「おお振り」×「◆A」
【さらに後日談、その5!】
この青空~♪輝く瞳~♪曇らせたくない、疾走れ!ミライ~♪
沢村と三橋は大きな声で歌いながら、元気よく歩いていた。
有り金全部を食事に使ってしまった沢村と三橋。
彼らが次に考えたのは、何とか帰り着くことだ。
だが電車に乗れない以上、考え付く手段は歩くことだけだった。
2人とも電車で1時間強の時間がかかる。
だが残念なことに、徒歩に換算したら何時間かかるなんて計算はできない。
まぁ一晩歩けば、朝までに着くんじゃない?
そんな大雑把な感じで、2人は歩き出したのだ。
とりあえず目指すのは、青道の寮だ。
これまた同じ東京都なので、そっちの方が近いだろうという大雑把な考えからだ。
実は三橋の家と青道の寮だと、わずかに三橋宅の方が距離が短い。
だが2人はそんなことなど、少しも疑わなかった。
この青空~♪輝く瞳~♪曇らせたくない、疾走れ!ミライ~♪
沢村と三橋は大きな声で歌いながら、元気よく歩いていた。
歌っているのは、人気の野球漫画のアニメ版主題歌だ。
とりあえずテンションが上がる。
そしてワンコーラス歌い終わっても、沢村の勢いは止まらない。
普段はこの時間、練習してるんだ。
降谷もノリ先輩も、今頃練習していると思うと、焦るぜ!
沢村は今の気持ちを、正直に語った。
そう、今夜はさすがに練習ができそうにない。
1日でエース争いに決定的な差が出るとは思わないが、やはり落ち着かない。
すごい!ライバル、だ!
三橋は素直に感激し、これまた元気よく応じた。
球数を制限され、家での練習を禁じられている三橋には、羨ましいのだ。
それに投手が何人もいて、日々競い合っている環境もカッコいいと思う。
そう、ライバルだよな。
ちなみにオレとお前も、ライバルっちゃライバルだ。
だけどそれ以上に、親友だけどな!
三橋の賛辞に気をよくした沢村が、そう告げる。
すると三橋は「おおお!しん、ゆう!」と歓喜の声を上げた。
今まで三橋にそんなことを言ってくれた人間は、他にいなかったのだ。
そして沢村もまた三橋のリアクションを快く感じていた。
学校でも寮でも、沢村本人は意識していないが「いじられキャラ」なのだ。
こんな風に沢村の言葉に全力で感激する人間は、実は今までいなかった。
なぁ、次、何歌う?
気をよくした沢村は、三橋にそう問いかける。
すると一瞬小首を傾げて考えた三橋は「パーフェクトヒーロー!」と答えた。
これまた有名な野球漫画のテーマソングだ。
*****
きらきらひかる青春ラインを~♪僕らは今~♪走り出すよ~♪つなぐ想いを夢の先まで~♪
歩きはじめて2時間、2人はまだまだ元気に、歌いながら歩いていた。
そっか、レンは球数制限、されてんのか。
うん。だか、ら、いっぱい、投げ、られる、栄純、君、羨ましい!
っていうか、大事にされてるんじゃねーの?レンは大事なエースだから。
そ、そう、かな?
すっかり打ち解けた2人がまずしたことは「名前呼び」だった。
言い出したのは、もちろん沢村だ。
なぁ三橋って下の名前、何ていうの?
いきなりそう聞かれて、三橋は「レン、だよ!」と答える。
すると次からはごく当たり前に「レン」と呼ぶようになった。
お前も「沢村君」はもう止めよーぜ。
気さくな沢村の申し出に、三橋は「うおお!」と感激する。
だがここからが問題だった。
三橋はどうしても誰かを呼び捨てにすることができないのだ。
沢村は何度も「栄純って呼べよ!」と迫ったが、三橋は「ムリ!」と目を回してしまう。
結局三橋からの呼び名は「栄純君」で落ち着いた。
オレ、実家では、父ちゃん、母ちゃん、ジィちゃんの4人家族でさ。
オ、オレ、も、中学、のとき、ジィちゃん、ちに、いた。
へぇぇ。じゃあ俺らみたいに、親から離れてたんだ?
