「おお振り」×「◆A」15年後
【開幕戦を生観戦!】
「みゆき、かずや~!」
グラウンドに聞き覚えのある声が響く。
御幸は「マジか」と頭を抱えた。
そして隣に座る阿部と、深い深いため息をついたのだった。
ついに迎えたメジャーリーグ開幕戦。
御幸はウォーミングアップを済ませ、試合開始を待っていた。
今年も無事、レギュラーポジションを獲得している。
優勝とキャリアハイを目指し、今年も頑張るだけだ。
昨年と違うのは、阿部が隣にいることだ。
表向きは阿部の通訳ということにした。
御幸はもうすでに英語は堪能で、通訳は必要ない。
なんなら日常会話は阿部より上手い。
だから専属トレーナーの阿部に、通訳の役も与えた。
こうすることで、ベンチ入りができるのだ。
そんな新たなシーズンの始まりに、御幸は頭を抱えていた。
なぜならスタンドから、知っている声が聞こえたからだ。
いや、彼らが来るのはわかっていた。
どこにいるのかさえ、わかっていた。
だってこの開幕戦のチケットは御幸自身が手配したのだから。
しばらくアメリカを旅行するというので、せっかくならとプレゼントした。
そしてその一角は、ベンチから見ても目立っていた。
恋人であり、後輩である男は、無駄に声がデカい。
そのデカい声で、御幸の名を連呼していた。
しかもなんだか派手にジャラジャラしている。
旅の相方である男も、一緒になってはしゃいでいた。
「何であんなに目立つんだ。」
「まぁ沢村ですから」
「三橋だって目立ってるぞ。」
「ですね。ところでこの試合、日本もテレビ放送されるんでしたよね?」
「うわ、絶対抜かれるじゃん。あれ!」
御幸と阿部は顔を見合わせると、再びスタンドを見る。
大声を張り上げる沢村と、一緒になってはしゃぐ三橋。
あれがテレビで流れたら、今までの動画の比じゃない注目度だ。
御幸は「マジか」と頭を抱えた。
そして隣に座る阿部と、深い深いため息をついたのだった。
*****
「みゆき、かずや~!」
沢村がコールすると、三橋も「ガンバレ!」とレスポンスする。
生まれて初めて、生で観戦するメジャーリーグ。
2人は完全に浮かれていた。
メジャーリーグ開幕の日、沢村と三橋はスタジアムにいた。
長い旅路の予定ルートからは大きく外れる。
だけどせっかく来たのだ。
開幕戦を生観戦!絶対にしたいではないか。
事情を話せば、御幸がオンラインでチケットを手配してくれた。
2人は喜び勇んで、やって来た。
指定されたシートに腰を下ろせば、スタジアムの喧騒が2人を包む。
試合前の臨場感が心地よい。
2人のテンションもどんどん上がる。
「応援、しなきゃ」
「だな。でもこんなに人が多いとなぁ」
「御幸先輩、見えないかな?」
「ああ。どうしようか」
「あ、あれは?マルディグラの」
「あ、あれか!」
三橋が思い出したのは、少し前に立ち寄ったニューオリンズのカーニバル。
マルディグラで、練り歩く山車からおもちゃの首飾りが投げられた。
2人して、それをたくさんゲットしたのだ。
それを今も持っている。
2人は荷物の中から、それを取り出した。
首や腕、足にジャラジャラと巻き付ける。
そして沢村持ち前の大声で、御幸の名をコールした。
周辺の客はおかしな日本人2人に拍手を送ってくれる。
とにかく目立つという目的は、果たしたようだ。
そして2人は試合の間、声を張り続けた。
時折野球部仕様の応援ダンスを披露したりもした。
そしてそれは日本の公共放送の電波にしっかり乗っかった。
今までの動画以上に、バズってしまうことになるのだった。
*****
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
久しぶりの再会、だが開口一番説教モードだ。
沢村と三橋は顔を見合わせた後、コテンと首を傾げた。
試合が終わり、御幸のチームは快勝した。
開幕早々幸先のよいスタートだ。
試合に関しては。
御幸も2本ヒットを打って、まずまずの出来だった。
あくまでも試合に関しては、だ。
試合が終わった後、御幸は自宅に戻った。
トレーナーである阿部、そして球場で拾った沢村と御幸もだ。
久しぶりに4人が揃った。
そのことは実に喜ばしかったのだが。
「すごい、家!」
「だな!」
現在借りている部屋に到着するなり、2人は目をキラキラさせた。
そして家主の許可も取らず、家の中を散策し始めた。
しかもカーニバルのジャラジャラをつけたままだ。
カチャカチャとやかましいこと、この上ない。
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
御幸はわちゃわちゃしている2人に声をかける。
まったくいつまでも若いといえば、聞こえは良い。
だけど実際は未だ少年のような2人なのだ。
「お前たち、目立ち過ぎ。試合に集中できなかったよ。」
「まったくだ。今日の試合観戦、ネットニュースになってるぞ?」
御幸にかぶせるように、阿部も説教モードだ。
そうしてスマホの画面を見せてくる。
ネットニュースで、確かに2人のことが載っていた。
カーニバルのジャラジャラ姿の写真まで付いている。
「スゲェ。廉、ニュースになってる!」
「ホントだ。嘘みたい。」
当の2人がケラケラと笑っているのを見て、御幸は脱力した。
阿部と顔を見合わせて、深い深いため息をつく。
かくして久しぶりの再会は、実にムードのないものになってしまった。
