「おお振り」×「◆A」2年後
【ドラフト会議!】
「ス、スゴイ!!」
三橋は思わず声を上げ、阿部も「そうだな」と頷く。
テレビの中で、知っている名前が何度も連呼された。
そして彼の未来が、抽選で決まろうとしている。
三橋と阿部は、三橋邸のリビングにいた。
阿部は毎日のように三橋邸を訪れ、一緒に勉強する。
だけどそれは三橋の部屋で、リビングに入ることはない。
ではなぜ今日はリビングかというと、特別な日だからだ。
2人はリビングのテレビをつけて、じっと待っていた。
程なくして始まったのは、プロ野球ドラフト会議。
今日は年に一度の、ドラフト会議の日なのだ。
もちろんプロ志望届など出していない三橋たちには関係ない。
だが今回は、知り合いがプロになる瞬間を見られるかもしれない。
かつて練習試合をして、仲良くなった青道高校の沢村と降谷だ。
「栄純、君。プロ、に、なるかな?」
「なるんじゃねーの?スカウトが来てたんだろ?」
番組が始まると、すぐに最初の指名が始まった。
三橋は自分のことのようにドキドキして、ギュッと拳を握りしめる。
だがそれを見た阿部に「手。傷でもついたらどうすんだよ」と注意され、慌てて拳を開いた。
「第1回選択希望選手。降谷暁。投手。青道高校。」
司会進行役がまず読み上げたのは、降谷だった。
堂々の1位指名。三橋は「降谷、君、だ!」と声を上げる。
阿部が「御幸先輩と同じチームか」と呟く。
青道バッテリーの復活。この瞬間そう思ったのは阿部だけではないだろう。
「第1回選択希望選手。降谷暁。投手。青道高校。」
司会進行役が、再び降谷の名を読み上げた。
指名がかぶったのだ。今度は違うリーグからの指名。
1位指名がひと通り発表された後、降谷を指名した2チームの代表が出て来た。
三橋は「ス、スゴイ!!」と声を上げ、阿部も「そうだな」と頷く。
そして降谷の未来が、抽選で決まる。
「いつも思うんだけど、他人にクジ引かれて人生決まるってどうなんだろうな。」
「そ、だね。オレ、なら、自分で、引きたい。」
抽選で決まるなら、せめて自分で引きたい。
そう思うのは、おかしいだろうか。
三橋が自問している間に抽選が終わり、2人のうちの1人がガッツポーズをしている。
栄純君は御幸先輩のところに行きたがってた。降谷君はどうなんだろう?
三橋はふとそんなことを思う。
1位指名が2球団、抽選。そして決まった球団。
それを見て降谷は今、何を思っているのだろう。
*****
「いろいろな意味で悔しいのに、嬉しい。んでもって、嬉しいのが悔しいっ!」
沢村は寮の部屋で、床に転がりながら、叫んでいた。
ドラフト会議が終わって、沢村の行く先も決まった。
御幸と同じリーグの球団に6位で指名されたのだ。
指名してくれたのは、1球団だけだった。
とりあえず指名してくれた球団があるのは、喜ばしいことだ。
だけど2つの球団から1位指名された降谷と、差をつけられた気がしてならない。
それにテレビ中継枠に入らなかったことも無念だった。
放送は1時間だったから、上位指名しか電波に乗らなかったのだ。
インターネットなどでは最後までやっているだろうが、やはりテレビは違う。
少なくても実家の両親や、中学時代のチームメイトはテレビで見ていたはずだ。
なーんだ、栄純、指名されないじゃん。
そんなことを言っている様子が、目に浮かぶ。
だが何より悔しいのは、やはり降谷だった。
降谷は結局1位指名が重なり、抽選の結果、御幸と同じ球団には行けなかった。
それどころかリーグも違う。
その結果、御幸と同じリーグの球団に指名された沢村の方が、会う機会は多くなる。
そしてそのことに、沢村はホッとしている。
同じリーグ、つまり降谷より御幸に近い場所に行けることが嬉しく、そんな自分が情けない。
さらに腹立たしいのは、降谷のリアクションだ。
