「おお振り」×「◆A」15年後
【ハッピーマルディグラ】
「暑いね~!」
空港に降り立った三橋は、わかりやすい感想を述べる。
沢村も頷きながら「アメリカ、広いな」と答えた。
ナイアガラの滝を堪能した三橋と沢村は、飛行機で一気に移動した。
東海岸はまだ冬。
乗り込むときは分厚いコートを着ていたのだ。
だが数時間のフライトで到着したここ、マイアミは夏の暑さだ。
「どっかで、着替えよっか」
「だな。暑くてたまんねぇし」
2人は重い足取りで空港内を進んだ。
ちなみに目的地はマイアミではない。
ここは単にトランジット、中継地だ。
「マイアミも見たかったよね。」
「仕方ねぇよ。ニューヨークで予定より長居しちまった。」
「乗り継ぎの飛行機まで、2時間もある。」
「じゃあ売店でも見ようぜ!」
「カラーボール、売ってるといいね。」
「あるかなぁ?」
カラーボールとは、2人が手慰み用に持ってきたおもちゃのボールだ。
ニューヨークではパフォーマンスをして、楽しんだ。
ナイアガラではひったくりを見つけ、ボールを投げまくり、足止めをした。
すごく感謝されて嬉しかったけど、そこでカラーボールを使い切ってしまったのだ。
絶対に必要というわけではない。
でもまだまだ長い旅路、あった方が楽しいのは間違いない。
「それとアイス食いてぇ。」
「そ、だね。暑いし。」
2人は嬉々としながら、空港内にある土産物などを売るショップに向かった。
完全に浮かれている。
まるで高校生に戻ったようなテンションだが仕方ない。
こんな楽しい旅は最初で最後なのだろうから。
*****
「ハッピー、マルディグラ!」
喧騒の街で、明るい声が飛び交う。
三橋と沢村も人波に身を任せながら、すっかり溶け込んでいた。
2人がマイアミ経由でやって来たのは、ニューオリンズだった。
ここで開催される謝肉祭、マルディグラ。
日本では知名度はイマイチっぽいが、アメリカ最大のカーニバルである。
この日に合わせて、この街にやって来たのだ。
「すごい。すごいね!」
「日本の祭りとは、全然違うな。」
2人は人が溢れかえる街を見ながら、そう言った。
日本の祭りとカーニバルは、本当に全然違うのだ。
行き交う人々は「ハッピー、マルディグラ」と声を掛け合う。
知らない相手でもだ。
さらにハイタッチやらハグやら、とにかくテンションが高い。
衣装もとにかく派手だ。
紫、緑、金がマルディグラカラーらしい。
女性はサンバカーニバルのような露出の多いマルディグラカラーの衣装。
オペラ座の怪人のようなマスクも目立つ。
そこへパレードが始まり、数十台の山車が通る。
そして山車の上から群衆にプレゼントが投げられるのだ。
プレゼントはビーズの首飾りやコインなど。
プラスチック製の安物だが、上手くキャッチできれば嬉しい。
三橋も沢村も大量のプレゼントをゲットした。
ビーズの飾りを首に何連にも巻き、手や足にも巻く。
そしてそこここで踊り出した人々に交じって、ダンスに加わった。
「栄純君、そのダンスって」
「高校でベンチ入りできなかった時、スタンドで応援した時のやつ」
「よく、覚えてるね」
「うん、我ながらそう思う。」
見慣れた、いかにも高校野球っぽい振り付け。
三橋も真似て、踊り出せば人が集まって来た。
アジア人がプレゼントをジャラジャラつけて、見慣れない踊りをしているのが珍しいのだろう。
ふと気づくと数十人が集まり、沢村の踊りを真似ていたのだ。
「青道応援団、イン、ニューオリンズ?」
振りをしっかり覚えた三橋が、踊りながらそんなことを言う。
すっかりテンションが上がった沢村が「だな」と応じた。
かくして異様な熱気の中、応援ダンスは続いたのだった。
*****
「マジか」
またしても送られてきたリンクに、御幸は盛大にため息をつく。
阿部は「今度は何すか」と、後ろから御幸のスマホを覗き込んだ。
最初はセントラルパークのジャグリング動画だった。
その次にはナイアガラの滝で引ったくりを確保した動画がネットに上がった。
いずれも三橋と沢村だ。
ネットで話題になると、倉持が知らせてくれる。
御幸は自宅でトレーニング中だった。
少し大きめの部屋に機器を置き、筋トレやストレッチをする。
阿部はしっかりサポートをしてくれた。
そしてちょうど一休みしようかというところでスマホが鳴った。
「正直、見るのが怖い」
御幸はスマホを手に取りながら、肩を落とした。
おそらくこのパターン、また動画だ。
阿部が「わかります」と頷きながら、御幸のスマホを覗き込む。
御幸が覚悟を決め、リンクをクリックすると、動画が開いた。
「マジか」
見た瞬間、御幸は固まった。
一泊遅れて、阿部もだ。
とにかくにぎやかな外国の街のカーニバル。
その喧騒の中で、三橋と沢村が踊っていた。
だがただ踊っているだけではなかった。
2人とも、ビーズのアクセサリーを山ほどつけていた。
首だけで20本以上、両手両足にもグルグル巻き。
そして振り付けはおそらく高校野球の応援ダンスだ。
2人だけでなく、外国人が数十名集まり、真似して踊る。
さながら強豪校の大応援団だ。
「これってもしかして日本でも」
「ああ、結構バズってるっぽい。」
「何やってんすかね、あいつら」
「何で普通に観光できないんだ?」
阿部と御幸は顔を見合わせて、肩を落とした。
他人事として見ている分には面白い。
だがやはり目立ちまくっているのが、どうにも心配なのだった。
