「おお振り」×「◆A」15年後
【御幸邸はラグジュアリーでエクセレント】
「じゃあ、ちょっと、出かけて、くるね~!」
三橋が手を振りながら、トレーニングルームを出ていく。
沢村は汗だくでペダルを踏みながら「気をつけろよ!」と答えた。
アメリカをフラフラとさすらい旅行中の沢村と御幸。
目的の1つである、御幸のシーズン開幕戦を観戦した。
そしてそのまま御幸邸で、久々の逢瀬を楽しむ。
予定ではすぐに次の目的地に行くつもりだったのだが。
もう少し御幸邸に滞在しよう。
三橋と沢村の意見が一致した。
なぜなら御幸邸ー御幸が借りている家が豪華すぎたからだ。
高級住宅街の大豪邸は高級ホテル並みにラグジュアリーでエクセレント。
沢村と三橋にそれぞれ割り振られたゲストルームも、素晴らしすぎた。
その上、シアタールームやトレーニングジムまである。
こんな素敵な家、もっと堪能させていただきたい!
「別に好きなだけいていいぞ。」
家主である御幸も、鷹揚に許可してくれた。
御幸にしてみれば、2人とも目の届くところにいてくれた方が安心なのだ。
彼自身はチームの遠征に出てしまうが、その間も好きに使ってよいと言ってくれた。
かくして沢村と三橋は、家主が不在になった御幸邸で過ごしていた。
とりあえず御幸と阿部が遠征から戻るまではいるつもりだ。
沢村はその間、ダイエットに励むつもりだった。
アメリカでハイカロリーな食生活を送ってしまったため、体重が増えたのだ。
「じゃあ、ちょっと、出かけて、くるね~!」
トレーニングルームでエアロバイクを漕ぐ沢村に、三橋が手を振った。
沢村がダイエットに勤しむ間、三橋は外出することが多かった。
単純に近所をプラプラと散歩を楽しんでいるらしい。
この辺りは治安が良いので、一人でもさほど心配なく歩ける。
そしてそのついでに食材などを買い込んで来てくれるのだ。
沢村のダイエットに合わせて自炊、もちろんカロリーオフ重視である。
「いいなぁ。廉は」
三橋を見送った後、沢村はため息をついた。
同じ食生活をしていたのに、三橋は全然太らないのだ。
どうやらそういう体質らしい。
高校時代、チームで一番大食いなのに一番細かった。
「やめやめ!羨ましがっても仕方ねーし!」
三橋の体質をとやかく言っても、どうにもならない。
沢村はブンブンと首を振ると、エアロバイクを降りた。
そして汗を拭き、少しの休憩の後、ランニングマシンに乗る。
さらにイヤホンをつけ、スマホで音楽を鳴らした。
アップテンポの曲を選べば、気分も上がる。
程なくして、外ではけたたましい音が鳴り響いた。
ポリスカー、日本で言うところのパトカーである。
だがイヤホンをつけて、音楽を聴いていた沢村は気付かなかった。
なかなか戻らない三橋に異変を感じるのは、もう少し後のことだ。
*****
「いいなぁ。廉は。とか思ってるんだろうな」
三橋は御幸邸を出て歩き出しながら、そんなことを思う。
食べても太らないこの身体は、沢村だけでなく多くの人に羨ましがられていたからだ。
御幸邸は本当に豪華だ。
三橋の実家だって、祖父の家だって、まぁまぁグレードは高い。
そんなのを見慣れている三橋ですら、すごいと思う。
まるで邸自体も調度品も、まるで高級ホテルだ。
それにゲストルームもかなり広い部屋を、沢村と三橋に1つずつあてがわれたし。
早々にもう少し滞在しようと決め、家主の御幸の許可も貰った。
だが御幸は阿部と共に遠征、沢村はダイエットするという。
手持無沙汰になった三橋は、近辺を散歩しながら、別のことを楽しんでいた。
それは。。。買い食いである。
沢村と2人になり、自炊でダイエットメニューになった。
だけど三橋には物足りなかったのだ。
だからこうして散歩と買い物の名目で外出し、おやつを楽しんでいた。
ダイエット中の沢村の前で食べるのは、さすがに気が引けたからだ。
それにこっそり食べるおやつは、何だか妙に美味かったりする。
この日の三橋はハンバーガーショップに入った。
店前のテラス席に陣取り、オーダーしたのは当然ハンバーガー。
日本でおなじみのMのマークのやつより、二回りくらいデカい。
そして山盛りポテトとコーラだ。
沢村は太らない三橋が羨ましいと何度も言った。
だけど三橋は沢村が羨ましかった。
厳密には、食べて鍛えるとしっかり身体が大きくなる者たちがだ。
いくら食べてもあまり体型が変わらないのは、アスリートとしてはつらい。
高校時代、たまに会うたびに身体が大きくなっていく沢村はまぶしかった。
だから引退した今は、この身体で得してもいいよね?
