「おお振り」×「◆A」

【さらに後日談、その1!】

大ピンチ、だ。
三橋は今、置かれている状況がかなりヤバいことを悟っていた。

3月某日、三橋は東京で一番有名なあの球場に来ていた。
目的はプロ野球のオープン戦だ。
元々、田島が前売りチケットをもらったのがきっかけだ。
4枚あったので、9組の面々で行こうということになっていた。
泉、田島、三橋、そして浜田だ。

だが浜田がバイトの都合で行けなくなってしまった。
そして1枚の残りと言うのは、実に不自由だ。
野球部員は他に7名おり、誰か1人を選んで誘うと角が立ちそうなのだ。
そこで白羽の矢が立ったのは、練習試合で対戦した青道高校の沢村だ。
正月に三橋の家に来ていたこともあり、気心も知れている。

プロ野球の試合?行く、行く!
さっそく沢村に連絡すると、2つ返事で参加表明。
かくして4人は、最寄りの駅で落ち合い、球場に向かう。
違う学校で、接点は少なくても、共通の話題は少なくない。
何より沢村の青道高校は甲子園出場を決めている。
三橋も田島も泉も、聞きたいことは山ほどあった。

試合はまぁまぁ楽しかった。
もちろん公式戦ほどの緊迫感はない。
だがやはり高いレベルの試合を見られるのは、喜ばしいことだ。
何気ない1つ1つのプレイすべてが、自分たちよりもはるかに上手い。
当たり前と言えば、当たり前だ。
高校野球経験者でほんの一握りの人間がプロに進む。
さらに1軍で試合に出るのはまた一握りなのだから。

試合の後、三橋と沢村は球場に併設されたショップに来た。
この球場を本拠地にするチームのいろいろなグッズを売っている。
三橋はそこで両親と阿部へのお土産を買った。
沢村もいくつか、グッズを買ったようだ。
泉と田島は特に買い物はしないので、球場の外のすぐ横にあるゲームセンターで待っている。
買い物を終えた三橋と沢村は彼らに合流しようと、球場を出たのだが。

そこでトラブルに巻き込まれてしまった。
かくして泉たちと合流できないまま、三橋と沢村の大冒険が始まってしまうのだ。

*****

いったい何で、こんなことに。
沢村は理不尽な事態に、憤慨していた。

今日はプロ野球のオープン戦を見に来ていた。
誘ってくれたのは、三橋だ。
同じクラスの野球部員たちと行く予定が、1人急に行けなくなったのだという。
よかったらどうかな?
控えめな三橋のメールに、沢村は「行く、行く!」と返信した。

楽しく試合を観戦した後、三橋と一緒にグッズショップに行った。
三橋は両親と阿部にお土産を買うという。
沢村も長野の両親と祖父、そして師匠であるクリスに買うつもりだったが、ここで迷った。
三橋が阿部に何か買うなら、オレは御幸先輩に買うべきなのか?
いや、違うだろう。他にも先輩はたくさんいるのだし。
でもいつも球を受けてくれる先輩に、やっぱり買っておくべきなのか?

迷いながらも買い物を終え、ショップを出る。
そこで事件は起きたのだ。
泉たちが待つゲームセンターに向かう通路に、数人の高校生っぽい少年たちがたむろしていた。
着崩れた服装とか、目付きとか、いかにも悪そうな感じだ。
かかわりたくねぇな。
咄嗟に沢村はそう思った。
かすかに眉を寄せたところを見ると、三橋もきっとそう思っているのだろう。

だがそういうときに限って、うまくいかないものだ。
その中の1人が沢村と目が合い、一瞬考えるような表情になる。
だがすぐにニヤニヤ笑いに変わり、こちらに向かって歩いてきたのだ。

「青道の沢村、だよな?」
沢村と目が合った少年が、そう言った。
すると他の少年たちも「あぁ?」と意味もなく威嚇するような声を上げる。
三橋はその声にビクリと身体を竦めた。

「御幸のケガは、もういいのかよ?」
少年が挑発するように沢村の顔を覗き込みながら、そう続ける。
沢村は「関係ねーだろ!」と言い返した。
誰だか知らないが、御幸のことを喋られるのが不快だった。

「沢村、君。気を、つけて。」
不意に三橋が、沢村の耳元で囁くようにそう告げた。
意味が分からず、沢村は三橋を見る。
すると三橋はもう1度、耳元で小さく囁いた。

「何か、あれば。甲子園、行けなく、なる。」
三橋の言葉に、沢村はハッと思い至った。
ここでケンカ騒ぎになったら、どうなるか。
もしかしたら沢村が、下手をすると青道高校ごと甲子園出場辞退だ。
そうでなくてもケガをしたら、大変なことになる。

とにかく、無事に切り抜けなくてはならない。
沢村は辺りを見回しながら、必死に勝機を捜し始めた。

【続く】
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