「おお振り」×「◆A」1年後
【2年目の夏!その後「それぞれの甲子園」】
【注意!】
2年目の夏の大会の結果は私の妄想で執筆いたします。
前回の続きで青道高校は甲子園出場、西浦は試合観戦します。
ご理解いただける方のみ、お読みください。
*****
「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
マウンドで沢村が声を張っている。
三橋は思わず「いいなぁ」と呟いた。
2年目の夏、青道高校は予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めた。
だが西浦高校は予選決勝で敗退。
たった1勝の違いは大きい。
青道ナインは試合前のノックを受けている。
だが西浦はこうしてスタンドで観戦だ。
「去年、も、来た、ね。」
三橋はポツリとそう呟いた。
そう、昨年もこうして観戦しに来たのだ。
それは監督である百枝の指導の一環だ。
甲子園を生で見た方が、実際に戦うイメージが湧きやすいのだと。
「すっげぇ、甲子園だぁ。」
「こんな感じなんだなぁ。」
「カレーと焼きそばのにおいがする!」
「あとちょっと、酒くさくねぇ?」
初めて甲子園に来た1年生たちははしゃいでいる。
三橋も阿部も他の2年生も、そんな彼らを見て懐かしいと思った。
そう、彼らも昨年、1年の時は無邪気でいられた。
単純に雰囲気を楽しみ、憧れ、そしてここで試合をするのだと心に誓った
だけどその1年後、まだここにいる。
そのことが悔しくてたまらなかった。
まだ終わっていない。
今度こそ負けないと思う。
だけどチャンスは無限にあるわけではない。
高校野球の時間は本当に短いのだ。
やがて試合開始の時間になった。
対戦する両校の選手が、本塁前に整列した。
主審の合図の後、両校の選手が頭を下げながら挨拶する。
実は三橋は秘かにどうして普通に挨拶をしないのだろうと思っている。
なぜならどの学校も「した!」と叫んでいるようにしか聞こえないのだ。
結局誰にも言ったことがないのは、わざわざネタにするほどの話ではない気がするからだ。
グラウンドでは、裏攻撃の青道高校が守備についた。
先発は背番号1、沢村栄純だ。
自信にあふれた笑みを浮かべた沢村は、マウンドで大きく深呼吸をする。
そしてバックの方を振り返ると、声を張った。
「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
東京ではすっかりおなじみの沢村のルーティーン。
名門校のエースナンバーを背負った甲子園という大舞台のマウンド。
だが沢村はまったく動じる様子を見せずに立っている。
「いいなぁ」
三橋が思わずポツリと呟く。
誰にも聞こえていないと思われたそれは、隣の阿部には聞こえた。
だが阿部は「羨ましがってんなよ?」と声をかける。
三橋は「うん!」と頷いた途端、お腹がキュウと音を立てた。
「お腹、へったかも」
三橋は照れ隠しにそう言いながら、マウンドの沢村を見た。
決して遠い場所じゃない。
次こそ勝って絶対に行くのだと、三橋は改めて決意していた。
*****
「あれ、レン?」
沢村は知った顔を見つけて、思わず足を止めた。
両手に料理の皿を持った三橋は「おめ、でとう!」と笑った。
甲子園での初戦、青道高校は危なげなく勝利した。
沢村は好投したし、打線もよく打った。
だが初勝利の余韻に酔うヒマはない。
ベンチ入りメンバーは次の対戦相手が決まる試合を観戦することになった。
「オレ、ちょっと飲み物買ってきます!」
「席を取っておくから、オレの分も頼む~!」
御幸が沢村の荷物を受け取ると、ヒラヒラと手を振った。
沢村は財布だけ持って、球場内の自動販売機に向かった。
「あれ、レン?」
スポーツドリンクを2つ買って、戻ろうとしたところで沢村は足を止めた。
ここで会うには意外過ぎる人物を見かけたからだ。
その人物、三橋も沢村の顔を見るなり「あ!」と驚いていた。
「おめ、でとう!」
三橋は開口一番、そう言った。
どうやら試合を見ていてくれたらしい。
沢村は「おぉ!ありがとな!」と答える。
そして「みんないるから、会っていくか?」と誘った。
三橋は二カッと笑うと「行く!」と答えた。
「三橋、何持ってんの?」
青道高校が座っている一角に戻ると、御幸が目敏く声をかけてきた。
本来なら挨拶が先なのだろうが、それより気になることがあったからだ。