【続く】
「みゆき、かずや~!」
グラウンドに聞き覚えのある声が響く。
御幸は「マジか」と頭を抱えた。
そして隣に座る阿部と、深い深いため息をついたのだった。
ついに迎えたメジャーリーグ開幕戦。
御幸はウォーミングアップを済ませ、試合開始を待っていた。
今年も無事、レギュラーポジションを獲得している。
優勝とキャリアハイを目指し、今年も頑張るだけだ。
昨年と違うのは、阿部が隣にいることだ。
表向きは阿部の通訳ということにした。
御幸はもうすでに英語は堪能で、通訳は必要ない。
なんなら日常会話は阿部より上手い。
だから専属トレーナーの阿部に、通訳の役も与えた。
こうすることで、ベンチ入りができるのだ。
そんな新たなシーズンの始まりに、御幸は頭を抱えていた。
なぜならスタンドから、知っている声が聞こえたからだ。
いや、彼らが来るのはわかっていた。
どこにいるのかさえ、わかっていた。
だってこの開幕戦のチケットは御幸自身が手配したのだから。
しばらくアメリカを旅行するというので、せっかくならとプレゼントした。
そしてその一角は、ベンチから見ても目立っていた。
恋人であり、後輩である男は、無駄に声がデカい。
そのデカい声で、御幸の名を連呼していた。
しかもなんだか派手にジャラジャラしている。
旅の相方である男も、一緒になってはしゃいでいた。
「何であんなに目立つんだ。」
「まぁ沢村ですから」
「三橋だって目立ってるぞ。」
「ですね。ところでこの試合、日本もテレビ放送されるんでしたよね?」
「うわ、絶対抜かれるじゃん。あれ!」
御幸と阿部は顔を見合わせると、再びスタンドを見る。
大声を張り上げる沢村と、一緒になってはしゃぐ三橋。
あれがテレビで流れたら、今までの動画の比じゃない注目度だ。
御幸は「マジか」と頭を抱えた。
そして隣に座る阿部と、深い深いため息をついたのだった。
*****
「みゆき、かずや~!」
沢村がコールすると、三橋も「ガンバレ!」とレスポンスする。
生まれて初めて、生で観戦するメジャーリーグ。
2人は完全に浮かれていた。
メジャーリーグ開幕の日、沢村と三橋はスタジアムにいた。
長い旅路の予定ルートからは大きく外れる。
だけどせっかく来たのだ。
開幕戦を生観戦!絶対にしたいではないか。
事情を話せば、御幸がオンラインでチケットを手配してくれた。
2人は喜び勇んで、やって来た。
指定されたシートに腰を下ろせば、スタジアムの喧騒が2人を包む。
試合前の臨場感が心地よい。
2人のテンションもどんどん上がる。
「応援、しなきゃ」
「だな。でもこんなに人が多いとなぁ」
「御幸先輩、見えないかな?」
「ああ。どうしようか」
「あ、あれは?マルディグラの」
「あ、あれか!」
三橋が思い出したのは、少し前に立ち寄ったニューオリンズのカーニバル。
マルディグラで、練り歩く山車からおもちゃの首飾りが投げられた。
2人して、それをたくさんゲットしたのだ。
それを今も持っている。
2人は荷物の中から、それを取り出した。
首や腕、足にジャラジャラと巻き付ける。
そして沢村持ち前の大声で、御幸の名をコールした。
周辺の客はおかしな日本人2人に拍手を送ってくれる。
とにかく目立つという目的は、果たしたようだ。
そして2人は試合の間、声を張り続けた。
時折野球部仕様の応援ダンスを披露したりもした。
そしてそれは日本の公共放送の電波にしっかり乗っかった。
今までの動画以上に、バズってしまうことになるのだった。
*****
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
久しぶりの再会、だが開口一番説教モードだ。
沢村と三橋は顔を見合わせた後、コテンと首を傾げた。
試合が終わり、御幸のチームは快勝した。
開幕早々幸先のよいスタートだ。
試合に関しては。
御幸も2本ヒットを打って、まずまずの出来だった。
あくまでも試合に関しては、だ。
試合が終わった後、御幸は自宅に戻った。
トレーナーである阿部、そして球場で拾った沢村と御幸もだ。
久しぶりに4人が揃った。
そのことは実に喜ばしかったのだが。
「すごい、家!」
「だな!」
現在借りている部屋に到着するなり、2人は目をキラキラさせた。
そして家主の許可も取らず、家の中を散策し始めた。
しかもカーニバルのジャラジャラをつけたままだ。
カチャカチャとやかましいこと、この上ない。
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
御幸はわちゃわちゃしている2人に声をかける。
まったくいつまでも若いといえば、聞こえは良い。
だけど実際は未だ少年のような2人なのだ。
「お前たち、目立ち過ぎ。試合に集中できなかったよ。」
「まったくだ。今日の試合観戦、ネットニュースになってるぞ?」
御幸にかぶせるように、阿部も説教モードだ。
そうしてスマホの画面を見せてくる。
ネットニュースで、確かに2人のことが載っていた。
カーニバルのジャラジャラ姿の写真まで付いている。
「スゲェ。廉、ニュースになってる!」
「ホントだ。嘘みたい。」
当の2人がケラケラと笑っているのを見て、御幸は脱力した。
阿部と顔を見合わせて、深い深いため息をつく。
かくして久しぶりの再会は、実にムードのないものになってしまった。
【続く】