「おお振り」×「◆A」1年後
【2年目の夏!その後「西浦、決勝戦!」】
【注意!】
2年目の夏の大会の結果は私の妄想で執筆いたします。
今回の「おお振り」の決勝戦、西浦vsARC学園高校。
残念ながら、実現の可能性は低いっていうかほぼないと思っています。
それでもご理解いただける方のみ、お読みください。
*****
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村はすっかり興奮状態で、なりふり構わず声を張った。
そして隣に座っていた御幸は、思わず耳をふさいだのだった。
埼玉県予選決勝、ARC学園高校対西浦高校。
御幸と沢村はこの試合を観戦するために、わざわざ埼玉まで来ていた。
折しも東東京も同じタイミングで決勝戦だ。
だからチームメイトの多くはそちらを見に行っている。
でも御幸と沢村はこっちの試合を選んだ。
練習試合を通じて友人になった西浦高校の戦いを見たかったからだ。
ARC学園高校は埼玉の実力校だ。
高校野球通を集めて「埼玉はどこが一番強い?」と聞けば、ほぼ全員が「ARC」と答えるだろう。
西東京で例えるなら、青道や稲実クラスと言える。
西浦高校が決勝に進むと予想した者は、ほぼいないだろう。
野球部は始動2年目、つまり3年生がいない。
しかも県立高校なので、設備や支援も私立の強豪校には遠く及ばない。
そんな学校が何と甲子園まであと1歩というところまで来たのだ。
「そういや、2人きりで観戦って初めてっすね!」
球場に着き、席に座るなり、沢村はそう言った。
御幸は「確かに」と頷く。
球場で一緒に試合を見る時は誰かしら他の部員もいた。
むしろぞろぞろと大人数で見ていることの方が多い。
「デートみたいだな。」
御幸が軽口を叩くと、沢村は真っ赤になった。
そして「で、でーと?」と口をパクパクさせている。
どうやら言い返したいけれど、言葉が出て来ないらしい。
御幸はニヤニヤ笑いながら、球場内を見回した。
球場の雰囲気は東京とさほど変わらない。
両校の生徒や応援団、家族。
そして高校野球のファンたちの熱気が、試合前から球場に満ちている。
高校野球ファンで圧倒的に多いのは、オジサンたちだ。
御幸は自分たちの後ろに座っているオジサンたちの会話に聞き耳を立てた。
おそらく埼玉に関しては、御幸よりは情報を持っているだろう。
「やっぱり何だかんだ言ってもARCだろう!」
「いやいや西浦だって侮れないぞ?」
「だよなぁ。マグレじゃ決勝までは来られないよ。」
「オレは西浦を応援するぞ。やっぱりその方が面白いもんなぁ」
「そうだな。オレも!」
オジサンたちの会話を聞いた御幸は、微妙な気分になった。
西浦を応援してくれるのは、友人として嬉しい。
だが青道高校は西浦よりARCに近いのだ。
県立高校と対戦して相手が善戦すると、球場全体がアウェー状態になったりする。
それはやはりやりにくいものであり、アンチ強豪な雰囲気には素直に頷けない。
そして始まった決勝戦。
最初は緊迫した投手戦から始まった。
三橋は最初からフルスロットルで、埼玉ナンバーワン打線に全力投球だ。
それを見た沢村は「スゲェ。三橋」と興奮している。
だが同時に「大丈夫かな」と呟いた。
「ああ。そうだな。」
御幸は頷きながら、マウンドの三橋を見ていた。
三橋は準決勝も完投していたはずだ。
そしてその翌日、先発。
おそらく三橋が打線につかまった瞬間、この試合は終わる。
しかもその打線は渾身の全力投球をしなければ太刀打ちできない相手。
つまり圧倒的に西浦高校は不利だった。
先取点は4回、ARCだった。
打順が一巡し、目も慣れてきたのだろう。
ヒットを3本打たれ、2点取られた。
それでもそこで踏ん張り、何とか後続を切った。
それでもその後も幾度となく打たれ、点を取られていく。
「ここも何とか押さえたな」
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村がいきなり大声を出したので、御幸は驚き、耳をふさいだ。
そして「いきなりデケェ声を出すな!」と怒る。
ただでさえ地声がデカい沢村に声を張られれば、それはもううるさい。
だがそのとき御幸は、マウンドの三橋と目が合った気がした。
もしかして沢村の声が聞こえたのか?
