「おお振り」×「◆A」2年後
【大変だけど頑張れ】
「そう。やっと決めたのね。よかった。」
青道高校副部長の高島礼は、心の底からの安堵したようだ。
監督の片岡は頷いただけだったが、かすかに目元が笑っている。
それを見た沢村は、周囲に心配をかけていたのだと今さらのように思い知った。
「お前、御幸先輩が好きなんだな。」
三橋のいない三橋の部屋で、沢村は阿部に悩みを打ち明けた。
それを聞いた阿部の第一声がそれだったのだ。
オレが御幸先輩が好き?
それってまさか。。。恋愛って意味で?
動揺する沢村に、阿部は「オレの秘密、教えようか」と言い出した。
とりあえず訳がわからないまま、沢村はコクコクと頷いてしまったのだが。
「オレは三橋が好きなんだ。だからお前がうらやましい」
「・・・は?あ?えええ~!?」
「声がデケーよ!」
心を見透かされた後の、阿部のカミングアウトに沢村の動揺は止まらない。
だがここで大声を出しては、三橋家に迷惑になるということだけは理解できる。
何とか声を抑えた沢村は、興奮で荒くなった呼吸を整えた。
「オレと三橋が一緒にいられるのは、あと4年だけだ。」
「別に草野球とかでも、バッテリー組めるんじゃ」
「オレは家業を継ぐし、三橋は群馬のジィちゃんとこに就職する。」
「・・・それでもたまに会ったりとか」
「オレんちの家業は休みも不定期だ。何か月に1度会えるかわかんねーよ。」
阿部の口調はどこか諦めていて、サバサバしている。
だが完全に割り切れてもいないようだ。
4年間限定の恋愛。それは長いのか、短いのか。
阿部と三橋の4年と、御幸と沢村の不確定な未来。
果たして幸せなのは、どちらだろう。
「だからお前がうらやましいよ。好きな人と同じ職業につけるんだから。」
阿部が最後にそう告げた言葉だけは、嘘偽りのない本音だ。
それで答えは出なかったけれど、迷いだけは消えた。
ずっと夢だったプロ野球で、少しでも長く御幸と。
その決意を固めた沢村は寮に戻り、真っ先に監督室に向かう。
そして片岡と高島にプロ志望届を出すと告げたのだった。
「頑張ってね。応援してるからね。」
「あざっす!」
高島の気が早いエールを送ってくれる。
沢村は元気よく頭を下げると、監督室を出た。
*****
高校生って若い。
たった1つしか違わないはずなのに、御幸はそんなことを思う。
いやこの2人の場合は特別だ。
何しろ未だにしっかりと、いたずらチビッ子の雰囲気を持っているのだから。
試合前の練習中の球場で、御幸は知っている顔を見つけた。
高校時代に練習試合をした西浦高校の三橋と田島だ。
いくら試合前とはいえ、そこそこの客は入っている。
だけど目を輝かせて、球場の雰囲気を楽しむ2人はなかなか目立っていた。
つい懐かしくなった御幸は、思わず2人に声をかけていた。
「2人とも、進路は決まったのか?」
御幸はふと思いついて、そう聞いた。
田島は「2人とも大学っす!」と元気よく教えてくれる。
だが三橋は曖昧な表情のまま、俯いてしまった。
「オレはもう推薦決まってて、でも三橋は受験勉強中で」
「いいのかよ。こんなとこ来てて」
「き、気分、転換!」
相変わらずの吃音で、三橋は元気な声を上げる。
だけどやはり今1つ、すっきりとしない感じだ。
「阿部と同じ大学、行くのか?」
「いち、お、その、つもりです。それで、野球、は、きっと、最後」
「そっか。いいな。」
「いい、です、か?」
三橋がキョトンとした顔で、首を傾げている。
確かにプロ野球選手が、大学で野球が終わるという三橋にかける言葉ではないかもしれない。
だけど御幸は、それはそれでうらやましいと思ったのだ。
「プロ野球選手って保証がないからさ」
「ほ、しょう?」
「大学なら4年。確実に野球できるだろ。だけどプロって終わりが見えないんだ。」
「そ、ですか」
「そう。今年で終わるのか、10年先もできるのか。誰にもわかんないからさ。」
御幸はいつも心の奥で不安に思っていることを告げていた。
沢村もプロに来れば、いつか対戦するかもしれないし、一緒にできるかもしれない。
だけどそれが何回できるのかなんて、誰にもわからない。
そんなことなどきっと考えたこともなかった三橋は、言葉もなく驚いている。
「プロも大変っすね。でもオレは応援してるんで!」
それまでずっと黙っていた田島が、締めくくるようにそう言った。
無邪気なようでいて、意外としっかり空気を読む男のせいで、沈んだ空気が元に戻った。
御幸は「じゃあ頑張れよ」と告げると、ベンチへと戻って行った。
この日を境に、三橋は受験勉強に全力で挑むようになった。
まるで試合中のような集中力で、着実に成績を上げていく。
だがそれを御幸が知ったのは、三橋と阿部の進路が決まった後のことだ。
【続く】
「そう。やっと決めたのね。よかった。」
青道高校副部長の高島礼は、心の底からの安堵したようだ。
監督の片岡は頷いただけだったが、かすかに目元が笑っている。
それを見た沢村は、周囲に心配をかけていたのだと今さらのように思い知った。
「お前、御幸先輩が好きなんだな。」
三橋のいない三橋の部屋で、沢村は阿部に悩みを打ち明けた。
それを聞いた阿部の第一声がそれだったのだ。
オレが御幸先輩が好き?
