「おお振り」×「◆A」
【3日目、試合終了!】
9回裏、大詰めの攻防。
三塁塁審のコールを、全員が固唾を飲んで見つめていた。
本塁を踏んだ三橋は、同じく続いてホームインした泉と共にそのまま打った田島の走塁を見ていた。
際どいタイミングで滑り込んだ田島と、捕球しタッチした金丸が三塁塁審を見る。
アウトなら試合終了、セーフなら逆転へとつながる。
9回裏、大詰めの攻防。
三塁塁審のコールを、全員が固唾を飲んで見つめていた。
次の瞬間、シンと静まり返ったグラウンドに響くコールはアウト。
つまり6対6の引き分けで、この試合は決したのだった。
「終わった、のか。。。」
三橋は呆然とその場に立ち尽くしていた。
届かなかった。相手は強豪、青道高校。
だが向こうはこちらのデータを一切持たないというハンデつきだった。
練習試合だなんて思わず、本番のテンションで全力でのぞんだ。
そして最後の最後、あと少しで掴めると思った勝利は、手をすり抜けて落ちてしまったのだ。
「三橋、整列だ」
ベンチから出て来た阿部が、三橋の肩を叩く。
だけど笑顔はない。
三橋と阿部だけでなく、西浦の全員が。
そして青道の選手たちにも笑顔がなかった。
「延長、やりましょうよ!」
グラウンドの外からそんな声を上げているのは、沢村だった。
それに反応した青道高校の選手たちも「そうだよな」などと呟いている。
やはり引き分けでは納得がいかないのだろう。
それは三橋も同じなのだが。
三橋はきつく唇を噛んだ。
今日は球数こそさほど多くないが、オーバーペースだった自覚はある。
それに昨日からの連投なのだ。
本能は投げたいと訴えているが、理性は投げない方がいいと告げている。
「よく投げた。ここまでだ。」
阿部が手を伸ばすと、ガシガシと乱暴に三橋の髪をかき回した。
他の仲間たちも「ナイピッチ!」「よく投げた!」と声をかけてくれる。
三橋は「うん!」と力強く頷くと、整列のためにホーム前に並んだのだが。
「ちゃんと勝負、つけましょうって!何ならオレ、投げるっす!」
相変わらず沢村の声が響き、青道の選手たちはベンチ前で固まっていた。
もしかして延長やるのかな?
三橋はぼんやりとそう思った。
*****
「何ならオレ、投げるっす!」
沢村が奇声を上げて、青道ナインを煽っている。
御幸はため息をつくと、ツカツカとグラウンドを出た。
「バカ、煽るな。試合は終わりだ!」
御幸は沢村のところまで歩いていくと、平手で軽く頭を叩いた。
これ以上バカが進むと悪いので、あくまで軽くだ。
沢村は最初はポカンとしていたが、すぐに「何するんすか!」と噛みついてきた。
「試合は終わったんだ。延長はない。」
「何でですか!点数は。。。」
「引き分けだ。それが今回のルールなんだ。」
「でも!」
あくまで引き下がらない沢村に、御幸はため息をついた。
沢村は三橋や降谷たちのピッチングを見て、すっかり頭に血が上っている。
そしてそんな沢村の勢いに押されて、他の部員たちまで「やろう」モードになってしまっていた。
御幸は「あのなぁ」と諭すように声を上げた。
「延長をやればオレたちが勝つ確率は高い。西浦は連戦だからな。」
御幸はそう告げて、まず沢村を、そしてグラウンドの部員たちを見回す。
青道の面々はそれを聞いて、ハッと気が付いた表情になった。
「最初のルールを変えて、自分たちより疲れている相手に付け込んで。そこまでして勝ちたいか?」
御幸がとどめとばかりにそう告げると、部員たちは仕方ないという雰囲気になった。
そして1人だけなおも納得いかない表情の沢村の方に向き直る。
「三橋は連投の上にハイペースだ。これ以上投げたら故障の原因になるかもしれない。」
御幸は沢村にだけ聞こえるように小さな声で、そう言った。
すると弾かれたように沢村は御幸を見る。
そして「わかったっす」と残念そうに肩を落とした。
そう、延長になったらもう西浦に勝ちはないのだ。
自力はこちらが勝っているうえに、投手がいないのだから。
そんな風にまで勝つことに、意味はない。
御幸がグラウンドに戻り、青道メンバーも整列した。
