「おお振り」×「◆A」1年後

【2年目の夏!その後「初戦突破」】

【注意!】
2年目の夏の大会の結果は私の妄想で執筆いたします。
「おお振り」は完全フィクション「◆A」はまだ何とか原作沿いです。
ご理解いただける方のみ、お読みください。

*****

「何、見てんの?」
食堂の片隅で試合のビデオを見る沢村に、御幸は声をかけた。
そして画面に映る意外な選手を見て「何で?」と問いかけた。

いよいよ夏の大会が始まった。
春とは違う、甲子園に繋がる長い道のりの始まりだ。
しかもその相手は由良総合、監督は元青道の監督だった人物だった。

先発は沢村だった。
エースナンバーを背負った初めての登板だ。
当の沢村は誰が見てもわかるほど、わかりやすく張り切っていた。
それは微笑ましく、だが同時にひどく危なっかしかった。
力が入り過ぎて、空回りするのはないかと。
そしてその予感は的中する。
沢村は力を発揮しきれず、早い段階でリリーフの川上にマウンドを譲ることになった。
それでも終わってみれば、7回コールドで青道は勝利をおさめていた。

沢村はあくまでも前向きだった。
元気よく振る舞い、チームの士気を下げることはしない。
もちろんただ能天気なわけではない。
この結果を冷静に受け止め、次こそはという闘志も充分伝わってきた。

そんな沢村が夜、試合のビデオを見ていた。
先程までは今日の試合のビデオを何回も繰り返し見ていたのだ。
おそらく反省と戒めのためだろう。
だが今見ているのは、まったく違うものだった。

「これ、西浦か?いつの試合だよ?」
「去年の夏の埼玉予選。西浦対桐青です。」
「1年前か。三橋、細っせぇな。今も細いけどこの頃はガリガリじゃん。」
「でも桐青相手に、完投勝利っすよ。」

沢村の声色と表情から、御幸は「なるほど」と頷いた。
青道と西浦はデータを交換しているから、こういう試合の映像もある。
画面の中では1年でエースナンバーを背負い、いきなり初戦で強豪校に投げ勝った三橋がいた。
沢村は今日の自分を比較しているのだろう。
しかも西浦には同レベルの投手はおらず、攻略されたら即試合終了。
この時の三橋にかかる負担は、かなりのものだったはずだ。

「どいつもこいつも、負けたくないヤツばっかっすよ。」
沢村は画面を睨んだまま、そう言った。
御幸は「そうかよ」と苦笑しながら、真剣な横顔を見る。
まったく投手というのは、むずかしい生き物だ。
1年前の他県の試合のビデオでさえ、闘志を燃やすのだから。
だけどその気持ちは、理解できなくもない。
御幸だって、実は負けたくないヤツばかりなのだから。

「そういや西浦も勝ってたぜ?」
「そうなんすか?」
「メールとか来てないのか?」
「あ~昨日からスマホ、見てないっす。」
「毎日見ろ。着信とメールはチェックしろ!」
「オレらはメールじゃなくてラインっすよ。ガラケーキャップ!」
「うるせえよ!」

揶揄うつもりが、御幸が未だにガラケーでラインを使わないことをいじられた。
何だか少々忌々しいが、まぁ元気なら良しとする。
この夏のエース、沢村が悔いのないピッチングをできるように。
その結果が御幸の最後の夏の成果となる。

*****

「勝った。。。」
三橋は試合終了のサイレンを聞きながら、マウンドに座り込んだ。
誰もが予想しなかった西浦の勝利に、球場はどよめいていた。

埼玉県大会、3回戦。
ここまでは順調に勝ち上がった西浦の相手は、千朶高校。
埼玉では優勝候補ナンバーワンのARC学園高校に次ぐ強豪だ。
もしもARCを破るとしたら、おそらくここだと言われる。
つまり前評判では、埼玉ナンバー2の高校だった。

西浦は1年の秋、この千朶高校に破れている。
県立高校にしてはよくやったなどと評価されたが、負けは負けだ。
組み合わせが発表されてからずっと、三橋たちは今度こそ勝とうと燃えていた。
最初からこの試合に備え、データ解析してしっかり準備をしてきた。

試合前半は投手戦だった。
6回まで0対0、お互いヒットは出るものの点には結びつかない。
つまりあと一押しができない、我慢比べのような展開だ。
均衡が破れたのは7回の裏、千朶がついに先取点を取った。
だが8回、西浦は同点に追いつき、9回で逆転。
そして9回裏を守り切り、見事に雪辱を晴らしたのだった。

「やったな!」
試合後、すぐに阿部がマウンドに駆け寄って来てくれる。
三橋は「うん」と笑顔で答える。
そこで他の選手たちも集まって来て、もみ合いの大騒ぎになった。
なにしろ埼玉ナンバー2を倒したのだ。
まるで優勝したかのような、大騒ぎだった。

でも素直に喜べない。
一通り騒ぎがおさまると、三橋はそう思った。
今回、千朶高校に勝てた1つの要因は、青道から受け取ったデータにあった。
8回からリリーフに出た投手は1年生。
公式戦に出るのも初めてで、本来ならノーデータで対峙しなければならないはずだ。
もちろん千朶もそれを見越して、マウンドに送ったのだろう。

でも彼らは大会前に青道と練習試合をしており、1年生投手もそこで投げていた。
そしてそのデータは、西浦に渡っていたのである。
球速や球種などもバッチリ分析できていたし、1年生投手も初登板で本調子ではなかった。
それが功を奏し、何とか勝てたのだ。

「運も実力だ。割り切れ」
ベンチから引き上げる通路で、阿部が三橋にそう言った。
阿部は三橋の心のうちなど、お見通しらしい。
三橋は「わかって、る!」と声を張った。

そう、わかっている。
今の西浦は総合力ではやはり強豪の私立高校にはかなわない。
10試合やって、1回勝てるかどうか。
だからその1回をどうやって公式戦に持ってくるかが重要。
手段がどうこうとか、素直に喜べないとか言っている場合ではないのだ。

「青道は、すごい、ね!」
三橋は今さらのように、そんな感想を口にした。
東京ナンバーワンはと問われれば、必ず候補に挙がるであろう強豪校。
データも出回り、東京中の高校が倒してやるぞと分析する。
それでも勝ち進んでいる、名実ともに王者なのだ。

「だな。でも負けてられねーぞ?」
「うん。甲子園、で、会うんだ!」
三橋は沢村や三橋の笑顔を思い出しながら、元気よく宣言した。
データなどとは関係なく、常にベストのピッチングをする。
それがエースのしての務めであり、その先にチームの勝利があるのだ。

【続く】
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