「おお振り」×「◆A」15年後
【アラスカ or シアトル】
「ここ!絶対外せない!」
三橋が力強く言い切り、沢村が「でもなぁ」と頭を掻く。
御幸と阿部はそんな2人を見て、何事かと首を傾げた。
遠征から戻った御幸と阿部は「あれ?」と首を傾げた。
御幸邸のリビングで、三橋と沢村が真剣に話し込んでいたからだ。
ちなみにこの2人が御幸邸に居座ってから、すでに3か月目に突入している。
当初の彼らの予定では、とっくにもう旅立っているはずだった。
「やっぱりここは行きたいなぁ。廉は?」
「ここ!絶対外せない!」
「でもなぁ。ちょっと遠すぎじゃね?」
「でも行きたい。今回、行かなかったら、多分一生、行けない。」
三橋と沢村はテーブルに地図を広げて、指で地名をなぞりながら喋っている。
どうやら次の目的地を決める最中らしい。
阿部は三橋に「どこに行きたいって?」と聞く。
すると三橋は勢い込んで「アラスカ!」と答えた。
「でもアラスカまで行くと、多分それで最後になっちゃうんだよなぁ」
沢村が困ったように頭を掻いた。
御幸が「そうなの?」と首を傾げる。
今回の旅、三橋と沢村はかなり欲張ってあちこち回るつもりだと思ったが。
すると沢村が肩を落として「予算がさぁ」としょぼくれた。
「円安のせいで、思ったより出費がね」
「うん。だから、ルート、見直し!」
「廉、アラスカは遠いって。シアトルくらいまでで手を打たない?」
「え~?栄純君、ユーコン川下り、したくない?」
「う~ん、そりゃしたいけどさ。でもニューヨークも行かなきゃだし」
御幸と阿部は顔を見合わせて、首を傾げた。
ニューヨークはすでに行ったではないか。
それどころか最初に到着し、長く滞在した場所だ。
セントラルパークで大道芸的なパフォーマンスをして、動画を撮られた。
その場所にまた行かなくてはいけないのか?
「でもアラスカなら、オーロラの時期に行った方がよくないか?」
阿部がとりあえず「?」を飲み込み、口を挟んだ。
三橋は「あ」と小さく声を上げる。
確かにアラスカと言えばオーロラ。
そしてオーロラは時期が合わない。
「じゃあアラスカは4人で行くか?」
御幸が三橋の頭をポンポンとなでながら、そう言った。
オーロラの時期は、メジャーリーグもシーズンオフだ。
すると三橋は縋るような目で沢村を見た。
魅力的な提案だが、御幸の恋人である沢村の許可は必須である。
「うん。いいね。じゃあ今回はシアトルまで!」
「は?シアトルで何が見たいの?」
「スタバの1号店、見てみたいんすよ。」
「お前、そんなコーヒー好きだったか?」
アラスカ問題(?)が片付き、三橋と沢村の旅のルートがサクサクと決まった。
御幸と阿部はそんな2人に茶々を入れながら、賑やかに夜が更けていく。
こんな楽しい時間は長くないことは、わかっている。
だけど誰もそれを口にすることはなく、4人はずっと笑っていた。
*****
「結局、公表はしないんですね。」
阿部が丁寧にマッサージを施しながら、呟いた。
御幸は目を閉じたまま「ありがとうな」と答えた。
三橋と沢村はまた旅に出た。
アラスカは諦め、今回はシアトルまで。
いくつかの都市を回り、最後はニューヨークまで戻るという。
そしてその後、またここへ戻る予定だ。
1か月くらいを予定しているようだが、多分もう少しかかるだろう。
何せ予定通りいかないのが、あの2人なのだから。
御幸と阿部は御幸邸にいた。
試合が終わり、帰宅したのは深夜だ。
今までは当たり前だった静かな夜。
だけど賑やかな2人(特に沢村)のおかげで、妙に寂しく感じる。
シャワーを浴びた後、阿部は御幸に日課のマッサージをしていた。
阿部のマッサージは、本当に心地が良い。
試合などで傷んだ場所が、修復していくような感じがする。
元々センスが良いだけでなく、捕手出身だからだろう。
どこの筋肉を酷使しているとか、ほぐしたら良い場所が的確にわかるのだ。
身体が快調なら、メンタルも上がる。
おかげで阿部が専属トレーナーになってから、調子が良いのだ。
ホームラン数も打率も上がったし、盗塁阻止はリーグのベスト5に入っている。
そのことで御幸は阿部に感謝していた。
