「おお振り」×「◆A」2年後
【野球、頑張る!勉強、頑張れ!】
ありがたいのは、練習試合の相手。
沢村は涙を流しながら、問題を解き進めていた。
ドラフト会議が終わり、進むべき道も決まった。
周囲から祝福され、あとは自主トレをしつつ、卒業を待つ。
ついこの間まで、沢村はそのつもりだった。
だがそこに思わぬ落とし穴があったのだ。
2学期の期末試験、そして3学期の期末は卒業資格も兼ねている。
卒業ができないなんてことになったら、その先の道はない。
だから何としても赤点なしで、切り抜けなければならないのだが。
沢村はこのことをあんまり重く考えていなかった。
2学期の途中までは金丸や東条など、頼りになる面々が寮に残っていたからだ。
だが東京に実家がある面々は、寮を出てしまっていた。
しかも彼らだって受験があるので、とても助けてもらえるような状況ではない。
つまり沢村は、絶望的な状況に追い込まれていたのだ。
そんなとき、意外な救いの手を差し伸べたのは予想外の人物だった。
かつて練習試合をして、今でも付き合いがある西浦高校の三橋だ。
同じ時期に期末試験がある西浦高校では、野球部で集まって勉強会をするという。
それを雑談のような三橋からのメールで知った沢村は「オレも参加したい!」と頼んだのだ。
「これは多分、試験に出ると思うよ。覚えないと」
すっかりお馴染みの三橋の部屋には、西浦高校の野球部員が集まっている。
もう大学が決まった者もいるが、半分以上は受験生だ。
そして沢村の面倒を見てくれているのは、もちろん三橋ではない。
国立大学の受験を控えた西浦一の秀才、西広だ。
「すげぇな。学校が違うのに、試験の問題、わかるのか?」
「うん。先生の気持ちになれば、どこを出題したいかわかるんだよ。」
何の気なしに聞いた沢村の問いに、西広はひどく次元の違う答えを返して来た。
だがその言葉は信頼できる気がした。
なぜなら西広の説明は、恐ろしいほどわかりやすいからだ。
「西広、君、は、教える、の、上手い、ん、だよ~」
三橋が沢村に「なんでお前が」とツッコみたくなるような自慢をする。
だが沢村には、ツッコミのスキルはない。
ごくごく単純に「すげーな!」と感嘆する。
ありがたいのは、練習試合の相手。
沢村は涙を流しながら、問題を解き進めていた。
そして2学期の期末試験、沢村は今までで最高の成績を収めるのだが、それはもう少し先の話だ。
*****
「ところで三橋は、どこの大学受けるか決めたのか?」
沢村の言葉に、三橋は「うん」と頷く。
だが決まるまでには、いろいろな紆余曲折があった。
できれば六大学リーグの学校に行きたい。
それが当初からの阿部と三橋の目標だった。
野球部を引退してしばらくは、それを目標に猛勉強した。
迷ったが、ガリガリと詰め込んだ結果は、今有効に生きている。
三橋の学力は飛躍的に伸びた。
だがやはり六大学はというと、かなり厳しい。
阿部は何とか射程内だが、三橋にとってはもはやギャンブルだ。
迷った末に2人が決めたのは、六大学ではなかった。
第一志望は、東都大学野球リーグの1部に所属するS大だ。
このまま三橋の学力が伸びれば、何とか手が届く。
そして学力以外にも、2人にとっては問題があった。
2人でできる野球は、おそらく大学の4年間で終わる。
それならば1年生のうちからレギュラーを取れそうな学校がいい。
六大学などは、例えば田島のような高校で有望な選手を推薦で入れる。
そんな選手とレギュラーポジションを争う時間は、減らしたい。
つまり現行の部員たちを見て、1年からレギュラーを狙える学校。
それも受験の条件に加わったのだ。
「オレ、野球、頑張る!」
三橋は高らかにそう宣言した。
沢村は元気のいい声と迷いのない笑顔に、一瞬驚く。
だがすぐに「おぉ!頑張れ!」と答える。
プロと大学、場所は違っても、沢村も三橋も投げるのが大好きなのだ。
「だから、えー、じゅん、君も、勉強、頑張れ」
三橋はそう付け加えると、沢村は「う」と詰まった。
今回はこうして西浦の勉強会に混ぜてもらって、どうにか切り抜けられる。
だがまだ3学期の期末が残っているのだ。
「じゃあ、休憩終わり。またやるよ~」
西広の言葉に、三橋も沢村も再び教科書に目を落とした。
新たな道へ進む前の最後の試練。