それってまさか。。。恋愛って意味で?
動揺する沢村に、阿部は「オレの秘密、教えようか」と言い出した。
とりあえず訳がわからないまま、沢村はコクコクと頷いてしまったのだが。
「オレは三橋が好きなんだ。だからお前がうらやましい」
「・・・は?あ?えええ~!?」
「声がデケーよ!」
心を見透かされた後の、阿部のカミングアウトに沢村の動揺は止まらない。
だがここで大声を出しては、三橋家に迷惑になるということだけは理解できる。
何とか声を抑えた沢村は、興奮で荒くなった呼吸を整えた。
「オレと三橋が一緒にいられるのは、あと4年だけだ。」
「別に草野球とかでも、バッテリー組めるんじゃ」
「オレは家業を継ぐし、三橋は群馬のジィちゃんとこに就職する。」
「・・・それでもたまに会ったりとか」
「オレんちの家業は休みも不定期だ。何か月に1度会えるかわかんねーよ。」
阿部の口調はどこか諦めていて、サバサバしている。
だが完全に割り切れてもいないようだ。
4年間限定の恋愛。それは長いのか、短いのか。
阿部と三橋の4年と、御幸と沢村の不確定な未来。
果たして幸せなのは、どちらだろう。
「だからお前がうらやましいよ。好きな人と同じ職業につけるんだから。」
阿部が最後にそう告げた言葉だけは、嘘偽りのない本音だ。
それで答えは出なかったけれど、迷いだけは消えた。
ずっと夢だったプロ野球で、少しでも長く御幸と。
その決意を固めた沢村は寮に戻り、真っ先に監督室に向かう。
そして片岡と高島にプロ志望届を出すと告げたのだった。
「頑張ってね。応援してるからね。」
「あざっす!」
高島の気が早いエールを送ってくれる。
沢村は元気よく頭を下げると、監督室を出た。
*****
高校生って若い。
たった1つしか違わないはずなのに、御幸はそんなことを思う。
いやこの2人の場合は特別だ。
何しろ未だにしっかりと、いたずらチビッ子の雰囲気を持っているのだから。
試合前の練習中の球場で、御幸は知っている顔を見つけた。
高校時代に練習試合をした西浦高校の三橋と田島だ。
いくら試合前とはいえ、そこそこの客は入っている。
だけど目を輝かせて、球場の雰囲気を楽しむ2人はなかなか目立っていた。
つい懐かしくなった御幸は、思わず2人に声をかけていた。
「2人とも、進路は決まったのか?」
御幸はふと思いついて、そう聞いた。
田島は「2人とも大学っす!」と元気よく教えてくれる。
だが三橋は曖昧な表情のまま、俯いてしまった。
「オレはもう推薦決まってて、でも三橋は受験勉強中で」
「いいのかよ。こんなとこ来てて」
「き、気分、転換!」
相変わらずの吃音で、三橋は元気な声を上げる。
だけどやはり今1つ、すっきりとしない感じだ。
「阿部と同じ大学、行くのか?」
「いち、お、その、つもりです。それで、野球、は、きっと、最後」
「そっか。いいな。」
「いい、です、か?」
三橋がキョトンとした顔で、首を傾げている。
確かにプロ野球選手が、大学で野球が終わるという三橋にかける言葉ではないかもしれない。
だけど御幸は、それはそれでうらやましいと思ったのだ。
「プロ野球選手って保証がないからさ」
「ほ、しょう?」
「大学なら4年。確実に野球できるだろ。だけどプロって終わりが見えないんだ。」
「そ、ですか」
「そう。今年で終わるのか、10年先もできるのか。誰にもわかんないからさ。」
御幸はいつも心の奥で不安に思っていることを告げていた。
沢村もプロに来れば、いつか対戦するかもしれないし、一緒にできるかもしれない。
だけどそれが何回できるのかなんて、誰にもわからない。
そんなことなどきっと考えたこともなかった三橋は、言葉もなく驚いている。
「プロも大変っすね。でもオレは応援してるんで!」
それまでずっと黙っていた田島が、締めくくるようにそう言った。
無邪気なようでいて、意外としっかり空気を読む男のせいで、沈んだ空気が元に戻った。
御幸は「じゃあ頑張れよ」と告げると、ベンチへと戻って行った。
この日を境に、三橋は受験勉強に全力で挑むようになった。
まるで試合中のような集中力で、着実に成績を上げていく。
だがそれを御幸が知ったのは、三橋と阿部の進路が決まった後のことだ。
【続く】