「おお振り」×「◆A」
【再び合同練習、その8!】
「青道の4番がスクイズなんか、すんなよな!」
阿部はバッターの御幸に、小さく悪態をつく。
だか御幸は素知らぬ顔で「関係ねーし」と答えた。
西浦対青道の練習試合。
5回で2対1だった試合は、8回が終わった時点で4対3になっていた。
両チームとも2点を追加し、点差は1点のまま。
このまま西浦が大金星をあげるのかと、誰もが思い始めていた。
だが9回表にドラマは起きた。
倉持が出塁して、小湊の3塁打で1点追加。
さらに4番御幸がスクイズして、小湊が本塁を踏む。
結局2点追加で、青道が逆転した。
それが決勝点となり、5対4で青道高校が逆転、勝利したのだった。
「ごめん、オレ」
三橋がマウンドを降りながら、静かにそう言った。
だが阿部は「あやまるなよ」と、三橋の言葉を遮った。
三橋はよく投げた。
向こうは沢村、降谷、川上の投手リレーだが、三橋は9回まで1人で迎え撃ったのだ。
しかも甲子園出場校。得るものは大きかったはずだ。
「悔しいな。ここまでしても、届かねーんだから」
阿部は三橋にそう告げると、三橋も「くや、しい!」と叫ぶ。
どんなに頑張ったって、負ければ悔しい。
データを駆使して、万全で臨んだのに、あと1歩、どうしても届かなかったのだから、尚更だ。
「公式戦で当たったら、絶対勝とうな!」
阿部は三橋の肩に腕を回すと、力強くそう言った。
三橋は「次こそ負けない!」と叫ぶ。
そして阿部がミットを外した左手を掲げると、三橋が右手を合わせた。
「頼りにしてるぞ!」
2人のやり取りを聞いていた田島が、三橋の背中を叩いた。
他の西浦の選手たちも「次は絶対」と気勢を上げる。
こうして合同練習のしめである練習試合は、幕を閉じたのだった。
*****
「勝った~!」
練習試合とは思えないほどの熱気の中、歓声が沸く。
沢村はゆっくりとマウンドを降りる三橋を見ていた。
「全然喜べる内容じゃねーよな。」
それが試合が終わった直後の御幸の感想だった。
そう、試合こそ勝ったが、全然喜べる内容じゃない。
安打数は西浦の方が上だし、両チームの投手を見渡しても、一番好投したのは三橋だ。
もしも判定なんて制度が野球にあったら、今日の勝者は西浦だろう。
悔しくて、たまらない。
予定より早くマウンドを降りた沢村は、全然勝った気がしなかったからだ。
しかも阿部と2人で「公式戦で当たったら、絶対勝とう」なんて言っている。
今日の試合の後では、洒落にならない。
前の合同合宿よりも、着実に差を詰められているのは、間違いないからだ。
「ったく、すげぇ絆だよな。」
不意に背後から声をかけられ、沢村は振り返る。
立っていたのは、決勝のスクイズを決めた御幸だった。
その視線の先には、もはや恒例行事のように、手の平を合わせている阿部と三橋がいた。
「オレだって、次こそ完封してやる!」
次は勝つと息まく西浦ナインを見ながら、沢村は力強く宣言した。
だが御幸はこれ見よがしにため息をつく。
そして「打撃も練習しろ。今日もノーヒットだろ」と言った。
その通り、沢村は今日2打席だったが、どちらも三振だった。
凡退どころか、バットに当てることさえできていない。
「先輩こそ、スクイズしかしてないっすよね!」
沢村が言い返すと、御幸が「うるせーよ!」と叫ぶ。
三橋が対御幸にだけ投げたナックルカーブに、御幸は完全に打ち取られてしまったのだ。
結局最後のスクイズ以外は、全打席凡退。
これは4番として、かなりまずい展開だ。
「オレはまだ発展途上なんだよ」
「オレだって、そうっすよ!」
御幸の言葉に、沢村は予想通りの反応を返した。
沢村は悔しさを感じているけど、ちゃんと上を向いている。
そのことに御幸は安堵していた。
これがオレのやり方だ。
御幸は心の中でそう思う。
チームの特性上、また御幸の性格上、阿部みたいに1人だけを心の中心に置くことはできない。
だけどこうしてからかいながら、やる気を引き出してやることはできるのだ。
「整列だぞ」
御幸は沢村に声をかけると、ゆっくりと足を踏み出した。
次こそ、もっと圧倒的に勝つ。そのための第一歩だ。