そして御幸の正面に立つ阿部と目が合う。
阿部は目付きの悪いタレ目で、阿部のことを睨んでいた。
*****
「ありがとうございました!」
両チームのメンバーは元気よく挨拶をし、頭を下げた。
「ちょっと、いいっすか?」
整列の輪が崩れ始めた隙を狙い、阿部は御幸に声をかけた。
雑誌でも取り上げられる天才捕手。
阿部はまだまだ全然、この域には程遠いと思う。
「何?」
「さっきはどうも。延長じゃなくて、引き分けで終わりにしてくれて」
「別に、お前に礼を言われることじゃないし」
「三橋がもう限界だって、見抜いてたからでしょ?」
阿部の言葉に、御幸は「まぁね」と答える。
この余裕が何とも憎たらしいが、仕方がないと阿部は苦笑した。
このまま青道の部員たちが「延長」と言い張ったら、面倒な事態だった。
こちらが「はい」と答えれば、三橋に負担がかかる。
だが三橋を交代させれば、そこで試合終了だ。
そして「いいえ」と答えていたら、いかにも逃げたような印象になる。
最後に敗北感で終わることになってしまっていただろう。
「気にするなよ。いい試合だったしな。」
「なら別のやり方で、決着をつけませんか?」
あくまで余裕の御幸に、阿部はすかさず声をかけた。
一旦立ち去りかけた御幸は「あ?」と声を上げ、振り返る。
阿部はチームメイトに「人が悪い」と称される顔で、ニンマリと笑った。
「試合はあくまで引き分け。でも白黒つけたいでしょ?」
阿部は挑発的に誘ってみる。
相手は天下の青道高校の扇の要、誘いに乗ってくれるかどうか自信がない。
だけど阿部はこのまま終わりたくなかったのだ。
昨日は負け、今日は引き分け。勝ちがない。
だから頑張った三橋に、何とか1つ白星をつけたいと思った。
「何かよくわかんねーけど、お前が考えてる『別のやり方』教えてくれよ。」
御幸は楽しそうに口元に笑みを浮かべながら、そう言った。
阿部は心の中で「やった!」と喜びながら、表情は平静をよそおっていた。
【続く】
9回裏、大詰めの攻防。
三塁塁審のコールを、全員が固唾を飲んで見つめていた。
本塁を踏んだ三橋は、同じく続いてホームインした泉と共にそのまま打った田島の走塁を見ていた。
際どいタイミングで滑り込んだ田島と、捕球しタッチした金丸が三塁塁審を見る。
アウトなら試合終了、セーフなら逆転へとつながる。
9回裏、大詰めの攻防。
三塁塁審のコールを、全員が固唾を飲んで見つめていた。
次の瞬間、シンと静まり返ったグラウンドに響くコールはアウト。
つまり6対6の引き分けで、この試合は決したのだった。
「終わった、のか。。。」
三橋は呆然とその場に立ち尽くしていた。
届かなかった。相手は強豪、青道高校。
だが向こうはこちらのデータを一切持たないというハンデつきだった。
練習試合だなんて思わず、本番のテンションで全力でのぞんだ。
そして最後の最後、あと少しで掴めると思った勝利は、手をすり抜けて落ちてしまったのだ。
「三橋、整列だ」
ベンチから出て来た阿部が、三橋の肩を叩く。
だけど笑顔はない。
三橋と阿部だけでなく、西浦の全員が。
そして青道の選手たちにも笑顔がなかった。
「延長、やりましょうよ!」
グラウンドの外からそんな声を上げているのは、沢村だった。
それに反応した青道高校の選手たちも「そうだよな」などと呟いている。
やはり引き分けでは納得がいかないのだろう。
それは三橋も同じなのだが。
三橋はきつく唇を噛んだ。
今日は球数こそさほど多くないが、オーバーペースだった自覚はある。
それに昨日からの連投なのだ。
本能は投げたいと訴えているが、理性は投げない方がいいと告げている。
「よく投げた。ここまでだ。」
阿部が手を伸ばすと、ガシガシと乱暴に三橋の髪をかき回した。
他の仲間たちも「ナイピッチ!」「よく投げた!」と声をかけてくれる。
三橋は「うん!」と力強く頷くと、整列のためにホーム前に並んだのだが。
「ちゃんと勝負、つけましょうって!何ならオレ、投げるっす!」
相変わらず沢村の声が響き、青道の選手たちはベンチ前で固まっていた。
もしかして延長やるのかな?
