「おお振り」×「◆A」2年後
【煽る2人と動揺する2人】
「何なんすか、いきなり電話なんて。」
沢村は電話の向こうの相手に、そう言った。
わざとぶっきらぼうな感じを装っているが、本当はドキドキしている。
嬉しいけれど怖くて、叫び出したいような気持ちを、懸命に抑えていた。
プロ野球のシーズンは、もうすぐ開幕。
沢村は二軍スタートのわりには、マスコミに注目されている。
理由は簡単、あの御幸と高校時代にバッテリーを組んでいたからだ。
いつか一軍に上がれば、かつての先輩後輩対決。
スポーツ関係のマスコミは、そんな事態を見越して、今から沢村の取材を始めているのだ。
そんなある日、練習グラウンドに三橋と阿部が現れた。
卒業旅行で御幸に会ったらしい2人は、今は大学入学の準備に忙しい。
そんな忙しさの合間を縫って、一般のファンに混じって練習を見ていた2人に、沢村はすぐに気付いた。
そして練習の後、少しだけ話をすることになったのだが。
「御幸、セン、パイ、元気、だった、よ!」
三橋は今や懐かしくさえある吃音気味の声で、力いっぱい説明してくれる。
沢村は「ふ~ん」と答えながら、何となく面白くなかった。
新人プロ野球選手なんて、はっきり言って軟禁生活を送っているようなものだ。
御幸に会うどころか、外出だってままならない。
もうすぐ大学生で、自由にあちこち行けて、しかもラブラブな2人が羨ましかった。
「そういや御幸先輩、好きな人がいるんだってな。」
不意にそんなことを言い出したのは阿部で、沢村は「は!?」と声を上げる。
だがそんな沢村のリアクションなど無視して、三橋も「好きな、人、だって!」と叫ぶ。
好きな人がいるなんて、聞いてないし。
沢村は何だか妙に気持ちがザワつき、落ち着かない。
だが三橋と阿部は、さらに御幸の話を続けた。
何だか一段と大人っぽくなっていたとか、女性ファンがすごく多かったとか。
まるで沢村を試すかのように、そんな話を繰り返した後、さらに気になることを言い出した。
「近々、電話、で、告白、するって」
「相手も大変な時期なんだとさ。会えなくて寂しいみたいだったけど。」
2人はなおも意味深なことを言う。
そして最後に「絶対、一軍、だよ!」「がんばれよ」と言い残して、帰っていった。
沢村の携帯電話が鳴ったのは、その2日後のことだった。
画面に表示された相手の名前は「御幸一也」。
近々電話で告白。相手も大事な時期。
いやいやまさか。そんなことが。
前身の毛穴が開いて、汗が噴き出ているような暑さを感じながら、沢村は電話を取ったのだった。
『お前、オレと付き合う気、ある?』
案の定というべきか、電話の向こうの御幸はそう言った。
やっぱりそうなのか?いや、やっぱり嘘っぽい。
そう思った沢村は「忙しいんで、外出は無理っす」と答える。
すると御幸が『違けーよ。バカ!』と文句を言った。
その声は、自信たっぷりな御幸っぽくない、どこか不安そうな色合いが混じっていた。
「もしかして、オレのこと、好きとか。。。」
沢村は恐る恐る、そう聞いてみた。
すると電話の向こうから「今頃?お前、鈍すぎ」という声が聞こえてきた。
「マ、マジで!?」
沢村は思わず叫んでしまい、寮の他の部屋の選手や電話の向こうから「うるせぇ!」と怒鳴られることになった。
*****
「お前、オレと付き合う気、ある?」
御幸はありったけの勇気を振り絞って、そう告げた。
だが電話の向こうの後輩は『忙しいんで、外出は無理っす』などととぼけた答えを返してきた。
今年も開幕一軍、しかも先発を言い渡された御幸は調整に余念がない。
だがさすがに2年目なので、昨年よりも余裕を持って臨めていると思う。
だが余裕があることがいいこととは限らない。
なまじ余裕があるだけに、余計なことを考えてしまうのだ。
御幸が気にかかるのは、沢村のことだ。
