「おお振り」×「◆A」
【3日目、全日程終了!】
「起きろ、三橋!」
阿部はただでさえ大きな声を張り上げる。
御幸も沢村も驚き、思わず肩を竦めたが、当の三橋は爆睡したままだ。
長いようで短かった青道高校と西浦高校の合同練習は、全日程が終了した。
2泊3日を共に過ごし、練習試合を2つこなした。
何よりもこの2校は、部員の数も練習環境も、なにもかも違う。
自分たちとはタイプの違うチームと練習できたのは、お互いいい刺激になった。
楽しい時間だったが、これで終了だ。
帰りは青道高校の遠征用のバスで、西浦高校の部員たちを最寄りの駅まで送る手はずだ。
そのバスも準備が整い、いよいよお別れ。
だがそのときになって、ちょっとしたハプニングが起きた。
夕食の後、眠ってしまった三橋が、食堂のテーブルに突っ伏したまま起きないのだ。
「三橋、みーはーし!起きろって!」
懸命に揺さぶったり、叩いたりしているのは青道にもすっかり三橋の兄貴と認知された田島だ。
だがすぐに阿部が飛んできて「右腕を引っ張るな!」と怒鳴る。
西浦だけでなく、青道の面々まで「またか、過保護」と顔をしかめた。
「起きろ、三橋!」
阿部はただでさえ大きな声を張り上げる。
御幸も沢村も驚き、思わず肩を竦めたが、当の三橋は爆睡したままだ。
それでも何度も起こしているうちに、三橋はうるさそうに身じろぎする。
そして寝ぼけているのか「まだ、投げる、よ」などと呟いていた。
「今日はよく投げたんだから、もういいんだよ」
阿部は呆れたようにそう言うと、三橋のフワフワした髪をサラリとなでた。
西浦高校の面々はもう慣れたもので、スルーだ。
だが青道高校の部員たちは、その光景に何だかドキリとした。
*****
「今日はよく投げたんだから、もういいんだよ」
阿部は呆れたようにそう言うと、三橋のフワフワした髪をサラリとなでた。
沢村はその瞬間、思わず御幸を盗み見ていた。
今日、何度も思ったことだ。
阿部の三橋へのベタベタとした過保護っぷりは、少々行き過ぎだ。
何だか甘ったるくて、胸焼けがする。
それでも羨ましいと思うのだ。
あんな風に気にかけてもらえて、大事にされたら。
照れくさくて恥ずかしいけど、きっと嬉しい。
それはきっと、捕手を独り占めしたいという感情なのだと思う。
だけどどうにも違う気もするのだ。
自分は絶対にエースになりたいし、なれると信じている。
だけどこの感情は、その延長線上にない。
エースではなくても、大事にされたいと思う。
それに捕手なら誰でもいいわけではない。
例えばクリスや小野にされると想像すると、絶対に違うと思うのだ。
阿部は三橋を起こすことを諦め、右腕を掴んで、自分の肩に回した。
田島が「運ぶなら、オレも」と言いながら、三橋の左手を取ろうとする。
だが阿部は「田島はダメだ。栄口、頼む」と近くにいる別の部員を呼んだ。
田島が不満そうに「何でだよ!」と文句を言う。
だが阿部は「お前だとイマニモ何かありそうで怖いんだよ」とバッサリだ。
「じゃあ、行くぞ!」
阿部と栄口は声を掛け合うと、三橋に肩を貸すようにしながら何とか立たせた。
そしてズルズルと引きずるように、バスへ向かって歩き出した。
*****
「お前だとイマニモ何かありそうで怖いんだよ」
阿部が田島にそう告げるのを聞いた御幸は、思わず吹き出した。
気持ちはわからないでもないけど、過保護にも程がある。
阿部と栄口は慎重に声を掛け合いながら、爆睡状態の三橋をバスへと運んでいく。
ここまで来ると、逆に三橋って大物だなと思う。
ズルズルと引きずられ、みんなの注目を集めて。
それでも「くかー」と軽くいびきなどかいているのだから。
そうこうしている間に、西浦の帰り支度は進む。