三橋はぼんやりとそう思った。
*****
「何ならオレ、投げるっす!」
沢村が奇声を上げて、青道ナインを煽っている。
御幸はため息をつくと、ツカツカとグラウンドを出た。
「バカ、煽るな。試合は終わりだ!」
御幸は沢村のところまで歩いていくと、平手で軽く頭を叩いた。
これ以上バカが進むと悪いので、あくまで軽くだ。
沢村は最初はポカンとしていたが、すぐに「何するんすか!」と噛みついてきた。
「試合は終わったんだ。延長はない。」
「何でですか!点数は。。。」
「引き分けだ。それが今回のルールなんだ。」
「でも!」
あくまで引き下がらない沢村に、御幸はため息をついた。
沢村は三橋や降谷たちのピッチングを見て、すっかり頭に血が上っている。
そしてそんな沢村の勢いに押されて、他の部員たちまで「やろう」モードになってしまっていた。
御幸は「あのなぁ」と諭すように声を上げた。
「延長をやればオレたちが勝つ確率は高い。西浦は連戦だからな。」
御幸はそう告げて、まず沢村を、そしてグラウンドの部員たちを見回す。
青道の面々はそれを聞いて、ハッと気が付いた表情になった。
「最初のルールを変えて、自分たちより疲れている相手に付け込んで。そこまでして勝ちたいか?」
御幸がとどめとばかりにそう告げると、部員たちは仕方ないという雰囲気になった。
そして1人だけなおも納得いかない表情の沢村の方に向き直る。
「三橋は連投の上にハイペースだ。これ以上投げたら故障の原因になるかもしれない。」
御幸は沢村にだけ聞こえるように小さな声で、そう言った。
すると弾かれたように沢村は御幸を見る。
そして「わかったっす」と残念そうに肩を落とした。
そう、延長になったらもう西浦に勝ちはないのだ。
自力はこちらが勝っているうえに、投手がいないのだから。
そんな風にまで勝つことに、意味はない。
御幸がグラウンドに戻り、青道メンバーも整列した。
そして御幸の正面に立つ阿部と目が合う。
阿部は目付きの悪いタレ目で、阿部のことを睨んでいた。
*****
「ありがとうございました!」
両チームのメンバーは元気よく挨拶をし、頭を下げた。
「ちょっと、いいっすか?」
整列の輪が崩れ始めた隙を狙い、阿部は御幸に声をかけた。
雑誌でも取り上げられる天才捕手。
阿部はまだまだ全然、この域には程遠いと思う。
「何?」
「さっきはどうも。延長じゃなくて、引き分けで終わりにしてくれて」
「別に、お前に礼を言われることじゃないし」
「三橋がもう限界だって、見抜いてたからでしょ?」
阿部の言葉に、御幸は「まぁね」と答える。
この余裕が何とも憎たらしいが、仕方がないと阿部は苦笑した。
このまま青道の部員たちが「延長」と言い張ったら、面倒な事態だった。
こちらが「はい」と答えれば、三橋に負担がかかる。
だが三橋を交代させれば、そこで試合終了だ。
そして「いいえ」と答えていたら、いかにも逃げたような印象になる。
最後に敗北感で終わることになってしまっていただろう。
「気にするなよ。いい試合だったしな。」
「なら別のやり方で、決着をつけませんか?」
あくまで余裕の御幸に、阿部はすかさず声をかけた。
一旦立ち去りかけた御幸は「あ?」と声を上げ、振り返る。
阿部はチームメイトに「人が悪い」と称される顔で、ニンマリと笑った。
「試合はあくまで引き分け。でも白黒つけたいでしょ?」
阿部は挑発的に誘ってみる。
相手は天下の青道高校の扇の要、誘いに乗ってくれるかどうか自信がない。
だけど阿部はこのまま終わりたくなかったのだ。
昨日は負け、今日は引き分け。勝ちがない。
だから頑張った三橋に、何とか1つ白星をつけたいと思った。
「何かよくわかんねーけど、お前が考えてる『別のやり方』教えてくれよ。」
御幸は楽しそうに口元に笑みを浮かべながら、そう言った。
阿部は心の中で「やった!」と喜びながら、表情は平静をよそおっていた。
【続く】