「おお振り」×「◆A」2年後
【久しぶりの再会!】
いいなぁ、栄純君。
三橋は沢村の話を聞きながら、そう思った。
夏休みの終盤、三橋の家に沢村が泊まりに来た。
練習試合がきっかけで知り合った2人は、今やすっかり親友の域だ。
沢村の実家は遠いので行けないが、三橋の家には何度か沢村は遊びに来ている。
三橋の両親も沢村を気に入っていて「よかったらうちの子にならない?」などと言うほどだ。
今回、沢村は三橋邸に2泊する日程だった。
初日は三橋と近況を語り合い、2日目は田島や泉など西浦の面々と再会を果たした。
そして2日目の夜、三橋と沢村は本題というべき話をすることになった。
沢村が泊まりに来た時は、いつも三橋の部屋の大きなベットで一緒に眠る。
BL好きな腐女子から見れば、何かが起こりそうな美味しい状況。
だが三橋と沢村に限っては、それはない。
それぞれ心の中に、秘めた想い人がいるからだ。
「栄純、君、は、プロ志望、だよ、ね?」
月明かりだけが照らす部屋の中で、三橋は沢村にそう聞いた。
すると沢村が「まぁ、一応は」と答える。
それを聞いた三橋は「え?」と首を傾げた。
以前、将来について話したのは、数ヶ月も前のことだ。
そのとき沢村は「絶対プロに行く!」と息巻いていたのだ。
「行きたい球団から、オファーが来なくてさ」
沢村がため息まじりに、そう言った。
そして「大学行って、希望球団を目指すのもありなのかな」と付け加える。
暗い部屋で、沢村の表情までは見えない。
だけど声だけでも、沢村が迷っているのがわかった。
「行き、たい、球団、て、御幸、先輩の、トコ?」
三橋は素朴な疑問を口にすると、沢村が「まぁ、な」と答えた。
そう、沢村がプロに行く理由の1つに、御幸にまた受けてほしいというのがあるのだ。
1年早く先にプロ入りした御幸は、すでにそこそこの実績を残している。
プロ1年目にして1軍入り、まだ正捕手ではないが、10試合ほど先発のマスクをかぶった。
御幸の球団の正捕手はもう30代に差し掛かり、遠からず引退するだろう。
そして御幸が次の正捕手に一番近い位置にいる。
「しかもそこ、よりによって降谷に声をかけてんだぜ!?」
沢村が悔しそうに、声を荒げた。
なるほどと三橋は秘かに納得する。
確かに御幸と降谷が同じチームになるとあっては、沢村も落ち着かない気分も理解できた。
だけど同情する気にはなれない。
いいなぁ、栄純君。
三橋は沢村の話を聞きながら、そう思った。
たとえチームが違っても、プロ野球という最高峰の世界で一緒にいられる。
そんな沢村たちの状況は、すごく羨ましかった。
*****
いいなぁ、廉。
沢村は三橋の話を聞きながら、そう思った。
沢村は三橋の部屋で、2日目の夜を過ごしていた。
何だかんだで、三橋の部屋は居心地がいい。
寮の3人部屋よりも広いし、なによりベットが広くてフカフカなのがいい。
何しろ寮のベットは狭くて、固いのだ。
「オ、オレは、大学、行きたい、けど」
沢村が自分の将来の話をした後、三橋がおずおずと口を開いた。
すでに灯りを消していたので、お互いのシルエットしかわからないほど暗い。
だけど三橋が困った顔をしているであろうことは、わかった。
「三橋はプロは行かねーの?」
「そんな、実力、ない」
「プロ志望届、出しとくだけならタダじゃん。」
「・・・いろいろ、事情、あるから」
三橋はそう答えると、ため息をつく。
そして「阿部君、と、同じ、トコ、行きたいけど」と付け加える。
それは沢村が、以前も三橋から聞いていたことだ。
だけどあえてそこにツッコミは入れず、沢村は黙って三橋の次の言葉を待つ。
「阿部、君、成績、いい、んだ。同じ、大学、大変」
「そんなに違うのかよ」
「阿部君、に、ランク、落とさせ、たく、ない」
「じゃあ、勉強、大変だな。」
沢村の言葉に、三橋は深く頷いた。
プロには行かず、野球に没頭するのはあと4年と決めている。
だから悔いが残らないようにするためにも、納得のいく大学に進みたい。
それが今、三橋の大きなプレッシャーになっているらしい。
「野球で推薦とか、来ねーの?」
沢村はふと思った疑問をそのまま口にした。
甲子園出場経験こそないものの、三橋はいい投手だ。
目をつけて、欲しがる大学があっても、おかしくない。
だが三橋はきっぱりと「ない」と答えた。
では野球をやるのは、あと4年間。
そう限定されるのは、どんな気分なのだろう。
だけど同情する気にはなれない。
いいなぁ、廉。
沢村は三橋の話を聞きながら、そう思った。
そもそも阿部と同じ学年で、一緒に進む道を選べるのだ。
たとえ4年間の期限付きでも、羨ましかった。
