒でも飲みたいところだが、あいにく全員未成年だ。
万が一にも酒を飲んでいるところがニュースにでもなれば、いろいろまずい。
「オレも、オレも、一軍!」
沢村がすかさず手を上げ、自分のことをアピールする。
御幸は「わかった、わかった」と宥めた。
だが沢村は「本当にわかってるんすか!?」と声を上げる。
三橋が「一軍、すごい!」と褒め称えると「ダーハッハッハ」と高笑いだ。
「沢村って、きっと酒とか弱いんじゃないすか?」
阿部の言葉に、御幸も「確かにな」と頷いた。
烏龍茶でここまではしゃげるなら、酒を飲んだら大変なことになりそうだ。
「もしかして余計なおせっかいでした?」
鉄板で肉を焼きながら、阿部がそう言った。
だまし討ちのようにして、沢村と御幸を呼んだことだろう。
御幸は「いや」と首を振った。
そして「ありがとな」と付け加える。
御幸と沢村の停滞気味だった関係に、これはきっといいスパイスになる。
「沢村、いっぱい食えよ」
御幸は上機嫌で、声をかける。
こうして楽しい祝勝会は、盛り上がっていった。
【続く】