「結局、公表はしないんですね。」
気持ちよさにウトウトと眠りかけていたところで、声がかかった。
聞き逃してしまいそうな、小さな声。
おそらくもし眠ってしまっていたなら、起こさないようにと思ったのだろう。
だけどしっかり聞き取った御幸は「ありがとうな」と答えた。
少し前に御幸はとある女性アーティストとの熱愛を報道された。
もちろんまったくの誤報だ。
日本にいた頃だって、度々あったのだ。
女子アナやらアイドルやらに、言い寄られたり噂になったり。
だけど今回のは手が込んだフェイクで、事態の収拾が大変だった。
そして何より沢村を不安にした。
だから沢村との仲を公表しようと考えたのだ。
だけど阿部と三橋に反対された。
好奇の目に晒されるのは沢村であり、デメリットが大きい。
そのおかげで御幸は再考することになり、結局思いとどまった。
冷静に考えれば、それでよかったと思っている。
メジャーリーガーでいる間は隠した方が、沢村のためだと。
「あいつら、今頃シアトルですかね?」
「スタバの1号店だったか?まぁ他にも見る場所はあるだろうけど」
「何でまたニューヨークなんでしょうね?」
「もう1度行きたいところがあるとか言ってたな」
恋人がいないのは寂しいが、こんな時間も悪くない。
阿部は喋りながらも、しっかりとほぐし、癒してくれる。
御幸は心地よさに目を閉じながら、身を委ねていた。
*****
「「ただいま~♪」」
上機嫌の三橋と沢村が御幸邸に戻ってきた。
予想通り1カ月の予定を超過し、2カ月近く経っての帰還だった。
試合のないオフ日、御幸と阿部は自宅にいた。
そこへ元気よく恋人たちが帰ってきたのだ。
まさに台風襲来、いや再来か。
とにかく元気よく、彼らは帰ってきた。
「御幸先輩、久しぶりっす!」
「阿部君、帰ったよ~♪」
沢村と三橋はまずそれぞれの恋人に抱きつく。
御幸と阿部はそのテンションに苦笑しながらも、受け止めた。
そして阿部が「コーヒーでも淹れるか?」とキッチンに向かおうとする。
すると沢村が「これ使って!」とカバンからマグボトルを取り出した。
あのマークのボトルがちょうど4個、人数分である。
「何だ、これ?スタバのボトル?」
阿部はそのうちの1本を取り、そのデザインを見た。
見慣れたものだが、何かがちがうような気がする。
三橋がすかさず「1号店、限定デザイン、だって」と補足を入れる。
すると御幸も1本を手に取り「そう聞くと、ありがたみが増すな」と笑った。
「あと、もう1つ。栄純君」
「だが。出すか」
三橋と沢村はテンション高く、細長い箱を取り出した。
これも全部で4つだ。
三橋が2つ、沢村が2つ持っており、それぞれ1つを恋人に渡す。
御幸と阿部はそれを受け取り、全員で箱を開けた。
中に入っていたのは、腕時計だ。
「ニューヨークで見つけたショップで買ったんだ。」
「ブランドじゃないし、1点ものだから、人と被らないし」
「最初に見た時から、良いって思ったんだよ」
「まだ残っててよかったな」
2人の説明を聞きながら、御幸と阿部は4本の時計を見比べた。
御幸と沢村の時計はモノトーン、阿部と三橋のものはセピア色。
アンティーク風のオシャレなデザインの色違いだ。
彼らは一度見たそれを気に入って、わざわざニューヨークに戻ったのだ。
「指輪とかはできないけど、お揃いのものが欲しくて」
「色違いで4人で持ってれば、お揃いってバレても言い訳できるし」
「スタバのボトルも1号店のものはレアで」
「他の人と被らないし、お揃いでコーヒーが楽しくなるもんな!」
ニコニコと楽しそうにしている三橋と沢村に、御幸と阿部も笑顔になった。
迷った末に、恋人であることを公表しないと決めた。
だから指輪とかもできないけど、それならお揃いのものを。
2人で考えた結果がスタバボトルと腕時計なのだ。
万が一誰かにお揃いと気付かれても、4人で揃えたと言えば良い。
中の良い友情の証と誤解させることができるから。
「ありがとうな。すごく嬉しい」
「大事につかうよ。ありがと」
御幸と阿部は礼を言って、腕時計を眺めた。
いずれは指輪も用意したいが、今はこれで良い。
ちょっとした小さなお揃いが、優しい幸せをもたらしてくれる。
