「おお振り」×「◆A」

【3日目、試合後の一幕!】

「そっちは3人がかりでもかまいませんよ?」
挑戦的な相手捕手の言葉に、沢村はカチンと来た。

西浦高校対青道高校Aチームの試合は引き分けで終わった。
納得のいかない沢村は「延長、やりましょうよ!」と叫んでいた。
いくら練習試合でも勝負は勝負。
勝ちたいと思うのは、当たり前のことだと思う。
御幸は「引き分けだ」と言った。
理由は西浦は人数が少ない上に、連戦だから。
確かに青道の方がかなり有利だと理解したら、沢村は何も言えなくなった。
ここで延長戦はフェアな勝負ではない。

「なら別のやり方で、決着をつけませんか?」
これで終わりかと思ったところで、そう言い出したのは阿部だった。
そしてグラウンドの隅に置かれているティーバッティング用の器具を指差す。
ティーバッティングとは棒の先に乗せたボールを打つ打撃練習。
その器具は金属製の棒を立てたような形状をしている。

「あれにボールを乗せてホームベース上に置く。投球でそのボールを落とす勝負。どうです?」
阿部はそう言って、ニヤリと笑った。
立てた棒の上にボールを置いて、それをピッチングで落とす勝負。
つまりこれはかなり高度な的当てだ。
阿部はそんな勝負を挑んできたのだった。

阿部はじっと御幸を見ながら、答えを待っている。
沢村はその意図を悟って、身震いした。
その勝負は投手対決だが、かなり限定的だ。
ボールを投げて、的を落とすならコントロール勝負になる。
球が早かろうが、手元で動くムービングだろうが関係ない。
本当にコントロールだけの勝負でなのだ。

「こっちはもちろん三橋がやります。そっちは3人がかりでもかまいませんよ?」
挑戦的な相手捕手の言葉に、沢村はカチンと来た。
阿部は三橋のコントロールに絶対の自信を持っている。
青道の投手など目じゃないということだろう。

「そっちの手の内を見せて、いいのか?」
御幸が阿部にいつものとぼけた調子でそう聞いた。
すると三橋が「いい、です!」と叫んだ。
「オレ、まだまだ、強くなる、です。だから、今、見られても、かま、い、ません!」
そう叫んだ三橋は、やる気満々だ。

だが御幸がまず降谷を見て、次に川上、最後に沢村を見た。
その様子は、困っているように見える。
だが沢村は御幸がまず降谷を見たことが、忌々しかった。
降谷も川上も今日投げたのだから、この勝負を受けるのは自分が適任だと思う。

売られたケンカはいつだって買ってやる。
投げる気は満々だ。
なのに御幸は困ったような表情で考え込んでいた。

*****

「オレ、まだまだ、強くなる、です。だから、今、見られても、かま、い、ません!」
やる気満々の三橋が叫ぶ。
御幸はそれを見て、これは分が悪いと思った。

阿部の提案は、まさかの投球PK対決だった。
バッティングティーの上に乗せたボールをピッチングで落とす。
これに関しては、西浦が断然有利だと思う。
三橋の生命線はコントロールであり、その1点に絞ったら青道の投手3人には不利な勝負だ。

御幸はチラリと監督の片岡を見た。
片岡はじっと御幸を見ているが、何も言わない。
つまりここは判断をまかせてくれているということだろう。
だが難しい顔をしているということは、この勝負を歓迎していないということだ。

それにしてもコイツ、人が悪い。
御幸は阿部を見ながら、そう思った。
試合は引き分けに終わったが、最後に勝ちを拾いたい。
そんな思いで、このピッチング勝負を挑んできたのだろう。

御幸はまず降谷を見た。次いで川上、最後に沢村。
降谷はやるならやってやるという顔をしている。
川上はどこか自信なさげだ。
そして沢村は泣き笑いのような表情だ。
自信はないけど、やるしかない。
そんなところだろうか。

「その勝負は棄権する。西浦の勝ちでいい。」
御幸は肩を竦めながら、そう答えた。
本当は悔しいけれど、そんな素振りはおくびにも出さなかった。

勝ち目のない戦いに、投手を出すことはできない。
無駄に自信を失わせることはできない。
この勝負は単なるコントロール勝負で、投手の能力の勝負ではない。
だけどこんな衆人環視の中で負ければ、自信を失う可能性がある。

沢村は不満そうにこちらを睨んでいる。
だが特に沢村は、まだイップスを脱しかけている最中だ。
万が一にもこんなことで負けて、またスランプに落とすことなどできない。

「じゃあ仕方ないっすね。引き分けってことで」
阿部はそんな御幸の思惑をどこまで読んだのか。
ニンマリと人が悪そうな笑顔で頷いた。

【続く】
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