バスに荷物が積まれ、三橋も積まれ、そして部員たちが乗り込んでいく。
青道の部員たちは彼らを見送ろうと、バスの横に集まる。
御幸は見送りの列に加わりながら、さり気なく沢村の隣に立った。
「西浦との合同練習、いい勉強になったか?」
御幸は沢村にそう聞いた。
沢村はバスのある1点をじっと見たまま、短く「はい」と答えた。
視線の先にいるのは、座席に押し込まれてなお窓ガラスに顔を付けて爆睡する三橋だ。
「そりゃよかったな」
御幸はそう言って手を伸ばすと、沢村の髪をくしゃくしゃとなでた。
沢村は驚いて、その場を飛び退く。
その過剰な反応に、御幸は「失礼なヤツ」と言い捨てる。
「な、何するんすか!」
「阿部のマネ。お前、やって欲しそうだったし」
「や、や、やって欲しいはず、ないだろーが!」
動揺する沢村の口調から、敬語が消えた。
だが御幸はそんなのは慣れっこだ。
むしろ最近、沢村の口から敬語が出始めたことの方が気持ちが悪いくらいだ。
「まぁ、オレたちらしくねーよな。」
御幸はすかさずそう言った。
やって欲しそうに見えたなんて嘘で、御幸がやりたくてやっただけのことだ。
だからさっさと冗談にしてしまおうとした。
だがそれを聞いた沢村は、何だか残念そうな表情になった。。。ように見える。
何かが始まる気がする。
不意に御幸はそんなことを思った。
三橋が阿部に全てを預け、阿部が三橋に過保護に世話を焼くのと、同じような何か。
だけど御幸と沢村では、多分もっと違う形になるだろう何か。
モヤモヤと予感にさえなっていないそれは、曖昧ではあるけれど心温まるものだ。
やがて西浦の面々が全員バスに乗り込み終わり、ゆっくりとバスが走り始めた。
中からは爆睡する三橋以外の部員たちが、こちらに手を振っている。
沢村は数メートルだけバスと並走すると「またなー!」と大きく手を振った。
【続く】
「起きろ、三橋!」
阿部はただでさえ大きな声を張り上げる。
御幸も沢村も驚き、思わず肩を竦めたが、当の三橋は爆睡したままだ。
長いようで短かった青道高校と西浦高校の合同練習は、全日程が終了した。
2泊3日を共に過ごし、練習試合を2つこなした。
何よりもこの2校は、部員の数も練習環境も、なにもかも違う。
自分たちとはタイプの違うチームと練習できたのは、お互いいい刺激になった。
楽しい時間だったが、これで終了だ。
帰りは青道高校の遠征用のバスで、西浦高校の部員たちを最寄りの駅まで送る手はずだ。
そのバスも準備が整い、いよいよお別れ。
だがそのときになって、ちょっとしたハプニングが起きた。
夕食の後、眠ってしまった三橋が、食堂のテーブルに突っ伏したまま起きないのだ。
「三橋、みーはーし!起きろって!」
懸命に揺さぶったり、叩いたりしているのは青道にもすっかり三橋の兄貴と認知された田島だ。
だがすぐに阿部が飛んできて「右腕を引っ張るな!」と怒鳴る。
西浦だけでなく、青道の面々まで「またか、過保護」と顔をしかめた。
「起きろ、三橋!」
阿部はただでさえ大きな声を張り上げる。
御幸も沢村も驚き、思わず肩を竦めたが、当の三橋は爆睡したままだ。
それでも何度も起こしているうちに、三橋はうるさそうに身じろぎする。
そして寝ぼけているのか「まだ、投げる、よ」などと呟いていた。
「今日はよく投げたんだから、もういいんだよ」
阿部は呆れたようにそう言うと、三橋のフワフワした髪をサラリとなでた。
西浦高校の面々はもう慣れたもので、スルーだ。
だが青道高校の部員たちは、その光景に何だかドキリとした。
*****
「今日はよく投げたんだから、もういいんだよ」
阿部は呆れたようにそう言うと、三橋のフワフワした髪をサラリとなでた。
