「おお振り」×「◆A」

【後日談、その2!】

「せん。。。何で読むんだ?」
携帯電話の画面を読んでいた沢村が文句を言う。
すると頭上から「せんだ、だよ」という声が聞こえて、思わず飛び上がった。

青道と西浦との合同練習で、一番仲良くなったのは、沢村と三橋だった。
テンションの高い沢村と、何となくビビりな三橋。
正反対に見えるが、なんだかうまが合ったらしい。
残念ながら東京と埼玉、しかも練習漬けの毎日なので、早々会うことはできない。
だがアドレスを交換しており、時々メールのやり取りをしている。
2人とも向上心の強い投手なので、話題はほとんど全部野球だった。

夜、食事を終えた後、屋内練習場の横のベンチに腰掛けた沢村は、携帯電話を取り出した。
これから自主練をしようとしたちょうどその時、メールの着信音が鳴ったからだ。
沢村は「お、三橋」と独り言ちた。
ここ最近、幼なじみの若菜よりも着信が多い相手だ。

今日は、県大会の抽選会でした。
初戦の相手は、千朶高校です。
三橋からのメールの文面に沢村は首を傾げた。

「せん。。。何で読むんだ?」
携帯電話の画面を読んでいた沢村が文句を言う。
すると頭上から「せんだ、だよ」という声が聞こえて、思わず飛び上がった。
いつの間にか沢村の横に立ち、携帯を覗き見ていたのは御幸だった。

「強いんすか?っていうか、覗かないで下さいよ!」
「強いよ。実力的には埼玉ナンバーワンはARCで、その次くらいだ。」
「ナンバーワンの、次」
「西東京に置き換えたら、ARCが稲実で、千朶がウチって感じじゃね?」
「おおお!ウチかぁ!」

御幸の例えに、沢村のテンションが一気に上がった。
そしてあの練習試合を思い出したのか「負けねーぞ、三橋!」などと声を上げる。
御幸は「バカ、例えだ、例え!」と爆笑した。
まったく沢村のバカさ加減は、予想がつかない。
それが見ているだけで面白く、飽きないのもまた沢村なのだ。

*****

「そういやあいつら、武蔵野第一に勝ったんだよな」
「あ~、なんかそんな名前のトコとやったってメール来てたけど」
「すげぇな。榛名に勝ったんだ。」
「誰すか、それ。」
「埼玉でプロ確実って言われてる投手だよ。速球は成宮とか降谷くらい早い。」
「・・・別に大したことないし」

沢村は口を尖らせながら、プイと横を向いた。
負けず嫌いの沢村は、他の投手が褒め称えられるのを好まない。
ましてや正捕手である御幸の口からではなおさらだ。
そんな拗ねた沢村の態度にも、御幸は「ガキか」とあっさり流してしまった。

「その他になんかねーの?西浦の話。」
「あんたも阿部とアドレス交換してたでしょ。」
「阿部のヤロー、こっちのコトを聞き出そうとするくせに、自分らの話、しねーのよ。」
「それって、嫌われてるんじゃ」
「うるせーよ」

そんな軽口を叩いている間に、沢村は以前に来たメールを順に開く。
こうしてみると、本当にここ最近の三橋からのメールは数が多い。
そろそろ三橋専用のフォルダを作った方がいいかもしれない。
1通、1通は短いけど、2、3日に1度は送って来るのだ。
まぁ沢村も同じペースで送っているが。
2人ともメル友なんて持つのは初めてのことで、楽しかったりするのだ。

「その、武蔵野?の試合で、花井がホームラン、打ったって。」
「田島じゃなくて、花井か」
「あの女の監督のお父さんって、甲子園で投げたことがある投手だって」
「へぇぇ。ノックが上手いとは思ったけど、血筋もあんのかぁ」
「練習の帰りにコンビニで、田島と肉まん、半分コしたって」
「そりゃどうでもいい」
「三橋、バックスピン?練習中だそうです。その監督のお父さんって人がコーチになって」
「はぁぁ!?それを早く言え!」

あの三橋がバックスピンを練習。
そんな重大な話が肉まんの後になるなんて、信じられない。
御幸が「バカか?バカなのか?」と沢村に詰め寄る。
今1つ話が見えていない沢村は「何なんスか!」と文句を言った。

「始まった。バッテリー漫談」
そんな2人のじゃれ合いを離れた場所から見ていた副主将の1人、倉持が苦笑した。
もう1人の副主将、前園が「見てて飽きない」と頷く。
するとちょうどその場を通りかかった川上が、ボソリと反論を唱えた。

「オレにはバカップルに見えるよ。」
その言葉に、倉持と前園は顔を見合わて、どちらともなく「確かに」と呟く。
そして何となく足音を潜めながら、黙ってその場を離れた。
なぜだか急に御幸と沢村を見続けるのが、恥ずかしくなったからだ。

【続く】
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