三橋は誰にともなく心で言い訳しながら、ハンバーガーを頬張った。
ボリューム満点。さすがアメリカ。
それに背徳感がハンパない。
そして全部ひっくるめて、美味しい。
大満足で食べ終えた三橋は、今度は景色を楽しむことにした。
高級住宅街に隣接するショッピングエリア。
並んでいるのは、セレブな店ばかりだ。
このハンバーガーショップもそうだが、カフェなども値段が高い。
そして高級ブランドのショップも多くみられる。
御幸先輩、すごいところに住んでるんだなぁ。
三橋が改めてそんなことを思ったとき、異変は起こった。
1台の乗用車が猛スピードで疾走してきた。
急ブレーキの音を軋ませて、目の前に停車する。
そしてドアが乱暴に開き、黒い覆面姿の男が3人降りてきた。
何?ドラマかなんかのロケ?
三橋はとっさにスマホを操作し、目の前の出来事を録画する。
何だかわからないが、普通ではないことが起こりそうだから。
こうして三橋は予期せぬ面倒事に巻き込まれていくのだった。
*****
「ちょっと、落ち着け」
やたらとデカい喚き声に、御幸は思わずスマホを耳から離す。
隣にいた阿部は「沢村、声デカ」と呟いていた。
御幸と阿部は遠征に出ていた。
敵地、いわゆるアウェーでの試合である。
そして自宅には、旅行中の沢村と三橋が滞在している。
御幸は遠征先のホテルに到着し、寛いでいるところだった。
ソファに腰を下ろし、優雅なコーヒータイムだ。
傍らでは専属トレーナーの阿部が、タブレットで調べものをしている。
電話がかかって来たのは、そんな昼下がりだった。
「あれ?」
発信者の名前を確認した御幸は、首を傾げた。
沢村栄純。名前自体に不審なことはない。
だが普段はメッセージアプリを通じてのやりとりが多い。
直接電話が来るのは、珍しいことだったのだ。
「何だ?どうした?」
御幸は軽い口調で、電話に出た。
だけど予想に反して、返ってきたのは沈黙だ。
怪訝に思った御幸は「何かあったか?」と問う。
すると堰を切ったように、沢村の大きな声が響いた。
『すんません!どうしていいかわかんなくて!』
「あ?」
『英語でうまく聞けなくて。いやその前に誰に聞けばいいか!』
「聞くって、何を」
『どうしよう。直接行った方がいいのか』
「ちょっと、落ち着け」
御幸は電話口でオロオロと喚く沢村を宥めた。
隣にいた阿部は「沢村、声デカ」と呟く。
つまりスピーカーにしなくても、沢村とわかるくらい声が響いている。
いくら地声が大きいといっても、これは異常だ。
つまりそれくらい取り乱しているんだろう。
「落ち着いて話せ。何があった?」
『すぐ近くのショッピングエリアで事件があったんだ。ブランドショップで強盗だって』
沢村の声に反応した阿部が、タブレットでニュースサイトを検索した。
すると自宅の近くの見知った場所が喧騒に包まれている映像が出てくる。
いつもは静かなそこには野次馬や警察官などがいて、物々しい。
阿部が手渡してくれたタブレットを見て、御幸は顔を顰めた。
『ケガ人も結構、出てるらしくて』
「ああ、こっちでもニュースを見てる。お前は大丈夫なんだな?」
『俺は平気。だけど廉が』
「あ?一緒じゃないのか?」
『1人で散歩に出てて、まだ戻らないんだ。』
「連絡つかないのか?スマホは?」
『廉、スマホ置いて出かけちゃったんだよ!』
御幸は溜息をつくと、傍らを見た。
筒抜けの通話を聞いていた阿部が動揺し、固まっている。
御幸はすぐに阿部に「先に帰りな」と告げた。
そして電話の向こうの沢村には「落ち着け」を繰り返した。
こうして急遽、阿部が遠征先から戻ることになった。
それから先も三橋に連絡がつかない時間が過ぎていく。
かくして3人はヤキモキしながら、待ち続けることになったのである。
【続く】
「じゃあ、ちょっと、出かけて、くるね~!」
三橋が手を振りながら、トレーニングルームを出ていく。
沢村は汗だくでペダルを踏みながら「気をつけろよ!」と答えた。
アメリカをフラフラとさすらい旅行中の沢村と御幸。
目的の1つである、御幸のシーズン開幕戦を観戦した。
そしてそのまま御幸邸で、久々の逢瀬を楽しむ。
予定ではすぐに次の目的地に行くつもりだったのだが。
もう少し御幸邸に滞在しよう。
三橋と沢村の意見が一致した。
なぜなら御幸邸ー御幸が借りている家が豪華すぎたからだ。
高級住宅街の大豪邸は高級ホテル並みにラグジュアリーでエクセレント。
沢村と三橋にそれぞれ割り振られたゲストルームも、素晴らしすぎた。
その上、シアタールームやトレーニングジムまである。
こんな素敵な家、もっと堪能させていただきたい!