いや、気のせいかもしれない。
この満員の球場で特定の誰かを捜し当てるのはむずかしいだろう。
「頑張れ!一緒に甲子園に行くぞ!」
その後も三橋は必死に投げ続け、バックは懸命に盛り立てる。
そして御幸もいつの間にか声援を送っていた。
もう自分たちの立ち位置など、どうでも良い。
今はただ西浦高校によるジャイアントキリングを見たいと切望していたのだ。
*****
「栄純、君。と、御幸、セン、パイ」
三橋は思わず呟いていた。
満員の球場、だがなぜか彼らの姿ははっきり見えた。
今日は大変な試合になる。
西浦高校野球部の面々は試合前から覚悟ができていた。
下馬評ではかなり格上の相手との決勝戦。
しかもエースの三橋は連投で疲れが溜まっている。
今までで一番過酷な試合になることは確実だった。
そして試合は始まった。
三橋は先発し、初回から全力で投げ続けた。
とにかく気をつけるのは、制球力だ。
疲れていて球速は落ちても、コントロールさえ失わなければ何とか勝負できる。
だから一球一球、集中し続けた。
3回までは、無得点に抑えられた。
それでも打順が一巡した4回からは、打たれ始めてしまった。
4回に2点、5回、6回に1点、さらに7回に2点。
大崩れこそしないものの毎回ヒットを打たれて、得点を許した。
それでも勝負できたのは、西浦打線もまた点を取ってくれたからだ。
田島と花井を中心に、上位打線はよく打った。
ARCは強豪であり、試合のデータも多い。
しかも夏前に青道と練習試合をしており、その直近の戦力データもあった。
それを地道に研究していたからこその名勝負だ。
「西浦、勝てよ~!」
「ジャイアントキリングを見せてくれ!」
スタンドから、見も知らないオジサンたちから声援が届く。
試合が始まった時には、明らかにARCファンが多かった。
だが次第に西浦への応援が増えているような気がする。
だがそれでもやはりキツい。
試合の後半になると、マウンドの三橋は完全に息が上がっていた。
全力投球の威力も落ち、制球も乱れ始めている。
まずい、かも。
そう思った時、三橋はスタンドから聞き覚えのある声を聞いた。
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
マウンドでこれ以上はきついと弱気になりかけたところで、はっきり聞こえた。
そして声の方向に、知った顔を見つけた。
青道高校の沢村と御幸だ。
「栄純、君。と、御幸、セン、パイ」
三橋は思わず呟いていた。
昨日、彼らは西東京の決勝戦で甲子園行きを決めた。
その2人がわざわざ見に来てくれたのだ。
負けられない。
絶対に無様なところを見せたくない。
三橋は彼らをジッと見据えると、深く息を吸い込んだ。
そしてゆっくりと吐き出し、気を取り直した。
ちなみにこのときの阿部の気持ちを三橋が知るのは、かなり後のことだ。
三橋の気持ちを上向けようと、阿部は苦心していた。
気持ちさえ負けていなければ、まだ勝負ができると。
だが疲労が増した三橋の顔はどうしても下がる。
どうしたものかと困っていたところで、御幸と沢村を見て持ち直したのだ。
かなり嫉妬をしたのだと言われて、三橋はただただ恐縮した。
そして試合は9回表。
2点のリードを許した西浦の攻撃、バッターは水谷だ。
三橋はネクストバッターズサークルで、打順を待つ。
正直なところ、バッティングは苦手だ。
今日もノーヒットでしっかり押さえられている。
それでも絶対に打つ。そして勝つ。
三橋は静かに決意を固めながら、自分の打順を待つ。
だがその前に水谷のバットが空を切った。
三振でアウト、試合終了だ。
ARC学園高校の選手たちが、ベンチからグラウンドに飛び出した。
バッテリーが抱き合い、それに他の選手たちが重なる。
ああ、負けたんだ。
三橋は大きく点を仰ぐと、静かに立ち上がった。
一緒に甲子園に行けない。
三橋はスタンドの沢村と御幸を見た。
そして西浦の生徒よりも盛大に泣いている沢村を見つけて苦笑する。
ずるい。そんな風に先に泣かれたら、こっちが泣けないではないか。
三橋はそのまま、本塁前の整列に向かった。
スタンドからは「よくやった!」などと声がかかる。
でもよくやったなんて、どうでも良い。
勝つことができなければ意味がないのだから。
あと2回、チャンスはある。
三橋は整列に加わりながら、そう思った。
この夏は終わってしまったけれど、西浦高校はまだ終わっていない。