【続く】
「青道の4番がスクイズなんか、すんなよな!」
阿部はバッターの御幸に、小さく悪態をつく。
だか御幸は素知らぬ顔で「関係ねーし」と答えた。
西浦対青道の練習試合。
5回で2対1だった試合は、8回が終わった時点で4対3になっていた。
両チームとも2点を追加し、点差は1点のまま。
このまま西浦が大金星をあげるのかと、誰もが思い始めていた。
だが9回表にドラマは起きた。
倉持が出塁して、小湊の3塁打で1点追加。
さらに4番御幸がスクイズして、小湊が本塁を踏む。
結局2点追加で、青道が逆転した。
それが決勝点となり、5対4で青道高校が逆転、勝利したのだった。
「ごめん、オレ」
三橋がマウンドを降りながら、静かにそう言った。
だが阿部は「あやまるなよ」と、三橋の言葉を遮った。
三橋はよく投げた。
向こうは沢村、降谷、川上の投手リレーだが、三橋は9回まで1人で迎え撃ったのだ。
しかも甲子園出場校。得るものは大きかったはずだ。
「悔しいな。ここまでしても、届かねーんだから」
阿部は三橋にそう告げると、三橋も「くや、しい!」と叫ぶ。
どんなに頑張ったって、負ければ悔しい。
データを駆使して、万全で臨んだのに、あと1歩、どうしても届かなかったのだから、尚更だ。
「公式戦で当たったら、絶対勝とうな!」
阿部は三橋の肩に腕を回すと、力強くそう言った。
三橋は「次こそ負けない!」と叫ぶ。
そして阿部がミットを外した左手を掲げると、三橋が右手を合わせた。
「頼りにしてるぞ!」
2人のやり取りを聞いていた田島が、三橋の背中を叩いた。
他の西浦の選手たちも「次は絶対」と気勢を上げる。
こうして合同練習のしめである練習試合は、幕を閉じたのだった。
*****
「勝った~!」
練習試合とは思えないほどの熱気の中、歓声が沸く。
沢村はゆっくりとマウンドを降りる三橋を見ていた。
「全然喜べる内容じゃねーよな。」
それが試合が終わった直後の御幸の感想だった。
そう、試合こそ勝ったが、全然喜べる内容じゃない。
安打数は西浦の方が上だし、両チームの投手を見渡しても、一番好投したのは三橋だ。
もしも判定なんて制度が野球にあったら、今日の勝者は西浦だろう。
悔しくて、たまらない。
予定より早くマウンドを降りた沢村は、全然勝った気がしなかったからだ。
しかも阿部と2人で「公式戦で当たったら、絶対勝とう」なんて言っている。
今日の試合の後では、洒落にならない。
前の合同合宿よりも、着実に差を詰められているのは、間違いないからだ。
「ったく、すげぇ絆だよな。」
不意に背後から声をかけられ、沢村は振り返る。
立っていたのは、決勝のスクイズを決めた御幸だった。
その視線の先には、もはや恒例行事のように、手の平を合わせている阿部と三橋がいた。
「オレだって、次こそ完封してやる!」
次は勝つと息まく西浦ナインを見ながら、沢村は力強く宣言した。
だが御幸はこれ見よがしにため息をつく。
そして「打撃も練習しろ。今日もノーヒットだろ」と言った。
その通り、沢村は今日2打席だったが、どちらも三振だった。
凡退どころか、バットに当てることさえできていない。
「先輩こそ、スクイズしかしてないっすよね!」
沢村が言い返すと、御幸が「うるせーよ!」と叫ぶ。
三橋が対御幸にだけ投げたナックルカーブに、御幸は完全に打ち取られてしまったのだ。
結局最後のスクイズ以外は、全打席凡退。
これは4番として、かなりまずい展開だ。
「オレはまだ発展途上なんだよ」
「オレだって、そうっすよ!」
御幸の言葉に、沢村は予想通りの反応を返した。
沢村は悔しさを感じているけど、ちゃんと上を向いている。
そのことに御幸は安堵していた。
これがオレのやり方だ。
御幸は心の中でそう思う。
チームの特性上、また御幸の性格上、阿部みたいに1人だけを心の中心に置くことはできない。
だけどこうしてからかいながら、やる気を引き出してやることはできるのだ。
「整列だぞ」
御幸は沢村に声をかけると、ゆっくりと足を踏み出した。
次こそ、もっと圧倒的に勝つ。そのための第一歩だ。
【続く】