【続く】
「暑いね~!」
空港に降り立った三橋は、わかりやすい感想を述べる。
沢村も頷きながら「アメリカ、広いな」と答えた。
ナイアガラの滝を堪能した三橋と沢村は、飛行機で一気に移動した。
東海岸はまだ冬。
乗り込むときは分厚いコートを着ていたのだ。
だが数時間のフライトで到着したここ、マイアミは夏の暑さだ。
「どっかで、着替えよっか」
「だな。暑くてたまんねぇし」
2人は重い足取りで空港内を進んだ。
ちなみに目的地はマイアミではない。
ここは単にトランジット、中継地だ。
「マイアミも見たかったよね。」
「仕方ねぇよ。ニューヨークで予定より長居しちまった。」
「乗り継ぎの飛行機まで、2時間もある。」
「じゃあ売店でも見ようぜ!」
「カラーボール、売ってるといいね。」
「あるかなぁ?」
カラーボールとは、2人が手慰み用に持ってきたおもちゃのボールだ。
ニューヨークではパフォーマンスをして、楽しんだ。
ナイアガラではひったくりを見つけ、ボールを投げまくり、足止めをした。
すごく感謝されて嬉しかったけど、そこでカラーボールを使い切ってしまったのだ。
絶対に必要というわけではない。
でもまだまだ長い旅路、あった方が楽しいのは間違いない。
「それとアイス食いてぇ。」
「そ、だね。暑いし。」
2人は嬉々としながら、空港内にある土産物などを売るショップに向かった。
完全に浮かれている。
まるで高校生に戻ったようなテンションだが仕方ない。
こんな楽しい旅は最初で最後なのだろうから。
*****
「ハッピー、マルディグラ!」
喧騒の街で、明るい声が飛び交う。
三橋と沢村も人波に身を任せながら、すっかり溶け込んでいた。
2人がマイアミ経由でやって来たのは、ニューオリンズだった。
ここで開催される謝肉祭、マルディグラ。
日本では知名度はイマイチっぽいが、アメリカ最大のカーニバルである。
この日に合わせて、この街にやって来たのだ。
「すごい。すごいね!」
「日本の祭りとは、全然違うな。」
2人は人が溢れかえる街を見ながら、そう言った。
日本の祭りとカーニバルは、本当に全然違うのだ。
行き交う人々は「ハッピー、マルディグラ」と声を掛け合う。
知らない相手でもだ。
さらにハイタッチやらハグやら、とにかくテンションが高い。
衣装もとにかく派手だ。
紫、緑、金がマルディグラカラーらしい。
女性はサンバカーニバルのような露出の多いマルディグラカラーの衣装。
オペラ座の怪人のようなマスクも目立つ。
そこへパレードが始まり、数十台の山車が通る。
そして山車の上から群衆にプレゼントが投げられるのだ。
プレゼントはビーズの首飾りやコインなど。
プラスチック製の安物だが、上手くキャッチできれば嬉しい。
三橋も沢村も大量のプレゼントをゲットした。
ビーズの飾りを首に何連にも巻き、手や足にも巻く。
そしてそこここで踊り出した人々に交じって、ダンスに加わった。
「栄純君、そのダンスって」
「高校でベンチ入りできなかった時、スタンドで応援した時のやつ」
「よく、覚えてるね」
「うん、我ながらそう思う。」
見慣れた、いかにも高校野球っぽい振り付け。
三橋も真似て、踊り出せば人が集まって来た。
アジア人がプレゼントをジャラジャラつけて、見慣れない踊りをしているのが珍しいのだろう。
ふと気づくと数十人が集まり、沢村の踊りを真似ていたのだ。
「青道応援団、イン、ニューオリンズ?」
振りをしっかり覚えた三橋が、踊りながらそんなことを言う。
すっかりテンションが上がった沢村が「だな」と応じた。
かくして異様な熱気の中、応援ダンスは続いたのだった。
*****
「マジか」
またしても送られてきたリンクに、御幸は盛大にため息をつく。
阿部は「今度は何すか」と、後ろから御幸のスマホを覗き込んだ。
最初はセントラルパークのジャグリング動画だった。
その次にはナイアガラの滝で引ったくりを確保した動画がネットに上がった。
いずれも三橋と沢村だ。
ネットで話題になると、倉持が知らせてくれる。
御幸は自宅でトレーニング中だった。
少し大きめの部屋に機器を置き、筋トレやストレッチをする。
阿部はしっかりサポートをしてくれた。
そしてちょうど一休みしようかというところでスマホが鳴った。
「正直、見るのが怖い」
御幸はスマホを手に取りながら、肩を落とした。
おそらくこのパターン、また動画だ。
阿部が「わかります」と頷きながら、御幸のスマホを覗き込む。
御幸が覚悟を決め、リンクをクリックすると、動画が開いた。
「マジか」
見た瞬間、御幸は固まった。
一泊遅れて、阿部もだ。
とにかくにぎやかな外国の街のカーニバル。
その喧騒の中で、三橋と沢村が踊っていた。
だがただ踊っているだけではなかった。
2人とも、ビーズのアクセサリーを山ほどつけていた。
首だけで20本以上、両手両足にもグルグル巻き。
そして振り付けはおそらく高校野球の応援ダンスだ。
2人だけでなく、外国人が数十名集まり、真似して踊る。
さながら強豪校の大応援団だ。
「これってもしかして日本でも」
「ああ、結構バズってるっぽい。」
「何やってんすかね、あいつら」
「何で普通に観光できないんだ?」
阿部と御幸は顔を見合わせて、肩を落とした。
他人事として見ている分には面白い。
だがやはり目立ちまくっているのが、どうにも心配なのだった。
【続く】