うん。そう!ジィちゃん、の、学校、通った。
え!レンのジィちゃんって学校、持ってんの?お坊ちゃまじゃん!
・・・お坊ちゃま、違う。
2人の取り留めのない会話は尽きることがなかった。
野球の話、お互いのチームの話など、共通の話題は山ほどある。
それに祖父から始まって、三橋の父方の素性も知れた。
こうして2人の距離は、ますます縮まったのだが。
三橋、まだまだ足、大丈夫か?
足はへーき。だけど、お腹、へった。
・・・そういや、オレも。
食べ盛りの2人は、有り金をはたいた食事もこなれて、また空腹を感じ始めていた。
だけどまだまだ先は長い。
お土産のお菓子、食っちまおうか?
ふと誘惑に駆られた沢村が、そんなことを言い出した。
2人ともお土産に、先程試合を見た球場の名を冠した菓子を買っていた。
ちなみに沢村が買ったのは「ドームクッキー」三橋のは「ドームまんじゅう」。
どちらもお徳用サイズなので、食べればかなり腹にたまるだろう。
だが三橋は「ダメ、だよ!」と声を荒げた。
これはあくまでお土産、プレゼントするために買ったのだから。
すると沢村も「そうだよな」と同意し「また歌うか」と三橋を見た。
三橋も頷き、またしても野球漫画のテーマソングを提案する。
きらきらひかる青春ラインを~♪僕らは今~♪走り出すよ~♪つなぐ想いを夢の先まで~♪
歩きはじめて2時間、2人はまだまだ元気に、歌いながら歩いていた。
*****
未来へつなげOne Story~♪描き出す夢はまだ終わらない!終わらせはしない~♪
沢村と三橋は相変わらず歌っていたが、テンションはかなり下がっていた。
沢村と三橋は軽快に歩き続けていた。
やはり甲子園を目指す現役の高校球児、脚力はハンパない。
途中コンビニに入り、地図を立ち読みして、どうにか正しい方角に進んでいる。
疲労と空腹はどうにかなりそうだが、ここへ来て眠気が2人の大敵となった。
ヤバい。オレ、歩いたまま、寝そう。
沢村が白状すると、三橋も「オレも」と同意した。
本当に歩きながら、瞼が次第に落ちてきてしまうのだ。
こういうときこそ何か歌えばいいのかもしれないが、2人とも声が枯れ始めていた。
そろそろ大きな声で喋るのも、しんどい。
御幸、セン、パイ、心配、して、ない?
三橋がふと思いついて、そう聞いた。
沢村の場合、帰りが遅いことはチームメイト全員が知ることになる。
青道の主将であり、沢村のバッテリーの相方である御幸は、すごく心配しているのではないか?
心配なんかしてねーよ。あの人、性格悪いし。
沢村は、そう即答した。
これは強がりとかなどではなく、本気でそう思っていた。
いつも飄々としたあの御幸が、誰かを個人的に心配するなんて、想像できない。
いや、もしもこれが降谷や川上だったら、心配するのだろうか。
そう思った瞬間、沢村の胸はツキンと痛んだ。
阿部はどうなんだよ。
沢村に聞き返された三橋は「多分、知らない」と言い返した。
多分三橋の両親と、田島、泉は心配しているのではないかと思う。
だが阿部は三橋が今、こんなところを歩いているなんて、知らないだろう。
知っていれば怒られると思うが、それはきっと三橋が西浦でただ1人の投手だからだ。
そう思った瞬間、三橋は何とも言えない寂しさを感じた。
未来へつなげOne Story~♪描き出す夢はまだ終わらない!終わらせはしない~♪
沢村と三橋は相変わらず歌っていたが、テンションはかなり下がっていた。
だけど眠らないようにするには、これが一番。
沈みがちな気持ちを押さえつけるように、2人は歌いながら足を進める。
だがそのとき、2人の横に1台の車が急ブレーキと共に停車した。
沢村君!三橋君!