高校の頃から、いやまだ中学生の沢村が青道高校に見学にきたあの初対面のときから、気になっていた。
だけどバッテリーを組んでいた頃は、単に手がかかるし、特別ではあるが、あくまで後輩だった。
これが恋なのだと悟ったのは、高校で部を引退した時だ。
もうこれで一緒に戦うチームメイトではなくなると思った時、深い喪失感を覚えた。
だがこの関係がこれ以上、進むこともないと思っていた。
男同士だということ、そして野球部という環境。
周囲にバレると、大変なことになるのは目に見えている。
そして卒業すれば、違う道へと進むだろう。
このまま少しずつ、忘れていくと思っていたのだ。
「御幸、先輩、栄純、君、好き、ですか?」
不意に現れて、御幸の心をざわつかせたのは三橋と阿部だった。
高校時代のバッテリーで、大学でもそれは続く。
そんな2人は恋人にもなっていたのだ。
「好きって何だよ」
御幸はしらばっくれて、そう答える。
だけど三橋は「恋、です」ときっぱり答える。
阿部までもが「沢村は告白しないと、わからないタイプですよ」などと言う。
そしてラブラブなモード全開で、御幸の心を思い切り揺さぶってくれたのだ。
「開幕前とか、コクってやれば、あいつ調子を上げて、一気に一軍に上がるんじゃ」
「きっと、喜ぶ、です!」
そんな風にさんざん御幸の気持ちを煽った2人は、ラブラブなまま帰って行った。
開幕前にコクってやれば、調子を上げて一気に一軍?
そんな単純な、と思うが、同時にありだなと思う。
何しろ相手はあの沢村、思っている以上にバカなのだから。
『もしかして、オレのこと、好きとか。。。』
電話の向こうの沢村は、恐る恐るそう聞いてきた。
阿部が沢村を「告白しないとわからないタイプ」と評したのは、正解だ。
御幸は思わず「今頃?お前、鈍すぎ」と肩を落としてしまった。
『マ、マジで!?』
電話口から、沢村の絶叫が聞こえる。
御幸は先が思いやられることを予感しながら「うるせぇ!」と怒鳴った。
【続く】
「何なんすか、いきなり電話なんて。」
沢村は電話の向こうの相手に、そう言った。
わざとぶっきらぼうな感じを装っているが、本当はドキドキしている。
嬉しいけれど怖くて、叫び出したいような気持ちを、懸命に抑えていた。
プロ野球のシーズンは、もうすぐ開幕。
沢村は二軍スタートのわりには、マスコミに注目されている。
理由は簡単、あの御幸と高校時代にバッテリーを組んでいたからだ。
いつか一軍に上がれば、かつての先輩後輩対決。
スポーツ関係のマスコミは、そんな事態を見越して、今から沢村の取材を始めているのだ。
そんなある日、練習グラウンドに三橋と阿部が現れた。
卒業旅行で御幸に会ったらしい2人は、今は大学入学の準備に忙しい。
そんな忙しさの合間を縫って、一般のファンに混じって練習を見ていた2人に、沢村はすぐに気付いた。
そして練習の後、少しだけ話をすることになったのだが。
「御幸、セン、パイ、元気、だった、よ!」
三橋は今や懐かしくさえある吃音気味の声で、力いっぱい説明してくれる。
沢村は「ふ~ん」と答えながら、何となく面白くなかった。
新人プロ野球選手なんて、はっきり言って軟禁生活を送っているようなものだ。
御幸に会うどころか、外出だってままならない。
もうすぐ大学生で、自由にあちこち行けて、しかもラブラブな2人が羨ましかった。
「そういや御幸先輩、好きな人がいるんだってな。」
不意にそんなことを言い出したのは阿部で、沢村は「は!?」と声を上げる。
だがそんな沢村のリアクションなど無視して、三橋も「好きな、人、だって!」と叫ぶ。
好きな人がいるなんて、聞いてないし。
沢村は何だか妙に気持ちがザワつき、落ち着かない。
だが三橋と阿部は、さらに御幸の話を続けた。
何だか一段と大人っぽくなっていたとか、女性ファンがすごく多かったとか。
まるで沢村を試すかのように、そんな話を繰り返した後、さらに気になることを言い出した。