「別に好きなだけいていいぞ。」
家主である御幸も、鷹揚に許可してくれた。
御幸にしてみれば、2人とも目の届くところにいてくれた方が安心なのだ。
彼自身はチームの遠征に出てしまうが、その間も好きに使ってよいと言ってくれた。
かくして沢村と三橋は、家主が不在になった御幸邸で過ごしていた。
とりあえず御幸と阿部が遠征から戻るまではいるつもりだ。
沢村はその間、ダイエットに励むつもりだった。
アメリカでハイカロリーな食生活を送ってしまったため、体重が増えたのだ。
「じゃあ、ちょっと、出かけて、くるね~!」
トレーニングルームでエアロバイクを漕ぐ沢村に、三橋が手を振った。
沢村がダイエットに勤しむ間、三橋は外出することが多かった。
単純に近所をプラプラと散歩を楽しんでいるらしい。
この辺りは治安が良いので、一人でもさほど心配なく歩ける。
そしてそのついでに食材などを買い込んで来てくれるのだ。
沢村のダイエットに合わせて自炊、もちろんカロリーオフ重視である。
「いいなぁ。廉は」
三橋を見送った後、沢村はため息をついた。
同じ食生活をしていたのに、三橋は全然太らないのだ。
どうやらそういう体質らしい。
高校時代、チームで一番大食いなのに一番細かった。
「やめやめ!羨ましがっても仕方ねーし!」
三橋の体質をとやかく言っても、どうにもならない。
沢村はブンブンと首を振ると、エアロバイクを降りた。
そして汗を拭き、少しの休憩の後、ランニングマシンに乗る。
さらにイヤホンをつけ、スマホで音楽を鳴らした。
アップテンポの曲を選べば、気分も上がる。
程なくして、外ではけたたましい音が鳴り響いた。
ポリスカー、日本で言うところのパトカーである。
だがイヤホンをつけて、音楽を聴いていた沢村は気付かなかった。
なかなか戻らない三橋に異変を感じるのは、もう少し後のことだ。
*****
「いいなぁ。廉は。とか思ってるんだろうな」
三橋は御幸邸を出て歩き出しながら、そんなことを思う。
食べても太らないこの身体は、沢村だけでなく多くの人に羨ましがられていたからだ。
御幸邸は本当に豪華だ。
三橋の実家だって、祖父の家だって、まぁまぁグレードは高い。
そんなのを見慣れている三橋ですら、すごいと思う。
まるで邸自体も調度品も、まるで高級ホテルだ。
それにゲストルームもかなり広い部屋を、沢村と三橋に1つずつあてがわれたし。
早々にもう少し滞在しようと決め、家主の御幸の許可も貰った。
だが御幸は阿部と共に遠征、沢村はダイエットするという。
手持無沙汰になった三橋は、近辺を散歩しながら、別のことを楽しんでいた。
それは。。。買い食いである。
沢村と2人になり、自炊でダイエットメニューになった。
だけど三橋には物足りなかったのだ。
だからこうして散歩と買い物の名目で外出し、おやつを楽しんでいた。
ダイエット中の沢村の前で食べるのは、さすがに気が引けたからだ。
それにこっそり食べるおやつは、何だか妙に美味かったりする。
この日の三橋はハンバーガーショップに入った。
店前のテラス席に陣取り、オーダーしたのは当然ハンバーガー。
日本でおなじみのMのマークのやつより、二回りくらいデカい。
そして山盛りポテトとコーラだ。
沢村は太らない三橋が羨ましいと何度も言った。
だけど三橋は沢村が羨ましかった。
厳密には、食べて鍛えるとしっかり身体が大きくなる者たちがだ。
いくら食べてもあまり体型が変わらないのは、アスリートとしてはつらい。
高校時代、たまに会うたびに身体が大きくなっていく沢村はまぶしかった。
だから引退した今は、この身体で得してもいいよね?