【続く】
いいなぁ、栄純君。
三橋は沢村の話を聞きながら、そう思った。
夏休みの終盤、三橋の家に沢村が泊まりに来た。
練習試合がきっかけで知り合った2人は、今やすっかり親友の域だ。
沢村の実家は遠いので行けないが、三橋の家には何度か沢村は遊びに来ている。
三橋の両親も沢村を気に入っていて「よかったらうちの子にならない?」などと言うほどだ。
今回、沢村は三橋邸に2泊する日程だった。
初日は三橋と近況を語り合い、2日目は田島や泉など西浦の面々と再会を果たした。
そして2日目の夜、三橋と沢村は本題というべき話をすることになった。
沢村が泊まりに来た時は、いつも三橋の部屋の大きなベットで一緒に眠る。
BL好きな腐女子から見れば、何かが起こりそうな美味しい状況。
だが三橋と沢村に限っては、それはない。
それぞれ心の中に、秘めた想い人がいるからだ。
「栄純、君、は、プロ志望、だよ、ね?」
月明かりだけが照らす部屋の中で、三橋は沢村にそう聞いた。
すると沢村が「まぁ、一応は」と答える。
それを聞いた三橋は「え?」と首を傾げた。
以前、将来について話したのは、数ヶ月も前のことだ。
そのとき沢村は「絶対プロに行く!」と息巻いていたのだ。
「行きたい球団から、オファーが来なくてさ」
沢村がため息まじりに、そう言った。
そして「大学行って、希望球団を目指すのもありなのかな」と付け加える。
暗い部屋で、沢村の表情までは見えない。
だけど声だけでも、沢村が迷っているのがわかった。
「行き、たい、球団、て、御幸、先輩の、トコ?」
三橋は素朴な疑問を口にすると、沢村が「まぁ、な」と答えた。
そう、沢村がプロに行く理由の1つに、御幸にまた受けてほしいというのがあるのだ。
1年早く先にプロ入りした御幸は、すでにそこそこの実績を残している。
プロ1年目にして1軍入り、まだ正捕手ではないが、10試合ほど先発のマスクをかぶった。
御幸の球団の正捕手はもう30代に差し掛かり、遠からず引退するだろう。
そして御幸が次の正捕手に一番近い位置にいる。
「しかもそこ、よりによって降谷に声をかけてんだぜ!?」
沢村が悔しそうに、声を荒げた。
なるほどと三橋は秘かに納得する。
確かに御幸と降谷が同じチームになるとあっては、沢村も落ち着かない気分も理解できた。
だけど同情する気にはなれない。
いいなぁ、栄純君。
三橋は沢村の話を聞きながら、そう思った。
たとえチームが違っても、プロ野球という最高峰の世界で一緒にいられる。
そんな沢村たちの状況は、すごく羨ましかった。
*****
いいなぁ、廉。
沢村は三橋の話を聞きながら、そう思った。
沢村は三橋の部屋で、2日目の夜を過ごしていた。
何だかんだで、三橋の部屋は居心地がいい。
寮の3人部屋よりも広いし、なによりベットが広くてフカフカなのがいい。
何しろ寮のベットは狭くて、固いのだ。
「オ、オレは、大学、行きたい、けど」
沢村が自分の将来の話をした後、三橋がおずおずと口を開いた。
すでに灯りを消していたので、お互いのシルエットしかわからないほど暗い。
だけど三橋が困った顔をしているであろうことは、わかった。
「三橋はプロは行かねーの?」
「そんな、実力、ない」
「プロ志望届、出しとくだけならタダじゃん。」
「・・・いろいろ、事情、あるから」
三橋はそう答えると、ため息をつく。
そして「阿部君、と、同じ、トコ、行きたいけど」と付け加える。
それは沢村が、以前も三橋から聞いていたことだ。
だけどあえてそこにツッコミは入れず、沢村は黙って三橋の次の言葉を待つ。
「阿部、君、成績、いい、んだ。同じ、大学、大変」
「そんなに違うのかよ」
「阿部君、に、ランク、落とさせ、たく、ない」
「じゃあ、勉強、大変だな。」
沢村の言葉に、三橋は深く頷いた。
プロには行かず、野球に没頭するのはあと4年と決めている。
だから悔いが残らないようにするためにも、納得のいく大学に進みたい。
それが今、三橋の大きなプレッシャーになっているらしい。
「野球で推薦とか、来ねーの?」
沢村はふと思った疑問をそのまま口にした。
甲子園出場経験こそないものの、三橋はいい投手だ。
目をつけて、欲しがる大学があっても、おかしくない。
だが三橋はきっぱりと「ない」と答えた。
では野球をやるのは、あと4年間。
そう限定されるのは、どんな気分なのだろう。
だけど同情する気にはなれない。
いいなぁ、廉。
沢村は三橋の話を聞きながら、そう思った。
そもそも阿部と同じ学年で、一緒に進む道を選べるのだ。
たとえ4年間の期限付きでも、羨ましかった。
【続く】