【続く】
「ここ!絶対外せない!」
三橋が力強く言い切り、沢村が「でもなぁ」と頭を掻く。
御幸と阿部はそんな2人を見て、何事かと首を傾げた。
遠征から戻った御幸と阿部は「あれ?」と首を傾げた。
御幸邸のリビングで、三橋と沢村が真剣に話し込んでいたからだ。
ちなみにこの2人が御幸邸に居座ってから、すでに3か月目に突入している。
当初の彼らの予定では、とっくにもう旅立っているはずだった。
「やっぱりここは行きたいなぁ。廉は?」
「ここ!絶対外せない!」
「でもなぁ。ちょっと遠すぎじゃね?」
「でも行きたい。今回、行かなかったら、多分一生、行けない。」
三橋と沢村はテーブルに地図を広げて、指で地名をなぞりながら喋っている。
どうやら次の目的地を決める最中らしい。
阿部は三橋に「どこに行きたいって?」と聞く。
すると三橋は勢い込んで「アラスカ!」と答えた。
「でもアラスカまで行くと、多分それで最後になっちゃうんだよなぁ」
沢村が困ったように頭を掻いた。
御幸が「そうなの?」と首を傾げる。
今回の旅、三橋と沢村はかなり欲張ってあちこち回るつもりだと思ったが。
すると沢村が肩を落として「予算がさぁ」としょぼくれた。
「円安のせいで、思ったより出費がね」
「うん。だから、ルート、見直し!」
「廉、アラスカは遠いって。シアトルくらいまでで手を打たない?」
「え~?栄純君、ユーコン川下り、したくない?」
「う~ん、そりゃしたいけどさ。でもニューヨークも行かなきゃだし」
御幸と阿部は顔を見合わせて、首を傾げた。
ニューヨークはすでに行ったではないか。
それどころか最初に到着し、長く滞在した場所だ。
セントラルパークで大道芸的なパフォーマンスをして、動画を撮られた。
その場所にまた行かなくてはいけないのか?
「でもアラスカなら、オーロラの時期に行った方がよくないか?」
阿部がとりあえず「?」を飲み込み、口を挟んだ。
三橋は「あ」と小さく声を上げる。
確かにアラスカと言えばオーロラ。
そしてオーロラは時期が合わない。
「じゃあアラスカは4人で行くか?」
御幸が三橋の頭をポンポンとなでながら、そう言った。
オーロラの時期は、メジャーリーグもシーズンオフだ。
すると三橋は縋るような目で沢村を見た。
魅力的な提案だが、御幸の恋人である沢村の許可は必須である。
「うん。いいね。じゃあ今回はシアトルまで!」
「は?シアトルで何が見たいの?」
「スタバの1号店、見てみたいんすよ。」
「お前、そんなコーヒー好きだったか?」
アラスカ問題(?)が片付き、三橋と沢村の旅のルートがサクサクと決まった。
御幸と阿部はそんな2人に茶々を入れながら、賑やかに夜が更けていく。
こんな楽しい時間は長くないことは、わかっている。
だけど誰もそれを口にすることはなく、4人はずっと笑っていた。
*****
「結局、公表はしないんですね。」
阿部が丁寧にマッサージを施しながら、呟いた。
御幸は目を閉じたまま「ありがとうな」と答えた。
三橋と沢村はまた旅に出た。
アラスカは諦め、今回はシアトルまで。
いくつかの都市を回り、最後はニューヨークまで戻るという。
そしてその後、またここへ戻る予定だ。
1か月くらいを予定しているようだが、多分もう少しかかるだろう。
何せ予定通りいかないのが、あの2人なのだから。
御幸と阿部は御幸邸にいた。
試合が終わり、帰宅したのは深夜だ。
今までは当たり前だった静かな夜。
だけど賑やかな2人(特に沢村)のおかげで、妙に寂しく感じる。
シャワーを浴びた後、阿部は御幸に日課のマッサージをしていた。
阿部のマッサージは、本当に心地が良い。
試合などで傷んだ場所が、修復していくような感じがする。
元々センスが良いだけでなく、捕手出身だからだろう。
どこの筋肉を酷使しているとか、ほぐしたら良い場所が的確にわかるのだ。
身体が快調なら、メンタルも上がる。
おかげで阿部が専属トレーナーになってから、調子が良いのだ。
ホームラン数も打率も上がったし、盗塁阻止はリーグのベスト5に入っている。
そのことで御幸は阿部に感謝していた。
「結局、公表はしないんですね。」