御幸と違う球団になったことを、インタビューの記者に指摘された時、こう言ったのだ。
「倒したい打者の1人なので、違う球団の方がいいです。」
降谷がきっぱりとそう言い切った瞬間、カメラマンがバチバチとシャッターを切る。
フラッシュを浴びた降谷は、静かな闘志を燃やしていた。
御幸と同じチームにこだわり、大学進学まで考えた自分との違いに、沢村は落ち込んだ。
「それは、シット、だよ!」
後に沢村からこの時の気持ちを聞かされた三橋は、そう言った。
降谷と沢村の意識の違いは、単に御幸への気持ちの種類の差だ。
別に闘争心とか、投手としての格など関係ないのだと。
だが「恋」なんて言葉が思いつかない沢村は、ただただ悔しい。
だから降谷よりいい成績を上げて、投手としてのタイトルは全部獲ってやると決意した。
そして御幸と対戦した時には、全打席打ち取ってやろうと心に誓う。
とにかくプロとして、誰よりも高い場所に行くだけだ。
「そうだ。メールしなくちゃ」
沢村は他に誰もいない部屋で、元気よくそう叫ぶ。
そして携帯電話を取り出すと、最初に誰に送ろうかと迷う。
「両親だろ、若菜、あと三橋にも送らねーとな。」
ブツブツと呟きながら、アドレス帳を開く。
だが選んでしまった名前は、やはり「御幸一也」だ。
あの男のことだから、テレビなど関係なくチェックしているに違いない。
それでも自分から言いたいと思う。
「ええと『決まりました』でいいかな。」
沢村は1人でテンション高く喋りながら、メールの画面を開く。
何もかもスッキリとはいかないが、とりあえず進むべき道が決まったのだ。
【続く】
「ス、スゴイ!!」
三橋は思わず声を上げ、阿部も「そうだな」と頷く。
テレビの中で、知っている名前が何度も連呼された。
そして彼の未来が、抽選で決まろうとしている。
三橋と阿部は、三橋邸のリビングにいた。
阿部は毎日のように三橋邸を訪れ、一緒に勉強する。
だけどそれは三橋の部屋で、リビングに入ることはない。
ではなぜ今日はリビングかというと、特別な日だからだ。
2人はリビングのテレビをつけて、じっと待っていた。
程なくして始まったのは、プロ野球ドラフト会議。
今日は年に一度の、ドラフト会議の日なのだ。
もちろんプロ志望届など出していない三橋たちには関係ない。
だが今回は、知り合いがプロになる瞬間を見られるかもしれない。
かつて練習試合をして、仲良くなった青道高校の沢村と降谷だ。
「栄純、君。プロ、に、なるかな?」
「なるんじゃねーの?スカウトが来てたんだろ?」
番組が始まると、すぐに最初の指名が始まった。
三橋は自分のことのようにドキドキして、ギュッと拳を握りしめる。
だがそれを見た阿部に「手。傷でもついたらどうすんだよ」と注意され、慌てて拳を開いた。
「第1回選択希望選手。降谷暁。投手。青道高校。」
司会進行役がまず読み上げたのは、降谷だった。
堂々の1位指名。三橋は「降谷、君、だ!」と声を上げる。
阿部が「御幸先輩と同じチームか」と呟く。
青道バッテリーの復活。この瞬間そう思ったのは阿部だけではないだろう。
「第1回選択希望選手。降谷暁。投手。青道高校。」
司会進行役が、再び降谷の名を読み上げた。
指名がかぶったのだ。今度は違うリーグからの指名。
1位指名がひと通り発表された後、降谷を指名した2チームの代表が出て来た。
三橋は「ス、スゴイ!!」と声を上げ、阿部も「そうだな」と頷く。
そして降谷の未来が、抽選で決まる。
「いつも思うんだけど、他人にクジ引かれて人生決まるってどうなんだろうな。」
「そ、だね。オレ、なら、自分で、引きたい。」
抽選で決まるなら、せめて自分で引きたい。
そう思うのは、おかしいだろうか。
三橋が自問している間に抽選が終わり、2人のうちの1人がガッツポーズをしている。
栄純君は御幸先輩のところに行きたがってた。降谷君はどうなんだろう?