3年生がいないこの部は、誰も欠けることなく次の大会で戦える。
「あっしたぁ!」
最後の挨拶を終えた後、三橋はもう1度スタンドの沢村を見た。
いつかきっと甲子園で、青道に勝つ。
それは三橋の中で燃え続ける、秘かな野望だった。
【続く】
【注意!】
2年目の夏の大会の結果は私の妄想で執筆いたします。
今回の「おお振り」の決勝戦、西浦vsARC学園高校。
残念ながら、実現の可能性は低いっていうかほぼないと思っています。
それでもご理解いただける方のみ、お読みください。
*****
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村はすっかり興奮状態で、なりふり構わず声を張った。
そして隣に座っていた御幸は、思わず耳をふさいだのだった。
埼玉県予選決勝、ARC学園高校対西浦高校。
御幸と沢村はこの試合を観戦するために、わざわざ埼玉まで来ていた。
折しも東東京も同じタイミングで決勝戦だ。
だからチームメイトの多くはそちらを見に行っている。
でも御幸と沢村はこっちの試合を選んだ。
練習試合を通じて友人になった西浦高校の戦いを見たかったからだ。
ARC学園高校は埼玉の実力校だ。
高校野球通を集めて「埼玉はどこが一番強い?」と聞けば、ほぼ全員が「ARC」と答えるだろう。
西東京で例えるなら、青道や稲実クラスと言える。
西浦高校が決勝に進むと予想した者は、ほぼいないだろう。
野球部は始動2年目、つまり3年生がいない。
しかも県立高校なので、設備や支援も私立の強豪校には遠く及ばない。
そんな学校が何と甲子園まであと1歩というところまで来たのだ。
「そういや、2人きりで観戦って初めてっすね!」
球場に着き、席に座るなり、沢村はそう言った。
御幸は「確かに」と頷く。
球場で一緒に試合を見る時は誰かしら他の部員もいた。
むしろぞろぞろと大人数で見ていることの方が多い。
「デートみたいだな。」
御幸が軽口を叩くと、沢村は真っ赤になった。
そして「で、でーと?」と口をパクパクさせている。
どうやら言い返したいけれど、言葉が出て来ないらしい。
御幸はニヤニヤ笑いながら、球場内を見回した。
球場の雰囲気は東京とさほど変わらない。
両校の生徒や応援団、家族。
そして高校野球のファンたちの熱気が、試合前から球場に満ちている。
高校野球ファンで圧倒的に多いのは、オジサンたちだ。
御幸は自分たちの後ろに座っているオジサンたちの会話に聞き耳を立てた。
おそらく埼玉に関しては、御幸よりは情報を持っているだろう。
「やっぱり何だかんだ言ってもARCだろう!」
「いやいや西浦だって侮れないぞ?」
「だよなぁ。マグレじゃ決勝までは来られないよ。」
「オレは西浦を応援するぞ。やっぱりその方が面白いもんなぁ」
「そうだな。オレも!」
オジサンたちの会話を聞いた御幸は、微妙な気分になった。
西浦を応援してくれるのは、友人として嬉しい。
だが青道高校は西浦よりARCに近いのだ。
県立高校と対戦して相手が善戦すると、球場全体がアウェー状態になったりする。
それはやはりやりにくいものであり、アンチ強豪な雰囲気には素直に頷けない。
そして始まった決勝戦。
最初は緊迫した投手戦から始まった。
三橋は最初からフルスロットルで、埼玉ナンバーワン打線に全力投球だ。
それを見た沢村は「スゲェ。三橋」と興奮している。
だが同時に「大丈夫かな」と呟いた。
「ああ。そうだな。」
御幸は頷きながら、マウンドの三橋を見ていた。
三橋は準決勝も完投していたはずだ。
そしてその翌日、先発。
おそらく三橋が打線につかまった瞬間、この試合は終わる。
しかもその打線は渾身の全力投球をしなければ太刀打ちできない相手。
つまり圧倒的に西浦高校は不利だった。
先取点は4回、ARCだった。
打順が一巡し、目も慣れてきたのだろう。
ヒットを3本打たれ、2点取られた。
それでもそこで踏ん張り、何とか後続を切った。
それでもその後も幾度となく打たれ、点を取られていく。
「ここも何とか押さえたな」
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村がいきなり大声を出したので、御幸は驚き、耳をふさいだ。
そして「いきなりデケェ声を出すな!」と怒る。
ただでさえ地声がデカい沢村に声を張られれば、それはもううるさい。
だがそのとき御幸は、マウンドの三橋と目が合った気がした。
もしかして沢村の声が聞こえたのか?