車の窓から顔を出したのは、青道高校野球部副部長の高島だ。
2人が歩いているのではないかと推察し、車で捜索していたのだ。
沢村と三橋は顔を見合わせると、その場にヘナヘナと座り込んだ。
こうして2人の大冒険は、唐突に終わりを告げたのだった。
【続く】
この青空~♪輝く瞳~♪曇らせたくない、疾走れ!ミライ~♪
沢村と三橋は大きな声で歌いながら、元気よく歩いていた。
有り金全部を食事に使ってしまった沢村と三橋。
彼らが次に考えたのは、何とか帰り着くことだ。
だが電車に乗れない以上、考え付く手段は歩くことだけだった。
2人とも電車で1時間強の時間がかかる。
だが残念なことに、徒歩に換算したら何時間かかるなんて計算はできない。
まぁ一晩歩けば、朝までに着くんじゃない?
そんな大雑把な感じで、2人は歩き出したのだ。
とりあえず目指すのは、青道の寮だ。
これまた同じ東京都なので、そっちの方が近いだろうという大雑把な考えからだ。
実は三橋の家と青道の寮だと、わずかに三橋宅の方が距離が短い。
だが2人はそんなことなど、少しも疑わなかった。
この青空~♪輝く瞳~♪曇らせたくない、疾走れ!ミライ~♪
沢村と三橋は大きな声で歌いながら、元気よく歩いていた。
歌っているのは、人気の野球漫画のアニメ版主題歌だ。
とりあえずテンションが上がる。
そしてワンコーラス歌い終わっても、沢村の勢いは止まらない。
普段はこの時間、練習してるんだ。
降谷もノリ先輩も、今頃練習していると思うと、焦るぜ!
沢村は今の気持ちを、正直に語った。
そう、今夜はさすがに練習ができそうにない。
1日でエース争いに決定的な差が出るとは思わないが、やはり落ち着かない。
すごい!ライバル、だ!
三橋は素直に感激し、これまた元気よく応じた。
球数を制限され、家での練習を禁じられている三橋には、羨ましいのだ。
それに投手が何人もいて、日々競い合っている環境もカッコいいと思う。
そう、ライバルだよな。
ちなみにオレとお前も、ライバルっちゃライバルだ。
だけどそれ以上に、親友だけどな!
三橋の賛辞に気をよくした沢村が、そう告げる。
すると三橋は「おおお!しん、ゆう!」と歓喜の声を上げた。
今まで三橋にそんなことを言ってくれた人間は、他にいなかったのだ。
そして沢村もまた三橋のリアクションを快く感じていた。
学校でも寮でも、沢村本人は意識していないが「いじられキャラ」なのだ。
こんな風に沢村の言葉に全力で感激する人間は、実は今までいなかった。
なぁ、次、何歌う?
気をよくした沢村は、三橋にそう問いかける。
すると一瞬小首を傾げて考えた三橋は「パーフェクトヒーロー!」と答えた。
これまた有名な野球漫画のテーマソングだ。
*****
きらきらひかる青春ラインを~♪僕らは今~♪走り出すよ~♪つなぐ想いを夢の先まで~♪
歩きはじめて2時間、2人はまだまだ元気に、歌いながら歩いていた。
そっか、レンは球数制限、されてんのか。
うん。だか、ら、いっぱい、投げ、られる、栄純、君、羨ましい!
っていうか、大事にされてるんじゃねーの?レンは大事なエースだから。
そ、そう、かな?
すっかり打ち解けた2人がまずしたことは「名前呼び」だった。
言い出したのは、もちろん沢村だ。
なぁ三橋って下の名前、何ていうの?
いきなりそう聞かれて、三橋は「レン、だよ!」と答える。
すると次からはごく当たり前に「レン」と呼ぶようになった。
お前も「沢村君」はもう止めよーぜ。
気さくな沢村の申し出に、三橋は「うおお!」と感激する。
だがここからが問題だった。
三橋はどうしても誰かを呼び捨てにすることができないのだ。
沢村は何度も「栄純って呼べよ!」と迫ったが、三橋は「ムリ!」と目を回してしまう。
結局三橋からの呼び名は「栄純君」で落ち着いた。
オレ、実家では、父ちゃん、母ちゃん、ジィちゃんの4人家族でさ。
オ、オレ、も、中学、のとき、ジィちゃん、ちに、いた。
へぇぇ。じゃあ俺らみたいに、親から離れてたんだ?