気持ちよさにウトウトと眠りかけていたところで、声がかかった。
聞き逃してしまいそうな、小さな声。
おそらくもし眠ってしまっていたなら、起こさないようにと思ったのだろう。
だけどしっかり聞き取った御幸は「ありがとうな」と答えた。
少し前に御幸はとある女性アーティストとの熱愛を報道された。
もちろんまったくの誤報だ。
日本にいた頃だって、度々あったのだ。
女子アナやらアイドルやらに、言い寄られたり噂になったり。
だけど今回のは手が込んだフェイクで、事態の収拾が大変だった。
そして何より沢村を不安にした。
だから沢村との仲を公表しようと考えたのだ。
だけど阿部と三橋に反対された。
好奇の目に晒されるのは沢村であり、デメリットが大きい。
そのおかげで御幸は再考することになり、結局思いとどまった。
冷静に考えれば、それでよかったと思っている。
メジャーリーガーでいる間は隠した方が、沢村のためだと。
「あいつら、今頃シアトルですかね?」
「スタバの1号店だったか?まぁ他にも見る場所はあるだろうけど」
「何でまたニューヨークなんでしょうね?」
「もう1度行きたいところがあるとか言ってたな」
恋人がいないのは寂しいが、こんな時間も悪くない。
阿部は喋りながらも、しっかりとほぐし、癒してくれる。
御幸は心地よさに目を閉じながら、身を委ねていた。
*****
「「ただいま~♪」」
上機嫌の三橋と沢村が御幸邸に戻ってきた。
予想通り1カ月の予定を超過し、2カ月近く経っての帰還だった。
試合のないオフ日、御幸と阿部は自宅にいた。
そこへ元気よく恋人たちが帰ってきたのだ。
まさに台風襲来、いや再来か。
とにかく元気よく、彼らは帰ってきた。
「御幸先輩、久しぶりっす!」
「阿部君、帰ったよ~♪」
沢村と三橋はまずそれぞれの恋人に抱きつく。
御幸と阿部はそのテンションに苦笑しながらも、受け止めた。
そして阿部が「コーヒーでも淹れるか?」とキッチンに向かおうとする。
すると沢村が「これ使って!」とカバンからマグボトルを取り出した。
あのマークのボトルがちょうど4個、人数分である。
「何だ、これ?スタバのボトル?」
阿部はそのうちの1本を取り、そのデザインを見た。
見慣れたものだが、何かがちがうような気がする。
三橋がすかさず「1号店、限定デザイン、だって」と補足を入れる。
すると御幸も1本を手に取り「そう聞くと、ありがたみが増すな」と笑った。
「あと、もう1つ。栄純君」
「だが。出すか」
三橋と沢村はテンション高く、細長い箱を取り出した。
これも全部で4つだ。
三橋が2つ、沢村が2つ持っており、それぞれ1つを恋人に渡す。
御幸と阿部はそれを受け取り、全員で箱を開けた。
中に入っていたのは、腕時計だ。
「ニューヨークで見つけたショップで買ったんだ。」
「ブランドじゃないし、1点ものだから、人と被らないし」
「最初に見た時から、良いって思ったんだよ」
「まだ残っててよかったな」
2人の説明を聞きながら、御幸と阿部は4本の時計を見比べた。
御幸と沢村の時計はモノトーン、阿部と三橋のものはセピア色。
アンティーク風のオシャレなデザインの色違いだ。
彼らは一度見たそれを気に入って、わざわざニューヨークに戻ったのだ。
「指輪とかはできないけど、お揃いのものが欲しくて」
「色違いで4人で持ってれば、お揃いってバレても言い訳できるし」
「スタバのボトルも1号店のものはレアで」
「他の人と被らないし、お揃いでコーヒーが楽しくなるもんな!」
ニコニコと楽しそうにしている三橋と沢村に、御幸と阿部も笑顔になった。
迷った末に、恋人であることを公表しないと決めた。
だから指輪とかもできないけど、それならお揃いのものを。
2人で考えた結果がスタバボトルと腕時計なのだ。
万が一誰かにお揃いと気付かれても、4人で揃えたと言えば良い。
中の良い友情の証と誤解させることができるから。
「ありがとうな。すごく嬉しい」
「大事につかうよ。ありがと」
御幸と阿部は礼を言って、腕時計を眺めた。
いずれは指輪も用意したいが、今はこれで良い。
ちょっとした小さなお揃いが、優しい幸せをもたらしてくれる。
【続く】