沢村はその瞬間、思わず御幸を盗み見ていた。
今日、何度も思ったことだ。
阿部の三橋へのベタベタとした過保護っぷりは、少々行き過ぎだ。
何だか甘ったるくて、胸焼けがする。
それでも羨ましいと思うのだ。
あんな風に気にかけてもらえて、大事にされたら。
照れくさくて恥ずかしいけど、きっと嬉しい。
それはきっと、捕手を独り占めしたいという感情なのだと思う。
だけどどうにも違う気もするのだ。
自分は絶対にエースになりたいし、なれると信じている。
だけどこの感情は、その延長線上にない。
エースではなくても、大事にされたいと思う。
それに捕手なら誰でもいいわけではない。
例えばクリスや小野にされると想像すると、絶対に違うと思うのだ。
阿部は三橋を起こすことを諦め、右腕を掴んで、自分の肩に回した。
田島が「運ぶなら、オレも」と言いながら、三橋の左手を取ろうとする。
だが阿部は「田島はダメだ。栄口、頼む」と近くにいる別の部員を呼んだ。
田島が不満そうに「何でだよ!」と文句を言う。
だが阿部は「お前だとイマニモ何かありそうで怖いんだよ」とバッサリだ。
「じゃあ、行くぞ!」
阿部と栄口は声を掛け合うと、三橋に肩を貸すようにしながら何とか立たせた。
そしてズルズルと引きずるように、バスへ向かって歩き出した。
*****
「お前だとイマニモ何かありそうで怖いんだよ」
阿部が田島にそう告げるのを聞いた御幸は、思わず吹き出した。
気持ちはわからないでもないけど、過保護にも程がある。
阿部と栄口は慎重に声を掛け合いながら、爆睡状態の三橋をバスへと運んでいく。
ここまで来ると、逆に三橋って大物だなと思う。
ズルズルと引きずられ、みんなの注目を集めて。
それでも「くかー」と軽くいびきなどかいているのだから。
そうこうしている間に、西浦の帰り支度は進む。
バスに荷物が積まれ、三橋も積まれ、そして部員たちが乗り込んでいく。
青道の部員たちは彼らを見送ろうと、バスの横に集まる。
御幸は見送りの列に加わりながら、さり気なく沢村の隣に立った。
「西浦との合同練習、いい勉強になったか?」
御幸は沢村にそう聞いた。
沢村はバスのある1点をじっと見たまま、短く「はい」と答えた。
視線の先にいるのは、座席に押し込まれてなお窓ガラスに顔を付けて爆睡する三橋だ。
「そりゃよかったな」
御幸はそう言って手を伸ばすと、沢村の髪をくしゃくしゃとなでた。
沢村は驚いて、その場を飛び退く。
その過剰な反応に、御幸は「失礼なヤツ」と言い捨てる。
「な、何するんすか!」
「阿部のマネ。お前、やって欲しそうだったし」
「や、や、やって欲しいはず、ないだろーが!」
動揺する沢村の口調から、敬語が消えた。
だが御幸はそんなのは慣れっこだ。
むしろ最近、沢村の口から敬語が出始めたことの方が気持ちが悪いくらいだ。
「まぁ、オレたちらしくねーよな。」
御幸はすかさずそう言った。
やって欲しそうに見えたなんて嘘で、御幸がやりたくてやっただけのことだ。
だからさっさと冗談にしてしまおうとした。
だがそれを聞いた沢村は、何だか残念そうな表情になった。。。ように見える。
何かが始まる気がする。
不意に御幸はそんなことを思った。
三橋が阿部に全てを預け、阿部が三橋に過保護に世話を焼くのと、同じような何か。
だけど御幸と沢村では、多分もっと違う形になるだろう何か。
モヤモヤと予感にさえなっていないそれは、曖昧ではあるけれど心温まるものだ。
やがて西浦の面々が全員バスに乗り込み終わり、ゆっくりとバスが走り始めた。
中からは爆睡する三橋以外の部員たちが、こちらに手を振っている。
沢村は数メートルだけバスと並走すると「またなー!」と大きく手を振った。
【続く】