まだまだ気は抜けない。
【続く】
ありがたいのは、練習試合の相手。
沢村は涙を流しながら、問題を解き進めていた。
ドラフト会議が終わり、進むべき道も決まった。
周囲から祝福され、あとは自主トレをしつつ、卒業を待つ。
ついこの間まで、沢村はそのつもりだった。
だがそこに思わぬ落とし穴があったのだ。
2学期の期末試験、そして3学期の期末は卒業資格も兼ねている。
卒業ができないなんてことになったら、その先の道はない。
だから何としても赤点なしで、切り抜けなければならないのだが。
沢村はこのことをあんまり重く考えていなかった。
2学期の途中までは金丸や東条など、頼りになる面々が寮に残っていたからだ。
だが東京に実家がある面々は、寮を出てしまっていた。
しかも彼らだって受験があるので、とても助けてもらえるような状況ではない。
つまり沢村は、絶望的な状況に追い込まれていたのだ。
そんなとき、意外な救いの手を差し伸べたのは予想外の人物だった。
かつて練習試合をして、今でも付き合いがある西浦高校の三橋だ。
同じ時期に期末試験がある西浦高校では、野球部で集まって勉強会をするという。
それを雑談のような三橋からのメールで知った沢村は「オレも参加したい!」と頼んだのだ。
「これは多分、試験に出ると思うよ。覚えないと」
すっかりお馴染みの三橋の部屋には、西浦高校の野球部員が集まっている。
もう大学が決まった者もいるが、半分以上は受験生だ。
そして沢村の面倒を見てくれているのは、もちろん三橋ではない。
国立大学の受験を控えた西浦一の秀才、西広だ。
「すげぇな。学校が違うのに、試験の問題、わかるのか?」
「うん。先生の気持ちになれば、どこを出題したいかわかるんだよ。」
何の気なしに聞いた沢村の問いに、西広はひどく次元の違う答えを返して来た。
だがその言葉は信頼できる気がした。
なぜなら西広の説明は、恐ろしいほどわかりやすいからだ。
「西広、君、は、教える、の、上手い、ん、だよ~」
三橋が沢村に「なんでお前が」とツッコみたくなるような自慢をする。
だが沢村には、ツッコミのスキルはない。
ごくごく単純に「すげーな!」と感嘆する。
ありがたいのは、練習試合の相手。
沢村は涙を流しながら、問題を解き進めていた。
そして2学期の期末試験、沢村は今までで最高の成績を収めるのだが、それはもう少し先の話だ。
*****
「ところで三橋は、どこの大学受けるか決めたのか?」
沢村の言葉に、三橋は「うん」と頷く。
だが決まるまでには、いろいろな紆余曲折があった。
できれば六大学リーグの学校に行きたい。
それが当初からの阿部と三橋の目標だった。
野球部を引退してしばらくは、それを目標に猛勉強した。
迷ったが、ガリガリと詰め込んだ結果は、今有効に生きている。
三橋の学力は飛躍的に伸びた。
だがやはり六大学はというと、かなり厳しい。
阿部は何とか射程内だが、三橋にとってはもはやギャンブルだ。
迷った末に2人が決めたのは、六大学ではなかった。
第一志望は、東都大学野球リーグの1部に所属するS大だ。
このまま三橋の学力が伸びれば、何とか手が届く。
そして学力以外にも、2人にとっては問題があった。
2人でできる野球は、おそらく大学の4年間で終わる。
それならば1年生のうちからレギュラーを取れそうな学校がいい。
六大学などは、例えば田島のような高校で有望な選手を推薦で入れる。
そんな選手とレギュラーポジションを争う時間は、減らしたい。
つまり現行の部員たちを見て、1年からレギュラーを狙える学校。
それも受験の条件に加わったのだ。
「オレ、野球、頑張る!」
三橋は高らかにそう宣言した。
沢村は元気のいい声と迷いのない笑顔に、一瞬驚く。
だがすぐに「おぉ!頑張れ!」と答える。
プロと大学、場所は違っても、沢村も三橋も投げるのが大好きなのだ。
「だから、えー、じゅん、君も、勉強、頑張れ」
三橋はそう付け加えると、沢村は「う」と詰まった。
今回はこうして西浦の勉強会に混ぜてもらって、どうにか切り抜けられる。
だがまだ3学期の期末が残っているのだ。
「じゃあ、休憩終わり。またやるよ~」
西広の言葉に、三橋も沢村も再び教科書に目を落とした。
新たな道へ進む前の最後の試練。
まだまだ気は抜けない。
【続く】