三橋は真面目な顔で「こーしえん、めーぶつ」と答えた。
それは甲子園3大名物グルメ。
焼きそばとカレーとジャンボ焼き鳥だ。
三橋は両手にそれぞれ、焼きそばとカレーの皿。
そして焼きそばの皿の上に焼き鳥の串が2本乗っていた。
「マジか。それお前1人で食うの?」
「それでよく太らないね!」
倉持と小湊が茶々を入れながらも、真ん中の席を開けた。
三橋はごくごく自然にそこに座り、3大グルメを食べ始めた。
「相変わらず、良く食うなぁ」
「それでよく太んねーな」
沢村と御幸は猛然と食べる三橋を見ながら、苦笑する。
そこへ息を切らしながら、阿部が走り込んできた。
「なんでここで食ってんだよ?」
「え、栄純、君と、会ったから」
「そろそろ時間だ。移動だぞ!」
「その前に、喉、かわいた」
阿部は「ハァァ?」と文句を言いながらも、お茶のペットボトルを渡した。
三橋は阿部の文句など物ともせずに、ゴクゴクとお茶を飲む。
突如始まった西浦バッテリーの掛け合い漫才に、青道ナインは笑った。
それにしても冷静に考えれば、よくこんな場所で会ったものだ。
「お前ら、観戦にきたの?」
御幸は阿部にそう聞いた。
阿部は「ちわっす」と頭を下げた後「遠征です」と答えた。
「遠征?」
「こっちで桃李、泰然、波里と合同練習っす。そのついでに観戦に」
「ついでかよ。ってか強いトコばっかじゃん!」
御幸は相変わらずの西浦の得体のしれなさに、驚いた。
桃李と泰然は兵庫、波里は愛媛の強豪校だ。
青道とも縁が深いし、その人脈は恐るべしと言える。
「じゃあ、頑張って下さい!」
「お、おーえん、してます!」
嵐のように現れた西浦バッテリーは、嵐のように去っていく。
御幸はそれを見ながら「慌ただしいな」と苦笑した。
「あいつらも進化をつづけてるんすね。」
沢村は遠ざかっていく2人を見ながら、そう言った。
甲子園に出ていない学校も、厳しい練習を積んでいるのだ。
こっちだって負けてなんかいられない。
御幸と沢村は並んで座り、スポーツドリンクを飲み始めた。
こちらはまだまだ夏の長丁場。
目標は全国制覇、勝つしかない。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
【注意!】
2年目の夏の大会の結果は私の妄想で執筆いたします。
前回の続きで青道高校は甲子園出場、西浦は試合観戦します。
ご理解いただける方のみ、お読みください。
*****
「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
マウンドで沢村が声を張っている。
三橋は思わず「いいなぁ」と呟いた。
2年目の夏、青道高校は予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めた。
だが西浦高校は予選決勝で敗退。
たった1勝の違いは大きい。
青道ナインは試合前のノックを受けている。
だが西浦はこうしてスタンドで観戦だ。
「去年、も、来た、ね。」
三橋はポツリとそう呟いた。
そう、昨年もこうして観戦しに来たのだ。
それは監督である百枝の指導の一環だ。
甲子園を生で見た方が、実際に戦うイメージが湧きやすいのだと。
「すっげぇ、甲子園だぁ。」
「こんな感じなんだなぁ。」
「カレーと焼きそばのにおいがする!」
「あとちょっと、酒くさくねぇ?」
初めて甲子園に来た1年生たちははしゃいでいる。
三橋も阿部も他の2年生も、そんな彼らを見て懐かしいと思った。
そう、彼らも昨年、1年の時は無邪気でいられた。
単純に雰囲気を楽しみ、憧れ、そしてここで試合をするのだと心に誓った
だけどその1年後、まだここにいる。
そのことが悔しくてたまらなかった。
まだ終わっていない。
今度こそ負けないと思う。
だけどチャンスは無限にあるわけではない。
高校野球の時間は本当に短いのだ。
やがて試合開始の時間になった。
対戦する両校の選手が、本塁前に整列した。
主審の合図の後、両校の選手が頭を下げながら挨拶する。
実は三橋は秘かにどうして普通に挨拶をしないのだろうと思っている。
なぜならどの学校も「した!」と叫んでいるようにしか聞こえないのだ。
結局誰にも言ったことがないのは、わざわざネタにするほどの話ではない気がするからだ。
グラウンドでは、裏攻撃の青道高校が守備についた。
先発は背番号1、沢村栄純だ。
自信にあふれた笑みを浮かべた沢村は、マウンドで大きく深呼吸をする。