うん。そう!ジィちゃん、の、学校、通った。
え!レンのジィちゃんって学校、持ってんの?お坊ちゃまじゃん!
・・・お坊ちゃま、違う。
2人の取り留めのない会話は尽きることがなかった。
野球の話、お互いのチームの話など、共通の話題は山ほどある。
それに祖父から始まって、三橋の父方の素性も知れた。
こうして2人の距離は、ますます縮まったのだが。
三橋、まだまだ足、大丈夫か?
足はへーき。だけど、お腹、へった。
・・・そういや、オレも。
食べ盛りの2人は、有り金をはたいた食事もこなれて、また空腹を感じ始めていた。
だけどまだまだ先は長い。
お土産のお菓子、食っちまおうか?
ふと誘惑に駆られた沢村が、そんなことを言い出した。
2人ともお土産に、先程試合を見た球場の名を冠した菓子を買っていた。
ちなみに沢村が買ったのは「ドームクッキー」三橋のは「ドームまんじゅう」。
どちらもお徳用サイズなので、食べればかなり腹にたまるだろう。
だが三橋は「ダメ、だよ!」と声を荒げた。
これはあくまでお土産、プレゼントするために買ったのだから。
すると沢村も「そうだよな」と同意し「また歌うか」と三橋を見た。
三橋も頷き、またしても野球漫画のテーマソングを提案する。
きらきらひかる青春ラインを~♪僕らは今~♪走り出すよ~♪つなぐ想いを夢の先まで~♪
歩きはじめて2時間、2人はまだまだ元気に、歌いながら歩いていた。
*****
未来へつなげOne Story~♪描き出す夢はまだ終わらない!終わらせはしない~♪
沢村と三橋は相変わらず歌っていたが、テンションはかなり下がっていた。
沢村と三橋は軽快に歩き続けていた。
やはり甲子園を目指す現役の高校球児、脚力はハンパない。
途中コンビニに入り、地図を立ち読みして、どうにか正しい方角に進んでいる。
疲労と空腹はどうにかなりそうだが、ここへ来て眠気が2人の大敵となった。
ヤバい。オレ、歩いたまま、寝そう。
沢村が白状すると、三橋も「オレも」と同意した。
本当に歩きながら、瞼が次第に落ちてきてしまうのだ。
こういうときこそ何か歌えばいいのかもしれないが、2人とも声が枯れ始めていた。
そろそろ大きな声で喋るのも、しんどい。
御幸、セン、パイ、心配、して、ない?
三橋がふと思いついて、そう聞いた。
沢村の場合、帰りが遅いことはチームメイト全員が知ることになる。
青道の主将であり、沢村のバッテリーの相方である御幸は、すごく心配しているのではないか?
心配なんかしてねーよ。あの人、性格悪いし。
沢村は、そう即答した。
これは強がりとかなどではなく、本気でそう思っていた。
いつも飄々としたあの御幸が、誰かを個人的に心配するなんて、想像できない。
いや、もしもこれが降谷や川上だったら、心配するのだろうか。
そう思った瞬間、沢村の胸はツキンと痛んだ。
阿部はどうなんだよ。
沢村に聞き返された三橋は「多分、知らない」と言い返した。
多分三橋の両親と、田島、泉は心配しているのではないかと思う。
だが阿部は三橋が今、こんなところを歩いているなんて、知らないだろう。
知っていれば怒られると思うが、それはきっと三橋が西浦でただ1人の投手だからだ。
そう思った瞬間、三橋は何とも言えない寂しさを感じた。
未来へつなげOne Story~♪描き出す夢はまだ終わらない!終わらせはしない~♪
沢村と三橋は相変わらず歌っていたが、テンションはかなり下がっていた。
だけど眠らないようにするには、これが一番。
沈みがちな気持ちを押さえつけるように、2人は歌いながら足を進める。
だがそのとき、2人の横に1台の車が急ブレーキと共に停車した。
沢村君!三橋君!
車の窓から顔を出したのは、青道高校野球部副部長の高島だ。
2人が歩いているのではないかと推察し、車で捜索していたのだ。
沢村と三橋は顔を見合わせると、その場にヘナヘナと座り込んだ。
こうして2人の大冒険は、唐突に終わりを告げたのだった。
【続く】