「おお振り」×「◆A」2年後

【衝撃の爆弾発言!】

やっと、終わった。
三橋はシャープペンシルを置くと、小さく拳を握りしめた。
結果はわからないが、やるだけのことをやったつもりだ。

三橋は結局6校の大学を受験した。
そのうち4校は、阿部と同じだ。
その4校は、阿部ならばどこかにひっかかるだろう。
だが三橋にとっては、どれもハードルが高い。
だからさらにもう2校、すべり止めを追加した。

両親からの指令は「どこでもいいから絶対に入ること」だ。
もしもどこにも合格しないときは、浪人か就職になる。
だがどちらにしても、その場合はそこで野球をやめるようにと言われている。
三橋にしても、否はなかった。
浪人か就職なら、阿部とはここで離れることになる。
それならば、高校で阿部とバッテリーを組んだ3年間を最後の思い出にすればいい。
とにかく必死で頑張る以外、三橋にできることはない。

最後の6校目の試験を終えた三橋は、席を立った。
そして試験会場を出たところで、携帯電話を取り出す。
一足先に受験を終えた阿部は、今日は家でのんびりしているはずだ。
その阿部に無事に終わったことを知らせようと思ったのだ。

『もしもし、三橋?』
3回のコールで電話に出てくれた阿部の声が聞こえる。
だが違和感を感じた三橋は、キョロキョロと辺りを見回した。
阿部の声が、電話の中と外、2方向から聞こえた気がしたからだ。
すると帰宅する人波の中、電話を耳に当てている阿部を見つけた。

「阿部、君!」
「今日で終わりだからな。迎えに来た。」
阿部は照れくさそうに笑いながら、そう言った。
三橋は「あり、がと!」と叫ぶと、阿部の肩に額をつける。
何だか泣いてしまいそうで、顔を見られたくなかったのだ。
そんな三橋の気持ちを察してくれたのか、阿部は三橋の頭をわしゃわしゃとなででくれた。

お互いを想い合っていた2人は、何となく「大学受験が終わるまでは我慢」と思っていた。
そして今、その我慢の時期が終わったのだ。
これから新しい時間が始まる。
特に言葉は交わさなくても、2人をその予感を共有し、胸を熱くしていた。

*****

「つ、付き、合う~~~!?」
メールを読んだ沢村は、思わず絶叫してしまう。
すると宿舎のあちこちから「うるせーぞ!」「黙れ!」などと怒声が飛んできた。

ドラフトで見事に指名され、プロ入りを決めた沢村は、チームの春季キャンプに参加していた。
最大の難関だった学期末試験は、西浦高校野球部の、もっと言うなら西広の活躍で乗り切った。
かくして今の沢村は順風満帆。。。ではない。
三橋たちから見れば、プロ入りできるだけでうらやましい。
だけどやはり自分より上を見てしまえば、不満も出てくる。

沢村のキャンプ地は、宮崎の某球場。
チームが違う御幸や降谷は沖縄だ。
その違いは、彼らが参観するのは一軍キャンプ。
ほとんどのチームが、一軍は沖縄でキャンプを張っている。
だが沢村は二軍のキャンプ地で、調整をしていた。

わかっているのだ。
1年の差は大きいのだということは。
昨年、すでに1軍入りして、確かな実績を残している御幸とは違う。
入ったばかりのルーキーが、初めてのキャンプを1軍スタートできると思うのは甘すぎる。

だが降谷はそれをやってのけていた。
いきなり一軍キャンプに参加していることは、スポーツニュースなどで報道されている。
それを考えると、やはり面白くないし、焦るのだ。
早く一軍に上がりたい。
できれば開幕は一軍スタート、いやオープン戦からでも。
負けん気が強い沢村は、とにかく練習に没頭していた。

そして練習を終え、宿舎に戻った沢村は、着信していたメールを読んだ。
メールは3通来ていた。
小湊春市、蒼月若菜、そして三橋廉からだ。
着信した順にメールを読んだ沢村は、最後の三橋のメールを読み始める。

さして長くない三橋のメールのほとんどは、近況の報告だ。
とりあえず受験はすべて終わり、後は結果待ちであること。
そして他の西浦高校の野球部員たちの進路の話。
だが最後に一言、爆弾発言が綴られていた。

オレ、阿部君と付き合うことになった。
3月のうちに、2人で旅行しようと思ってる。

その文章を読んだ沢村は、絶叫することになったのだ。
付き合う?それで旅行?
それって、それって、それって---!?

不思議なことに、嫌悪感はなかった。
阿部と三橋が付き合うのは、ごく自然な流れのような気がする。
だがここに旅行というワードが加わると、急に生々しくなるのだ。
普通男女の恋人が旅行するなら、当然夜には×××するだろうけど。
この2人だと、どうなるんだ?

その瞬間、なぜか沢村の脳裏には、御幸の顔が浮かんできた。
思わず赤面してしまった沢村は、ブンブンと首を振り「消えろ、妄想!」と叫ぶ。
その瞬間、またしても宿舎のあちこちから「だからうるせーって!」と怒声が飛んできた。

【続く】
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