そしてバックの方を振り返ると、声を張った。
「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
東京ではすっかりおなじみの沢村のルーティーン。
名門校のエースナンバーを背負った甲子園という大舞台のマウンド。
だが沢村はまったく動じる様子を見せずに立っている。
「いいなぁ」
三橋が思わずポツリと呟く。
誰にも聞こえていないと思われたそれは、隣の阿部には聞こえた。
だが阿部は「羨ましがってんなよ?」と声をかける。
三橋は「うん!」と頷いた途端、お腹がキュウと音を立てた。
「お腹、へったかも」
三橋は照れ隠しにそう言いながら、マウンドの沢村を見た。
決して遠い場所じゃない。
次こそ勝って絶対に行くのだと、三橋は改めて決意していた。
*****
「あれ、レン?」
沢村は知った顔を見つけて、思わず足を止めた。
両手に料理の皿を持った三橋は「おめ、でとう!」と笑った。
甲子園での初戦、青道高校は危なげなく勝利した。
沢村は好投したし、打線もよく打った。
だが初勝利の余韻に酔うヒマはない。
ベンチ入りメンバーは次の対戦相手が決まる試合を観戦することになった。
「オレ、ちょっと飲み物買ってきます!」
「席を取っておくから、オレの分も頼む~!」
御幸が沢村の荷物を受け取ると、ヒラヒラと手を振った。
沢村は財布だけ持って、球場内の自動販売機に向かった。
「あれ、レン?」
スポーツドリンクを2つ買って、戻ろうとしたところで沢村は足を止めた。
ここで会うには意外過ぎる人物を見かけたからだ。
その人物、三橋も沢村の顔を見るなり「あ!」と驚いていた。
「おめ、でとう!」
三橋は開口一番、そう言った。
どうやら試合を見ていてくれたらしい。
沢村は「おぉ!ありがとな!」と答える。
そして「みんないるから、会っていくか?」と誘った。
三橋は二カッと笑うと「行く!」と答えた。
「三橋、何持ってんの?」
青道高校が座っている一角に戻ると、御幸が目敏く声をかけてきた。
本来なら挨拶が先なのだろうが、それより気になることがあったからだ。
三橋は真面目な顔で「こーしえん、めーぶつ」と答えた。
それは甲子園3大名物グルメ。
焼きそばとカレーとジャンボ焼き鳥だ。
三橋は両手にそれぞれ、焼きそばとカレーの皿。
そして焼きそばの皿の上に焼き鳥の串が2本乗っていた。
「マジか。それお前1人で食うの?」
「それでよく太らないね!」
倉持と小湊が茶々を入れながらも、真ん中の席を開けた。
三橋はごくごく自然にそこに座り、3大グルメを食べ始めた。
「相変わらず、良く食うなぁ」
「それでよく太んねーな」
沢村と御幸は猛然と食べる三橋を見ながら、苦笑する。
そこへ息を切らしながら、阿部が走り込んできた。
「なんでここで食ってんだよ?」
「え、栄純、君と、会ったから」
「そろそろ時間だ。移動だぞ!」
「その前に、喉、かわいた」
阿部は「ハァァ?」と文句を言いながらも、お茶のペットボトルを渡した。
三橋は阿部の文句など物ともせずに、ゴクゴクとお茶を飲む。
突如始まった西浦バッテリーの掛け合い漫才に、青道ナインは笑った。
それにしても冷静に考えれば、よくこんな場所で会ったものだ。
「お前ら、観戦にきたの?」
御幸は阿部にそう聞いた。
阿部は「ちわっす」と頭を下げた後「遠征です」と答えた。
「遠征?」
「こっちで桃李、泰然、波里と合同練習っす。そのついでに観戦に」
「ついでかよ。ってか強いトコばっかじゃん!」
御幸は相変わらずの西浦の得体のしれなさに、驚いた。
桃李と泰然は兵庫、波里は愛媛の強豪校だ。
青道とも縁が深いし、その人脈は恐るべしと言える。
「じゃあ、頑張って下さい!」
「お、おーえん、してます!」
嵐のように現れた西浦バッテリーは、嵐のように去っていく。
御幸はそれを見ながら「慌ただしいな」と苦笑した。
「あいつらも進化をつづけてるんすね。」
沢村は遠ざかっていく2人を見ながら、そう言った。
甲子園に出ていない学校も、厳しい練習を積んでいるのだ。
こっちだって負けてなんかいられない。
御幸と沢村は並んで座り、スポーツドリンクを飲み始めた。
こちらはまだまだ夏の長丁場。
目標は全国制覇、勝つしかない。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
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