「近々、電話、で、告白、するって」
「相手も大変な時期なんだとさ。会えなくて寂しいみたいだったけど。」
2人はなおも意味深なことを言う。
そして最後に「絶対、一軍、だよ!」「がんばれよ」と言い残して、帰っていった。
沢村の携帯電話が鳴ったのは、その2日後のことだった。
画面に表示された相手の名前は「御幸一也」。
近々電話で告白。相手も大事な時期。
いやいやまさか。そんなことが。
前身の毛穴が開いて、汗が噴き出ているような暑さを感じながら、沢村は電話を取ったのだった。
『お前、オレと付き合う気、ある?』
案の定というべきか、電話の向こうの御幸はそう言った。
やっぱりそうなのか?いや、やっぱり嘘っぽい。
そう思った沢村は「忙しいんで、外出は無理っす」と答える。
すると御幸が『違けーよ。バカ!』と文句を言った。
その声は、自信たっぷりな御幸っぽくない、どこか不安そうな色合いが混じっていた。
「もしかして、オレのこと、好きとか。。。」
沢村は恐る恐る、そう聞いてみた。
すると電話の向こうから「今頃?お前、鈍すぎ」という声が聞こえてきた。
「マ、マジで!?」
沢村は思わず叫んでしまい、寮の他の部屋の選手や電話の向こうから「うるせぇ!」と怒鳴られることになった。
*****
「お前、オレと付き合う気、ある?」
御幸はありったけの勇気を振り絞って、そう告げた。
だが電話の向こうの後輩は『忙しいんで、外出は無理っす』などととぼけた答えを返してきた。
今年も開幕一軍、しかも先発を言い渡された御幸は調整に余念がない。
だがさすがに2年目なので、昨年よりも余裕を持って臨めていると思う。
だが余裕があることがいいこととは限らない。
なまじ余裕があるだけに、余計なことを考えてしまうのだ。
御幸が気にかかるのは、沢村のことだ。
高校の頃から、いやまだ中学生の沢村が青道高校に見学にきたあの初対面のときから、気になっていた。
だけどバッテリーを組んでいた頃は、単に手がかかるし、特別ではあるが、あくまで後輩だった。
これが恋なのだと悟ったのは、高校で部を引退した時だ。
もうこれで一緒に戦うチームメイトではなくなると思った時、深い喪失感を覚えた。
だがこの関係がこれ以上、進むこともないと思っていた。
男同士だということ、そして野球部という環境。
周囲にバレると、大変なことになるのは目に見えている。
そして卒業すれば、違う道へと進むだろう。
このまま少しずつ、忘れていくと思っていたのだ。
「御幸、先輩、栄純、君、好き、ですか?」
不意に現れて、御幸の心をざわつかせたのは三橋と阿部だった。
高校時代のバッテリーで、大学でもそれは続く。
そんな2人は恋人にもなっていたのだ。
「好きって何だよ」
御幸はしらばっくれて、そう答える。
だけど三橋は「恋、です」ときっぱり答える。
阿部までもが「沢村は告白しないと、わからないタイプですよ」などと言う。
そしてラブラブなモード全開で、御幸の心を思い切り揺さぶってくれたのだ。
「開幕前とか、コクってやれば、あいつ調子を上げて、一気に一軍に上がるんじゃ」
「きっと、喜ぶ、です!」
そんな風にさんざん御幸の気持ちを煽った2人は、ラブラブなまま帰って行った。
開幕前にコクってやれば、調子を上げて一気に一軍?
そんな単純な、と思うが、同時にありだなと思う。
何しろ相手はあの沢村、思っている以上にバカなのだから。
『もしかして、オレのこと、好きとか。。。』
電話の向こうの沢村は、恐る恐るそう聞いてきた。
阿部が沢村を「告白しないとわからないタイプ」と評したのは、正解だ。
御幸は思わず「今頃?お前、鈍すぎ」と肩を落としてしまった。
『マ、マジで!?』
電話口から、沢村の絶叫が聞こえる。
御幸は先が思いやられることを予感しながら「うるせぇ!」と怒鳴った。
【続く】