いや、気のせいかもしれない。
この満員の球場で特定の誰かを捜し当てるのはむずかしいだろう。
「頑張れ!一緒に甲子園に行くぞ!」
その後も三橋は必死に投げ続け、バックは懸命に盛り立てる。
そして御幸もいつの間にか声援を送っていた。
もう自分たちの立ち位置など、どうでも良い。
今はただ西浦高校によるジャイアントキリングを見たいと切望していたのだ。
*****
「栄純、君。と、御幸、セン、パイ」
三橋は思わず呟いていた。
満員の球場、だがなぜか彼らの姿ははっきり見えた。
今日は大変な試合になる。
西浦高校野球部の面々は試合前から覚悟ができていた。
下馬評ではかなり格上の相手との決勝戦。
しかもエースの三橋は連投で疲れが溜まっている。
今までで一番過酷な試合になることは確実だった。
そして試合は始まった。
三橋は先発し、初回から全力で投げ続けた。
とにかく気をつけるのは、制球力だ。
疲れていて球速は落ちても、コントロールさえ失わなければ何とか勝負できる。
だから一球一球、集中し続けた。
3回までは、無得点に抑えられた。
それでも打順が一巡した4回からは、打たれ始めてしまった。
4回に2点、5回、6回に1点、さらに7回に2点。
大崩れこそしないものの毎回ヒットを打たれて、得点を許した。
それでも勝負できたのは、西浦打線もまた点を取ってくれたからだ。
田島と花井を中心に、上位打線はよく打った。
ARCは強豪であり、試合のデータも多い。
しかも夏前に青道と練習試合をしており、その直近の戦力データもあった。
それを地道に研究していたからこその名勝負だ。
「西浦、勝てよ~!」
「ジャイアントキリングを見せてくれ!」
スタンドから、見も知らないオジサンたちから声援が届く。
試合が始まった時には、明らかにARCファンが多かった。
だが次第に西浦への応援が増えているような気がする。
だがそれでもやはりキツい。
試合の後半になると、マウンドの三橋は完全に息が上がっていた。
全力投球の威力も落ち、制球も乱れ始めている。
まずい、かも。
そう思った時、三橋はスタンドから聞き覚えのある声を聞いた。
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
マウンドでこれ以上はきついと弱気になりかけたところで、はっきり聞こえた。
そして声の方向に、知った顔を見つけた。
青道高校の沢村と御幸だ。
「栄純、君。と、御幸、セン、パイ」
三橋は思わず呟いていた。
昨日、彼らは西東京の決勝戦で甲子園行きを決めた。
その2人がわざわざ見に来てくれたのだ。
負けられない。
絶対に無様なところを見せたくない。
三橋は彼らをジッと見据えると、深く息を吸い込んだ。
そしてゆっくりと吐き出し、気を取り直した。
ちなみにこのときの阿部の気持ちを三橋が知るのは、かなり後のことだ。
三橋の気持ちを上向けようと、阿部は苦心していた。
気持ちさえ負けていなければ、まだ勝負ができると。
だが疲労が増した三橋の顔はどうしても下がる。
どうしたものかと困っていたところで、御幸と沢村を見て持ち直したのだ。
かなり嫉妬をしたのだと言われて、三橋はただただ恐縮した。
そして試合は9回表。
2点のリードを許した西浦の攻撃、バッターは水谷だ。
三橋はネクストバッターズサークルで、打順を待つ。
正直なところ、バッティングは苦手だ。
今日もノーヒットでしっかり押さえられている。
それでも絶対に打つ。そして勝つ。
三橋は静かに決意を固めながら、自分の打順を待つ。
だがその前に水谷のバットが空を切った。
三振でアウト、試合終了だ。
ARC学園高校の選手たちが、ベンチからグラウンドに飛び出した。
バッテリーが抱き合い、それに他の選手たちが重なる。
ああ、負けたんだ。
三橋は大きく点を仰ぐと、静かに立ち上がった。
一緒に甲子園に行けない。
三橋はスタンドの沢村と御幸を見た。
そして西浦の生徒よりも盛大に泣いている沢村を見つけて苦笑する。
ずるい。そんな風に先に泣かれたら、こっちが泣けないではないか。
三橋はそのまま、本塁前の整列に向かった。
スタンドからは「よくやった!」などと声がかかる。
でもよくやったなんて、どうでも良い。
勝つことができなければ意味がないのだから。
あと2回、チャンスはある。
三橋は整列に加わりながら、そう思った。
この夏は終わってしまったけれど、西浦高校はまだ終わっていない。
3年生がいないこの部は、誰も欠けることなく次の大会で戦える。
「あっしたぁ!」
最後の挨拶を終えた後、三橋はもう1度スタンドの沢村を見た。
いつかきっと甲子園で、青道に勝つ。
それは三橋の中で燃え続ける、秘かな野望だった。
【続く】