三橋はふとそんなことを思う。
1位指名が2球団、抽選。そして決まった球団。
それを見て降谷は今、何を思っているのだろう。
*****
「いろいろな意味で悔しいのに、嬉しい。んでもって、嬉しいのが悔しいっ!」
沢村は寮の部屋で、床に転がりながら、叫んでいた。
ドラフト会議が終わって、沢村の行く先も決まった。
御幸と同じリーグの球団に6位で指名されたのだ。
指名してくれたのは、1球団だけだった。
とりあえず指名してくれた球団があるのは、喜ばしいことだ。
だけど2つの球団から1位指名された降谷と、差をつけられた気がしてならない。
それにテレビ中継枠に入らなかったことも無念だった。
放送は1時間だったから、上位指名しか電波に乗らなかったのだ。
インターネットなどでは最後までやっているだろうが、やはりテレビは違う。
少なくても実家の両親や、中学時代のチームメイトはテレビで見ていたはずだ。
なーんだ、栄純、指名されないじゃん。
そんなことを言っている様子が、目に浮かぶ。
だが何より悔しいのは、やはり降谷だった。
降谷は結局1位指名が重なり、抽選の結果、御幸と同じ球団には行けなかった。
それどころかリーグも違う。
その結果、御幸と同じリーグの球団に指名された沢村の方が、会う機会は多くなる。
そしてそのことに、沢村はホッとしている。
同じリーグ、つまり降谷より御幸に近い場所に行けることが嬉しく、そんな自分が情けない。
さらに腹立たしいのは、降谷のリアクションだ。
御幸と違う球団になったことを、インタビューの記者に指摘された時、こう言ったのだ。
「倒したい打者の1人なので、違う球団の方がいいです。」
降谷がきっぱりとそう言い切った瞬間、カメラマンがバチバチとシャッターを切る。
フラッシュを浴びた降谷は、静かな闘志を燃やしていた。
御幸と同じチームにこだわり、大学進学まで考えた自分との違いに、沢村は落ち込んだ。
「それは、シット、だよ!」
後に沢村からこの時の気持ちを聞かされた三橋は、そう言った。
降谷と沢村の意識の違いは、単に御幸への気持ちの種類の差だ。
別に闘争心とか、投手としての格など関係ないのだと。
だが「恋」なんて言葉が思いつかない沢村は、ただただ悔しい。
だから降谷よりいい成績を上げて、投手としてのタイトルは全部獲ってやると決意した。
そして御幸と対戦した時には、全打席打ち取ってやろうと心に誓う。
とにかくプロとして、誰よりも高い場所に行くだけだ。
「そうだ。メールしなくちゃ」
沢村は他に誰もいない部屋で、元気よくそう叫ぶ。
そして携帯電話を取り出すと、最初に誰に送ろうかと迷う。
「両親だろ、若菜、あと三橋にも送らねーとな。」
ブツブツと呟きながら、アドレス帳を開く。
だが選んでしまった名前は、やはり「御幸一也」だ。
あの男のことだから、テレビなど関係なくチェックしているに違いない。
それでも自分から言いたいと思う。
「ええと『決まりました』でいいかな。」
沢村は1人でテンション高く喋りながら、メールの画面を開く。
何もかもスッキリとはいかないが、とりあえず進むべき道が決まったのだ。
【続く】