三橋は誰にともなく心で言い訳しながら、ハンバーガーを頬張った。
ボリューム満点。さすがアメリカ。
それに背徳感がハンパない。
そして全部ひっくるめて、美味しい。
大満足で食べ終えた三橋は、今度は景色を楽しむことにした。
高級住宅街に隣接するショッピングエリア。
並んでいるのは、セレブな店ばかりだ。
このハンバーガーショップもそうだが、カフェなども値段が高い。
そして高級ブランドのショップも多くみられる。
御幸先輩、すごいところに住んでるんだなぁ。
三橋が改めてそんなことを思ったとき、異変は起こった。
1台の乗用車が猛スピードで疾走してきた。
急ブレーキの音を軋ませて、目の前に停車する。
そしてドアが乱暴に開き、黒い覆面姿の男が3人降りてきた。
何?ドラマかなんかのロケ?
三橋はとっさにスマホを操作し、目の前の出来事を録画する。
何だかわからないが、普通ではないことが起こりそうだから。
こうして三橋は予期せぬ面倒事に巻き込まれていくのだった。
*****
「ちょっと、落ち着け」
やたらとデカい喚き声に、御幸は思わずスマホを耳から離す。
隣にいた阿部は「沢村、声デカ」と呟いていた。
御幸と阿部は遠征に出ていた。
敵地、いわゆるアウェーでの試合である。
そして自宅には、旅行中の沢村と三橋が滞在している。
御幸は遠征先のホテルに到着し、寛いでいるところだった。
ソファに腰を下ろし、優雅なコーヒータイムだ。
傍らでは専属トレーナーの阿部が、タブレットで調べものをしている。
電話がかかって来たのは、そんな昼下がりだった。
「あれ?」
発信者の名前を確認した御幸は、首を傾げた。
沢村栄純。名前自体に不審なことはない。
だが普段はメッセージアプリを通じてのやりとりが多い。
直接電話が来るのは、珍しいことだったのだ。
「何だ?どうした?」
御幸は軽い口調で、電話に出た。
だけど予想に反して、返ってきたのは沈黙だ。
怪訝に思った御幸は「何かあったか?」と問う。
すると堰を切ったように、沢村の大きな声が響いた。
『すんません!どうしていいかわかんなくて!』
「あ?」
『英語でうまく聞けなくて。いやその前に誰に聞けばいいか!』
「聞くって、何を」
『どうしよう。直接行った方がいいのか』
「ちょっと、落ち着け」
御幸は電話口でオロオロと喚く沢村を宥めた。
隣にいた阿部は「沢村、声デカ」と呟く。
つまりスピーカーにしなくても、沢村とわかるくらい声が響いている。
いくら地声が大きいといっても、これは異常だ。
つまりそれくらい取り乱しているんだろう。
「落ち着いて話せ。何があった?」
『すぐ近くのショッピングエリアで事件があったんだ。ブランドショップで強盗だって』
沢村の声に反応した阿部が、タブレットでニュースサイトを検索した。
すると自宅の近くの見知った場所が喧騒に包まれている映像が出てくる。
いつもは静かなそこには野次馬や警察官などがいて、物々しい。
阿部が手渡してくれたタブレットを見て、御幸は顔を顰めた。
『ケガ人も結構、出てるらしくて』
「ああ、こっちでもニュースを見てる。お前は大丈夫なんだな?」
『俺は平気。だけど廉が』
「あ?一緒じゃないのか?」
『1人で散歩に出てて、まだ戻らないんだ。』
「連絡つかないのか?スマホは?」
『廉、スマホ置いて出かけちゃったんだよ!』
御幸は溜息をつくと、傍らを見た。
筒抜けの通話を聞いていた阿部が動揺し、固まっている。
御幸はすぐに阿部に「先に帰りな」と告げた。
そして電話の向こうの沢村には「落ち着け」を繰り返した。
こうして急遽、阿部が遠征先から戻ることになった。
それから先も三橋に連絡がつかない時間が過ぎていく。
かくして3人はヤキモキしながら、待ち続けることになったのである。
【続く】